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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
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22.二人きりの馬車の中

 わたくしは不思議に思っていたことがあった。

 レーニちゃんも言っていたのだが、デニスくんやゲオルグくんは棒を拾って戦いごっこをしたり、下品な言葉を言って笑ったりするのに、ふーちゃんは小さなころからそういうことを全くしたことがないということだった。

 ふーちゃんはまーちゃんに合わせて刺繍や縫物も習っているということだが、デニスくんやゲオルグくんはそういう話を聞いたことがない。

 それはどうしてなのだろう。

 考えた結果導きだしたのは兄弟姉妹の構成だった。


 レーニちゃんは年の離れた姉で、デニスくんとゲオルグくんは年の近い兄弟だ。

 わたくしとクリスタちゃんはふーちゃんの年の離れた姉で、まーちゃんはふーちゃんの年の近い妹だ。

 レーニちゃんのところには男の子が二人いるのだが、ディッペル家の男の子はふーちゃん一人である。ふーちゃんがもし枝を拾って戦いごっこを始めようとしても、まーちゃんはそれに乗らないだろう。下品なことを口にしたら、まーちゃんは冷ややかな目で見つめるだろう。

 逆にデニスくんは戦いごっこをしようと枝を拾ったら、ゲオルグくんも拾って戦いごっこに参加してくる。下品なことを言ってもたしなめるのはレーニちゃんだけで、デニスくんとゲオルグくんは二人で盛り上がることができる。


 ディッペル家で男の子一人で、上には年の離れた姉二人、下には年の近い妹一人のふーちゃんが上品に育ったのは、女の子に囲まれていたからに違いなかった。


 それに、ふーちゃんは三歳で詩を読み始めるほど頭がよかった。そういう関係も有るのだろう。

 ふーちゃんについて改めてすごい子だと感じた瞬間だった。


 シュタール家に行く日には、まーちゃんはドレスを着ようとして母に止められていた。


「パーティーではないのですから、ワンピースでいいのですよ」

「オリヴァー殿に可愛いと思ってほしいのです」

「一番可愛いワンピースを着ればいいではないですか」


 乙女心を理解して促す母に、まーちゃんはワンピースを部屋に並べて一生懸命選んでいた。

 結局、まーちゃんはわたくしのお譲りのミントグリーンのワンピースを着てシュタール家に行くことに決めたようだ。サンダルを履いていくので、旅行に同行していたクラリッサがわたくしたちの足の爪を塗ってくれた。きらきらと光る足の爪にまーちゃんはお目目を輝かせていた。


 シュタール家まで馬車で行くときに、両親とふーちゃんとまーちゃんとクリスタちゃんがディッペル家の馬車に乗り、わたくしはエクムント様と一緒に辺境伯家の馬車に乗ることになった。

 二人きりの空間で移動するというのは初めてでわたくしはエクムント様を直視できずに目を伏せる。暑いので扇で仰いでいると、エクムント様がわたくしを見つめて微笑んでいる気がする。


「エリザベート嬢はマリア嬢が早く婚約してしまって複雑な気分だと以前に言っていましたよね」

「はい。寂しい気持ちがあります。ただ、マリアが幸せそうなので、それだけは素晴らしいことだと思っています」

「エリザベート嬢も八歳で私と婚約しています。ディッペル家の方々は婚約が早いのですね」

「そうなのです。フランツはホルツマン家にレーニ嬢が絡まれていたことがありますし、マリアはシュタール家が独立派と噂を流されたことがありましたでしょう?」

「そうでしたね。エリザベート嬢は辺境伯領が独立を望んでいないことを示すために必要な婚約者でした」


 始まりはそうだったかもしれないが、わたくしはエクムント様を想って婚約者になりたいと望んだし、エクムント様も最近はわたくしのことを想ってくださっていると公言するようになっていた。

 政略結婚かもしれないが、わたくしとエクムント様は想い合って結婚することができるかもしれない。


「わたくしの両親は政略結婚でしたが、想い合って結婚しています。父が母を見初めて、シュレーゼマン子爵家から母はキルヒマン侯爵家に養子に行って父と結婚しています」


 学園で初めて母と会って、一目で心奪われたという父。それから母をお茶会に招き、交流を経て父は母が学園を卒業すると同時にキルヒマン家に手を回して母を養子にするようにお願いして、母と結ばれた。

