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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
二章 ノメンゼン子爵の断罪
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12.わたくしのお誕生日

 クリスタ嬢が選んでくれたのは、サテンの空色のリボンの両端に白いレースが付いたもので、白い刺繍がしてあった。幅広のそのリボンを手にするとお誕生日のパーティーが楽しみになってくる。わたくしの髪の色は濃いのでクリスタ嬢が選んでくれた空色のリボンの両端に白いレースが付いたものはよく目立つだろう。


「おねえさまはこれがいいわ。ぜったいににあうとおもうの」

「わたくしの大好きな色ですものね。クリスタ嬢、ありがとうございます」


 お礼にクリスタ嬢にわたくしはリボンを選んだ。


 クリスタ嬢は髪の色が金色で薄いので、濃い赤のリボンを選んだ。濃い赤のリボンの両端にはピンクのレースがついている。


「わたくしのリボンだわ! おねえさまがえらんでくれたの!」


 初めて自分のリボンを手に入れてクリスタ嬢は飛び跳ねて喜んでいた。


 ドレスは胸で切り返しのあるタイプで、空色で裾が白いふんわりとしたドレスを誂えてもらった。クリスタ嬢はオールドローズ色のドレスを誂えてもらっている。


「おねえさま、おたんじょうびにはハインリヒでんかとノルベルトでんかもくるの?」

「お母様とお父様は、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下にも招待状を送ったと言っていました」

「それなら、わたくしはボタンのかみかざりをつけないといけないのね」


 リボンをもらったばかりだったのでリボンに未練がありそうだったが、クリスタ嬢はちゃんと弁えて牡丹の髪飾りを着けることを決めていた。


 お誕生日の当日には、たくさんのひとがやってくる。

 クリスタ嬢はまだ五歳だったし、この家に来たすぐだったのでお誕生日にお客様は招待していなかったが、公爵家の跡継ぎのわたくしがお誕生日にお客様を招待しないわけにはいかなかった。


「エリザベート様、お誕生日おめでとうございます」

「空色と白のドレスがとてもよくお似合いですわ。可愛らしいこと」

「キルヒマン侯爵夫妻、わたくしのお誕生日にいらしてくださってありがとうございます」


 エクムント様のご両親ということもあるが、キルヒマン侯爵夫妻は母の義理の両親でもあるので、緊張せずに挨拶ができる。


「今日はリボンで髪を纏めているのですね」

「薔薇や牡丹の髪飾りも可愛かったですが、リボンもお似合いですね」


 褒められてわたくしはもう一度キルヒマン侯爵夫妻にお礼を言った。


 わたくしのお誕生日のパーティーは立食式で、お茶の時間に開かれていた。

 国王陛下の別荘から馬車で来たノルベルト殿下とハインリヒ殿下を見ると、わたくしは内心申し訳なさのようなものが走ったが、それを見せてはいけない。見せてしまったら、ノルベルト殿下にわたくしが婚約の話を知っていて断ったのだと分かられてしまう。


「わたくしのお誕生日にいらしてくださってありがとうございます、ノルベルト殿下、ハインリヒ殿下」

「お誕生日おめでとうございます。ドレスもリボンもよくお似合いですね」

「おたんじょうびおめでとうございます。クリスタじょうは、ボタンのかみかざりをつけてくれているんですね」


 嬉しそうなハインリヒ殿下と対照的に、ノルベルト殿下はどこか悲しそうな表情をしていた。罪悪感で胸がちくちくと痛む。

 八歳の男の子の初恋を潰してしまったかもしれないと思うと、前世のわたくしの人格が罪悪感を覚えているのだ。


 しかし、わたくしは今世を生きているのだし、同情で結婚をするような神経はしていない。王家の出身のノルベルト殿下との結婚ともなると国の一大事業になってしまうし、わたくしはそれに巻き込まれたくなかった。

