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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
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26.赤ちゃんの命の重み

 昼食の後にはお茶会があったが、お茶会にはディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下が乳母に抱っこされて連れてこられた。青い目と黒い目をきょろきょろさせて周囲を伺っているディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下に、母を筆頭に女性陣が近付いていく。


「ディーデリヒとディートリンデはミルクをたくさん飲みましたか?」

「はい。先ほどお昼寝から起きてミルクを飲まれました」

「一応げっぷはさせたのですが、あまり動かすと吐いてしまうかもしれません」


 まだ小さいディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下は胃が発達していないので、ミルクを飲んだ後に動かすと吐いてしまうかもしれないとのことで身構えるわたくしとクリスタちゃんとノエル殿下をよそに、母は躊躇わず手を伸ばしていた。


「抱っこさせていただいてよろしいでしょうか?」

「してあげてください」

「私たちの可愛い子が愛されて育つのは幸せなことだ」


 王妃殿下と国王陛下の許可を得て、母がディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下を抱っこする。

 春に生まれたディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下はまだ首が完全には据わっていなかった。


「わたくしも抱っこさせていただいてよろしいでしょうか?」

「わたくしもお願いします」

「わたくしも」

「わたくしも抱っこしたいです」


 わたくしとクリスタちゃんとノエル殿下とレーニちゃんが声をかけると、ユリアーナ殿下がまーちゃんの手を引く。


「お母様は、わたくしが座っていればお膝にディーデリヒとディートリンデを順番に乗せてくれます。マリア嬢も抱っこできますよ」

「わたくしもよろしいですか?」


 教えてもらってまーちゃんも目を輝かせて抱っこの順番に並んだ。

 わたくしは母の次に抱っこさせてもらったが、甘いミルクの香りがして、柔らかくて小さくてとても可愛かった。

 生まれてすぐのころに抱っこさせてもらったときを思い出すと、かなり大きくなっている。それでも軽々と抱っこできる大きさだった。


「うー……」

「あー……」

「何か言っていますわ」

「可愛いですね」

「弟たちを思い出します」


 クリスタちゃんとノエル殿下とレーニちゃんも順番に抱っこさせてもらってディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下の顔を覗き込んでいる。よだれを垂らしながら、お手手を口に持っていくディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下はとても可愛かった。


 まーちゃんの番が来ると、まーちゃんは椅子に座って両腕を膝の上に置いていた。その上にそっとディートリンデ殿下が降ろされる。


「小さい! 可愛い!」

「ふぇ……」

「あ、声が大きかったですね。ごめんなさい」


 泣きそうになってしまうディートリンデ殿下をあやして、次はディーデリヒ殿下を膝の上に乗せてもらってまーちゃんは大満足で抱っこを経験させてもらっていた。


「エリザベートお姉様やクリスタお姉様の赤ちゃんが生まれたら、わたくし、抱っこして差し上げますわ」

「よろしくお願いしますね、マリア」

「楽しみですね、マリア」


 自信をつけたまーちゃんは宣言して胸を張っていた。


 赤ちゃんを抱っこしたいのは女性陣だけではなかった。

 もじもじとしていたふーちゃんが思い切って声を上げる。


「私も抱っこしていいですか?」

「フランツ殿も念のため座って抱っこしてくれますか?」

「はい!」


 元気よく答えて、ふーちゃんはソファに座ってディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下を順番に抱っこしていた。


「エクムント殿は抱っこしないでいいのですか?」

「私は大きいのでディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下を驚かしてしまいそうなので」

「まだ小さいので分かりませんよ」


 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下に促されてエクムント様が前に出る。広げた手の上に丁寧に頭を固定して小さな体をエクムント様は大きな両手だけで抱っこしてしまった。


