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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
二章 ノメンゼン子爵の断罪
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20.弟妹が生まれるためには

 この国の医療技術の低さは人材不足にありそうだ。

 異国から医学書を取り寄せたり、奨学金を返済不要にして医者の絶対数を増やしたりすれば、おのずと医療技術は高まりそうな気がする。今は医者が少なすぎて、治療だけに精一杯で、自分の技術を磨くことや進んでいく医学を勉強する余裕がなく、平民には民間医療で瀉血ばかりする医者とも言えない輩もいるようなので、医療技術を上げるとすれば国の政策を変えさせる必要があった。


 公爵領でもできることはあるのではないだろうか。


「リップマン先生、わたくし、弟妹が欲しいのです」

「エリザベート様……」

「クリスタ嬢は妹のように可愛いけれど、本当に妹か弟が生まれればどれだけ可愛いことでしょう」


 何よりも弟妹が生まれればわたくしの運命も変わってくる気がするのだ。

 『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』ではわたくしが追放されると自動的にクリスタ嬢に公爵位を奪われてしまっていたが、弟妹がいれば、わたくしが追放される未来が来ても公爵位は弟妹に譲られる。

 未来を変えるためにはわたくしは医療技術を改革して、弟妹を産まれさせることから始めなければいけないと思ったのだ。


「公爵領からこの国の医療技術を上げていくことができるのではないでしょうか。医者の数が増えれば、本来いた医者は勉強し、自分の技術を磨き、医療技術を上げることができる。それができないのは、今、医者の数が足りていない状況だからに違いありません」


 公爵家から返却不要の奨学金を出したり、異国の医学書を取り寄せたりすることで、公爵領の医療技術が上がれば、国王陛下も何か考えるところがあるのではないだろうか。

 わたくしは父に進言してみることを考えていた。


 昼食の時間になると、両親が揃ってクリスタ嬢も一緒に食卓に着く。

 昼食を食べながら、わたくしはリップマン先生から習ったこと、わたくしが考えたことを父に伝えることにした。

 まずは弟妹のことだ。


「わたくし、弟妹が欲しいのです。クリスタ嬢は本当の妹のようですが、クリスタ嬢がこんなに可愛いのだから本当の弟妹が生まれたらどれほど可愛いかと考えてしまうのです」

「エリザベート、それは難しいのだよ」

「わたくしが体を壊したばかりに……」


 申し訳なさそうにする両親にわたくしは続ける。


「異国の医学がこの国に入って来て、医療技術がもっと上がれば、お母様を治療することもできるのではないでしょうか?」

「わたくし、エリザベートの出産で死にかけて、エリザベートを残して死ぬくらいならば、次の子どもはいらないと思っていたのです。医療技術が上がって、出産が少しでも楽になるのならば、エリザベートの望みを叶えてあげたい……」


 母の不妊は医療技術の低さでわたくしを産むときに死にかけたせいで、次の子どもを望まないからだった。子どもができにくい体になってしまったというのは、多産を推奨する貴族の中で母が責められないように両親で考えた言い訳だったのだろう。


「医療技術を上げるとして、どうすればいいとエリザベートは思うんだ?」

「医学校に進学する費用を、返却不要の奨学金として公爵家から援助してはどうでしょう? 現在の状況では医者が足りていません。足りない中でやりくりしているのでは、医者はいつまで経っても医療技術を上げるための最新の医療を学ぶ時間や、技術を高める勉強ができません」

「確かにその通りだな。だが、その資金を調達するとなると……」

「医者が増えれば、平民にも医療が行き届いて、健康で働けるようになって、結果として公爵領の利益になると思うのです。それまでは時間はかかるでしょうが、そうなったら、公爵領の収入は増えると思います」


 その増えた収入でそれまで使ってきた奨学金を補えばいい。

 わたくしの言葉に父は乗り気のようだった。


「私ももっと子どもが欲しいとは思っていた。けれど、テレーゼの体のことを考えると無理はさせられなかった。テレーゼが安心して子どもを産める環境が出来上がるのならば、それも公爵家の利益となるだろう」


