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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
最終章 わたくしの結婚一年目とクリスタの結婚
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4.カサンドラ様にお願いを

 辺境伯領に帰ったわたくしはエクムント様に執務を習いながら、カサンドラ様には軍のことを習うという忙しい生活を送ってはいたが、食事のときやお茶の時間はたっぷりとエクムント様と一緒にいられた。

 特にお茶の時間はエクムント様も休憩を兼ねて時間を長めに取られていたので、わたくしはエクムント様とよく話ができた。


「エリザベートはピアノがとても上手なのですね」

「小さなころに前のキルヒマン侯爵夫妻が褒めてくださって、それ以来自信がついて、音楽の授業ではピアノを選択していました」

「この手から繊細な音楽が生まれるのかと思うと、尊敬しますね」


 わたくしの手を両手で包み優しく撫でるエクムント様にわたくしは頬が赤くなる。結婚してもエクムント様と触れ合っていると赤面してしまうのは変わらなかった。

 むしろ、以前よりも酷くなったかもしれない。

 エクムント様はわたくしを抱き寄せることが多くなったし、エクムント様にキスされることも多くなった。

 いい雰囲気になると抱き寄せられるのではないか、キスされるのではないかと期待してしまって、わたくしの胸はうるさいほど騒がしく高鳴った。


「エクムント様……」

「どうしましたか、エリザベート?」

「あの……見すぎです……」


 見つめられすぎて恥ずかしくなってしまうわたくしに、エクムント様は不思議そうな顔をしている。


「愛しい妻を見詰めて何がいけないのでしょうか? このまま抱き締めても、口付けても、私たちは夫婦なので文句を言われることはありませんよ」

「も、文句は出ないかもしれませんが、わたくしが恥ずかしいのです」


 使用人たちは空気だと思えと貴族社会では教えられているが、食堂にエクムント様と二人きりと言っても、給仕の使用人や侍女たちも控えているのだ。そのものたちのことは空気と思っていても、やはり気になることは気になる。


「エリザベートは恥ずかしがり屋ですね。そういうところも可愛いのですが」


 金色の目を細めて囁くエクムント様に、わたくしは一生勝てる気がしなかった。


 お茶会の後で、執務室に行くと軍服姿の男性が待っていた。

 軍の施設に行ったときに執務室でわたくしとエクムント様に対応してくれた軍人ではないだろうか。


「オットマー・ブレッヒです! ヒンケル総司令官とディッペル副司令官に報告があって参りました」

「進展があったか?」

「はい。解放した海賊の一人が海を隔てた国の軍隊に接触をしていた証拠を掴みました。海を隔てた国は軍隊を出せないので、海賊を利用して我が国を妨害して、交易路を独占しようとしているのは明らかです」

「分かった。そのことを書類に纏めてあるか?」

「はい、こちらにあります」


 書類を差し出されてわたくしとエクムント様は二人でその書類を確認する。

 解放した海賊の一人が海を隔てた国の軍隊と接触を持ったこと、その際に軍に報告をし、報酬をもらっていたこと、その海賊を監視していた軍のものがもう一度その海賊を捕えて、報酬を取り上げて証拠として押収したことなどが書かれていた。


「これならば国王陛下に報告して、国王陛下から海を隔てた国に働きかけてもらえるかもしれない」

「こちらに、捕虜になった海賊たちの証言も纏めてあります」

「よくやった、ブレッヒ中佐。後は私たちに任せろ」

「よろしくお願いします」


 敬礼して部屋を出て行くブレッヒ中佐にわたくしもぎこちなくだが敬礼して送り出し、エクムント様と二人で書類を見直す。


「エリザベートの考えた策がうまくいきましたね」

「こんなにうまくいくとは思いませんでした」

「これから国王陛下への陳述書を書くことにしましょう」


 証拠としては軍隊に報告に行った海賊の証言や、報酬の金貨があった。海を隔てた国は当然この国とは違う通貨を使っている。海賊が受け取ったその国の通貨も十分な証拠になった。


