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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
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14.エクムント様の始末の付け方

 豪華なケーキにアイスクリームが添えられて出てきて、お茶会はとても盛り上がって終わった。

 真っ赤な艶々としたサクランボがぎっしりと乗ったタルトを食べたまーちゃんはとても満足そうだった。まーちゃんのお誕生日は毎年ノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日の間なのでお茶会を開けないが、国王陛下御一家とのお茶会でまーちゃんは納得している様子だった。


 お茶会の後にはわたくしはエクムント様に、クリスタちゃんはハインリヒ殿下に、レーニちゃんはふーちゃんに手を引かれて部屋に戻った。まーちゃんはオリヴァー殿に手を引かれて両親とふーちゃんとまーちゃんの部屋に戻ったようである。


 今日のお茶会では甘い言葉が飛び交っていたのでわたくしは部屋に帰ってからも頬が熱かった。

 正式な昼食会やお茶会や晩餐会のときよりも簡素なワンピースを着て、化粧もほとんどしていなくて、靴も普段学園で使っているものを履いていたのに、エクムント様はわたくしを変わらず褒めてくださった。それだけでなく、存在自体が尊いとまで言ってくださった。

 結婚して年月を経てわたくしが老いても、エクムント様の気持ちは変わらないのだろうと思うと、今の若い表面だけの美しさを褒めてくださっているのではなくて、わたくしの内面やわたくしがわたくしであるというだけで、エクムント様にとっては美しく感じられているのだろうと実感すると嬉しいような、気恥ずかしいような気持になってくる。

 クリスタちゃんもハインリヒ殿下から甘い言葉をもらえて満足している様子だった。


「エクムント様は本当にお姉様に夢中なのですね」

「ハインリヒ殿下もクリスタちゃんに夢中ですよ?」

「そうだと嬉しいですわ。今日は嬉しい言葉をたくさんいただけてとても嬉しかったです」


 エクムント様があれだけ饒舌に語ったからこそ、ハインリヒ殿下も何か言わなければいけないと必死になったのかもしれない。エクムント様は流れるように言葉が口から出てきていたが、ハインリヒ殿下は若干ぎこちなかった気もする。それはもう年の功と言うしかないのかもしれない。


「ふーちゃんは今日もとても可愛かったです。わたくしにあんなに好意をまっすぐに向けてくれて、わたくし、とても幸せでした」


 レーニちゃんはレーニちゃんで嬉しそうにしている。ふーちゃんの言葉を素直に受け取ってくれるからこそ、レーニちゃんのことがふーちゃんはこんなにも好きなのかもしれないと感じる。

 本当にどのカップルも甘い雰囲気で終わった最高のお茶会だった。


 翌日の朝は早くにふーちゃんとまーちゃんとデニスくんとゲオルグくんに起こされたのだが、その声が少し悲しげだったのに気付いていた。


「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、今日は雨なのです」

「お外にお散歩に行けません」

「お姉様、傘をさしてお散歩に行ってはいけないと、お父様とお母さまに言われました」

「おちゃかいがあるのに、かぜをひいてはたいへんといわれたのです」


 傘を差してお散歩をしてもいいのだが、小さい子は傘を差すのもあまり上手ではない。傘からはみ出して濡れてしまったり、興味があることに夢中になって傘を忘れてしまったりすることもあるだろう。特にデニスくんとゲオルグくんはやんちゃなので、リリエンタール公爵夫妻も心配して、傘を差してのお散歩は禁止したのかもしれない。


「エリザベートお姉様、どうしますか?」

「今日のお散歩は無理でしょうか、お姉様?」


 レーニちゃんとクリスタちゃんに相談されて、わたくしは一か所、こんな雨の日にぴったりな場所を思い付いていた。


「書庫に行くのはどうでしょう? 雨の日は本を読んで静かに過ごすのです」

「書庫はいいかもしれませんね。デニスもゲオルグも、本を読んでいるときは大人しいです」

「ふーちゃんもまーちゃんも、王宮の書庫に行くのは初めてでしょう」


 それでわたくしたちの行き先は決まった。

 雨が降っているので外で待ってはいないと思うが、エクムント様とハインリヒ殿下とユリアーナ殿下とオリヴァー殿とナターリエ嬢に手早く手紙を書いて、書庫に行く旨を伝えると、わたくしたちは連れ立って書庫に行った。

 書庫では騒がしくしてはいけないという張り紙がしてあって、デニスくんもゲオルグくんも人差し指を唇に当てて「しー!」と喋らないようにお互いに言っている。

 少し遅れて到着したエクムント様とハインリヒ殿下とユリアーナ殿下とオリヴァー殿とナターリエ嬢も、書庫に入ってきた。

 広い書庫ではないが、このくらいの人数ならば入っても平気だ。

 デニスくんとゲオルグくんは植物図鑑を棚から取って二人で席について読んでいるし、そこにユリアーナ殿下が混ざりたそうにしている。ふーちゃんは詩の本をレーニちゃんと読んでいるし、まーちゃんはオリヴァー殿とナターリエ嬢に薔薇の図鑑を見せてもらって、庭に植えた薔薇がどれかを教えてもらっていた。

