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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
最終章 わたくしの結婚一年目とクリスタの結婚
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9.わたくしは才女?

 ハインリヒ殿下のお誕生日の昼食会には、クリスタは王家の席で出席している。クリスタがハインリヒ殿下と婚約した十二歳のときからずっと王家の席で出席しているが、婚約者として出席するのは今年が最後で、来年からは皇太子妃として参加するのかと思うと感慨深い気持ちになる。

 国王陛下が乾杯の音頭を取る。


「ハインリヒも学園を卒業し、私の執務を手伝ってくれるようになった。ハインリヒはよい国王になることだろう。私は学園を卒業と同時に国王になったが、ハインリヒは子どもが生まれ子育てが落ち着く時期までは私がしっかりと国王を務めてから王位を譲りたいと思っている。若いころに王位を譲られた私は苦労したのでな。この若き皇太子、ハインリヒに幸運があるように願って、乾杯としよう」


 国王陛下がグラスを持ち上げると、椅子から立ち上がって待っていた貴族たち全員がグラスを持ち上げて乾杯をした。

 成人はしているがわたくしは葡萄酒に蒸留酒を混ぜたものを飲まされて泥酔してしまった記憶があって、アルコールに対していい思い出がないので、注がれた葡萄酒は口を付けるだけにして、乾杯が終わると葡萄ジュースを持ってきてもらった。真っ赤な葡萄ジュースは葡萄酒とそっくりで、グラスも同じなので、どちらを飲んでいても咎められることはない。

 葡萄ジュースを飲んで息をついていると、エクムント様に手を差し伸べられる。


「参りましょうか、エリザベート」


 そうだった。

 王家への挨拶は身分順に行われるのだが、アッペル大公となられたノルベルト殿下が一番で、この国で一番古い公爵家で国王陛下の親友で学友でもあるディッペル家の両親、続いて結婚しているリリエンタール家の公爵夫妻、そしてわたくしとエクムント様の順番で挨拶をしていたのだが、わたくしが結婚したことによって順番が変わったのだ。

 ディッペル家の両親が二番なのはそのままだが、わたくしが結婚したので辺境伯家の方がリリエンタール家よりも古くから辺境を守っているので三番目になったのだ。それまではエクムント様は三番目でもよかったのだが、婚約者のわたくしが結婚していなかったので、リリエンタール家を先にしていたのだ。


 慌ただしく立ち上がってハインリヒ殿下とクリスタの元に行くと、二人とも椅子から立ち上がってわたくしとエクムント様の挨拶を受けてくれる。

 クリスタは今日は一日立ちっぱなしになって足が痛くなるであろうが、誰かバスタブに湯を張ってくれたり、足を揉むといいと教えてくれたりするのだろうか。

 そういうことに気が付くエクムント様が夫でよかったと思うわたくしだった。


「ハインリヒ殿下、お誕生日おめでとうございます」

「国王陛下の宣言、聞かせていただきました。ハインリヒ殿下は安心して結婚ができますね」

「そうですね。父上が学園の卒業と同時に王位を譲られていたことは知っていましたが、同じ年齢になると、それがどれだけ大変だったのかを痛感します。私は父上に守られて皇太子でいられる時間を大事にしたいと思います」

「わたくしも、その期間にしっかりと皇太子妃としての務めを果たし、ハインリヒ殿下を支えていけたらと思っています」


 まだ皇太子妃ではないが、クリスタは皇太子妃になったときのことをもう考えていて、しっかりと皇太子妃になる自覚がある。


「クリスタ、あなたはきっと素晴らしい皇太子妃になれると思います」

「そのときには、お姉様、辺境伯領からわたくしとハインリヒ殿下を支えてください」

「分かっていますよ」

「エクムント様もよろしくお願いします」

「心得ました」


 ハインリヒ殿下とクリスタに挨拶をして席に戻ると、リリエンタール公爵夫妻が入れ替わりに挨拶に行っているのが分かる。リリエンタール公爵夫妻にはレーニ嬢もついて行っていた。

 婚約者のフランツがまだ昼食会に出られないので、レーニ嬢は両親と行動を共にしているのだろう。

 クリスタがハインリヒ殿下の婚約者になったときに、わたくしも仮の社交界デビューをして、昼食会に出るようになったが、そのときにはエクムント様が隣りにいてくださった。エクムント様が今も変わらず隣りにいてくださることをわたくしは幸福に感じていた。


