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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
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28.ディッペル家に新しい家族が来た

 ディッペル家に帰る前に、国王陛下と王妃殿下の取り計らいで、ふーちゃんとまーちゃんは子猫用のミルクや哺乳瓶、離乳食の入った瓶詰をいただいていた。国王陛下の別荘の犬ご用達のペット専用の餌の店から取り寄せたミルクは、シロとクロは哺乳瓶でよく飲み、すくすくと大きくなっていた。

 最初はへその緒が取れたばかりの小さな子猫だったのに、もうふっくらとしてきている気がする。猫の赤ちゃんの成長は著しいようだ。

 お腹がぽんぽこりんになるまでミルクを飲んで、排泄を促してもらって、ふかふかのタオルか敷かれたバスケットの中で眠るシロとクロはとても可愛かった。

 夏休みの間にシロとクロもかなり成長するだろう。


 ディッペル家に帰ると、ふーちゃんとまーちゃんは子ども部屋をシロとクロのための部屋にすることにしたようだ。国王陛下と王妃殿下がプレゼントしてくれたキャットタワーが届いていて、ヘルマンさんとレギーナがそれを組み立てていた。

 猫用のトイレも用意されて、まだ食べられないが、瓶詰の離乳食も用意されている。

 ふかふかのクッションの上に柔らかいタオルを巻いて、シロとクロのベッドも作ると、ふーちゃんとまーちゃんはシロとクロをそこに寝かせた。


 辺境伯領からは、エクムント様がわたくしへのお手紙にシロとクロの首輪を添えて送ってくださっていた。


『間違って逃げてしまっても、ディッペル家の猫だと分かれば、お礼を目当てに保護して連れてきてくれると思います。ディッペル家の紋章と名前を首輪に刻印しておきました』


 万が一ということがないわけではない。

 シロとクロが逃げてしまったら、わたくしたちは探しに行くことができない。貴族なので一人での街歩きは許されていないのだ。護衛を大勢連れての探索がはかどるはずもない。

 使用人たちに探させることになるが、そのときにも、首輪があれば一目で分かるので便利だろう。

 首輪はもう少し大きくなってから使えるサイズになっていたので、わたくしはそれをふーちゃんとまーちゃんに渡して伝えた。


「シロとクロがもう少し大きくなったらつけましょうね」

「そのころには元気に走り回っているでしょうね」

「赤と青の首輪、どっちをシロに、どっちをクロにつけるか決めないといけませんね、お兄様」


 どちらの首輪がシロとクロにつけられるかは、ふーちゃんとまーちゃんが話し合って決めることになりそうだ。


 シロとクロは、一応、オウムのシリルとハシビロコウのコレットにも、見せて挨拶をした。


「シリル、コレット、灰色の方がシロ、ハチ割れの方がクロだよ」

「仲良くしてね」

『フランツ坊ちゃまとマリアお嬢様は猫を飼うことにしたのですね』

『まだ赤ちゃんの猫ですね』


 シリルとコレットの世話役のカミーユとクロードが興味津々でバスケットを覗き込んでいる。シリルとコレットはバスケットの中を一応見たが、あまり興味はなさそうだった。


『部屋の中で飼うので安心して』

『子ども部屋から出さないようにします』

『分かりました。元気に大きくなることを願っています』

『シリルとコレットにも会いに来てくださいね』


 新しい子猫が来たからシリルとコレットに飽きるわけではないが、子猫はかなり世話が大変な生き物だ。ふーちゃんとまーちゃんがシロとクロにかかりきりになっても仕方がないだろう。


