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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
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21.リリエンタール家とハインリヒ殿下とユリアーナ殿下の帰還

 湖に行ってレーニちゃんとデニスくんとゲオルグくん、ハインリヒ殿下とユリアーナ殿下の滞在二日目は終わった。

 滞在三日目になると、朝食を食べたらレーニちゃんとデニスくんとゲオルグくん、ハインリヒ殿下とユリアーナ殿下は帰らなければいけない。

 それより先に、早朝に起きて辺境伯家の庭を散歩した。早朝は日も高くなくて気温が少し下がっている。わたくしとクリスタちゃんとまーちゃんとレーニちゃんとユリアーナ殿下は日傘をさして、ハインリヒ殿下とふーちゃんとデニスくんとゲオルグくんは帽子を被っている。エクムント様も軍帽を被っていた。


「王宮の庭ほど広くはありませんが、様々な花が植えてあって、自慢の庭なのです」


 エクムント様に案内してもらって歩く庭のお散歩は楽しかった。

 お散歩が終わると朝食の時間になる。

 朝食を食べていると、デニスくんとゲオルグくんがエクムント様に話しかけていた。


「あっという間の滞在でした」

「へんきょうはくりょうはとてもたのしいです。またさそってください」

「またご招待しますね、デニス殿、ゲオルグ殿」

「とても楽しかったです」

「いいおもいでになりました」


 二人ともとても嬉しそうに笑顔になっている。

 ユリアーナ殿下もエクムント様にお礼を言っていた。


「辺境伯領で、わたくし、初めて写真を撮りました。あれは一生の宝物です。大事にします」

「来年も来られたら、写真を撮りましょう」

「よろしくお願いします」


 来年はわたくしは六年生。ディッペル家の人間として夏休みに辺境伯領に通ってくるのは最後になるかもしれない。その後の夏休みはわたくしが辺境伯家の夫人になって、辺境伯家に来る皆様を迎える方になっているかもしれない。それを考えるとエクムント様との結婚が近くなっているのだと実感して胸が高鳴る。

 エクムント様は結婚式を楽しみにしてくださっているのだろうか。


 辺境伯家とディッペル家の結婚であるから、最初は王都の王宮で国王陛下と王妃殿下の御前で誓いを述べることになるだろう。その後は、辺境伯領に移動して、辺境伯家で結婚式を行って、社にも詣でて、わたくしは辺境伯の妻となる。

 今から楽しみでならないのだが、エクムント様といざ床入りともなるとわたくしはどういう顔をすればいいのか分からなくなるだろう。こういうことは男性にお任せしていいものだと言われているが、それでも何をするのか、決定的なことがわたくしの知識からは欠けていた。

 前世に受けた保健の授業の知識がぼんやりとあるが、貴族社会ではそのようなことは女性にははっきりと教えないので、エリザベートとしてのわたくしはそういう知識がぼんやりとしかなかった。

 エクムント様には知識があってお任せすればいいのだろうと分かっているのだが、それはそれでどうなのだろうと考えてしまうわたくしもいる。

 女性に対する性教育も必要なのではないかと思うのだが、わたくしが一人でそれを主張したところでどうしようもない。

 この世界は十九世紀のヨーロッパをモデルとしているのだから、先進的なことは望めないのだと分かっていた。


 朝食を終えるとエクムント様とわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんはハインリヒ殿下とユリアーナ殿下、レーニちゃんとデニスくんとゲオルグくんの見送りに出た。

 ふーちゃんはレーニちゃんの手を握り締めている。


「国王陛下の別荘でお会いしましょう」

「はい。フランツ殿。楽しみにしています」

「私も楽しみにしています」


 ユリアーナ殿下はデニスくんに話しかけていた。


「冬のお父様の生誕の式典では、雪合戦をしましょうね」

「はい。今度は負けません、ユリアーナ殿下」

「わたくしも負けませんわ」


 デニスくんは国王陛下の別荘にはいかないので、エクムント様のお誕生日やわたくしのお誕生日やユリアーナ殿下のお誕生日のお茶会では会えるのだが、遊べる時間を持てるのは国王陛下の生誕の式典まで伸びてしまう。早朝のお散歩にすっかり慣れて、眠たそうな顔をしなくなっているユリアーナ殿下は、国王陛下の生誕の式典でのお散歩を楽しみにしているようだ。

