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18.ハッピーエンドのその先を

 お茶会の時間にエクムント様が国王陛下に相談していた。


「私とエリザベート嬢の結婚式は、エリザベート嬢が学園を卒業してからすぐにでも行いたいと思っているのですが、日程的にいかがでしょう?」

「その時期は特に式典は入っていない。卒業式の翌日に結婚式でもいいのではないかな」

「エクムント殿が望むようにされたらいいと思います。そうですよね、陛下?」

「そうだな。エクムントも何年も結婚を待ち望んでいたはずだ。できるだけ早く結婚式を挙げたい気持ちも分かる」


 王妃殿下の口添えもあって国王陛下から結婚式の許可が下りた。

 それだけではなく、エクムント様は国王陛下と打ち合わせをする必要があった。


「王都での結婚式の後に、辺境伯領で結婚式を挙げてお披露目を行いたいと思っております」

「辺境伯領の領主としては当然のことだな。私は参加できないが、ハインリヒとノルベルトとノエルに参加するように言おう」

「光栄なことでございます」

「父上、わたくしも辺境伯領の結婚式に参加したいです」

「ユリアーナ、そなたもか。エクムント、ユリアーナも一緒で構わないか?」

「歓迎いたします」


 国王陛下は辺境伯領での結婚式には参列できないが、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下とユリアーナ殿下を参加させてくれると仰っている。

 それだけの参列者がいれば立派な式になるだろうし、辺境伯領がオルヒデー帝国と融和をしたという証にもなる。


 話がまとまると、エクムント様がわたくしの肩を抱いて引き寄せた。


「エリザベート嬢、いい結婚式にしましょうね」

「はい、エクムント様」


 そのためにはディッペル家で学園が休みの間に準備をしておかなければいけないのだが、わたくしはまだドレスのデザインをエクムント様と話し合っていなかった。


「エクムント様はわたくしのドレスについて、以前仰っていましたよね。肌を出さない方がいいと」

「エリザベート嬢の肌は私が独占したい、というのもあるのですが、辺境伯領は日差しが強いので、できるだけ肌を出さないようにしないと、エリザベート嬢の白い肌が火傷のようになってしまうと思ったのです」


 そうだった。

 春とはいえ辺境伯領は日差しが強いのだ。

 辺境伯領に毎年行くのは夏だったので当然わたくしは肌を守る対策をしていたが、辺境伯領に嫁いだら一年中その対策を続けなければいけないかもしれない。

 それだけの覚悟をして辺境伯領に嫁がなければいけないのだ。


「それでは長袖で襟が詰まっているもので、手袋もした方がいいですか?」

「そうですね。長袖のドレスもお似合いになると思います」

「他にエクムント様からドレスの要望はありますか?」

「いいえ。エリザベート嬢の好きなドレスを着てください」


 肌を極力見せない、以外にエクムント様からの要望はなかった。

 わたくしは長袖のドレスを想像する。薄い絹の袖を付けたら美しいのではないだろうか。

 ドレスには銀糸で刺繍を施して、ハイヒールにも同じように銀糸で刺繍を施す。

 結婚式の衣装を想像していると、いつの間にか時間が経っていてお茶会は終わっていた。


 お茶会が終わるとわたくしはエクムント様が、クリスタはハインリヒ殿下が、レーニ嬢はフランツが部屋まで送ってくれる。

 三人の部屋に戻ると、クリスタがうっとりと呟く。


「ハインリヒ殿下は再来年のわたくしのお誕生日に結婚式を挙げるように国王陛下にお話ししてくださいました」

「クリスタの結婚式の日取りも決まったのですか」

「気が早いかもしれませんが、わたくし、皇太子妃になるのです。しっかりと準備をしておかねばなりませんから」


 皇太子妃となると、ドレスも装飾品も全て王家の指定したものとなる。クリスタはわたくしのように自分でドレスを選んだり、ヴェールを選んだり、できないわけだ。

 それは不自由かもしれないが、将来国母となるクリスタが国の取り決めに従うのは当然と言えば当然だった。


「エリザベート嬢もクリスタ嬢も結婚式のお話が進んでいて素敵ですね。わたくし、お二人の結婚式に着ていくドレスを誂えないといけませんわ」


 レーニ嬢はレーニ嬢で、結婚式に出席するためのドレスの心配をしていた。


 夕食の席にもディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下は同席して、小さく切られた料理を一生懸命食べていた。フォークを手で握って、反対の手で手掴みで食べているのも可愛らしい。


