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11.ティアラのお披露目

 夏休みに辺境伯家に行くのをわたくしはとても楽しみにしていた。

 辺境伯家のわたくしの部屋にエキストラベッドを入れてクリスタとレーニ嬢と一緒に眠るのだ。

 ディッペル家の全員で夏休みに辺境伯領に来るのは今年が最後になる。

 来年からはわたくしは辺境伯領でみんなを迎える側になるのだ。


 行きの列車でわたくしは春休みに辺境伯領に招かれたときのことを話していた。


「カサンドラ様は自分のティアラをわたくしにくださると仰ったのです。わたくしが代々辺境伯家に受け継いでくれたら嬉しいと」

「それはとても名誉なことだね」

「カサンドラ様のティアラを付けてエリザベートは結婚するのですね」

「結婚式の準備をする前に、伝えておきたいと言われたのです。わたくし、銀色で所々にダイアモンドが光るティアラの美しさに見とれてしまいましたわ」


 話していると、クリスタがそれを聞きつけてわたくしに微笑みかける。


「ティアラは銀色なのですね。お姉様の銀色の光沢のある目によくお似合いでしょう」

「そうなのです。夏休みにお父様とお母様にも見ていただいて、ティアラをもらって帰る約束をしました」


 銀色のティアラが目に浮かぶようでわたくしはうっとりとしてしまう。話を聞いているマリアもうっとりとしている。


「義理のお母様から譲られたティアラで結婚式を挙げられるなんて、エリザベートお姉様素敵ですわ」

「わたくしもとても嬉しく思っています。カサンドラ様がティアラをお持ちだったというのには驚きでしたが」


 結婚はしない。

 自分に子どもが産めないと分かったときから決めていたというカサンドラ様は、結婚式の準備をしたこともないはずだ。それをご両親がカサンドラ様が結婚することを願ってティアラを作ったのだったら、使わなかったことは申し訳なく思っているのだろう。

 今後カサンドラ様がティアラを使う予定はないはずで、わたくしがもらうのが一番いいのかもしれない。


 カサンドラ様からいただくティアラに恥じないようにわたくしは堂々としていようと思っていた。


 辺境伯領に着くと馬車で辺境伯家まで行く。

 夏の暑さにもわたくしは慣れなければいけない。


 扇で自分を扇ぎつつ、涼を取って辺境伯家に着くと、エクムント様が迎えてくださる。


「エリザベート嬢、クリスタ嬢、フランツ殿、マリア嬢、ディッペル公爵夫妻、よくいらっしゃいました」

「エクムント様! エクムント様はわたくしの部屋を用意してくださっているのです」

「エリザベートお姉様のお部屋?」

「わたくしも行ってみたいですわ」

「わたくしはエリザベートお姉様と一緒に泊まれるのでしょうか?」


 フランツとマリアとクリスタの言葉にわたくしは答える。


「わたくしが辺境伯家に嫁いできた日のためにお部屋を用意してくださったのです。お部屋へはぜひ来てください。クリスタはエキストラベッドを入れて一緒の部屋で泊まれますよ」

「レーニ嬢も一緒ですか?」

「レーニ嬢も一緒です。部屋のソファがベッドにもなるそうなのです」


 説明するとクリスタも落ち着いて話を聞いていた。以前よりもクリスタがテンションを上げることがなくなったような気がしていた。クリスタは落ち着いた淑女になっている気がする。

 フランツとマリアはまだ子どもらしく興味津々だが、クリスタはそれほどでもない。


 昼食までにはレーニ嬢とデニス殿とゲオルグ殿、ハインリヒ殿下とユリアーナ殿下も到着していた。

 全員で食堂に行って昼食を食べる。


 昼食の席で両親がカサンドラ様に言っていた。


「カサンドラ様、エリザベートにティアラをくださるそうで」

「エリザベートが嬉しそうに教えてくれました」

「私の両親が私のために作ってくれたのだが、私は結婚する気がなかった。必要ないと断ったのだが、両親は私に結婚してほしかったのでしょう。受け取ったけれど、使うことのなかったティアラです。使っていただけるととても嬉しい」