 わたくしは異国のスパイスを使った料理の本を持ち出して、エクムント様にカレーの説明をする。


「これがわたくしの食べたいものなのです」

「異国のものは興味がありますよね。スパイスは今集めさせています。夏休みには集まるのではないでしょうか」

「それでは、カレーが食べられるのですね」


 夏休みにはカレーライスが食べられるかもしれない。その知らせはわたくしにとってとても嬉しいものだった。


 クリスタちゃんはハインリヒ殿下に詩の本を見せていて、ハインリヒ殿下は笑顔が若干ぎこちなくなっているのは気のせいではないかもしれない。わたくしもハインリヒ殿下もエクムント様も、詩は高尚すぎて理解ができないのだ。芸術とはかくも難しいものだったのかと困ってしまう。

 ハインリヒ殿下に心の中でエールを送りつつ、わたくしはわたくしの欲望を満たすべく、カレーの話をエクムント様とした。


 朝の書庫での時間はとても有意義に過ごせた。

 天井を打つ雨音を聞きながら、わたくしたちはそれぞれの部屋に帰った。


 ハインリヒ殿下のお誕生日の昼食会では、わたくしはエクムント様の隣りに座った。エクムント様はわたくしのグラスに入っている葡萄ジュースを警戒して、確かめていた。


「失礼してよろしいですか?」

「はい、お願いします」

「匂いは普通の葡萄ジュースに思えますね。多分大丈夫だと思います」

「ありがとうございます」


 わたくしも酩酊して動けなくなってしまうようなことはもう嫌だったので、エクムント様が確かめてくださるのを感謝して受け入れていた。

 わたくしがエクムント様に抱き上げられて晩餐会を辞したのは貴族の中で噂になっていたようだ。


「エクムント様とエリザベート様は本当に仲睦まじい婚約者ですね」

「あの後お二人でどちらに行かれたのでしょうね」

「楽しく過ごされたのでしょうか?」


 こんな噂が出てしまうのは本意ではなかった。

 マイルドに言っているが、貴族的な言い回しを抜きにすると、「まだ結婚していないのに大胆すぎるのではないか」とか「二人で抜け出してひとに言えないことをしたのではないか」とか「あの晩はお楽しみだったのでしょうね」とかそういう意味である。

 婚約者とはいえ、わたくしはまだ十六歳であるし、貞節は大事にしたいと思っている。エクムント様に限ってそんなことは絶対にないし、エクムント様が年端も行かない婚約者を酔わせて襲っただなんて噂は聞きたくもなかった。


「婚約者として、責任をもってエリザベート嬢を部屋まで送りました。それ以外に何があるでしょう。そういうことを想像する暇があったら、もっと国のためになることをお考えになったらどうですか?」


 ぴしゃりとエクムント様に言われてしまって場が鎮まる。静かになったのでわたくしも胸を撫で下ろしていた。


「エクムント様が婚約者とはいえ未婚の女性に何かなさるはずがありません。わたくしとエクムント様は結婚するのですから、焦る必要もありませんし」

「エリザベート嬢は堂々としていてください。私たちに後ろめたいことはなにもありません」

「はい、エクムント様」


 エクムント様に背を押されてわたくしも背筋を伸ばした。

 エクムント様が婚約者でよかったと心から思った瞬間だった。


 昼食会が終わるとお茶会が始まる。

 お茶会までの短い休憩時間に、わたくしとクリスタちゃんはふーちゃんとまーちゃんを呼んできて、レーニちゃんはデニスくんを呼んできていた。


「レーニ嬢、お茶をご一緒いたしましょう」

「はい、フランツ殿、喜んで」

「オリヴァー殿、お茶をご一緒いたしましょう」

「マリア様、ナターリエも一緒でいいですか?」

「もちろんです、ナターリエ嬢もご一緒いたしましょう」


 ふーちゃんもまーちゃんも素早くレーニちゃんとオリヴァー殿に声をかけている。


「クリスタ嬢、踊ってくれませんか?」

「はい、ハインリヒ殿下」


 クリスタちゃんはダンスに誘われてハインリヒ殿下の手を取っている。


「エリザベート嬢、雨の日のテラスも悪くないかもしれませんよ」

「ご一緒させてください」


 エクムント様に誘われて、わたくしはテラスに出た。

 ひさしがあるのだが多少は雨が降り込んでくる。斜めに降った雨で濡れた椅子をエクムント様がハンカチで拭いて座れるようにしてくださる。


「葡萄酒と葡萄ジュースが取り換えられていた件は思ったより広まっているようですね」

「貴族とは口が悪いものだと改めて思いましたわ」

「この噂もすぐに消えると思います。少しの間、我慢をさせてしまうことをお許しください」

「エクムント様のせいではありませんもの」

「私の士官学校の同期の貴族がしでかしたことです。エリザベート嬢の婚約者として、あの貴族に関しては、しっかりと処分を下しますので、ご安心を」


 どんな処分なのかは怖くて詳しく聞けなかったけれど、エクムント様に任せておけば安心だとは思っていた。


 その後、わたくしたちの噂よりも、間違って蒸留酒を大量に飲んで公の場に出た貴族が、酷い醜態をさらして、今後王宮にも公の場にも出入り禁止となるのだが、その噂で王宮は持ちきりになるのだった。


読んでいただきありがとうございました。

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