 夕食のときに、ノエル殿下がディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下を見つめてため息をついていた。


「わたくし、結婚すれば赤ちゃんは自然とできるものだと思っていたのですよ」

「ノエル、まだ結婚してすぐではありませんか。焦ることはありません」

「わたくしも可愛い赤ちゃんが欲しいのです」

「結婚して長く子どもができない夫婦もいます。焦らずにいましょう」


 ノルベルト殿下に宥められてもノエル殿下は赤ちゃんを切望している様子だった。


「ディッペル公爵夫人は、結婚して一年も経たずに赤ちゃんができたのですよね。赤ちゃんができたと分かったときにはどのような気持ちでしたか?」

「わたくしは、悪阻が酷くて、喜ぶ暇もなく、ずっと悪阻に悩まされていました」

「赤ちゃんができると悪阻が起こるのですね」

「お産もとても重くて命を落としかけました。エリザベートが生まれたら、この子を残して死ねないと思って、次の子は諦めていました」


 夢見るように赤ちゃんを欲しがっていたノエル殿下の表情が引き締まる。


「そういうこともあるのですね……」

「誰もがそうではありませんが、お産というのは危険を伴うものだというのは知っていてください、ノエル殿下」

「はい。わたくし、軽率だったかもしれません。お話が伺えてよかったです」


 闇雲に赤ちゃんを欲しがるだけではなくて、そのリスクを知ったノエル殿下は納得して返事をしていた。


 夕食が終わるとわたくしとクリスタとレーニ嬢は、エクムント様とハインリヒ殿下とフランツに送られて部屋に帰った。

 自分たちの領地から朝早く出発してきていたので、汗もかいているし、疲れていたのでわたくしとクリスタとレーニ嬢は順番にお風呂に入ってベッドに入った。

 目を閉じるとエクムント様の声が聞こえてくるようだった。


――エリザベート嬢の真実の愛を捧げてくださるなら、私も真実の愛を捧げましょう。

――真実の愛を捧げます。エクムント様だけに。

――嬉しいです、エリザベート嬢。私もエリザベート嬢にだけ真実の愛を捧げます。


 そういえば、『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』の表紙にはマーガレットの花が描かれていなかっただろうか。あれは装飾だと思っていたが、花言葉を示していたのかもしれない。


 わたくしが刺繍のモチーフにマーガレットを選んだのは庭に咲いていたからで全くの偶然だったのだが、その花言葉が『真実の愛』だとは知らなかった。

 『真実の愛』なんて言葉、どこにでもあるのだろうが、わたくしは原作の題名を知っているだけに気にしすぎているのかもしれない。

 わたくしがこの物語の主人公になっているなんてありえない。


 この世界はクリスタが主人公で、クリスタの物語を紡いでいるはずなのだ。


 それを少しだけわたくしが変えただけ。

 わたくしが悪役にならずに済むように運命を変えて、両親も死ななくて済むように運命を変えた。


 後はわたくしはエクムント様と結婚して辺境伯領に嫁ぐだけだが、クリスタが皇太子妃になるまでは物語は続いていたと思い出す。

 『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』はクリスタがハインリヒ殿下と結婚して皇太子妃になったところで終わっていた。


 わたくしの人生はそれでは終わらない。

 エクムント様と結婚して、辺境伯領で幸せに暮らしていくのだ。

 クリスタは皇太子妃になった後も、ハインリヒ殿下と幸せに暮らしていくのだ。

 原作にはラストシーンがあったけれど、わたくしたちはその先を生きる。ハッピーエンドの先を生きるのだ。


読んでいただきありがとうございました。

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