「エリザベートの結婚式で身に着けさせましょう」

「カサンドラ様から譲り受けたティアラだと知られれば、周囲も納得するでしょう」


 カサンドラ様からティアラを譲られたことはわたくしは積極的に発信していかなければいけない。そうしないと、誰もカサンドラ様からわたくしがティアラをいただいて、それを結婚式に着けていることに気付かれないからだ。


「ハインリヒ殿下も婚約指輪に王妃殿下の指輪をくださいました。義理の母となる方から受け継げるものをいただくのはとても名誉なことだと思います。わたくしも婚約指輪は子どもが生まれたら引き継いでいきたいと思っております」

「私の母からクリスタ嬢に渡された指輪が、代々私の家系に繋がるのだと思うと感慨深いですね」


 婚約指輪は誕生石がはまったものがいいとか、新しいものがいいとか、クリスタは全く不満を漏らさなかった。心から王妃殿下の譲ってくださった指輪を大事に思っているようだ。

 わたくしが婚約指輪はエクムント様に誕生石とダイヤモンドを組み合わせたものをもらっていたので、羨ましがるかと思っていたらそんなことはなかった。それだけクリスタも成長したのだろう。

 今ではレーニ嬢に注意を受けることもないだろう。


「カサンドラ様、昼食を食べ終わったら、お姉様がティアラを付けているところを見せてもらってもいいですか?」

「もちろん見てほしい。エリザベート嬢のために誂えたかのようによく似合うのだ」

「わたくしも見たいですわ」


 カサンドラ様にお願いするクリスタに、レーニ嬢も目を輝かせていた。


 昼食後にはわたくしは綺麗なワンピースだがドレスではないが、ティアラを合わせてみていた。

 ハーフアップだった髪をレーニ嬢が素早く結い上げてくれて、頭の上にティアラを乗せる。


「とてもお似合いです、お姉様」

「エリザベート嬢、なんて美しい」


 クリスタとレーニ嬢が褒めてくれる。


「エリザベートお姉様、花嫁さんのようです」

「素敵なティアラです、エリザベート嬢」


 マリアとユリアーナ殿下もわたくしを褒めてくれていた。

 男性陣は遠巻きに見ているが、エクムント様の視線を感じてわたくしが振り返ると、エクムント様はわたくしの横に並んだ。


「エリザベート嬢の姿をずっと見ておきたいですね」

「このティアラは素敵ですからね」

「エリザベート嬢が被るからティアラも輝きを増すのです」


 甘い言葉を囁かれてわたくしは照れてしまう。


「エリザベートとてもよく似合っているよ」

「エリザベート、素敵ですよ」


 両親も手放しでわたくしのことを褒めてくれていた。


「やはりエリザベート嬢に差し上げて正解だった。エリザベート嬢、本当によく似合う」


 カサンドラ様にも言われてわたくしは誇らしい気分になった。

 ティアラはみんなに見せ終わったら大事にビロードの箱に仕舞っておいた。

 このティアラをわたくしは完全に譲り受けてディッペル家に持って帰るのだ。ディッペル家で準備する結婚の衣装はこのティアラに合わせて誂えられる。

 わたくしは結婚の衣装のこともエクムント様と話し合わなければいけなかった。

 もちろん、カサンドラ様にも両親にも相談しなければいけない。


「エクムント様、この滞在中にわたくしの結婚衣装のデザインの相談に乗ってほしいのですが」

「一緒に考えましょう。私のタキシードも考えなければ」

「ミッドナイトブルーのタキシードなのでしょう?」

「そのつもりです」


 純白のドレスとヴェールを身に着けたわたくしと、ミッドナイトブルーのタキシードを身に着けたエクムント様。それはきっと絵になる光景だろう。


「結婚の衣装で写真を撮りませんか?」

「いいですね」


 白黒写真なので色が残るわけではないが、写真は記憶をよみがえらせるのに役立つだろう。

 結婚の衣装の相談もわたくしは楽しみにしていた。


読んでいただきありがとうございました。

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