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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
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25.まーちゃんとユリアーナ殿下はお揃いの扇で

 国王陛下の別荘に行くときに、ふーちゃんとまーちゃんが両親にお願いしていた。


「エリザベートお姉様とクリスタお姉様と一緒の馬車に乗りたいです」

「一緒の馬車にしてください」


 両親と馬車に乗るのではなく、わたくしとクリスタちゃんと一緒の馬車に乗りたいと言っている。王都で式典が行われるときにはわたくしとクリスタちゃんは学園の寮から直接向かうので、ふーちゃんとまーちゃんとは一緒の馬車に乗れない。

 王都の国王陛下の別荘に行くときには一緒の馬車に乗れるので、それを狙っていたようなのだ。


「わたくしたちがいなくてもいい子にできますか?」

「お姉様たちを困らせてはいけないよ?」

「いい子にできます」

「お姉様たちを困らせません」


 約束をしてふーちゃんとまーちゃんは許可をもらっていた。


「エリザベートとクリスタはそれでいいかな?」

「もちろん、構いませんわ」

「フランツとマリアと一緒で嬉しいです」


 父はわたくしたちにも確認したが、わたくしたちに異存があるはずもなかった。

 馬車に乗り込むとふーちゃんとまーちゃんも乗ってくる。

 まーちゃんは手持ちの肩掛けのバッグから扇を取り出して、優雅に仰いでいた。白いレースの縁取りの扇は、まーちゃんにとっては初めて持つ扇である。

 暗い色の扇で、そこに華美な絵を描いてあったりするものが多いのだが、白いレースの縁取りの扇はシンプルで幼いまーちゃんが使っても違和感はなかった。

 炊きしめてある香を嗅いでうっとりとしているまーちゃんに、ふーちゃんもまーちゃんを見てにこにこしている。


「私、思うんです。オリヴァー殿は絶対にレーニ嬢とユリアーナ殿下とノエル殿下と王妃殿下の扇も用意していると」

「わたくしもそう思いますわ。オリヴァー殿はスマートに扇を差し出しそうですよね」


 楽し気に話すふーちゃんとまーちゃんに、わたくしも同感だった。

 辺境伯領の方はスマートにこういうことができる方が多いような気がする。というか、エクムント様とオリヴァー殿はそういうことができる方なのだ。


 国王陛下の別荘に着くとハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下とユリアーナ殿下がわたくしたちを迎えてくれた。

 両親は国王陛下と王妃殿下に迎えられている。


「ようこそいらっしゃいました。お待ちしていましたよ」

「辺境伯領ではご一緒できて楽しかったです」


 ハインリヒ殿下とユリアーナ殿下にわたくしはお辞儀をする。


「わたくしもお二人とご一緒できて楽しかったです」

「ハインリヒ殿下、お会いしたかったですわ」

「クリスタ嬢、私もです」


 ハインリヒ殿下がクリスタちゃんの手を取って歩き出すと、後からやってきた馬車から降りたレーニちゃんのところにふーちゃんが駆け寄っていた。

 オリヴァー殿は速足でやってきてまーちゃんの手を取っている。


 エクムント様をわたくしが視線で探していると、すぐに見つかってエクムント様もわたくしの手を取った。エクムント様の手に手を重ねて国王陛下の前に出ると、国王陛下は両親と話をしていたが、すぐにわたくしとエクムント様の方に向き直ってくれた。


