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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
最終章 わたくしの結婚一年目とクリスタの結婚
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1.初めての外食

 フランツとクリスタのお誕生日が終わった翌日にわたくしとエクムント様は辺境伯領に帰った。エクムント様との移動は、護衛もいるが、二人きりだと思うと胸がときめく。

 結婚しても変わらずわたくしはエクムント様を想っていた。


「エリザベート、帰りには軍の施設に寄って行こうかと思っていますが、平気ですか?」

「はい、ご一緒いたします」


 辺境伯領には海軍の基地がある。その海軍を治めているのが総司令官のエクムント様であり、副司令官となるわたくしである。

 わたくしと共同統治を考えていたエクムント様は、副司令官の座をずっと空けたままにしていたのだ。

 戦時中ならばともかく、オルヒデー帝国は戦争の脅威には晒されていない。いずれわたくしを副司令官とすると決めたエクムント様が副司令官の座をしばらく空けていても問題はなかったようだ。


 軍の施設に入ると、士官たちがわたくしとエクムント様を見ると敬礼をしてくる。わたくしはどう返せばいいのかカサンドラ様から習っていた。

 敬礼は基本的に目下のものから目上のものに向かって行う。敬礼を受けた場合は、相手がだれであっても、何人であっても敬礼を返すという決まりがあった。


 慣れないのでぎこちなく敬礼を返すわたくしに、エクムント様は隣りでびしっと敬礼を決めている。背筋も伸ばして、右手をこめかみ辺りにかざす敬礼はこんなに格好いいのだと見とれてしまう。


 エクムント様も私服だが、わたくしは私服のワンピースでこの場にそぐわないかと思ったが、軍の縦社会はきっちりとしているようだ。誰もがわたくしとエクムント様に礼儀を払っていた。


「最近海賊による襲撃が増えていると聞いている。副司令官のエリザベート・ディッペルと共に話を聞きたいと思ってきた」


 執務室に入るとエクムント様が執務室の中で書類仕事をしていた男性に声を掛けた。男性はすぐに立ち上がり、書類を纏めてエクムント様とわたくしに渡す。


「交易路を独占したい海を隔てた国の軍隊が、戦争にまでは発展させたくないために、海賊を雇っているという確かな情報を得ました。その国に中央から働きかけてもらうわけにはいかないでしょうか?」

「その情報源が確かだというのは本当なのか?」

「捕らえた海賊の数人が証言しています」

「それだけでは弱いな。もっと情報を集めて、国王陛下に海を隔てた国との交渉を行っていただくだけの証拠を集めろ」

「は! 心得ました」


 近頃の海賊騒ぎは海を隔てた国の軍隊が発端だったようだ。まだ国王陛下にその国と交渉してもらうだけの証拠が集まっていないので、証拠集めをエクムント様は命じていた。


「捕虜になっている海賊を解放して泳がせてみるのはどうでしょう」

「海賊を解放するのですか?」

「自国に戻って報告をするものがいるかもしれません」

「監視を付けるのですね。それはありだと思います。そのようにしてみるように!」

「は! そう致します」


 わたくしの提案にエクムント様は賛成してくれた。

 軍の施設から馬車に乗って直接辺境伯家に帰るかと思ったのだが、エクムント様は途中で寄り道をされた。

 護衛の騎士たちが入り口にも中にも揃っている、豪華なレストランに入る。


「時間が遅くなりましたので、ここで昼食を取って行きませんか?」

「よろしいのですか? わたくし、外食をするのは初めてです」

「ここは軍の身分あるものも行くレストランです。護衛の騎士も配備されていますし、私もついています。安心して食事ができると思います」


 店に入りながらエクムント様はこのレストランが辺境伯領では貴族に人気なのだと教えてくれた。わたくしは外食をすることが初めてだったのでドキドキしていたが、エクムント様に手を引かれて個室に連れて行かれて椅子に座ると、エクムント様が注文もしてくださって、全く不自由はなかった。