 お互いに負けないと言い合っているユリアーナ殿下とデニスくんはすっかりと仲良くなっている様子だった。


「おにいさま、わたしもいきます」

「ゲオルグもよろしくお願いします」

「ゲオルグ殿も雪合戦をしましょうね」

「はい、ユリアーナでんか」


 元気に答えた最年少のゲオルグくんにデニスくんもユリアーナ殿下も優しく微笑んでいた。


 馬車が動き出すとエクムント様とわたくしとふーちゃんとまーちゃんで手を振って送り出す。最初はハインリヒ殿下とユリアーナ殿下の馬車だった。

 クリスタちゃんが大きく手を振ると、馬車の中からハインリヒ殿下も大きく手を振っている。

 クリスタちゃんとハインリヒ殿下は国王陛下の別荘で会えるが、それでも短い別れを惜しんでいた。

 レーニちゃんとデニスくんとゲオルグくんの乗った馬車が動き出すと、ふーちゃんが前に出て大きく手を振る。馬車の中からレーニちゃんも手を振り返していた。


 ハインリヒ殿下とユリアーナ殿下と、レーニちゃんとデニスくんとゲオルグくんが帰ってしまうと、辺境伯家にはエクムント様とカサンドラ様とわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親だけになる。大勢いたので、辺境伯家とディッペル家だけになってしまうと少し寂しいような気もしてくる。


「明日はシュタール家に参ります。エクムント様もご一緒しますか?」

「私もご一緒しましょうね」


 まーちゃん待望のシュタール家に行く日も近付いていた。エクムント様に聞けば一緒に来てくださると答えてくださる。わたくしはそれを聞いて嬉しくなる。

 まーちゃんはオリヴァー殿にエスコートされるであろうし、わたくしはエクムント様にエスコートされるであろう未来が見えているからだ。

 ふーちゃんはレーニちゃんが帰ってしまって、クリスタちゃんはハインリヒ殿下が帰ってしまって、残念そうな表情をしていた。


「ナターリエ嬢とオリヴァー殿がわたくしのために植えてくれた薔薇の花を見に行くのです。わたくし、とても楽しみです」


 残念そうにしてはいたが、まーちゃんがとても嬉しそうに夢見るように言っているのを聞くと、クリスタちゃんとふーちゃんの表情も柔らかく解ける。


「よかったですね、マリア」

「マリアが嬉しそうで私も嬉しいよ」


 末っ子のまーちゃんを可愛がっているクリスタちゃんとふーちゃんはまーちゃんの嬉しそうな顔を見るとそれだけで心が和むようだった。わたくしもまーちゃんが嬉しそうだと自分も嬉しくなってくる。

 まーちゃんはあまりに早く婚約したが、王族ならば生まれたときから婚約が決まっていることも珍しくはないし、王家に近いディッペル家の娘が早く婚約が決まるのは最早慣例のようになっている気がする。

 わたくしも八歳で婚約をして、とても早いと言われていた。ふーちゃんはそれより早い六歳で婚約して、まーちゃんはさらに早い五歳で婚約したが、ディッペル家なのだからそれほど驚かれていなかった気がする。

 クリスタちゃんだけが十二歳まで婚約を待っていたが、それも皇太子殿下であるハインリヒ殿下との婚約だったので、時間をかけて準備をしなければいけなかったのもあったし、ハインリヒ殿下が十三歳になってからというのもあったのだろう。

 それでも、クリスタちゃんもやっぱり婚約は早い方だった。


 ノルベルト殿下は十歳のときに婚約をされたが、それは隣国との関係性があってのことだった。

 ハインリヒ殿下の婚約もあまり急ぎすぎないように国王陛下がクリスタちゃんとの関係性を見極めていたところがあったのだろう。


 まーちゃんは婚約者のオリヴァー殿の家、シュタール家に明日招かれる。

 それにはエクムント様もご一緒してくださるというので、わたくしは明日を楽しみにしていた。


読んでいただきありがとうございました。

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