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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
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37.ノエル殿下のお誕生日

 ノエル殿下のお誕生日のお祝いの言葉を述べたのはノルベルト殿下だった。


「ノエル殿下のお誕生日をこの国で祝えることになって本当に嬉しく思います。ノエル殿下は今、この国に嫁ぐための準備をしています。女王陛下もドレスを準備してくださって、ノエル殿下のドレスの出来上がりが僕も楽しみです。ノエル殿下の一年が素晴らしい年となるように、僕も努力していきたいです」


 ノルベルト殿下の声に合わせて乾杯をする。葡萄ジュースの入ったグラスを掲げると、エクムント様も掲げていた。

 隣国は女王陛下が治めているが、隣国も長子相続なので、女王陛下が長子だったのだろう。

 女性の国王陛下も長子相続の世界では珍しくはないのだと思うが、それでもこの国は男性の国王陛下が治めていらっしゃるし、皇太子殿下も男性のハインリヒ殿下なので、女王陛下になるのはあまり考えられなかった。

 それに比べて、隣国はノエル殿下の姉上が長子で皇太子のはずである。男性が続くこともあれば女性が続くこともあるのだと考えてしまう。


 ノエル殿下のお誕生日には王妃殿下から鳳凰の刺繍の入った着物が贈られた。


「見事な着物ですね」

「着物をガウン代わりに着るのが今流行っているようで」


 小声でわたくしとエクムント様は言葉を交わし合う。


 ノエル殿下へのご挨拶はエクムント様と一緒に行った。

 ノエル殿下はノルベルト殿下と一緒に笑顔でわたくしたちを迎えてくれた。ノエル殿下の隣りには女王陛下も座っていらっしゃる。


「ノエル殿下、お誕生日本当におめでとうございます」

「わたくし、この年になるのをずっと待っていたのです。この年になればノルベルト殿下と結婚できますからね」

「結婚式も楽しみですね」

「隣国からドレスや化粧品を揃えています。わたくし、今、最高に幸せです」


 薔薇色に染まる頬を押さえて胸から幸せが溢れ出んばかりに微笑んでいるノエル殿下に、ノルベルト殿下も嬉しそうである。


「ノエル殿下の結婚式の衣装の仮縫いも終わっているのです。もちろん、僕の分も」

「ノエル殿下は美しいでしょうね」

「早く結婚して『僕のノエル』と呼びたいのです」

「わたくしも『わたくしのノルベルト』と返したいですわ」


 甘い雰囲気の二人は幸せいっぱいで見ているわたくしまで幸せな気分になってしまった。

 席に戻って料理を食べていると、エクムント様がわたくしに問いかける。


「学園で例のダンスに誘ってきた生徒の婚約者たちに絡まれたと聞きました」

「その件に関しては、きちんと身の程を弁えさせたので平気です」

「それはよかった。エリザベート嬢ならば安心です」


 わたくしに信頼を見せてくれるエクムント様に、わたくしも強い信頼を込めてその手を握る。


「エクムント様もあの場でわたくしをしっかりと守ってくださいましたから」

「婚約者として当然のことをしたまでです」

「どうしましょう、わたくしやエクムント様をダンスに誘ったら、家が潰れると噂されたら」

「それはそれで間違っていない気がします」

「エクムント様!?」


 冗談めかして言うエクムント様にわたくしは驚いてしまった。エクムント様はこんな冗談も仰るのだ。

 ノルベルト殿下のお誕生日の晩餐会でわたくしにダンスを申し込んできたエクムント様と同期の貴族の男性は、わたくしの飲み物に細工をした。そのせいか分からないが、ハインリヒ殿下のお誕生日のお茶会で酩酊して国王陛下の前でスラックスを脱ごうとして、社交界から永久追放になったのだ。

 その後でわたくしのお誕生日のお茶会でわたくしにダンスを申し込んできた同級生の男子生徒と、それを恨んでエクムント様にダンスを申し込もうとした婚約者の女子生徒がいたが、その二人は以前ミリヤムちゃんを苛めていたローゼン寮の生徒ということもあって、学園でこれわたくしを悪し様に聞こえよがしに言っていたことは許されず、学園から退学になっている。

