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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
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41.鳳凰に例えられて

 わたくしの両親のお誕生日のお茶会には、エクムント様が部屋まで迎えに来てくれた。

 エクムント様の手を取って歩き出すと、わたくしは自然と胸を張っていることに気付く。エクムント様の隣りに立つのならば立派な淑女でなければいけない。その思いがわたくしを堂々と振舞わせる。


「エリザベート嬢、今日のドレス。辺境伯領の特産の紫がとてもよく似合っています。髪飾りの赤い薔薇もお似合いです」

「ありがとうございます」


 顔を上げて、エクムント様が合わせてくださる歩幅で、背筋を伸ばして歩く。

 美しく見えるようにするというのは、歩くだけでもかなり神経を使うものだった。


「エクムント様も青いスーツがお似合いです。白い刺繍が見事で、タイまでお洒落です」

「ありがとうございます、エリザベート嬢」


 お互いに褒め合いながら大広間まで行くと、先に来ていた両親がわたくしたちを見てため息をついている。


「エリザベートとエクムント殿は本当にお似合いだね」

「婚約したときには年齢差があってどうしようと思いましたが、まるで鳳凰のようですわ」


 鳳凰と言われてわたくしはこの世界でも鳳凰や龍がおとぎ話に出てきていたのは気付いていたが、母の口からそれを聞くとは思わなかった。


「どうして鳳凰なのですか?」

「鳳凰は鳳が雄で凰が雌で、二匹合わせて鳳凰なのです。夫婦仲のよい動物だと考えられていますわ」


 そういえばノエル殿下のお誕生日に王妃殿下から贈られていたのも鳳凰の刺繍が入った着物だった。東方から取り寄せたのであろうあの着物は今貴族の中では流行っている。ガウンのようにして着るのだという。

 それに、わたくしが生きている『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』の世界自体、日本人が著者なのだから鳳凰や龍などのおとぎ話が入ってきていてもおかしくはなかった。


 そういえばクリスタちゃんは最近この世界のロマンス小説に夢中になっている様子だ。クリスタちゃん自体『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』の主人公である。小説の主人公が小説に夢中というのはちょっと不思議な感覚だった。


「エクムント様、わたくしたち鳳凰のようですって」

「真っ赤なスーツを作らなければいけませんかね? エリザベート嬢には真っ赤なドレスを着ていただいて」

「まぁ、エクムント様ったら」


 驚いてしまったが、真っ赤なドレスとスーツで合わせても格好いい気がしてわたくしは嫌な気分ではなかった。

 エクムント様に手を引かれて踊りの輪の中に入る。


 両親はいらっしゃったお客様たちに挨拶をしていて、ふーちゃんはレーニちゃんの手を取って、まーちゃんはオリヴァー殿とナターリエ嬢と一緒にお茶をするためにテーブルに向っている。


 国王陛下と王妃殿下もいらっしゃっていた。


「王妃、一曲踊ろうか?」

「わたくしと踊ってくださるのですか?」


 国王陛下と王妃殿下も踊りの輪に入ると、踊りの輪が賑やかになる。

 誰にもダンスを申し込まれることなく、わたくしは存分にエクムント様と踊った。


 踊り終えて端の方で飲み物を頼んでいると、エクムント様がわたくしの手を握ったまま話してくださる。


「あの毛の長い乳牛の飼育は辺境伯領では難しいかもしれませんが、よい場所を見つけてやり遂げて見せます」

「わたくしのために、ありがとうございます」

「エリザベート嬢には一生辺境伯領で美味しいミルクティーを飲んでほしいのです」


 一生などと言われると、照れてしまう。

 わたくしも学園の五年生で、来年度には最上級生になる。

 最上級生になって卒業すれば、その春にはエクムント様と結婚式を挙げるのだ。

 ノルベルト殿下とノエル殿下が結婚直前で結婚式の準備をしているように、来年度はわたくしは自分の結婚式の準備をしなければいけなくなる。


「エリザベート嬢は結婚式にはどのようなドレスが着たいのですか?」

「わたくしは、清楚な白いドレスに長いヴェールを身に着けたいと思っております」


 この世界の結婚式に出たのはリリエンタール公爵が侯爵だったころが最初で最後で、リリエンタール公爵家の庭で行われた簡易なものなので、わたくしとエクムント様の結婚式となるとどのような規模になるのかまだ想像が付かない。