「エクムントと比べるとディーデリヒとディートリンデがとても小さく見えるな」

「エクムント殿は十一歳でエリザベート嬢を抱っこして庭を歩いていたと聞きますからね。慣れているのでしょう。ディーデリヒもディートリンデも大人しいです」


 泣きもしないディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下は静かにエクムント様に抱かれていた。

 生まれたときが小さかったので、ディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下は大きな赤ん坊ではない。わたくしもこれくらいのころにエクムント様に抱っこされていたのかと思うと、感慨深くなってくる。


「お姉様、エクムント様がお姉様との赤ちゃんを抱っこしたところを想像したのではないですか?」

「え!? そんなこと……」


 そんなことはないのだが、クリスタちゃんに言われると意識してしまう。

 エクムント様がわたくしと結婚して赤ちゃんが生まれたらこんな風に赤ちゃんを抱くのだろうか。十一歳のころにわたくしを抱いた手は、今はとても大きくなって頼りがいがあるようになっている。


 考えてしまうとそれが頭から離れなくなるわたくしに、クリスタちゃんが囁く。


「お姉様とわたくし、どちらが先に赤ちゃんを産むのでしょうね」

「赤ん坊は授かりものだとエクムント様も言っていました。生まれるかどうかは神様がお決めになることです」

「そうでした。わたくし、言いすぎましたわ。ごめんなさい」

「いいのですよ、クリスタ。婚約者のいる結婚を控えた女性としては気になりますよね」


 クリスタちゃんを窘めつつも、わたくしも気になっていないわけではなかった。


「ノルベルト殿下も赤ちゃんのことについて慎重に話すのです。男性陣は自分が産むのではないから、無責任なことは口にしないのですね」

「そういう配慮ができる時代になったのですね」

「私は王妃に失礼なことは言っていなかったか?」

「ハインリヒを産んだときには何もお言葉がなくてとてもつらかったですが、今はユリアーナとディーデリヒとディートリンデを可愛がるよき父親で安心しております」

「それならばよかった」


 ノエル殿下が言えば、王妃殿下と国王陛下が出産や子どものことについて話し出す。

 それを聞いて、まーちゃんは両親のところに歩み寄っていた。


「わたくし、赤ちゃんを産むのはそんなに大変だなんて知らなくて、お母様とお父様に弟妹が欲しいなんて気軽に言ってしまってごめんなさい」

「いいのですよ、マリア」

「私たちも子どもがたくさんほしかった気持ちは分かる。むしろ、マリアに弟妹を持たせてあげられなくてすまないね」

「いいのです。わたくし、叔母になれるかもしれませんし」


 謝るまーちゃんに両親は寛容に言葉をかけていた。

 まーちゃんも叔母になれるかもしれないということで気持ちは完全に切り替わっているようだった。


 抱っこされてくれた後にディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下は子ども部屋に連れて行かれた。泣き出していたのでおむつが汚れていたのかもしれない。


「レーニ嬢、私はマリアと年が近いので、赤ちゃんを初めて抱っこしました。とても小さかったです」

「もっと小さく生まれてくるのですよ」

「マリアが生まれてきたときのことは小さかったので覚えていませんが、そんなに小さく生まれてきた赤ちゃんが、みんな育って、レーニ嬢やお姉様たちやマリアのようになっているのですね」

「そうですね。フランツ殿は勇気を出して抱っこをお願いして、よい学びをされましたね」

「はい。私、抱っこをお願いしてみてよかったです」


 レーニちゃんと素直なふーちゃんの感想にもわたくしは心が和む。

 ふーちゃんは男性陣が抱っこの輪に入らないでいるところを勇気を出して自分から手を挙げた。その結果として、赤ちゃんの小ささや生命力を学んでいた。それがどれだけ大事なことなのか、ふーちゃんも結婚する年になればよく分かるだろう。


「わたくしにはデニスとゲオルグがいました。二人とも小さく生まれてきましたが、今は大きく育っています。赤ちゃんの成長は本当に著しいのです」

「春にこの別荘で見せてもらったときよりも大きくなっていました。あれが命の重さなのですね」

「そうです。それを忘れないようにしてください」


 レーニちゃんに教えられてふーちゃんは深く頷いていた。


読んでいただきありがとうございました。

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