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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
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31.ユリアーナ殿下のお誕生日

 わたくしのお誕生日が終わるとユリアーナ殿下のお誕生日のお茶会が開かれる。

 ドレスが同じものにならないように注意しながらドレスを選んで行く準備をしていると、クリスタちゃんに部屋を繋ぐ窓から声を掛けられた。


「お姉様、爪は塗り直さなくて平気ですか?」

「わたくしは平気ですよ」

「わたくし、右手の人差し指のネイルが剥がれてきているのですよね」


 困っているクリスタちゃんにわたくしは声を掛ける。


「クラリッサに相談してみればどうですか?」

「そうします」


 クリスタちゃんが部屋にクラリッサを呼ぶと、クラリッサはクリスタちゃんの爪を見て決めたようだ。


「時間があまりありませんので、端が剥がれているだけなので、その部分を塗り直して補修したいと思います」

「お願いします、クラリッサ。綺麗にしてください」

「補修したと分からないくらい綺麗に仕上げますよ」


 請け負ってくれたクラリッサにクリスタちゃんは安心しているようだった。

 やはり家に専属のネイルアートの技術者がいてくれるのは心強い。いつでも爪の塗り直しを頼めるのはありがたかった。


「クラリッサ、クリスタお姉様の次は、わたくしの部屋に来て」

「マリア様、終わりましたらすぐに参ります」

「わたくし、少し爪が伸びてしまって、どう切ればいいか分からないのです」

「マリア様は爪を整えましょうね」


 わたくしもクリスタちゃんもまーちゃんも生活に支障がないように爪は丸く切っている。まーちゃんは爪が伸びると危ないので、切りたいのだが爪を塗っているのでどうやって切ればいいのか分からないのだろう。

 そういう爪のケアもしてくれるとなるとますますクラリッサは重宝する。


「クラリッサがいてくれてよかったです。ありがとうございます」

「とんでもありません、クリスタ様」


 爪を塗り直してもらってクリスタちゃんはクラリッサにお礼を言っている。頭を下げてクラリッサはまーちゃんの部屋に行っていた。まーちゃんの部屋では爪を切ってやすりがけをして危険のないようにしてくれるようだ。

 美しさのために爪を伸ばしている貴婦人も見られるが、あれは生活がしにくそうだし、まーちゃんの年だと爪を伸ばしすぎているのはやはり危険だ。クラリッサが細かく切ってくれるのが一番だろう。


 支度を整えると、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんで馬車に乗る。両親は別の馬車に乗っている。


「レーニちゃんのお誕生日のお茶会に行く途中の事故、本当に怖かったですわ」

「ふーちゃんもまーちゃんも無事でよかったです」

「お父様とお母様も無事でした」

「エクムント様のおかげですね」


 馬車に乗るとどうしてもそのことを思い出してしまう。

 王都までの列車に乗り換えて、列車が着いて駅で降りると、エクムント様が馬車でわたくしたちを待っていてくれた。わたくしたちの二台の馬車が動き出すと、エクムント様の馬車は後ろからついてきてくれる。

 両親の死をあんなに恐れていたわたくしだが、エクムント様がそばにいてくれれば両親はそんなことにならないのではないかと少し安心していた。


 王宮について先に馬車から降りたエクムント様がわたくしをエスコートしてくださる。クリスタちゃんはハインリヒ殿下が馬車のところまで迎えに来てくれていた。


「ようこそ、ディッペル家の皆さま、エクムント殿。妹、ユリアーナのために嬉しいです」

「お招きいただきありがとうございます」

「ユリアーナ殿下のお祝いに参りました」

「わたくしとユリアーナ殿下は学友になるのですからね!」


 クリスタちゃんがお礼を言い、エクムント様もお辞儀をして、まーちゃんが胸を張る。元気なまーちゃんの様子にハインリヒ殿下は目を細めていた。

 お茶会会場の大広間に入ると、ユリアーナ殿下が一生懸命ご挨拶をしている。


「本日はわたくしのお誕生日のためにお越しくださってありがとうございます! わたくし、七歳になりました。まだまだ両親にも兄たちにも子どもだと言われますが、わたくしなりに、しっかりと学んで、よく食べ、よく眠り、成長していこうと思います」


