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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
最終章 わたくしの結婚一年目とクリスタの結婚
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12.大人になるにつれて

 レーニ嬢のお誕生日のお茶会に行く途中の列車で、わたくしはエクムント様と話していた。


「今年の夏はガブリエラが辺境伯領に来ます。学園に無事入学できたので、一人で辺境伯領に来てもいいと兄からお許しが出たようです」

「ガブリエラ嬢が来られるのですね。歓迎せねばなりません」

「私の姪はエリザベートにとっても姪ですから、そんなに肩に力を入れなくても大丈夫ですよ」


 エクムント様は言ってくださるが、わたくしはガブリエラ嬢の夏休みの滞在も歓待しなければいけないと思っていた。

 夏休みにはディッペル家の家族も来る。クリスタは夏休みに辺境伯領に来られるのは今年が最後になるだろう。

 ハインリヒ殿下が来られなくなったので、ユリアーナ殿下もお一人で来るわけにはいかないので、来ないことになっている。

 代わりにリリエンタール家の家族がやってくる。


「ユリアーナ殿下は国王陛下に相当お願いしたようですが、ハインリヒ殿下がご一緒ではないとなると、やはり難しかったようです」

「ハインリヒ殿下も学園を卒業されて、国王陛下の執務を手伝うようになりましたものね」


 わたくしたちは大人になる。

 それは喜ばしいことでもあるのだが、それぞれに仕事を持ってしまうと、気軽には会えなくなってしまうのだ。

 クリスタも皇太子妃になれば夏休みに辺境伯領に来ることはなくなるだろう。


 夏休みに国王陛下の別荘にわたくしとエクムント様とクリスタとフランツとマリアと両親とレーニ嬢とオリヴァー殿が招かれていたのは去年までのことで、今年からは夏休みに国王陛下と成人した皇太子殿下が同じ場所で過ごすというのも難しくなるので、別々の場所になる。


 国王陛下と王妃殿下は両親とフランツとマリアとレーニ嬢とオリヴァー殿を招いて、ハインリヒ殿下がわたくしとエクムント様とクリスタを招くという別々の過ごし方になってしまうのは仕方がないことだった。

 ユリアーナ殿下がどちらに参加するのか分からないが、マリアがいるので国王陛下の方のような気がする。


 ユリアーナ殿下はマリアのことをとても気に入っていて、学園に入学したら学友になるのだと言っているし、マリアの婚約者のオリヴァー殿はユリアーナ殿下の詩の教師だった。マリアとオリヴァー殿とユリアーナ殿下の繋がりはこれからも深いままで続いていくのだろう。


 今年の夏は去年とは全く違うようで少し残念な気もするが、新しくガブリエラ嬢もやってくるし、わたくしは辺境伯領で楽しく過ごしてもらえるように準備をするだけだ。

 両親とクリスタが来たらヴェールのお店に連れて行って、わたくしとエクムント様が選んだヴェールを見せたい気持ちもある。


 大人になるにつれて様々なことが変わってくるが、新しい立場、振る舞いを求められるようになることも決して嫌なことばかりではない。夏休みに辺境伯領に来なくなってもクリスタは可愛い妹であることには変わりがないし、お茶会や式典では必ず会うので寂しくもなかった。


