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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
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20.デニスくんとゲオルグくんユリアーナ殿下の初写真

「デニスとゲオルグはまだ小さいのです。写真をいただいても、大事にできないかもしれません。エクムント様、写真はわたくし一人分で、デニスとゲオルグにはわたくしが見せます」


 翌日、湖に行く前にレーニちゃんはエクムント様にそう言って遠慮していた。確かにデニスくんとゲオルグくんは、ふーちゃんやまーちゃんとは違うタイプで、男の子らしいやんちゃなところがある。だからレーニちゃんは自分だけが写真をもらって、デニスくんとゲオルグくんには自分の写真を見せることにしようと決めたのだろう。

 それでも、エクムント様はそれをよしとしなかった。


「確かに小さな子は写真の価値が分からず大事にできないかもしれません。でも、フランツ殿やマリア嬢、ユリアーナ殿下も写真をもらっているのを見れば、デニス殿とゲオルグ殿も欲しくなると思うのです。それに、写真の額を壊してしまっても取り換えればいいだけだし、写真が削れて見えなくなっても、写真を撮ったという思い出は消えません。大事にしないと壊れてしまうものもあるのだと子どもには経験させることも大切だと思います」


 エクムント様の深い考えにレーニちゃんは感動していた。


「そうですわね。わたくしが浅慮でした。デニスやゲオルグの気持ちを考えられていませんでした。エクムント様には申し訳ありませんがお言葉に甘えることにします」

「申し訳なくなど思うことはないのですよ。これは私がしたくてしていることなのですから」


 毎年夏に写真を撮って記録を残すのも、エクムント様が望むことなのかもしれない。

 湖に着くと、撮影班が馬車から降りて来て、エクムント様とわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんとレーニちゃんとデニスくんとゲオルグくんとハインリヒ殿下とユリアーナ殿下の分の写真を撮ってくれた。十枚も撮ったので、時間はかかったが、わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんとまーちゃんとユリアーナ殿下は日傘を差していたし、デニスくんとゲオルグくんは元気いっぱいだったし、ふーちゃんとハインリヒ殿下は水分補給の休憩も挟んでいたので何とか写真を全員分撮ることができた。

 撮った後には現像してもらって、撮影班に額装してもらう。その間にわたくしたちは湖の周囲を歩いた。


「デニス殿、ゲオルグ殿、ユリアーナ殿下、この林にはリスがいるのですよ」

「フクロウも鷹も見ました」


 ふーちゃんとまーちゃんが得意そうに案内している。


「フランツ殿、リスです! 可愛いです!」

「マリアじょう、フクロウやたかがくると、リスはにげますか?」

「逃げますよ、ゲオルグ殿」


 リスを見つけて指差して喜んでいるデニスくんと、疑問をまーちゃんにぶつけてくるゲオルグくん。リスに興奮していたが、足元に木の枝が落ちているのを見ると、我慢できなかったようで、デニスくんもゲオルグくんも拾ってしまっていた。