 学園を卒業して一人前の貴族として認められるから、退学になった生徒たちは今後公の場に出られなくなるだろう。


 そもそも、ノエル殿下のお茶会できつく戒められてから、公の場に出るのを控えていたはずなのに、どうしてわたくしのお誕生日のお茶会に来ることができたのだろう。

 わたくしはあの貴族に招待状を送ったか思い出せないでいた。

 招待状の数は膨大で、それを全て手書きで準備しなければいけないのだから、作業が機械的になってしまうのは仕方がないことだ。大切なひとには心を込めて書くのだが、そうでない相手にはどうしても記憶に残らないくらい、手を動かしているだけで書いてしまうのだ。

 そういえばわたくしは彼女たちの名前をよく覚えていない。家名はしっかりと貴族として頭に入れていたが、名前となると覚える必要もない相手なので退学になった後に忘れてしまったのだ。


「私の婚約者に近付いたら家が潰されるという噂がたったら、誰もエリザベート嬢には近づかないでしょう」

「わたくし、そんなに怖いでしょうか?」

「分を弁えない行為にはそれ相応の罰が下るというだけですよ」


 わたくしは公爵家の娘で、エクムント様は辺境伯。辺境伯とは国において大事な地域を任されている、公爵と変わらない地位を持っている方なのだ。

 この二人に下心を持って近寄れば罰が下る。

 そういう噂でわたくしたちが守られるのならば、悪くはないかもしれない。


「エリザベート嬢、葡萄ジュースがなくなっているようですね。次は紅茶にしますか?」

「はい。ミルクティーがいいです」


 王宮の食堂は暖められていても、わたくしは薄手のドレスしか着ていないのでどうしても寒さが背筋を撫でる。温かい飲み物が欲しくなるころだった。

 わたくしがお願いするとエクムント様は給仕に頼んでミルクティーを持ってこさせる。

 夏場は牛乳も温めていなくていいのだが、冬場は牛乳を温めてあると紅茶の熱さが続いてとても温まる。


 熱々の牛乳を紅茶に入れて立ち上る湯気を吹き冷ましながら飲むわたくしに、斜め前に座っているレーニちゃんも紅茶が飲みたくなったようだ。

 リリエンタール公爵夫妻に頼んで紅茶を持ってこさせている。


 熱い紅茶はわたくしを芯から温めた。


「エリザベート嬢とエクムント様は怖いお話をされていたようですね」


 紅茶を飲むレーニちゃんに指摘されて、わたくしは聞こえていたのかと恥じらう。


「ただの冗談ですのよ」

「事実、そうなっている点を除けば、ただの冗談ですね」

「まぁ、エクムント様ったら、恐ろしい」


 驚いた声を出しながらもレーニちゃんは笑っている。


「わたくしもダンスに誘われたら、フランツ殿はわたくしを守ってくれるでしょうか」

「フランツは必ず守ります」

「フランツ殿がいないときには、お困りでしたら私に声を掛けてください」

「エクムント様、ありがとうございます。でも、エクムント様にお声を掛けると、誤解されてはフランツ殿にもエリザベート嬢にも申し訳ないので、両親に助けてもらいますわ」

「そうですね。それがいいかもしれません」


 婚約者にもわたくしにも迷惑をかけないようにと徹底してくれるレーニちゃんの友情にわたくしは胸が暖かくなる。


「エクムント殿はエリザベート嬢を守らなければいけないでしょう。わたくしたちの娘はわたくしたちが守ります」

「レーニも年頃になって一人でいさせるのが心配になってきたところです。フランツ殿のいない場所ではできる限り私たちと一緒にいさせます」


 リリエンタール公爵夫妻もそう言っている。

 レーニちゃんは昔からとても可愛い子だったけれど、成長して輝くように美しくなった。ストロベリーブロンドの髪は豊かできらきらと輝き、鼻と頬に散ったそばかすはレーニちゃんのチャーミングさを引き立てている。


 わたくしも二度ほど声を掛けられたが、レーニちゃんも見ている男性が放っておかないと思うのだ。


 公爵家の令嬢ということがなければ、もっとたくさんの男性に誘われているだろう。


 けれどレーニちゃんは一途にふーちゃんを想ってくれている。

 ふーちゃんが育つまでは誰とも踊らないと決めてくれているのだ。


 そういえば、わたくしはダンスは練習以外で、エクムント様としか踊ったことがない。

 生涯エクムント様としか踊らないのかと思うと、胸がどきどきしてきてわたくしはミルクティーを飲んで心を落ち着かせた。


読んでいただきありがとうございました。

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