 リリエンタール家に着くとレーニ嬢と一緒にフランツがお客様に挨拶をしていた。わたくしとエクムント様のところにも来てくれる。


「ようこそいらっしゃいました、エクムント様、エリザベート夫人」

「エクムント様、エクムント様のことを義兄上と呼んでいいですか?」

「お招きいただきありがとうございます。フランツ殿、そう呼んでいただけると嬉しいです」

「エクムント義兄上、今日はレーニ嬢のためにありがとうございます」


 フランツがエクムント様のことを「義兄上」と呼んでいる。わたくしと結婚したのだからフランツにとってはエクムント様は義理の兄上になるのだ。


「お兄様、ずるいですわ。わたくしもエクムント様をお義兄様と呼びたいです」

「呼んでくださって構いませんよ、マリア嬢」

「ありがとうございます、お義兄様!」


 マリアはエクムント様を「お義兄様」と呼ぶことに決めたようだ。


「私は末っ子だったから、こういうのはくすぐったいですね」

「わたくしは長女ですからね。エクムント様に弟妹ができましたね」

「嬉しいですね」


 兄と呼ばれて喜んでいるエクムント様は、なんだか可愛い気がする。

 赤ん坊のころからわたくしを知っていて、年齢もずっと年上なのに、エクムント様が可愛いだなんて恐れ多いことなのかもしれない。しかし、可愛く思えるのだから仕方がない。


「エクムント様、浮かれていらっしゃいますか?」

「少し」


 微笑んでエクムント様がわたくしの手を引く。

 踊りの輪に連れて行かれて、わたくしはエクムント様とダンスをした。

 何度か踊っていると、喉が渇いてくる。

 踊りの輪を抜けて飲み物を給仕に頼むと、エクムント様が給仕に何か注文を付けていたようだ。すぐに持ってこられたのは冷やされたレモン水だった。

 飲むと冷たさと爽やかなレモンの香りが喉を通って心地よい。


「エクムント様、レモン水がお好きですか?」

「レモン水は好きですよ。暑い日には飲みたくなります」


 露店で買ってくださったのもレモン水だったし、給仕に持ってこさせたのもレモン水だった。

 甘いものはそれほどお好きではないと伺っていたが、レモン水は甘くないのでお好きなのだろう。エクムント様の好きなものにレモン水と頭の中でしっかりと書き込んでおく。


「エリザベートにもらったフレーバーティーも美味しかったです」

「フレーバーティーにレモンもあった気がしますわ」

「それは取り寄せてみたいですね」


 話しながらレモン水を飲んで休んでいると、ハインリヒ殿下とクリスタが踊りの輪に入って行くのが見えた。ハインリヒ殿下はクリスタと寄り添って踊っている。


 今年はノルベルト殿下のお誕生日のお茶会はなかったが、出産の近いノエル殿下に配慮してのことだった。出産日まではもう少しあるようだが、ノルベルト殿下はノエル殿下をとても大事にしている。


 軽食とケーキの乗っているテーブルからサンドイッチを少し取り分けてきて、ミルクティーと一緒にいただいていたら、ユリアーナ殿下とデニス殿が近くにやってきた。


「わたくしたちもそろそろ立ってお茶会に参加できるようになりたいのです」

「エリザベート夫人、エクムント様、教えてもらえますか?」


 ユリアーナ殿下も今年のお誕生日で九歳になる。そろそろそういうことに挑戦してみたいお年頃なのかもしれない。


「軽食のお皿とティーカップは一緒に持てないので、空いているテーブルに片方は置いておくといいですよ」

「テーブルを使ってもいいのですか?」

「大人も使えるようにテーブルが置いてあるのですよ」


 完全に立って飲食しなければいけないと思い込んでいたユリアーナ殿下はエクムント様の言葉に驚いている。


「立食形式とはいっても、テーブルを使わないと紅茶を飲みながら軽食やケーキを食べられませんからね」

「分かりました。テーブルを使います」

「ユリアーナ殿下、どのテーブルにしますか?」

「今日は初めて立って飲食するので、エリザベート夫人、エクムント殿、ご一緒してもいいですか?」


 ユリアーナ殿下の申し出にわたくしとエクムント様は視線を交わす。


「光栄ですわ」

「喜んでご一緒させていただきましょう」


 そういえば、ユリアーナ殿下が初めてお茶会に参加して、立って飲食すると聞かなくて、紅茶を零して火傷しそうになったのは同じレーニ嬢のお誕生日だった。

 あれから四年の年月が経った。ユリアーナ殿下はわたくしとエクムント様に習って、失敗することなく立って飲食ができるようになろうとしている。


「エリザベート夫人とエクムント殿と一緒ならば安心です」

「私もです」


 微笑み合っているユリアーナ殿下とデニス殿に、わたくしも自然と笑みが浮かんできた。

読んでいただきありがとうございました。

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