 何よりも、わたくしには大好きな初恋のエクムント様がいた。


「ハインリヒでんか、ノルベルトでんか、いらっしゃいませ。いっしょにおちゃをしませんか?」

「クリスタ嬢に誘われては断れませんね」

「たんじょうびのてがみ、ありがとうございました。わたし、がくにいれてかべにかざってるんです」

「え!? わたくしのおてがみをかべに!?」


 ハインリヒ殿下はクリスタ嬢の書いたお誕生日お祝い兼お礼状を壁に飾るくらい喜んでいたようだ。ハインリヒ殿下もまだまだ七歳の子どもということだ。


「クリスタ嬢、そんなに喜んでいただけてよかったですね」

「わたくし、じがじょうずにかけなかったのに……」

「とても上手でしたよ」

「ハインリヒでんか、つぎはもっとじょうずにかくので、かべにかざるのは、そっちにしてください」


 恥ずかしがっているクリスタ嬢とにこにこしてクリスタ嬢を見ているハインリヒ殿下の様子を見て、わたくしは微笑ましく思っていた。


「本日は私たちの娘、エリザベートの七歳のお誕生日にお越しくださりありがとうございます」

「娘も無事に健康に七歳に育ちました。それも皆様の見守りがあってこそです」

「今後ともよろしくお願いいたします」


 両親が来て下さったお客様に挨拶をしている。

 わたくしも両親の元に行って一緒に頭を下げた。


 パーティーにはノメンゼン子爵夫人とノメンゼン子爵とローザ嬢も来ていた。ローザ嬢は髪に造花の髪飾りを着けている。


「ローザ、ノルベルト殿下とハインリヒ殿下にご挨拶して来るのよ!」

「おかあさま、あのこがいるわ」

「あの子は私が遠ざけてあげるから」


 そんなことを話して、大広間の隅でハインリヒ殿下とノルベルト殿下とお茶をしているクリスタ嬢に近付こうとするノメンゼン子爵夫人に、わたくしは歩み寄った。


「とても綺麗な髪飾りですね」


 ローザ嬢に声をかけると、ローザ嬢が胸を張って誇らしげに鼻の穴を広げる。


「おかあさまがかってくださったのよ」

「王都に使いを出して、買った高価な髪飾りなのですよ。エリザベート様は今日は造花の髪飾りはつけていないのですね」


 王都で作られた髪飾りだとしても、クリスタ嬢がつけている王家の専属の職人が作った髪飾りにはとても適うはずがない。材料からして見劣りがして、色艶も全く違う。

 それを皮肉って言ったつもりなのだが、平民のノメンゼン子爵夫人とその娘のローザ嬢には通じなかったようだ。


「クリスタ嬢に手を出してみなさい、この会場から追い出されるのがどちらかは、分かっているでしょう?」


 直接的に言わなければ通じないと思って言えば、ノメンゼン子爵夫人が顔を歪める。


「公爵夫人も元は子爵令嬢だったくせに。その娘が大きな口を叩くこと」


 国一番のフェアレディと呼ばれる母のことをノメンゼン子爵夫人は侮辱してきた。それを聞いていたキルヒマン侯爵夫妻が苦笑している。


「公爵夫人と自分が並べる自信でもおありですか?」

「公爵夫人に対してそのようなことを言って、この場にいられるとお思いか」


 キルヒマン侯爵夫妻とノメンゼン子爵夫人が話していると、エクムントが両親を連れて来てくれる。


「わたくしのお話で盛り上がっていたようですね。お聞かせ願えますか?」

「ぜひ私も聞いてみたいものだ」


 母と父の言葉に、ノメンゼン子爵夫人が口を開く前に、ノメンゼン子爵がノメンゼン子爵夫人とローザ嬢の手を引いて頭を下げる。


「なんでもございません。私たちはこれで失礼いたします」

「何で頭を下げるのよ、あなた!」

「いいから! 公爵夫妻に失礼を働くとどうなるか学んでくれ」

「クリスタはあなたの娘じゃないですか!」

「公爵家に引き取られた時点で手出しができなくなったんだよ」


 醜く夫婦で言い争いをしながら立ち去っていくノメンゼン子爵夫妻をわたくしとキルヒマン侯爵夫妻と両親で見送った。


 パーティー会場の端で座ってお茶を楽しんでいるクリスタ嬢のところに行くと、クリスタ嬢が自分の隣りの席を示す。


「おねえさまもいっしょにおちゃをしましょう!」

「お邪魔ではありませんか、ハインリヒ殿下、ノルベルト殿下?」

「エリザベート嬢がよろしければ一緒にお茶をしましょう」

「もちろん、じゃまなどではありません」


 歓迎されてわたくしはクリスタ嬢の隣りに座ってミルクティーを飲む。秋も深まり寒さが出てきたので、温かなミルクティーがとても美味しい。


 ノルベルト殿下はわたくしに何も言わなかった。

 国王陛下は婚約の件をわたくしが知らないということにしてくれているようだ。


「ご一緒できて楽しかったです」

「ありがとうございました、ノルベルトでんか、ハインリヒでんか」


 ノルベルト殿下とハインリヒ殿下に挨拶をして、わたくしとクリスタ嬢は両親の元に戻った。

読んでいただきありがとうございました。

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