『わたくしとクリスタで参りますわ』

『フランツとマリアは忙しいですからね』


 ふーちゃんとまーちゃんは子猫のシロとクロの世話に責任を持っている。責任感を育てるには子猫を引き取ったのは悪くない選択だっただろう。


「この部屋が猫の部屋になるのですね」

「この部屋でエリザベートもフランツもマリアも育ったんだよ。その部屋が猫の部屋になるというのは少し不思議な感じがするね」


 両親が猫のお世話をするふーちゃんとまーちゃんを見ながら話している。


 そういえば、クリスタちゃんはわたくしが一人部屋をもらってから引き取られたので、クリスタちゃんも隣りの部屋で暮らすことになって、子ども部屋では暮らしていない。

 わたくしにはマルレーンという乳母のような存在がいて、クリスタちゃんが来てからはクリスタちゃんのためにデボラが雇われた。

 マルレーンもデボラも今もディッペル家に仕えている。


 わたくしにはマルレーン、クリスタちゃんにはデボラ、ふーちゃんにはヘルマンさん、まーちゃんにはレギーナという乳母がいる。マルレーンは正確には乳母ではないのだが、わたくしの乳母だった女性が結婚のためにわたくしの乳母を辞めてから、わたくしのために雇われた乳母のような存在だ。クリスタちゃんは元ノメンゼン家から引き取られたときに誰も連れていなかったし、乳母もいなかったような様子なので、デボラが雇われた。

 マルレーンとデボラとの付き合いももう十年以上になるのだ。


 マルレーンにもデボラにもたくさんお世話になったが、学園に入学してわたくしとクリスタちゃんはもうディッペル家から離れている時間が長くなってきているので、マルレーンとデボラはヘルマンさんとレギーナを助ける立場に変わっている。


 時の経過を懐かしく感じていると、ふーちゃんとまーちゃんが声を上げた。


「シロとクロ、お目目が開いています」

「青いお目目です」


 覗き込んでいるふーちゃんとまーちゃんに、わたくしは小さいころ読んだ動物図鑑の内容が蘇る。

 確か、子猫はみんな青い瞳なのではなかっただろうか。


「子猫はみんな青い目で、大きくなるにつれて色が変わってくるそうですよ」

「本当ですか、エリザベートお姉様?」

「動物図鑑に書いてあるかしら」

「本棚にある動物図鑑に書いてあると思います」


 わたくしが言えば、ふーちゃんとまーちゃんは本棚に駆け寄って、動物図鑑を取り出してテーブルの上に広げた。


「へその緒が取れたり、自分の足を舐めたりできるようになるのが生後一週間……」

「シロとクロはへその緒が取れてます。お目目も開きました」

「シロとクロは生後一週間以上経っているということだね」

「体全体を地面につけるような姿勢でバランスを取りながら歩行を始めるのが生後二週間……」

「まだ二週間にはなっていないようです」


 真剣に動物図鑑の子猫の項目を読んでいるふーちゃんとまーちゃんに、わたくしは首輪のお礼をしなければいけないと考えて、部屋に戻った。

 部屋に戻って、エクムント様へのお手紙を書き始める。


 もうすぐ夏休みも終わって、わたくしのお誕生日になる。

 お誕生日のお茶会ではお会いできるので、エクムント様にそのときにお礼を言えばいいのかもしれないが、エクムント様に早く言葉を伝えたかったのだ。


 最後に署名をするところで、わたくしはペンを止めた。


 『あなたのエリザベート』と書きたい気持ちと、恥ずかしくて書けない気持ちが複雑に絡み合う。


「まだ気が早いかもしれませんわ」


 やはり勇気が出なくて、わたくしは『エリザベート・ディッペル』と署名をした。


 エクムント様と結婚したら『あなたのエリザベート』と書けるのだろうか。

 エクムント様はそれを見て喜んでくれるだろうか。


 細やかな気遣いのできるエクムント様。

 その素晴らしさにわたくしは毎日好きが増していくような気がする。


 今のうちからシロとクロの首輪を用意してくれたのも、シロとクロがいなくならないために考えてくださったのだろう。

 わたくしだけでなく、わたくしの家族も、飼っている猫までも大事にしてくれるエクムント様には感謝しかない。


 封筒に封をして、わたくしは辺境伯領に届けるように使用人にお願いした。


読んでいただきありがとうございました。

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