 証拠を添えて国王陛下への陳述書を書き上げると、エクムント様はそれを軍を経由して国王陛下に送っていた。

 夕食までの仕事はそれで終わってしまった。

 夕食をエクムント様と一緒に食べて、シャワーを浴びてパジャマに着替えて寝室に行くと、入れ替わりにエクムント様がシャワーを浴びに行く。

 寝室で髪を乾かしながらエクムント様を待っていると、エクムント様がパジャマ姿で寝室に入ってきた。

 夏場も涼しい手触りのよい絹のパジャマは、わたくしとエクムント様のお揃いだ。エクムント様がシャンパンゴールドで、わたくしがシャンパンピンクだ。

 髪を乾かし終わってベッドに腰かけると、エクムント様に引き寄せられる。

 膝の上に抱き上げられるような格好になって、後ろ頭に手を差し込まれて口付けられる。


 甘い口付けにうっとりしていると、エクムント様がわたくしの体を深く抱き締めた。


「エリザベートは本当に聡明で、私の力になってくれます。エリザベートがいるから、私は毎日執務を頑張ろうと思える」

「そうだったら嬉しいですわ。わたくしはまだまだ勉強不足ですが、これからも辺境伯領のこと、軍のことを学んで、もっともっとエクムント様のお力になりたいと思います」

「今以上に力になってくれるというのは心強いことです。何より、エリザベートがいると、私は格好いいところを見せないとと思って、気合が入ります」

「まぁ! エクムント様ったら!」


 格好つけなくてもエクムント様は十分格好いいのに、こんなことを言ってしまうのはエクムント様がわたくしの緊張を解こうとしているのだろうと分かる。

 ベッドに横たえられて、わたくしはエクムント様の背中に手を回した。


 エクムント様と甘い夜を過ごした朝は、わたくしは毎回朝食の時間まで眠ってしまうのだが、エクムント様もわたくしに付き合って起きていてもベッドで静かにわたくしが起きるのを待っていてくれた。

 結婚してからは毎日のようにエクムント様に愛されているので、朝のお散歩も、ランニングと筋トレもできていなかったが、給仕にベッドまで運んでこさせて食べる朝食は甘い夜の余韻が残っていてなんとなく幸せな気分になる。

 愛し合ってもエクムント様は起きられて、わたくしが起きられないのは単純に体力の差なのだろうが、カサンドラ様の訓練も受けているし、わたくしもそのうちエクムント様と一緒に起きられるようになると思うのだ。そのときにはベッドで一緒に朝食を食べられなくなるのが少し寂しいが、それでもエクムント様と朝のお散歩をしたり、ランニングや筋トレをしたり、一緒に過ごす時間を増やしたかった。


「エリザベート、今日はカサンドラ様のところに一緒に行きましょう」

「はい、お願いします」


 朝食が終わると、わたくしはエクムント様と一緒にカサンドラ様のいらっしゃる離れの棟に行く。今日はエクムント様に同行してもらうように約束していたのだ。


「おはようございます、カサンドラ様」

「カサンドラ様、お願いがあって参りました」


 エクムント様とわたくしで挨拶をすると、朝食を終えてミントティーを飲んでいたカサンドラ様は美しい柄の入ったガラスのカップをお揃いのソーサーの上に置いた。


「お願いとは何かな?」

「カサンドラ様がもう着なくなったスーツや軍服をわたくしに譲ってほしいのです」

「エリザベートとカサンドラ様はサイズが同じです。エリザベートはドレスも誂えるのにスーツや軍服を何着も誂えるのはもったいないと遠慮しているのです」

「私のものでいいのか? 流行外れかもしれないぞ?」

「流行は気にしていません。わたくしがスーツに求めるのは機能性です。それにカサンドラ様のセンスは素敵なので、信頼しています」


 ワンピースで執務を行うのもいいのだが、やはり機能性はスーツに劣る。そもそもワンピースにはポケットすらないデザインのものが多いのだ。領主として執務を行うときにも、軍人として執務を行うときにも、機能性は絶対に重視したいところだった。

 それにカサンドラ様はスーツ姿がとてもよく似合っていて、いつも格好いい。カサンドラ様のセンスならばわたくしは素敵なスーツしかないだろうと思っていた。


「私が着なくなったものでいいのならば、纏めて母屋の方に運ばせよう。昼には届くと思う」

「ありがとうございます、カサンドラ様」

「大事に着させていただきます」


 カサンドラ様にお願いをしてエクムント様とわたくしは離れの棟を辞した。


 一着だけ持っているカサンドラ様からいただいたフロックコート形式のスーツを着てエクムント様と一緒に執務に臨むわたくし。

 これからはこういうスタイルが多くなるかもしれないと思っていた。


読んでいただきありがとうございました。

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