 母は子爵家の娘で、国一番のフェアレディと呼ばれるくらいの淑女だったので、特別に学園に入学が許されて、学生時代の国王陛下や父と出会った。子爵家の出身ということで母が苛められているところを、父と国王陛下がお茶会に招くことによって、後ろ盾となり守ったのだ。

 苛め程度で負けるような母ではなかったが、助けてくれた父と国王陛下には感謝していたようだ。父に淡い想いを抱いていたが、身分違いなので実るはずはないと想いを封じ込めていた母に、父はキルヒマン家に養子に行ってディッペル家に嫁ぐことを提案した。

 政略結婚だが両想いの両親を見て育ってきたわたくしとしては、エクムント様も政略結婚ではあるが、わたくしのことを想ってほしいと夢見てきた。


 それが今叶いそうになっているが、そうなるとエクムント様は気軽に甘い言葉を囁くのでわたくしの心臓がもたないこともある。


「私の両親も政略結婚でしたが、想い合っています。父は辺境伯領から妻をもらわなければいけないとなって、最初は抵抗があったようですが、実際に会ってみると素晴らしい女性で心から愛するようになったと言っていました。私も両親のような結婚をしたいと思っています」

「わたくしもです」


 お互いに考えていることが同じで、想い合っているのならば、きっとわたくしとエクムント様の結婚はうまくいく。そう考えてしまうと、気が早いがわたくしはその日が待ち遠しくてたまらなくなる。


 シュタール家に着くと、ナターリエ嬢とオリヴァー殿が庭で待っていてくれた。馬車から降りてきたまーちゃんの手を引いてオリヴァー殿が庭を案内する。


「ここにマリア様のための薔薇を植えました。残念ながら、今は季節ではないので咲いていませんが」

「いつ頃咲くのですか?」

「この薔薇は春に咲きます」

「春に薔薇が咲いているのを見に行きたいです。お父様、お母様、お願いできませんか?」

「春は忙しいからなぁ。フランツとクリスタの誕生日がある」

「難しいですね」


 いい返事がもらえなくてしょんぼりしているまーちゃんに、オリヴァー殿がすかさず言う。


「フランツ様とクリスタ様のお誕生日に、マリア様に薔薇の花を一輪持っていきましょうか?」

「よろしいのですか?」

「それくらいならば簡単なものです」


 オリヴァー殿の提案にまーちゃんは目を輝かせて喜んでいた。


 シュタール家ではお茶の用意がされていた。

 ナターリエ嬢がお茶菓子が並ぶテーブルを案内してくれる。


「ディッペル家で食べたポテトチップスやコロッケのレシピを教えてもらって、用意してあります。ケーキも三種類揃えました。サンドイッチのキュウリも新鮮です。たっぷりお召し上がりください」


 まーちゃんと同じ年とは思えないくらいしっかりとしているナターリエ嬢にわたくしは感心してしまう。


「ナターリエは母がいない分、年よりもしっかりと育ってしまいました」

「年相応に甘えてくれて構わないのですがね」


 シュタール侯爵も言っているが、ナターリエ嬢は張り切ってお客様を歓迎している。


「わたくしを産んだせいで母は亡くなりました。わたくしはシュタール家の女として、しっかりとしないといけないと思うのです」

「ナターリエ嬢……」

「マリア様、わたくしはマリア様とご縁ができてとても嬉しく思っているのですよ」

「わたくしもナターリエ嬢とご縁ができて嬉しいです」


 シュタール家に嫁ぐのだとすれば、まーちゃんはナターリエ嬢との関係性も大事になってくる。お互いに認め合っている二人ならば大丈夫だろうとわたくしは思っていた。


「ミントティーになさいますか? フルーツティーになさいますか?」


 オリヴァー殿の問いかけに、わたくしは「フルーツティーをお願いします」と答えたのだった。


読んでいただきありがとうございました。

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