「エリザベート、朝食のときに話した専門学校のことですが、授業料や寮の料金はどうするつもりでしたか?」

「成績優秀者は無料にしようと思っていました。それ以外にも、進学したいというもののハードルが下がるように、寮の料金は無料、授業料は奨学金を出して、卒業の後に働きながら返せるようにしたいと考えています」

「私もそういう制度があればいいと思っていたのです。私がはっきりと形にできなかったことをエリザベートは形にして言葉にしてくれましたね」

「エクムント様も考えていればすぐに思い付いたことだと思います」

「エリザベートはやはり素晴らしい才女だ。そんな妻を持てて心強いです」


 才女!?

 そんなことを言われてわたくしは驚いてしまう。

 成績優秀者を無料にすることも、奨学金を出すことも、少し考えれば思い付くことだし、当たり前のことではないのだろうか。


「才女なんてとんでもないですわ。人材を育てるのこそが国を強くする根幹となります。教育がこれからの国を富ませていくのです」

「そういう考え方ができるのが素晴らしいと言っているのです。エリザベートは才女ですよ。学園でもずっと首席だったと聞きます。何より、私と話していて打てば響くような答えが返ってくるのですからね」


 エリザベートと話していると本当にためになるし、楽しい。


 エクムント様からそんなことを言われてしまってわたくしは驚いていた。

 自分が才女なんて思いもしなかった。学園での成績は勉強をしていれば取れるものだし、わたくしのこれまでの発想だって、前世の記憶があってのことだ。夢の中のように朧げな記憶だが、こういうときには役に立ってくれるのだ。


 だが、前世のことはエクムント様に話すことはできない。

 わたくしに前世の記憶があったなんて話をされても、エクムント様は意味が分からないし、困るだけだろう。

 この秘密はわたくしが墓場まで持って行くのだ。


「エクムント様にそう言っていただけると嬉しいですわ」


 でも、わたくしは才女などと呼ばれるような存在ではありません。


 そう付け加えたかったが、エクムント様と言い合っていても不毛な気がしてわたくしはそれ以上言わなかった。


 昼食会からお茶会に会場が移動すると、フランツやマリアやデニス殿やゲオルグ殿やユリアーナ殿下がやってくる。

 ユリアーナ殿下はノルベルト殿下の元に駆け寄っていた。


「ノルベルトお兄様、ノエル殿下は大丈夫ですか?」

「まだ出産予定日まで一か月はあるのだけれど、僕が心配でそばを離れられないだけだよ。今はミリヤムもいてくれるし、落ち着いているよ」

「ミリヤム嬢は赤ちゃんの乳母になるのですか?」

「その予定だよ。そうなったら、彼女のことはアレンスさんと呼ばなければいけないね」


 使用人の中でも乳母は子どもの養育に関わるので地位が高い。ミリヤム嬢は子爵家の娘だが、ノエル殿下に望まれてアッペル家の使用人になっている。アッペル家ではミリヤム嬢を後継者の乳母にして、教育を施そうと思っているのだろう。

 成績優秀で学年でも五位以内に入っていたミリヤム嬢ならば最適だった。


 使用人は普通呼び捨てにされるのだが、乳母は特別で名字にさん付けで呼ばれる。

 ディッペル家でもフランツの乳母は貴族で、ヘルマンさんと呼ばれていた。マリアの乳母のレギーナが名前で呼び捨てなのは、彼女が平民だったからだろう。


「ノルベルト兄上、ユリアーナは弟妹が欲しかったのが叶ったら、次は甥か姪が欲しいと欲張っているのですよ」

「家族が増えるのは嬉しいではないですか。ディーデリヒもディートリンデも下に甥か姪ができたら喜ぶと思います」

「ディーデリヒとディートリンデはまだ小さいから、甥とか姪とかよく分からないんじゃないかな?」

「一緒に遊んだら楽しいと思うのです。わたくしもディーデリヒとディートリンデと雪合戦をする日を楽しみにしているのです」

「それは、三歳くらいになったらできるだろうね」


 ユリアーナ殿下はディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下と雪合戦をするのを楽しみにしていた。ディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下も三歳くらいになったら雪合戦に参加するかもしれない。

 そのときにはノルベルト殿下とノエル殿下のお子様も生まれていることだろう。


読んでいただきありがとうございました。

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