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1.一輪の薔薇

 ふーちゃんとクリスタちゃんのお誕生日にシュタール家から一輪の薔薇を持ってきてもらっていたまーちゃんはご機嫌だった。

 薔薇の花を部屋に飾ってうっとりと見つめているという。

 シロとピンクのグラデーションの薔薇の花は瑞々しく咲いていた。


 ふーちゃんのお誕生日にクリスタちゃんも一緒に正式なお茶会を開くのだが、クリスタちゃんの本当のお誕生日には家族だけでお祝いするようにしていた。その場にはクリスタちゃんの婚約者としてハインリヒ殿下がいらっしゃるし、わたくしの婚約者としてエクムント様がいらっしゃるし、ふーちゃんの婚約者としてレーニちゃんが来てくれて、まーちゃんの婚約者としてはオリヴァー殿が来てくれる。

 賑やかなお誕生日をクリスタちゃんも喜んでいるようだった。


 お誕生日当日、正式なお茶会ではないので若干ラフな格好で来てくださったハインリヒ殿下、エクムント様、レーニちゃん、オリヴァー殿を庭で待っていたクリスタちゃんとわたくしとふーちゃんとまーちゃんが歓迎する。

 馬車から降りてくるとハインリヒ殿下はさっとクリスタちゃんの手を取り、エクムント様はわたくしの手を取って食堂まで歩き出した。レーニちゃんとふーちゃんは手を繋いでいる。まーちゃんはオリヴァー殿に手を引かれて銀色の光沢のある黒い目をきらきらと輝かせている。


「素敵なお誕生会になりそうですね」


 わたくしが声を掛けるとクリスタちゃんが「はい!」と元気よく返事をした。


 食堂に集まって椅子に座ってお茶をする。

 普段のお茶の時間と変わらないが、ケーキや軽食は豪華に用意されている。

 切って皮の剥かれた果物がたくさん用意してあってわたくしはそれに目を向ける。ケーキをたくさん食べてしまうよりも果物の方がいいのではないだろうか。


「お父様、お母様、果物を用意したのですね」

「これは今日のためにエクムント殿が辺境伯領から送ってきてくれた果物なんだ」

「せっかくですから、みんなで食べようと思ったのです」


 果物を取り分けて、ケーキも一つだけ取り分けて椅子に座ると、エクムント様も果物とサンドイッチを取り分けて椅子に座っていた。


「果物はお好きなのですか?」

「壊血病の予防策を聞いてから、野菜や果物は多めに食べるようにしているのです」


 エクムント様は船に乗るわけではないが、辺境伯領の軍の総司令官だ。上官が手本を示さなければ他の兵士が従うわけがないと、自ら率先してザワークラウトを食べ、果物や野菜の多い生活をしていると聞くと、さすがエクムント様と尊敬してしまう。


「私が手本を示さなければ、他のものが従いませんからね」

「それはそれとして、果物はお好きですか?」

「好きですよ。瑞々しい果物が特に好きです」


 グレープフルーツやライチの他に、スイカやメロンも切られて置かれているのはエクムント様の好みなのだろう。わたくしは皮を剥かれたグレープフルーツを食べて、酸っぱさに目を白黒させていた。


 まーちゃんも果物が大好きなはずなので、辺境伯領では朝食で果物をたっぷり食べていた記憶がある。わたくしもまーちゃんも辺境伯領に嫁いだら果物には困らないだろう。


 果物を食べてミルクティーを飲んでいると、クリスタちゃんがハインリヒ殿下からビロードの箱を受け取っていた。


「これは母が嫁ぐときに持ってきた指輪です。クリスタ嬢との婚約指輪として贈りたいと思っています」

「ありがとうございます。とても美しい指輪……」


 ハインリヒ殿下のお母様と言えば王妃殿下だ。王妃殿下は隣国の女王陛下の妹なので、皇女殿下だったはずだ。そんな方が作らせた指輪なのだから、とても豪華なものに違いない。


