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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
二章 ノメンゼン子爵の断罪
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14.ダリアの花と隣国の歴史

 前世の記憶で言われたことを覚えている。

 兄弟姉妹がいる小さな子にプレゼントを持って行くときには、必ず兄弟姉妹の分も用意するように言われたことがある。

 あれは親戚の小さな子どものお誕生日のときだっただろうか。

 その子どもには姉がいたので、姉の分もプレゼントを持って行った。

 そうしないと、小さい子どもはお誕生日というものがよく分かっていなくて、妹だけプレゼントをもらったら不公平に感じてしまうということだった。


 エクムント様はクリスタ嬢のお誕生日のときにもわたくしに白い薔薇をプレゼントしてくれた。わたくしのお誕生日のときにはクリスタ嬢にもピンク色のダリアを用意してくれていた。

 前世のわたくしが聞かされたようなことを自然と意識していられるのだ。


 お誕生日の翌日にわたくしは庭で玄関の警護をしているエクムント様にお礼を言いに行った。わたくしが行くということは、クリスタ嬢もついて来ている。


「エクムント、お誕生日お祝いをありがとうございました。あんなに綺麗なダリア、わたくしにもったいないくらいです」

「エリザベートお嬢様は紫の光沢のある黒髪です。紫色のダリアがあったので、お誕生日にはそれをプレゼントしようと決めていました」

「わたくしにも、ピンクいろのダリア、うれしかったわ」

「エリザベートお嬢様にプレゼントするのであれば、クリスタお嬢様にプレゼントしないわけにはいきませんからね」


 笑顔で言ってくれるエクムント様にわたくしは好きの気持ちが高まって何も言えなくなってしまう。ダリアなんて大人っぽい美しい花をわたくしに選んでくれたのがとても嬉しかった。


「おねえさまのおたんじょうびなのに、わたくしにもあって、とてもうれしかったの」

「キルヒマン侯爵家で、私は末っ子でした。年の離れた兄たちの誕生日には、必ず両親は私にも何か小さなものでもプレゼントを用意してくれていました。私は兄の誕生日でも、私のことを忘れていないと言われているようで嬉しかったのです」


 キルヒマン侯爵家ではエクムント様はお兄様たちのお誕生日に何か小さなものをプレゼントされていた。その記憶があったからクリスタ嬢のお誕生日にはわたくしにも白い薔薇を、わたくしのお誕生日にはクリスタ嬢にピンクのダリアを用意してくださったのだろう。


「エクムントはどうしてダリアを選んでくれたのですか? あんなに美しい花、わたくしには大人っぽくありませんか?」

「エリザベートお嬢様は気品あふれるレディに育っておられます。ダリアの花ことばは『気品』『優雅』なのですよ。エリザベートお嬢様にぴったりだと思って贈りました」

「そうだったのですね」

「それに、ダリアはエリザベートお嬢様の誕生花でもあります」


 ダリアはわたくしの誕生花だったのか。

 全く知らなかったことを教えてもらってわたくしはますますエクムント様のことが愛おしくなる。

 わたくしの誕生花を調べて贈って下さったのも、花言葉がぴったりだと言ってくださったのも嬉しくて幸せで胸がいっぱいになる。


「ダリアの花、枯らさないように大事にお世話しますわ」

「花は散るものです。散るからこそ、美しいものです。散っても気落ちされませんように」


 どれだけ丁寧に手入れしてもいつかは花は散ってしまう。エクムント様の言うことは正しかったが、わたくしは少しでも花の命を長らえようと考えていた。


 お礼を言いに行った後は午前中はリップマン先生の授業を受ける。

 リップマン先生はダリアについても教えてくれた。


「この国の前身の帝国を崩壊させた隣国の皇帝の妃が、ダリアの花をとても愛していたそうです。その妃が庭のダリアを分けて欲しいと貴族に言われて、断ったのですが、貴族が庭のダリヤの球根を盗み出して、各地に広めてしまい、妃は憤ってその貴族を追放したと言われています」

「ダリアにそんな歴史があるのですね」

「ダリアの中には『皇帝ダリア』と呼ばれる品種があるのですよ」


 植物図鑑を広げて見ながらわたくしとクリスタ嬢はリップマン先生の話を聞いていた。

 ダリアの話から隣国の革命の話までしてくれて、リップマン先生の授業はとても興味深い。わたくしとクリスタ嬢が興味を持っていることから授業に入るので、内容がよく頭に入って来た。


