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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
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39.本気の雪合戦

 ノエル殿下のお誕生日の晩餐会も無事に終わって、わたくしは部屋に戻っていた。クリスタちゃんとレーニちゃんも部屋に戻って順番にお風呂に入っている。

 本来ならばこの時代は頻繁にお風呂に入らなかったのかもしれないが、『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』は著者が日本人ということもあって、毎日お風呂に入る習慣がこの国には根付いていた。それ以外にも春から新学期が始まるのも日本的である。

 この風習のおかげでわたくしは助けられていた。


 清潔が習慣付いているというのはありがたいものである。

 汗をかいたり汚れた体で寝ないで済むし、冬は寒い中薄いドレスで過ごして冷えた体を温かなたっぷりとしたお湯で温めることができる。

 踊りすぎて疲れた脚も湯船の中で揉むことができる。

 お湯の中で体を洗うのには慣れないのだが、お湯は一人ずつ取り換えられるから、毎回清潔で温かいお湯に浸かることができた。


 髪が長くて量も多いので乾かすのには一苦労なのだが、それも冬場はストーブの前で梳いてもらって乾かしたり、夏場は扇風機のようなものを使って乾かしたりする。

 日本とは湿度が全く違うので、髪が渇くのも早かった。


 その代わりに肌が渇くのでこまめに保湿をしなければいけないし、唇には保湿剤を常に塗っておかなければいけない。これは小さなころからずっとそうだった。

 お風呂の後は全身の保湿をしてパジャマに着替えるのだが、手が届かないところはクリスタちゃんに手伝ってもらって、わたくしもクリスタちゃんを手伝っていた。


 学園のシャワールームはバスタブがないので冬場は寒いのだが、それでも熱いシャワーが出るのでまだましだ。

 水道も完備されていて、熱いお湯がいつでも出ることにわたくしは本当にこの世界に生まれてよかったと思っていた。


「エリザベートお姉様、明日の朝の約束をまーちゃんとナターリエ嬢がしていましたよね」

「そうでしたね。明日も早く起きなければいけませんね」

「お姉様、わたくし、雪合戦をした記憶がないのです。ハインリヒ殿下とオリヴァー殿が本気の大人の雪合戦をするのだったら、わたくしもご一緒したいです」

「それは面白そうですが、わたくしたちが混ざったらハインリヒ殿下とオリヴァー殿は遠慮なさるのではないでしょうか」

「そうでしょうか。わたくし、言うだけ言ってみますわ」


 クリスタちゃんは雪合戦をしたい様子である。

 クリスタちゃんもまだ十五歳なので雪合戦に交じりたい気持ちは分からなくもない。それでも淑女としてそんなことをしていいのか、わたくしは迷ってしまう。

 淑女ならば殿方が雪合戦しているのを見守るのがよいのではないだろうか。


 翌朝、いつも通りに起こされて外に行けば、ハインリヒ殿下はノルベルト殿下を連れてきていた。


「ノルベルト兄上と私、オリヴァー殿とエクムント殿で組んで雪合戦をするのです」

「ハインリヒお兄様、雪合戦をなさるんですか?」

「お兄様、頑張って!」


 ユリアーナ殿下とナターリエ嬢は勝負の行方に興味津々だ。


「私とエクムント様が組んでよろしいのですか?」

「う……改めて言われると劣勢な気がしますが、クリスタ嬢にいいところを見せるのです!」

「ハインリヒ、エクムント殿に戦いを挑むのは無謀じゃないか?」

「ノルベルト兄上まで弱気にならないでください」


 エクムント様は軍人として鍛えられているし、戦略的にも優秀だろうということで、オリヴァー殿とエクムント様が組んでは、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下では敵わない雰囲気になっている。


「手加減しては面白くないですからね。本気で行きますよ」

「ますます怖い……。どうしましょう、ノルベルト兄上」

「どうしよう」


 考えているハインリヒ殿下とノルベルト殿下にクリスタちゃんが手を挙げる。


「わたくし、雪合戦をしたことがありません! ご一緒したいのです」

「クリスタ嬢が!? 私はクリスタ嬢に雪玉をぶつけるなんてできませんよ?」

「本気でやらなければ楽しくないでしょう? 気にしないでぶつけてください」


 元気に仲間に入っていくクリスタちゃんに、レーニちゃんが手を挙げた。


「それなら、わたくしとエリザベート嬢とクリスタ嬢とエクムント様で、エクムント様が指揮する女性組、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とオリヴァー殿で男性組で雪合戦をしたらどうでしょう?」