「エクムント、エリザベート、よく来てくれた」

「お招きいただきありがとうございます」

「先日は辺境伯領にハインリヒ殿下とユリアーナ殿下がお越しいただいて、とても楽しく過ごしました。ありがとうございました」

「ハインリヒとユリアーナもとても楽しかったようだ。ありがとう」


 お礼を言われているエクムント様に、わたくしも国王陛下に頭を下げた。


 国王陛下の別荘の食堂では昼食の準備ができていた。

 わたくしはエクムント様の隣りに、クリスタちゃんはハインリヒ殿下の隣りに、ふーちゃんはレーニちゃんの隣りに、まーちゃんはオリヴァー殿の隣りに座る。

 両親と国王陛下と王妃殿下のテーブルは別だった。


 ノルベルト殿下とノエル殿下とユリアーナ殿下も席について昼食が始まる。

 大人たちのテーブルでは葡萄酒が振舞われているようだが、わたくしたちのテーブルでは葡萄ジュースやミルクティーだった。


「エクムント様は葡萄酒を飲まれなくていいのですか?」

「私はそれほど飲まないのですよ。乾杯のときに口を付ける程度です」


 エクムント様はお酒も飲まれない様子だった。

 ノエル殿下とエクムント様は成人されているが、お酒を飲むことなく、わたくしたちのテーブルは昼食を終えた。


 昼食の後も国王陛下と王妃殿下は親し気に両親と話している。


「ユストゥス、ディーデリヒとディートリンデも大きくなってきているのだよ」

「後でぜひ会ってやってくださいね」

「喜んで会わせていただきます」

「ディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下が健やかなようでよかったです」


 末っ子の双子の殿下が国王陛下も王妃殿下も可愛くてたまらない様子だった。

 わたくしも少しだけもう一人くらい弟妹がいてもいいのにと思わなくないが、両親がもう子どもは作らないと決めているので口出しはできない。


「わたくしも、弟妹が欲しいです」


 未練がましく諦めきれていないのは末っ子のまーちゃんだ。ユリアーナ殿下が姉になったのが羨ましくてたまらないのだろう。


「マリア様は近いうちに叔母になるかもしれませんよ」

「わたくし、叔母に!?」

「エリザベート様やクリスタ様が結婚して子どもができれば、マリア様は叔母です」


 オリヴァー殿が説明しているのに、まーちゃんの目が輝き始める。


「わたくしが叔母。小さい甥や姪が生まれるのですね。それは考えたことがありませんでした」

「遠い未来ではないかもしれません」

「そう思うと楽しみです」


 弟妹を産んでもらうことは叶わないが、まーちゃんは叔母になれる可能性がある。そこに希望を見出したようだった。


「エクムント様はお子様は何人ほしいとか、希望がありますか?」


 オリヴァー殿に聞かれてエクムント様が微笑んで答える。


「子どもは授かりものですから、そのときになってみないと分かりません。生まれなかったら私の兄のように養子をもらえばいいだけの話ですから、あまり気にしていません」


 確かに、子どもを産むのはエクムント様ではなくてわたくしだ。

 こんな時代なので、子どもができなければ大概女性のせいにされる。実際にエクムント様のお兄様のクレーメンス殿はドロテーア夫人の体が弱いので子どもは諦めていた。それで、エクムント様の次兄の娘のガブリエラちゃんがクレーメンス殿の養子になって、キルヒマン家の後継者になったのだ。


 お兄様のことがあるからだろう、子どものことに関しても軽いことは言わないエクムント様にわたくしは尊敬の念を抱く。

 話をしながらまーちゃんが扇で自分を扇いでいるのを見て、ユリアーナ殿下が青い目をくりくりとさせている。


「マリア嬢、その扇、素敵ですね」

「この扇は、オリヴァー殿からいただきました。フィンガーブレスレットを編む工程でレース編みを扇に施すことを思い付いたようなのです」

「とても綺麗です」


 わたくしも欲しい。


 その言葉を飲み込んだユリアーナ殿下に、オリヴァー殿が細い箱を渡す。ノエル殿下にも王妃殿下にもその箱は渡された。


「辺境伯領で新しく作った扇です。よろしければどうぞ」

「ありがとうございます! わたくしが欲しいと思っているとどうして分かったのですか?」

「わたくしにもいいのですか?」

「わたくしにまで、ありがとうございます」


 ユリアーナ殿下だけでなく、ノエル殿下も王妃殿下も、レースの縁取りの扇をもらって喜んでいる。


「ユリアーナ殿下とマリア様は仲がよろしいので、お揃いにしたらいいのではないかと思いました」

「マリア嬢、わたくしとお揃いですよ」

「そういえば、模様が似ていますね」


 扇を並べて見せあうまーちゃんとユリアーナ殿下に、オリヴァー殿が微笑んでいる。

 まーちゃんもユリアーナ殿下も扇で扇いで、香の匂いを嗅いで嬉しそうにしていた。

読んでいただきありがとうございました。

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