 わたくしに弟妹が生まれるのは公爵家のためにもなり、何よりも公爵領のためにもなる。

 賛成してくれて乗り気になってくれた父にわたくしは心から感謝した。


 クリスタ嬢はわたくしの話を聞いて微妙な顔をしている。


「おねえさま、わたくしはおねえさまのいもうとじゃなかったの!?」

「クリスタ嬢のことは本当の妹のように思っていますよ」

「わたくしいがいの、いもうとかおとうとがほしいんでしょう?」

「妹か弟が生まれても、クリスタ嬢が可愛いことには変わりありません」


 わたくしが言ってもクリスタ嬢は納得していない顔だった。


 お茶の時間までわたくしとクリスタ嬢は部屋で本を読んだり、折り紙をしたりして遊んでいた。


「わたくし、つぎのおたんじょうびは、おりがみのほんをおねがいします」

「いいですね。わたくしにも見せてくださいね」

「もちろんです、おねえさま」


 今のところわたくしとクリスタ嬢が折れるのは、エクムント様に教えてもらった薔薇の花のみ。前世の記憶を辿れば折り紙の一つくらい思い出せそうなのだが、わたくしはそういうことにあまり興味がなかったようで折り紙を覚えていなかった。

 クリスタ嬢にもっと色んな折り紙を教えてあげたいのにもどかしく思っていたところだったので、わたくしはクリスタ嬢の考えに賛成だった。

 お誕生日にクリスタ嬢が折り紙の本を買ってもらえば、わたくしも一緒に折ることができる。


「エクムントさま、ちがうおりがみをおしえてくれないかしら」

「エクムントも仕事ですからね」


 仕事中のエクムント様を呼び出すわけにはいかないので我慢しているが、エクムント様と会えない日があるのは寂しい。お屋敷のどこかか、玄関、門などを警護しているのだが、冬になって寒くなったので玄関や門には行かなくなってしまった。

 その分だけエクムント様に会える機会が少なくなっている。


「おねえさまは、エクムントさまのこと、どうしてすきになったの?」


 恋バナをするようにクリスタ嬢が目を煌めかせて頬を赤らめているのに、わたくしは微笑みながら考える。


「気が付いたら好きになっていたというところでしょうか。わたくし、赤ちゃんの頃にキルヒマン侯爵夫妻のところに連れて行かれていて、物心ついたらエクムント様が抱っこしてお庭を歩いてくださっていたのです。そのときの光景がとても幸せで、わたくし、エクムント様のことが大好きになったのです」


 恋をするのに理由などない。

 恋はするものではない、恋には落ちるものなのだ。

 わたくしは気が付けばエクムント様に恋をしていた。


 つい様付けにしてしまっているが、クリスタ嬢と二人きりなのでいいだろう。部屋の隅にはデボラやマルレーンもいるが、二人のことは大好きで信頼しているが、メイドは基本的に空気と思っていいと言われているので、気にしないことにする。


「わたくし、ハインリヒでんかのことが、すきかもしれないの」

「クリスタ嬢はハインリヒ殿下のどこがすきなのですか?」

「ハインリヒでんか、わたくしのおててをにぎって、いっしょうけんめいおはなしするの。それがわたくし、すきなのだとおもうの」


 ハインリヒ殿下はクリスタ嬢の心を掴んでいた。

 七歳と五歳の恋なのでこれからどうなるか分からないが、ハインリヒ殿下は間違いなくクリスタ嬢に好意を持っている。

 クリスタ嬢の書いた手紙はそろそろ届いているころだろうか。


 そんなことを考えていると、お茶の時間に来客があった。


 急な来客にわたくしとクリスタ嬢は一番いいよそ行きのワンピースに着替える。

 お忍びでやってきたので、ドレスに着替えるまでのことはないが、それでも相応の格好はしなければいけなかった。


「クリスタじょう、おはなしをさせてください」

「ハインリヒがすみません。どうしてもクリスタ嬢が心配でお伺いすると聞かなくて」


 来客はハインリヒ殿下とノルベルト殿下だったのだ。

 ハインリヒ殿下は手にクリスタ嬢とわたくしの書いた手紙を握り締めていた。


「すぐにお茶の用意をさせます。ハインリヒ殿下、ノルベルト殿下、とりあえず落ち着いて一緒にお茶をしましょう」

「おちついていられません。クリスタじょうがこんなふうになっていたなんて、わたしはそのばにいたのに、きづくことができなかった」

「ハインリヒ、落ち着いて。お茶をいただこう。ありがとうございます、ディッペル公爵」


 暴走するハインリヒ殿下をノルベルト殿下が何とか窘めている状況のようだ。

 わたくしとクリスタ嬢はハインリヒ殿下とノルベルト殿下と両親とお茶の席に着いた。

読んでいただきありがとうございました。

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