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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
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17.授業でのグループ発表

 学園での授業は学年が上がるにつれて難しくなってくる。

 わたくしは五年生になっていたので、グループを作って発表をしなければいけないことになった。

 テーマは自分で選んでいいので、わたくしは辺境伯領のことを選ぼうと思っていた。


「エリザベート嬢、グループ発表は誰と組むおつもりですか?」

「まだ全然決まっていません。わたくし、辺境伯領のことを調べようと思っているので、同じテーマの方がいればいいのですが」

「よろしければ、私と組みませんか?」

「わたくしも辺境伯領について調べてみたいです」

「私もいいですか?」


 ハインリヒ殿下に声をかけられていると、ミリヤムちゃんもオリヴァー殿もわたくしに声をかけてくる。三、四人でのグループを作って発表するようにと言うことだったので、これでグループのメンバーは揃った。

 わたくしとハインリヒ殿下は学年の首席を争う仲で、ミリヤムちゃんもオリヴァー殿も学年で五位以内に入る優秀さである。

 テーマは決まっていたので四人で手分けして調べることにした。

 わたくしたちは学園の図書館に行った。学園の図書館は王立図書館に比べるととても小さいが、それでもそこそこの蔵書はあった。

 ハインリヒ殿下とオリヴァー殿が辺境伯領の歴史を、わたくしとミリヤムちゃんが辺境伯領の特産品を調べることになった。


 辺境伯領と言えば隣国と接している場所や、海に繋がっている場所があって、隣国と不仲だったときには最前線であったし、交易では海賊の被害も大きく、海軍が活躍していたはずだ。

 その反面、交易品が大量に入ってきて豊かであったし、長く続く特産品の葡萄酒や紫色の布も今はこの国では知らぬものはいないほど有名になっている。紫色の布は貴婦人ならば一着はドレスを誂えて持っているほどだし、葡萄酒は王宮の式典でも振舞われる。

 それだけでなく、昔から続くガラス工芸をコスチュームジュエリーに変えて新しく売り出したり、ネイルアートの技術者を育てて各地に送り出したり、フィンガーブレスレットの工房を建てて売り出したり、辺境伯領はとても有名になっている。

 夏の暑さが厳しいのが困りものだが、それさえ耐えられたら辺境伯領はとても素晴らしい土地だとこの国の誰もが認知していた。


 辺境伯領のよさをもっと伝えたい。

 わたくしとミリヤムちゃんは辺境伯領の特産品に関して調べていく。辺境伯領は海産物や交易で得られた美しい紙や糸や布も有名で、調べ出すといいところが満載で止まらない。


 ハインリヒ殿下とオリヴァー殿も歴史についてしっかりと調べてくれているようだ。


「辺境伯領にずっと住んでいますが、知らないことがありますね」

「隣国の他に、辺境伯領は彼の国からも海を経由して攻められていたようなのです」

「それに辺境伯家率いる海軍が勇敢に立ち向かい退けたとあります」


 二人の話はわたくしにも初耳だった。

 辺境伯領は彼の国とも交戦状態だったことがあったのか。


「もう二百年も前のできごとですがね」

「資料があったから調べられました」


 ハインリヒ殿下とオリヴァー殿の調べ物も順調に進んでいる様子だった。


 発表の日になってわたくしとハインリヒ殿下とオリヴァー殿とミリヤムちゃんは前に立って、この国と周辺の国の地図を示して説明した。


「調べた結果として、辺境伯領は長く戦いが続いていましたが、今は平和になったというわけではありませんでした」

「今も辺境伯領の海軍は海賊たちと戦っています」

「辺境伯、エクムント・ヒンケル様が海軍を率いて指揮をなされています」


 わたくしとミリヤムちゃんも発表する。


「辺境伯領の特産品と言えば、様々な濃淡があり全く別物にも見える紫色の布と、王宮でも愛されている葡萄酒、それに最近では古くからのガラス工芸の技術で作られたコスチュームジュエリーに、各地に派遣されたネイルアートの技術者たち、フィンガーブレスレットなどがありますが、それだけではありませんでした」

「古くから交易を続けてきた辺境伯領には周辺諸国の様々な特産品が集まっています。色とりどりの模様の付いた紙、美しい糸や布、これだけではありません。珍しいスパイスや花などの植物も特産品として仕入れられています」