「我が奥義を受けよ!」

「きゅうきょくのけん!」


 枝を剣に見立てて構えて楽しそうにしている。

 ふーちゃんとまーちゃんは枝を拾いはしなかったけれど、デニスくんとゲオルグくんの遊びを面白そうにじっと見ていた。


「そういえば、おにいさま、こくおうへいかのまえでおしりをだしたきぞくがいたのでしょう?」

「そうだよ、ゲオルグ。その貴族は何をしようとしたと思う?」

「きまってるよ! うんこ!」


 四歳男児の会話は容赦なかった。

 ぶはっ! とユリアーナ殿下が噴き出し、ふーちゃんとまーちゃんが口を真一文字に結んで肩を震わせている。


「デニス、ゲオルグ、その話はしてはいけないと言ったでしょう!」

「お姉様も気付いてるでしょう? あの貴族は国王陛下の前でうんこしようとしたんですよ!」

「こくおうへいかのまえで、うんこ、うんこ!」


 ユリアーナ殿下は笑っているし、ふーちゃんとまーちゃんは肩を震わせているし、場は大惨事になってしまった。

 ふーちゃんが大人びて賢かっただけで、六歳男児と四歳男児などこういうものなのだから仕方がないといえばどうしようもない。


「デニス、ゲオルグ、やめてください!」

「だっておかしいんだもん!」

「あんなところでうんこしようとするとか、わたしでもしないよ!」

「このお話は終わりです!」

「お姉様もおかしくないの?」

「わたし、わらっちゃう!」

「デニス! ゲオルグ!」


 必死に窘めるレーニちゃんも大変だ。普通の男の子の姉というのは大変なもののようだ。特に小さな男の子が二人もいるのだから、レーニちゃんはものすごく大変だろう。


「フランツ殿はこんなことを言わないのに、デニスとゲオルグだけが、恥ずかしいです」


 頬を押さえて弟たちの分まで恥じ入っているレーニちゃんに、ハインリヒ殿下が恥ずかしそうに口を開く。


「私もやんちゃで、デニス殿と同じくらいのころに、クリスタ嬢の髪飾りを取ったことがあります」

「そんなことをされたのですか!?」

「クリスタ嬢が好きで気を引きたかったのですが、今思うと最低でした。好きだったなら意地悪をするのではなくて、優しくしなければいけなかった。クリスタ嬢は謝りに行っても、しばらく私を許してくれませんでした」

「わたくし、そのことはしっかりと覚えています。本当に一生許さないと思っていました。お姉様とお揃いの大事な髪飾りを取ってしまうなんて」


 その後の元ノメンゼン子爵の妾とのことは記憶にないようだが、クリスタちゃんは髪飾りを取られたことはよく覚えているようだった。


「あのときは本当に悪かったと思っています。ごめんなさい」

「あの後、お姉様が助けてくれたような記憶があります。お姉様はあのころからわたくしを守ってくださっていました」

「クリスタは大事な妹ですから」


 わたくしが答えると、ハインリヒ殿下は申し訳なさそうにもう一度「許してください」と謝って来た。クリスタちゃんは少し考えてから、ハインリヒ殿下に言った。


「わたくしと結婚して子どもが生まれたら、男の子にせよ、女の子にせよ、好きな子ができたらとびきり優しくするように言ってくださいね。絶対に意地悪をしてはいけない、意地悪をするとその子に嫌われるだけだと教育してください」

「約束します。子どもにはこんなことがないように教育します」


 それでクリスタちゃんはハインリヒ殿下を許す気になったようだ。

 ハインリヒ殿下と婚約して、両想いになった後でも、クリスタちゃんはハインリヒ殿下に髪飾りを取られたことを覚えていて怒っていた。ディッペル家の養子になる前のことはほとんど覚えていないとクリスタちゃんは言っていたが、その中で覚えているほど印象的な出来事だったのだろう。

 十年近くの時を経て、ハインリヒ殿下とクリスタちゃんはもう一度和解したのだった。


 湖の周辺の探索から戻ってくると、撮影班は写真の額装を終えていた。両手で持てるくらいの大きさの写真が額に収まって一人一人に手渡される。

 デニスくんとゲオルグくんは初めての写真に興味津々だった。


「小さな絵が写してある!」

「おにいさま、おねえさま、わたしたちがいるよ!」


 写真に感激しているのはデニスくんとゲオルグくんだけではなかった。


「ハインリヒお兄様、わたくしの写真です! これはわたくしの写真です!」

「ユリアーナも写真がもらえてよかったね」

「わたくしとハインリヒお兄様とデニス殿と……たくさん写っています!」

「大事な夏の思い出ができたね」


 ユリアーナ殿下は写真を胸に抱いて大事に持って帰っていた。


「じっとしておくのは大変だったけど、写真がもらえたのは嬉しいです。ありがとうございます、エクムント様!」

「わらないようにします、エクムントさま!」


 エクムント様が言っていたように、デニスくんとゲオルグくんにも写真をあげることができて、本当に良かったとわたくしは思っていた。やんちゃなデニスくんとゲオルグくんだが、写真は大事にするのではないかと、わたくしは思っていた。


読んでいただきありがとうございました。

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