 大胆な申し出にエクムント様が興味を持つ。


「私は女性陣の指揮官として指示を出せばいいのですね?」

「そうです。男性陣とは筋力が違いますから、エクムント様が指揮官として教えてくださるのが女性陣のハンデなのです」


 それならば確かにいい勝負になりそうな気がする。

 わたくしもふーちゃんやまーちゃんやユリアーナ殿下やデニスくんやゲオルグくんが雪合戦をするのを見て興味は沸いていたし、やりたい気持ちがないわけではなかった。


「わたくし、ボール投げは意外と得意なのです」

「わたくしは乗馬が得意です」

「わたくし、近距離ならば外しませんわ」


 レーニちゃんとわたくしとクリスタちゃんのやる気を見て、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とオリヴァー殿も決めたようだった。


「それでは、勝負をしましょう」

「女性陣はエクムント殿と作戦会議を行ってください」

「私たちも作戦会議をします」


 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とオリヴァー殿に頷いて、わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんはエクムント様と話し合いをすることになった。


「最初は茂みや柱の後ろに隠れて、雪玉を作ってください。相手が近付いてきたら、遮蔽物に隠れながら雪玉を投げてください」

「はい、そうします」

「こういうのはチームワークが大事です。一人が狙われていることに気付いたら、すぐに他の三人は助けに行ってください。助けに行くときには身を低くして、できるだけ遮蔽物に隠れて移動してください」

「はい!」


 元気よく答えて、わたくしたちは準備をする。

 わたくしとクリスタちゃんは雪の積もった薔薇の茂みの後ろに、レーニちゃんは柱の後ろに隠れた。

 始まりの合図の前から雪玉を作り出す。


「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、レーニ嬢頑張ってー!」

「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、勝ってください!」

「お姉様頑張ってー!」

「お姉様、いっぱい当ててー!」


 ふーちゃんとまーちゃんとデニスくんとゲオルグくんの応援が聞こえてくる。


「わたくしが始まりの合図を出します。それでは、始め!」


 ユリアーナ殿下は凛々しく始まりの合図を出していた。


 作戦通りに隠れたままで雪玉を作っていると、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とオリヴァー殿はわたくしたちが見つけられずにいるようだ。

 雪玉がある程度の量作れると、隠れた場所から投げていく。

 わたくしたちを探していたハインリヒ殿下とノルベルト殿下とオリヴァー殿は雪玉を作っていなくて、すぐには反撃できない。

 反撃されないうちに、雪玉を抱えて別の場所に隠れる。


 それを続けていると、いつの間にかハインリヒ殿下もノルベルト殿下もオリヴァー殿も雪まみれになっていた。


「勝負ありかしら?」

「そのようですね、ユリアーナ殿下」

「勝負ありー! 女性陣の勝ちー!」


 ユリアーナ殿下が声高らかに宣言する。

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とオリヴァー殿は悔しそうだった。


「もう少し時間を取ってもいいのではないですか?」

「まだ勝負は始まったばかりでしたよ?」

「ダメです! わたくしたちも雪合戦をしたいのです。その時間がなくなります」


 諦めきれないハインリヒ殿下とノルベルト殿下にユリアーナ殿下はきっぱりと言っていた。


 わたくしたちの雪合戦が終わると、ユリアーナ殿下とナターリエ嬢とまーちゃんの女の子組と、ふーちゃんとデニスくんとゲオルグくんの男の子組の雪合戦が始まる。


「隠れるのです、ナターリエ嬢!」

「隠れて好機を探るのです」

「はい! ユリアーナ殿下、マリア様!」


 女の子組はわたくしたちの作戦を真似しているようだ。隠れながら雪玉を作り貯めて投げて、男の子組を圧倒していた。


「女性がか弱いだなんて思わないことですね」

「女性も作戦があれば戦えるのですね」


 ハインリヒ殿下とオリヴァー殿は女性陣の勝ちと、女の子組の戦いを見て痛感しているようだった。


読んでいただきありがとうございました。

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