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43.王宮での結婚式

 学園が春休みに入った最初の日がわたくしの結婚式だった。

 わたくしの荷物がクリスタとレーニ嬢と同じ王宮の部屋に運び込まれるのはこれが最後。

 結婚式を終えれば荷物は辺境伯家の部屋に移動されている。


 前日からわたくしはドキドキしてよく眠れなかった。

 結婚式の日は朝から結婚式を挙げて、昼食で披露宴、お茶会では子どもたちにもお披露目をして、晩餐会で結婚の祝いをしてもらう。

 スケジュールも決まっていたし、簡単なリハーサルもしておいたので、準備は万端だったが、緊張しないわけではない。

 わたくしが眠れないでいると、部屋の灯りを落とした中でクリスタが話しかけてきた。


「お姉様、ついに明日ですね」

「そうなのです。緊張して眠れません」

「わたくしにもお姉様の緊張が伝わってくるようです」


 明日もフランツとマリアとデニス殿とゲオルグ殿はお散歩に行きたがるかもしれないが、わたくしは式の準備があるのでお散歩には行けない。これからもディッペル家や辺境伯家や王都に家族たちが揃えば一緒に散歩に行くことになるのだろうが、わたくしはそのときにはもうディッペル家の一員ではない。辺境伯家に嫁いでいるのだ。


「エリザベート嬢が眠れない気持ち、分かる気がします。婚約から十年も待ったのですよね」


 フランツが六歳で婚約したので結婚までは十二年待たなければいけないレーニ嬢の言葉は、重みが違う。

 レーニ嬢もまだ起きているようだ。


「よく眠れるようにホットミルクを持ってきてもらいましょうか?」

「ホットチョコレートの方がいいかもしれません」


 そう言ってくれるクリスタとレーニ嬢に、わたくしは起き上がって廊下にいた使用人にホットミルクを持ってきてくれるように頼んだ。

 一度部屋の灯りを点けて、クリスタとレーニ嬢とわたくしでホットミルクを飲む。まだ肌寒い日も多いのて、温かいホットミルクで体が芯から温まる。ふうふうと吹き冷ましながら飲んでいると、蜂蜜が溶かされているようでホットミルクはほんのりと甘かった。

 ホットミルクを飲み終わってベッドに入ると眠気が来るような気がする。


「クリスタ、レーニ嬢、お休みなさい」

「お姉様、明日のお姿を楽しみにしていますわ」

「エリザベート嬢、ゆっくり休んでください」


 ぐっすりと眠ったわたくしはフランツとマリアとデニス殿とゲオルグ殿の声に起こされたが、お散歩には行かなかった。


「お姉様は準備がありますからね」

「わたくしたちだけで行きましょうね」


 クリスタもレーニ嬢もフランツとマリアとデニス殿とゲオルグ殿に言い聞かせている。

 わたくしは衣装や装飾品やヴェールや靴の確認をして、結婚式に滞りなく出られるように準備していた。


 準備が終わるとわたくしはディッペル家の部屋に朝食を食べに行く。

 こうやって王宮のディッペル家の部屋で朝食を取るのもこれが最後になるだろう。

 クリスタの顔を見て、フランツの顔を見て、マリアの顔を見て、両親の顔を見て、しみじみとしていると、両親がわたくしに言う。


「エリザベート、いよいよだね」

「人生で一番輝く瞬間かもしれません。結婚式が滞りなく終わりますように」

「ありがとうございます、お父様、お母様」


 朝食を終えると、わたくしは衣装を持って別の部屋に移動する。

 マルレーンが衣装に着替えるのを手伝ってくれて、髪も整えて結って、頭にはティアラを被り、ヴェールを垂らす。

 イヤリングを付けて衣装を整えると、部屋に両親が迎えに来た。


「エクムント殿のところまで送ろう」

「親の務めですからね」


 結婚式の日にはエクムント様が迎えに来るのではなく、両親にエクムント様の元まで送ってもらうのだ。

 大広間には貴族たちが集まって、一番奥に国王陛下が王妃殿下と共に椅子に座っていて、その前にエクムント様が立っている。

 わたくしはエクムント様の前まで両親に連れられてきた。


「エクムント殿、エリザベートをよろしく頼みます」

「どうか、エリザベートのことをお願いします」


 エクムント様の前にわたくしを連れてきた両親が、エクムント様に挨拶をする。


「心得ております」


 答えたエクムント様の横にわたくしは立った。

 ミッドナイトブルーのタキシードに白い手袋、黒い革靴のエクムント様はとても格好いい。並ぶわたくしは白いドレスの左肩と左腰に赤と紫の薔薇を飾り、ドレスには銀糸の刺繍を施して、胸と短めのヴェールの裾には薔薇の花びらが散っている。頭にはティアラを被り、耳にはティアラに合わせたイヤリングを付けている。


