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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
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23.薔薇の花のお礼

 シュタール家でのお茶会は和やかに行われた。

 ナターリエ嬢とオリヴァー殿の父親のシュタール侯爵は、エクムント様と話をしていた。


「フィンガーブレスレットの売れ行きも順調です。各地に派遣したネイルアートの技術者は、その地方の貴族に雇われています」

「フィンガーブレスレットもネイルアートも事業が成功して何よりです。シュタール侯爵にお任せしてよかった」

「エクムント様から任された仕事です。息子のオリヴァーも手伝って、しっかりと運営していけていると思っております」

「オリヴァー殿もシュタール侯爵と一緒に事業にあたっているのですか」

「そうです。オリヴァーもすっかりと頼れる息子になっております」


 オリヴァー殿のことを話すシュタール侯爵は誇らしげだった。

 ナターリエ嬢もオリヴァー殿をシュタール侯爵が立派に仕事をやり遂げていると、エクムント様に報告しているのを聞いて誇らしそうにしている。


「お父様、お母様、オリヴァー殿は立派な方です。婚約者に選んでよかったでしょう?」

「去年の婚約騒ぎは驚いたけれど、オリヴァー殿はユリアーナ殿下の詩の先生もしているし、家業もしっかりと継いでいるようなら安心だね」

「マリアが五歳で婚約したのには驚きましたが、オリヴァー殿は本当にいい方のようでよかったです」


 正直なところ、婚約を認めてはいたが両親はまーちゃんが小さすぎることを心配していたようだ。一年近くたってもまーちゃんの気持ちは変わっていないし、オリヴァー殿はますます活躍しているようだし、両親もこの婚約を祝福せざるを得ない状況になっている。

 まーちゃんが大きくなるにつれて心変わりをしたら、オリヴァー殿はいつでも婚約を解消する気でいるし、両親もそのつもりのようだが、その心配はなさそうだ。


「オリヴァー殿、ケーキとポテトチップスとコロッケを取ってくれませんか?」

「ケーキは三種類ありますが、どれを取りましょう?」

「全部お願いします!」


 まーちゃんがオリヴァー殿にケーキとポテトチップスとコロッケを取り分けてもらっている。わたくしも軽食の乗っているテーブルに行って、ケーキを一つとポテトチップスを少しと一口大の丸いコロッケを一つ取り分けた。

 エクムント様はサンドイッチを取り分けている。


「そういえば、エクムント様はわたくしが小さなころはケーキも召し上がっていたような気がするのですが、わたくしの記憶違いでしたでしょうか?」

「ケーキを食べなくなったのはこの数年ですね。二十歳を超えてから、少し体重維持を気にするようになりました」

「エクムント様は太ってなどいませんのに」

「それは管理しているからです。私は体が大きいので、筋肉も贅肉も付きやすいのです。年々代謝が変わってくるので気を付けるようにしています」


 体型の維持までエクムント様が考えているとしたら、エクムント様は何歳になっても格好いいのではないかと思ってしまう。

 きっとわたくしは何歳になったエクムント様も好きだが、いつまでもエクムント様が格好いいとなるとわたくしもできる限り美しくありたいと思ってしまう。

 エクムント様の隣りに立って恥ずかしくないように。


 テーブルに手が届く身長になっているふーちゃんは自分でケーキやサンドイッチを取り分けている。ポテトチップスもコロッケも遠慮なく取り分けている様子に、少し羨ましくなってしまう。

 食べ盛りで成長期のふーちゃんはどれだけ食べても平気なのだろう。

 クリスタちゃんは食べる量を考えて、わたくしと同じようにケーキ一個とポテトチップスとコロッケを取り分けていた。


 辺境伯領の飲み物と言えば、ミントの清涼感のあるミントティーか、紅茶にフルーツを漬けて甘みと香りを移したフルーツティーなのだが、わたくしは畜産が盛んなディッペル領で育ったので、ミルクティーが恋しくなってしまう。