 ノエル殿下とノルベルト殿下の結婚式を見ればなんとなく分かるのかもしれないが、それでも辺境伯家と公爵家の結婚式となると大々的なものになるのは間違いないだろう。


「結婚式はどのような形になりますか?」

「王都で国王陛下と王妃殿下の御前で結婚を誓い、辺境伯領に戻ってから辺境伯領の全ての民の前でもう一度結婚を誓うような形になるでしょうね」

「二回も結婚式をするのですか?」

「ドレスも若干変えた方がいいかもしれません。王都と辺境伯領では気温が違いますからね」


 つまり、わたくしはエクムント様との間に二度の結婚式を行い、二着のドレスを着ることになるのだ。

 結婚式は楽しみではないわけではないが、こうなってくると夢にまで見たエクムント様と結ばれる日というよりも、行事として大きなものなので失敗できないプレッシャーの方が強く感じてしまう。

 ノエル殿下の結婚式の様子をしっかりと観察して、わたくしは学ぼうと心に決めていた。


「エクムント様はどのような衣装をお召しになりますか?」

「私はタキシードを着ようと思っています。ミッドナイトブルーのタキシードなどどうでしょう?」


 ミッドナイトブルーのタキシードを身に着けたエクムント様がどれだけ素敵だろうとわたくしは考える。結婚式当日にはそんな余裕はないだろうから、ミッドナイトブルーのタキシードを着たエクムント様をどうにかしてしっかりと見ておきたい。


「エクムント様の格好いいタキシードをじっくり見たい……」


 その欲望が口から漏れ出ていたようだ。

 わたくしがはっとして口を押えたときにはもう遅かった。エクムント様が笑いながらわたくしを見つめている。


「仮縫いから衣装合わせまでしっかりとしましょうね。そのときにどれだけでも存分に見てください」

「わたくしったら、恥ずかしいですわ」

「そのようにエリザベート嬢に思われているのは光栄です」


 笑ってエクムント様は流してくれたが、わたくしはひたすらに恥ずかしかった。

 頬に手を当てると頬が熱くなっているのが分かる。


「私も美しいエリザベート嬢をしっかりとこの目に焼き付けたいですからね」

「本当ですか?」

「嘘だと思いますか?」


 悪戯っぽく微笑むエクムント様は、わたくしが口を滑らせてしまったので合わせてくれているのだとしか思えなかった。


 ミルクティーが運ばれてくると、吹き冷ましながら飲む。エクムント様もミルクティーを飲んでいた。


「エクムント様はミントティーがお好きなのですよね」

「口の中がさっぱりするから好んでいますが、ミルクティーも好きですよ。特にディッペル家のミルクティーは牛乳が新鮮で美味しいです」

「わたくし、ミントティーが苦手で……」

「私が好きなものを好きになる必要はありません。エリザベート嬢はエリザベート嬢の好きなものを飲んでいいのですよ」


 優しく言ってくれるエクムント様にわたくしは頷く。

 エクムント様ともっと話していたい。

 エクムント様と時間を過ごすにはお茶会の時間はあまりにも短すぎた。


 お茶会が終わると両親とわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんはお客様をお見送りするために門まで出る。エクムント様も今日まで泊まるので、一緒に出てきてくれていた。


「ディッペル公爵、公爵夫人、今日は楽しかった」

「久しぶりに陛下と踊りましたわ」

「次は国王陛下の生誕の式典でお会いしましょう」

「本日はありがとうございました」


 身分の順に来る馬車は国王陛下と王妃殿下が一番だ。

 続いてハインリヒ殿下とユリアーナ殿下。


「本日はとても楽しかったです。クリスタ嬢を何度も踊らせて疲れさせてしまったかもしれません」

「わたくし、全然疲れていませんわ。ハインリヒ殿下、わたくしも楽しかったです」


 ハインリヒ殿下はクリスタちゃんとの別れを惜しんでいるようだ。

 ノルベルト殿下はノエル殿下と同じ馬車で帰られる。


「今日はありがとうございました」

「こちらこそ、おいでいただきありがとうございました」


 ノルベルト殿下と父が挨拶をかわして、ノルベルト殿下はノエル殿下の手を取って馬車に乗せる。


 その後は貴族たちの馬車が次々とやってきて、わたくしたちはお見送りをした。


「エリザベート嬢、明日、私は帰る前に町を見て回るつもりなのですが、ご一緒しませんか?」


 お見送りが終わって屋敷に帰ろうとしているわたくしは、エクムント様からお誘いを受けた。


「お父様、お母様、行ってもいいですか?」

「エクムント殿と一緒ならば安心だ」

「行ってらっしゃい」

「エクムント様、参ります」


 返事をしてわたくしは明日着る服を頭の中で考え始めていた。


読んでいただきありがとうございました。

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