 個室になっている席のテーブルも清潔な白いテーブルクロスがかかっていて、椅子は布張りで上等なものだった。

 運ばれてくる料理も美味しかったが、その中でも驚いたのはエクムント様が頼んでくださったミルクティーだった。


「ディッペル家のミルクティーと変わらない味がします」

「このレストランは私がディッペル公爵領から連れ帰った長毛の牛から取れた牛乳を使っているのですよ。デザートの生クリームも美味しいはずですよ」


 わたくしの舌に合う料理を選んでくださったのかとわたくしはエクムント様に感謝する。

 オードブルの海鮮のサラダも、スープも、メインのお肉もお魚も、パンからミルクティーまでも全部が美味しかった。


「一度エリザベートをここに連れてきたかったのです」

「とても美味しかったです」


 デザートの濃厚なオペラに生クリームを添えたものを食べながら、わたくしはエクムント様にお礼を言っていた。


「連れてきてくださってありがとうございます」

「エリザベートは公爵家の令嬢だったので、外で食事をするような機会はなかったでしょう。これを機にまたこのレストランならば来てもいいかと思います」


 護衛の騎士が配備されているのでわたくしとエクムント様も安心して食事ができる場所としてこのレストランは信頼してよさそうだった。

 何より、並の護衛よりはよほど強いエクムント様が一緒にいるのだ。その安心感もあった。


 食事を終えると馬車に乗って辺境伯家にまで戻ったが、わたくしは浮かれていた。

 これはデートと言ってもいいのではないだろうか。

 公爵家に生まれて、身を守るために町にもほとんど出たことがないわたくしが、エクムント様と二人でお屋敷の食堂ではなく、レストランで食事をした。

 エクムント様は今後もあのレストランに連れて行ってくれると言っている。


 デートができただけではなくて、次のデートの約束までできてしまった。


 幸福感に包まれていると、辺境伯家に着いた馬車が停まる。

 エクムント様が手を差し伸べてわたくしを馬車から降ろしてくださる。


 馬車から降りて辺境伯家のお屋敷に行く間も、エクムント様はわたくしの手を放さなかった。拘束されているわけではないが、エクムント様の手の上に自分の手を重ねて、エスコートされて歩く安心感は限りない。


「エクムント様、『ただいま帰りました』ですね」

「エリザベートも、この屋敷に『帰る』ようになりましたね」


 見つめ合って笑い合うわたくしとエクムント様に、帰りを待っていたカサンドラ様が「お帰り」と声を掛けてくださった。

 これからわたくしはエクムント様の辺境伯領の執務を見て覚えて、カサンドラ様と軍の勉強をするのだ。

 立派な辺境伯領の領主となるために、わたくしにはまだまだ勉強が必要だった。


 エクムント様が着替えて執務室に入るときに、わたくしはエクムント様に聞いてみた。


「わたくし、今日はワンピースで軍の施設に行きましたが、軍の施設に行くときにはカサンドラ様のようにスーツを着た方がいいのでしょうか?」

「軍人の中には気にするものもいますし、今後はそうした方がいいかもしれません」

「軍服も準備した方がいいでしょうか?」

「エリザベートの軍服はこちらで用意します。カサンドラ様の軍服を誂えていた職人の後継ぎが採寸に来ると思います」

「それでは、その方にお任せしますね」


 軍服を着たり、スーツを着たりするのは慣れないが、軍の副司令官となるのならば仕方がない。領主は共同統治でエクムント様もわたくしもなれるのだが、軍は序列があるので総司令官にわたくしとエクムント様、二人がなることはできない。わたくしはエクムント様の補佐に当たる副司令官なのだが、エクムント様に何かあれば、代わりに命令を出す立場にもなる。

 そのときのために勉強もしているのだが、まだまだわたくしは立派な副司令官かと言えば、そうではなかった。


「エクムント様、カサンドラ様にも譲っていただける服がないか聞いてみます」

「エリザベートのために誂えて構わないのですよ?」

「いえ、カサンドラ様の服ならば着ていると勇気をもらえそうですし、わたくしドレスも誂えてもらうのに、スーツまでもったいないです」


 カサンドラ様にも相談して、わたくしは着る服を揃えようと思う。

 幸い、カサンドラ様の若いころとわたくしはサイズが同じだった。


読んでいただきありがとうございました。

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