 花嫁花婿姿をわたくしたちの前で、国王陛下が椅子から立ち上がって、錫杖を床に打ち付けて鳴らす。


「これより辺境伯、エクムント・ヒンケルと、ディッペル公爵家令嬢、エリザベート・ディッペルの結婚式を執り行う」


 国王陛下の宣言により、わたくしとエクムント様の結婚式が始まった。

 最初に国王陛下の前で誓いの言葉を述べる。


「私、エクムント・ヒンケルはエリザベート・ディッペルを妻とし、健やかなるときも病めるときもいつも共に過ごし、生涯愛することを誓います」

「わたくし、エリザベート・ディッペルはエクムント・ヒンケルを夫とし、健やかなるときも病めるときもいつも共に過ごし、生涯愛することを誓います」


 誓いの言葉を述べると、国王陛下から問いかけられる。


「エクムント・ヒンケル、エリザベート・ディッペル、二人は辺境伯領を共同統治し、共に領主となって支え合うことを誓うか?」

「はい、誓います」

「誓います」

「それでは、結婚と、共同統治の宣誓書にサインを」


 書類が差し出されてわたくしとエクムント様はそれぞれサインをする。結婚の宣誓書と共同統治の宣誓書にサインをしたものを、確かめて頷く。


「国王である私の名において、エクムント・ヒンケルとエリザベート・ディッペルの結婚及び、辺境伯領の共同統治を認めよう。今生まれた新しい夫婦に祝福を」


 国王陛下の言葉に拍手が巻き起こる。

 顔を上げて見るとクリスタもレーニ嬢もフランツもマリアも拍手をしているし、両親は涙を押さえているようだった。


「エリザベート嬢、結婚指輪を付けていただけますか?」

「エクムント様もお願いします」


 わたくしがエクムント様の指輪をはめて、エクムント様がわたくしの指輪をはめる。

 ヴェールを捲られて、エクムント様がわたくしの頬に手を当てる。

 誓いのキスだ。

 目を瞑ると、柔らかな渇いた感触が唇に感じられた。


 エクムント様と唇でキスをした。


 舞い上がってしまうわたくしを姫抱きにしてエクムント様が食堂までの廊下を歩く。抱き上げられてわたくしはエクムント様にしっかりとしがみ付いていた。


 披露宴は広い食堂で行われた。

 結婚式なのでわたくしたちの方がテーブルを回って挨拶をしていく。

 国王陛下と王妃殿下のテーブルに行くとお二人とも穏やかにわたくしたちを見守ってくれていた。


「エクムント、エリザベート、おめでとう」

「これからは辺境伯領もますます賑やかになって栄えることでしょう」

「壊血病の予防策を発見し、コスチュームジュエリーの名称を考え、フィンガーブレスレットとネイルアートをオルヒデー帝国に流行らせて、辺境伯領の布のドレスも常に纏ってこの国の流行の最先端となったエリザベートが辺境伯家に嫁いだのだからな」

「国王陛下、わたくしはそんな……」

「謙遜することはない。エリザベートは辺境伯領のためによく考えているのが分かるよ」


 手放しで褒められてしまうと恥ずかしくなってしまう。

 頬を押さえるわたくしに、エクムント様がわたくしの腰を抱く。


「どんな宝物よりも尊い方を辺境伯領は得ました。大事に致します」

「ユストゥスとテレーゼ夫人にもそう言ってやってくれ」

「ディッペル公爵夫妻は寂しくなられるでしょうね」


 子どもが大人になって家を出て行くのは仕方がないことだが、両親にとってわたくしは最初の子どもだったし、わたくし一人だけを育てようと思っていた時期もあったくらいだから思い入れは大きいだろう。


 後で両親にも挨拶に行かなければいけないと思いながらクリスタとハインリヒ殿下の席に挨拶に行く。

 ハインリヒ殿下もクリスタもわたくしとエクムント様が来ると席から立ち上がってくれた。


「お姉様、本当に美しい花嫁です。エクムント様、お姉様をよろしくお願いします」

「私の全てを懸けて大事にします」

「エクムント殿、エリザベート嬢、本当におめでとうございます」

「ありがとうございます」


 祝いの言葉は何度言われても嬉しい。

 わたくしもエクムント様の妻になったのだと実感がわく。


 続いてディッペル家の両親のところへ行くと、ハンカチを握りしめて涙ぐんでいるのが分かる。


「エリザベート、世界で一番綺麗だよ」

「エクムント殿、素晴らしい誓いの言葉でした。エリザベートをよろしくお願いします」

「どんなことがあろうともエリザベート嬢と一緒にこれから乗り越えていきたいと思っています」

「エクムント様、『エリザベート』と呼んでください。わたくしはもうエクムント様の妻なのです」

「そうでした。エリザベート」


 呼び捨てにされるのが親しみと愛情を持っていてとても暖かい。わたくしはエクムント様の手を強く握りしめた。


読んでいただきありがとうございました。

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