 七歳らしい挨拶に拍手が起きる。

 挨拶を終えると、ユリアーナ殿下はデニスくんをお茶に誘いに行っていた。まーちゃんはオリヴァー殿とナターリエ嬢をお茶に誘っている。オリヴァー殿はまーちゃんの婚約者で、ナターリエ嬢はまーちゃんと同じ年で、お茶をするのはちょうどいい相手のようだった。


「マリア嬢、わたくしの隣りに座ってください」

「はい、ユリアーナ殿下」


 ユリアーナ殿下からも誘われてまーちゃんはいそいそとテーブルの方に向かっていた。ユリアーナ殿下も七歳になるが、以前初めてのお茶会で失敗して以来無理をしようとはせず、座ってお茶をするようにしていた。


「ナターリエ嬢はポテトチップスはお好きですか?」

「わたくし、あまり食べたことがありません」

「とても美味しいのですよ。わたくしのお誕生日なので父上と母上にお願いして用意してもらいました」

「それでは、ポテトチップスをいただいてみますわ」


 シュタール家に行ったときもポテトチップスは出ていたが、ナターリエ嬢はあまり食べていなかった記憶がある。新しいジャガイモを揚げたお菓子なので、ナターリエ嬢は慣れていなかったのかもしれない。


 乳母に取り分けてもらって、ユリアーナ殿下とナターリエ嬢とまーちゃんとデニスくんの七歳の子どもたちがポテトチップスを中心に軽食を食べている。


「パリパリですね。シュタール家で作ってもらったものはここまでパリパリではなかった気がします」

「ジャガイモが厚かったのではないですか? それに、このポテトチップスは二度揚げしているのです」

「ジャガイモを極限まで薄くして、二度揚げするのですね」


 ユリアーナ殿下とナターリエ嬢の間でも会話が弾んでいる。同じ年なので仲良くできるのだろう。ナターリエ嬢も成長すればユリアーナ殿下と学友になるかもしれない。

 デニスくんは無言で口にポテトチップスを詰め込んでいた。若干貴族としてどうかと思われるマナーだが、まだ七歳なので仕方がないだろう。

 ふーちゃんは自分で取り分けて、レーニちゃんと二人で立って食べている。ふーちゃんの成長も感じられてわたくしは嬉しかった。


「エリザベート嬢は弟妹思いなのですね」

「可愛いのですもの」

「隣りに私がいても弟妹のことばかり気にしているのですね」

「それはごめんなさい、エクムント様」


 珍しくエクムント様が拗ねたようなことを仰るので、わたくしは謝る。するとエクムント様が笑顔になる。


「もう少し婚約者のことも構ってくださいね」

「構うだなんて……わたくしの方がエクムント様に構っていただいているようなものなのに」

「エリザベート嬢はもう小さなお嬢様じゃなくなったのですよ。私の美しい婚約者です」


 エクムント様の前だとわたくしはつい自分が小さいような気分になってしまうが、わたくしももう十七歳。来年には成人して結婚する年になるのだ。


「わたくし、エクムント様の前に出ると、小さかった時のことをつい思い出してしまうのです」

「エリザベート嬢はもう十分魅力的な女性に育っていますよ」

「エクムント様……」

「辺境伯領にいらしたときには、二人きりの時間を作りましょう」


 二人きりになりたいと思ってくださるほどエクムント様はわたくしを想ってくれている。

 それが嬉しいような、恥ずかしいような、複雑な気持ちである。


 エクムント様を見上げると、エクムント様がわたくしの手を取って手の甲に唇を押し当てた。


 周囲のひとが見ていないことを願いつつ、わたくしは熱くなる頬を解放された手で押さえたのだった。


読んでいただきありがとうございました。

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