「辺境伯領はその土地で作られたものだけでなく、交易品も豊かな土地だと言えるでしょう」


 調べたことをすべて説明した後に、最後に纏めとしてわたくしとミリヤムちゃんで述べて発表は終わった。

 わたくしは辺境伯領のことを以前よりもよく分かったような気になって、少し得意な気分になっていた。

 質問の時間になっても誰も手を上げない。

 それだけわたくしたちの発表が完璧だったということだろうか。

 何も質問がなかったらいけないので、先生が手を挙げた。


「辺境伯領の今後の課題というのは見えてきましたか?」


 今後の課題。

 それは考えていなかったが、わたくしはその場で即座に考える。


「辺境伯領は古い風習がまだ残っていて、女性の社会進出が遅れています。ネイルアートの技術者を育てることや、フィンガーブレスレットの工房に女性を雇うことで多少は改善されていますが、それだけではまだ足りません。女性の社会進出が今後の課題となってくるでしょう。それに食生活の問題もあります。辺境伯領では野菜をそれほど食べません。それは辺境伯領の暑さの中で育つ野菜が限られてくるからです。そのために壊血病が交易船や海軍で流行ったと思われます。中央との交易も盛んになってきている今、それを解決できる方法があると思います。それが今後の課題だと考えます」


 ザワークラウトを食べるように指導して予防できた壊血病だが、それももともと野菜を食べない風習にあったのかもしれない。

 その話を口にすれば、先生が「そういえば」と口を開く。


「エリザベート様は辺境伯領で壊血病の予防策を考えられたのでしたね。素晴らしい発表でした。皆さん、拍手を」


 先生にも褒められてわたくしたちの発表は終わった。

 誇らしく発表を終えて席に着いたわたくしとハインリヒ殿下とオリヴァー殿とミリヤムちゃんに、先生が言う。


「今日の発表は、六年生での卒業論文のテーマを決めるきっかけにもなるものでした。今回の発表のテーマを必ずしも卒業論文に繋げなくてもいいのですが、六年生では卒業論文があるということを覚えておいてください」


 他の生徒にも向けて発言された言葉にわたくしもハインリヒ殿下もオリヴァー殿もミリヤムちゃんも頷いて聞いていた。


 授業が終わってお茶会の時間になると、今日の発表のことを聞きつけたクリスタちゃんとレーニちゃんがわたくしとハインリヒ殿下とオリヴァー殿とミリヤムちゃんに話しかけてきた。


「お姉様たちは今日は素晴らしい発表をされたと聞いています」

「辺境伯領のことだったのでしょう? わたくしも同学年だったら聞きたかったですわ」

「辺境伯領の歴史と特産品について調べました」

「歴史を私とオリヴァー殿で調べました」

「辺境伯領に住んでいますが、知らないこともあって新鮮でした」

「特産品をわたくしとミリヤム嬢で調べました」

「エリザベート様がリードしてくださったので、とても調べやすかったです」


 説明すると、クリスタちゃんもレーニちゃんも真剣な表情で聞いている。もちろん、リーゼロッテ嬢も真剣な表情で聞いていた。


「わたくしも五年生になったら発表しなければいけないときが来るのでしょうか」

「そのときにはご一緒しましょうね、クリスタ嬢」

「もちろんです、レーニ嬢」


 手を取り合って言い合っているクリスタちゃんとレーニちゃんにわたくしも頬がほころぶ。


「僕はそろそろ卒業論文を書き始めないといけません」

「ノルベルト兄上の卒業論文は何ですか?」

「隣国の言葉と詩について調べています」


 ノルベルト殿下はノエル殿下の大好きな詩について、隣国の言葉と共に調べていた。


「隣国の言葉で書かれた詩を自分で訳しています。隣国の言葉にも慣れなければいけませんからね」


 学園を卒業すればノルベルト殿下は隣国の皇女であるノエル殿下と結婚する。ノエル殿下と話すときにノルベルト殿下が隣国の言葉を使うこともあるだろう。生まれてくる子どもたちにはこの国の言葉と隣国の言葉を同時に教えることになるだろう。

 ノルベルト殿下らしい卒業論文のテーマにわたくしは辺境伯領のことしか考えていなかったことに気付いて、少し恥ずかしかった。


 もっと広い視野を持つこともこれから必要になってくるだろう。


 六年生で卒業論文のテーマに何を選ぶのか。

 それはまだ決まっていなかった。


読んでいただきありがとうございました。

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