 うっとりとしているクリスタちゃんにハインリヒ殿下が指輪をはめる。クリスタちゃんの左手の薬指にピンクゴールドにピンクの宝石の付いた指輪がはまった。


「この宝石は何ですか?」

「ピンク色のダイヤモンドです。とても珍しいのですよ」

「まぁ、ダイヤモンドなのですね。わたくし、この色が大好きです。わたくしの普段着ているドレスにもとてもよく似合います。嬉しいです」


 誕生石の婚約指輪はもらえなかったようだが、隣国の王女殿下だった王妃殿下の作らせた指輪を受け継ぐというのはとても名誉あることだ。クリスタちゃんは最高に嬉しそうで輝いていた。



「結婚指輪はお互いに意見を出して作りましょう」

「わたくし、ハインリヒ殿下のくださるものなら、なんでもいいです」

「結婚指輪には裏側にですが、クリスタ嬢の誕生石のアクアマリンをはめ込ませたいと思っています」

「わたくしの誕生石をご存じでしたのね」

「エクムント殿がエリザベート嬢に指輪をプレゼントしたと聞いて、調べました」


 クリスタちゃんはエクムント様がわたくしにしてくださることに興味津々だが、ハインリヒ殿下もエクムント様がわたくしにしてくださることを参考に考えていた。


「エリザベート嬢、今日は指輪はつけていないのですね」

「落としたら泣いても泣ききれませんし、大事にしたいので、特別な場面でしかつけません」

「エリザベート嬢が私のものだと示せるようで嬉しいのに」

「え、エクムント様ったら!」


 わたくしの手を取って左手の薬指に口付けたエクムント様に、わたくしは椅子から飛び上がりそうになってしまう。こういうところもクリスタちゃんには見られている気がするのだ。


「人前ではそういうことは控えてください」

「結婚したら控えなくてもいいですか?」

「結婚しても、です」


 家族のいる場でそんなことをされるとわたくしは恥ずかしくて真っ赤になってしまうし、クリスタちゃんはじっと見ているような気がするし、エクムント様にはわたくしは控えてほしかった。

 お願いするとエクムント様がわたくしの手を放す。

 するりと離れて行った体温に少しわたくしは寂しさを覚えたが、これ以上されると完熟したトマトのようになってしまうのでエクムント様には我慢してもらうことにした。


 オリヴァー殿はこの日も薔薇の花を持ってきていた。

 今回は一輪ではなく小さな花束になっている。

 その花束を両親はテーブルの上に飾らせていた。


 ピンクと白のグラデーションの薔薇はとても美しい。甘い香りもしてくるような気がする。

 薔薇の花を見ていると、オリヴァー殿がまーちゃんに話しかけている。


「この薔薇は春薔薇なので、春に満開に咲きます。マリア様にも咲いているところを見せたかったのです」

「見せてくださるとお約束してくださいましたね。それで持ってきてくださったのでしょう」

「そうです。フランツ様とクリスタ様のお誕生日に一輪だけ持って行ったら、ナターリエにもっと持って行くように言われました」


 あの日の反省を生かして、オリヴァー殿は小さな花束になる量の薔薇を持ってきてくれたのだろう。


「『この薔薇はマリア様のものなのだから、花をすべて切って持って行ってもいいくらいです』とナターリエに言われました」

「ナターリエ嬢ったら、嬉しいことを言ってくださるわ。お礼を申し上げておいてくださいね」

「分かりました、マリア様」


 オリヴァー殿とまーちゃんも年の差はあるが、とても仲睦まじくしている。

 オリヴァー殿は来年の春、わたくしと一緒に学園を卒業するのだが、まーちゃんが結婚できる年になるまでは結婚を待ってくれるはずだ。


 わたくしだけが来年の春にエクムント様と結婚する。

 まだ一年先のことなのに、わたくしはそれが待ち遠しくてたまらない。


 わたくしが結婚した一年後にはクリスタちゃんがハインリヒ殿下と結婚することになる。

 公爵家の娘が二年連続で結婚するのだから、ディッペル家は準備に追われることになるだろう。特にわたくしは辺境伯に嫁ぐのだし、クリスタちゃんに至っては王家に嫁ぐのである。

 ノエル殿下は結婚式のための準備をかなり長く続けていたが、わたくしもこの一年は結婚式の準備の年になりそうだった。


読んでいただきありがとうございました。

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