 隣国は絶対主義を取っており、国王の力が強まっていたが、国庫は赤字続きで、それでも聖職者や貴族に免税特権を与え、国民から税金を搾り取ろうとした結果、革命が起こり、国王と王妃は処刑されて、貴族や聖職者にも税が課されるようになった。

 革命では貴族たちも大量に粛清されており、その後に立ったのがダリアを愛した妃の夫である皇帝だった。その皇帝も失脚しており、現在は隣国では貴族の勢力は排除されているとリップマン先生は話してくれた。


「隣国は共和制になったのですか?」


 わたくしの問いかけにリップマン先生は答える。


「一時期共和制になりましたが、その後、王政復古の動きがあって、今は国王が立っていて、民衆の作った議会と両立しているはずです」


 この辺りはわたくしの知っている歴史とは少し違うようだ。

 この世界が物語の作者に作られた世界だという証なのだろう。


「ハインリヒでんかのおかあさまは、そのくにからおよめにきたのですか?」


 クリスタ嬢の問いかけにリップマン先生が頷いて答える。


「そうですよ。隣国との関係を保つために、この国に嫁いで参りました」


 議会制が始まっているとなると、国王は権威の象徴としてだけの存在で、政治には関わっていないと思われる。そういう状況の国王の娘としてこの国に嫁いできたのであれば、王妃様は完全な政略結婚で、愛がなくても、国王陛下に妾腹の子どもと恋人がいても、自分の地位を確立するためにハインリヒ殿下を産まなければならなかったのだというのが分かってくる。


 逆に、完全に政略結婚で愛情がなかったからこそ、周囲からは美徳と取られるようなノルベルト殿下を引き取って育てるという行為ができたのかもしれない。


「ノルベルトでんかのおかあさまは、どこにいるの?」

「それは……分かりませんね」


 純粋な五歳児の問いかけにリップマン先生が言葉を濁している。

 ノルベルト殿下は王妃様にハインリヒ殿下と分け隔てなく育てられているとしても、自分が妾腹の子どもであるということはしっかりと自覚なさっているのだろう。


 わたくしとの婚約の話が出たときに、ノルベルト殿下は臣籍降下する気があると国王陛下は仰っていたが、この国の皇太子が誰になるのかは隣国との関係でも明らかであって、抵抗するのはハインリヒ殿下だけで、ノルベルト殿下はきっちりとそれを弁えているのだ。ノルベルト殿下がわたくしと婚約したいというのは、恋心だけでなく、自分がそのままハインリヒ殿下のそばにいると、皇太子をいつまでも国王陛下が決められないと思ったからかもしれない。


 ノルベルト殿下はわたくしが思っているよりも深い考えで婚約を望んだのかもしれないと思いはしたが、わたくしはそれを受け入れることはできなかった。


 リップマン先生の授業が終わると昼食を食べて、お茶の時間まで肖像画を描いてもらうために集まる。父がわたくしの後ろに立って、母がクリスタ嬢の後ろに立って、四人で肖像画を描いてもらっていると、わたくしはクリスタ嬢が本当の妹のように思えてくる。


「お父様、お母様、クリスタ嬢のこと、わたくし、本当の妹のように思っているのです」

「わたくしはエリザベートを産んでから子どもができにくい体になってしまいましたからね。妹の娘であるクリスタ嬢が我が家に来てくれて、本当に幸せなのです」

「クリスタ嬢も私たちの家族だね」

「わたくし、おねえさまのいもうと?」


 水色のお目目を丸くしているクリスタ嬢に、わたくしは本当にそうなる未来を考えていた。

 クリスタ嬢が公爵家の養子になれば、何の問題もなくハインリヒ殿下の婚約者になれる。

 『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』で矛盾していた、子爵家の娘が皇太子のハインリヒ殿下の婚約者となるという描写を書き換えることができる。


「クリスタ嬢が本当の妹になったらいいのにと思います」


 そのためには、ノメンゼン子爵家をローザ嬢が継がないようにローザ嬢をどうにかして排除する必要があるのだが、その方法がわたくしにはまだ思い付いていなかった。

読んでいただきありがとうございました。

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