 辺境伯家では牛乳の仕入れ先を探していてくれるので、ミルクティーが飲めるようになっていたが、シュタール家でそれを望むのは難しい。


 フルーツティーを飲んではいるが、なんとなく物足りない気分になってしまうのは、わたくしがミルクティーに慣れすぎているからだろう。

 ミントティーはわたくしは少し苦手なのだが、暑い地方の夏を乗り切るためには、この清涼感が必要なようだ。


 フルーツティーとケーキとポテトチップスとコロッケを口にしながら、オリヴァー殿に話しかける。


「ユリアーナ殿下の詩の授業はどうなっていますか?」

「ユリアーナ殿下はとても勉強熱心で、隣国の詩集は読み解けるようになっておられます。ノエル殿下の詩集はまだ難しいようで、少しずつ読み進めています」

「わたくしにもノエル殿下の詩は難しいです」


 クリスタちゃんとふーちゃんは詩を理解しているが、わたくしとまーちゃんはノエル殿下の詩は高尚すぎて理解できない。芸術というものはとても難しいのだ。


「私もノエル殿下の詩集は理解できませんでしたね」

「エクムント様もですか。わたくしたち、詩を贈り合うようなことはできませんね」

「残念ながら、私は武骨な軍人なので、芸術は解さないようです」


 エクムント様が詩を理解できないという事実にわたくしは安堵もしていた。エクムント様から詩が送られてきたら、わたくしは困惑してしまうに違いない。


「私は学園に入学して詩の授業を受けるのが楽しみです」

「フランツ様は素晴らしい詩を書かれますからね。才能がおありになる」

「オリヴァー殿ありがとうございます。オリヴァー殿は詩は書かれないのですか?」

「私は詩は解釈はできても、自分で書くことはできないようなのです。詩とはかくも深く難しいものなのです」


 オリヴァー殿が詩を書けないと聞いて、まーちゃんが胸を撫で下ろしているのが分かる。まーちゃんもオリヴァー殿から詩が送られてきたら困惑してしまっていただろう。


「わたくし、詩よりもお花が好きです。わたくしが薔薇の花が好きだと、オリヴァー殿はどうして分かったのですか?」


 話題を変えるまーちゃんにオリヴァー殿が答える。


「婚約式にマリア様は白い花冠を被って来られました。それが薔薇だったのを覚えていたのです」

「それでわたくしのために薔薇を植えてくださったのですね」

「白い薔薇では寂しいような気がしたので、ピンクと白のグラデーションの薔薇にしました」

「嬉しいですわ。咲くのが本当に楽しみです」


 ナターリエ嬢とオリヴァー殿がまーちゃんのために庭に薔薇を植えたのは、そういう理由があってのことだった。まーちゃんは心の底から薔薇を植えてもらったことを喜んでいるし、今日シュタール家を訪問できたことも喜んでいる。


「お父様、お母様、オリヴァー殿に何かお礼ができないでしょうか」

「マリアは何をしたいのかな?」

「お礼に何を差し上げたいのですか?」


 薔薇の花を庭に植えてくれたお礼にまーちゃんは何かしたいと思っているようだが、それが何かは決まっていないようだ。


「こういうとき、どのようなお礼をするものなのでしょう?」

「私はお礼などいりませんよ。お気持ちだけで充分です」

「わたくしがお礼をしたいのです」


 悩んでいるまーちゃんにアドバイスをしたのはエクムント様だった。


「ラペルホールに飾る花を差し上げてはいかがですか?」

「ラペルホールに飾る花ですか?」

「造花で、マリア嬢の髪飾りとお揃いで作ったら、婚約者同士でつけられていいのではないですか」


 素晴らしいアイデアにまーちゃんの目が輝く。


「お父様、お母様、わたくしの髪飾りとお揃いで、ラペルホールに飾る花を作ってください」

「花の種類は何にしようか?」

「薔薇の花でお願いします!」


 お礼が決まって嬉しそうなまーちゃんは、すぐにエクムント様に頭を下げていた。


「素晴らしいアイデアをくださってありがとうございました」

「いいえ、マリア嬢が満足なさったならよかったです」


 こんな時もすぐにいいアイデアが思い付くエクムント様はお洒落だし、格好いいと思ってしまうのだった。


読んでいただきありがとうございました。

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