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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
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10.ノルベルト殿下の成人

 ハインリヒ殿下のお誕生日の昼食会にはわたくしとクリスタちゃんだけではなくて、レーニちゃんも参加する。レーニちゃんは黄色がかったオレンジのドレスを着ていた。

 一時期は辺境伯領の特産の紫の布が王都ではやって、レーニちゃんも紫の布でドレスを誂えていたが、最近は、辺境伯領の紫の布のドレスは貴婦人ならば一着は持っておくものとして定着しているが、やはり様々な好きな色のドレスを着るのが風潮として戻ってきている。特にレーニちゃんは紫色のドレスは誂えたものの、あまり自分には似合わなかったと言っていた。

 レーニちゃんが好きなドレスで昼食会に臨めるのが一番である。


 わたくしは髪の色が紫の光沢を帯びているので、紫色のドレスはとても似合うと自覚していたし、辺境伯の婚約者として辺境伯領の特産品を纏うのが当然と思っていたので紫色のドレスを選んでいた。クリスタちゃんはわたくしとお揃いにしたいのだろう、薄紫色のドレスを選んでいる。

 ふーちゃんは最近は辺境伯領の紫色の布のスーツは着なくなったし、まーちゃんはわたくしとクリスタちゃんのお譲りを着るのに夢中なので、辺境伯領の紫色のドレスは着ていない。

 両親も紫色のドレスとスーツを着るのは時々にしているようだ。


 髪の毛も三つ編みにした後でそれを巻き付けるようにして結い上げて、クリスタちゃんも同じように結い上げて、わたくしとクリスタちゃんはそっくりの格好をしていた。

 姉妹なのだからそれが認められる立場にある。別の家のものと同じような格好になってしまうと、身分が下の貴族が遠慮しなければいけないような事態になることもあり得ないわけではなかった。


「エリザベートお姉様もクリスタちゃんもとても美しいですわ」

「ありがとうございます。レーニ嬢もドレスがお似合いです」

「髪も凝った結い方をしていて素敵です」


 お互いに褒め合って、わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんは支度を整えた。

 鏡台の前から立ち上がって昼食会の会場に向かおうとすると、ドアがノックされる。


「エクムント・ヒンケルです。エリザベート嬢をお迎えに上がりました」

「ハインリヒ・レデラーです。クリスタ嬢、御一緒いたしましょう」


 エクムント様とハインリヒ殿下がわたくしとクリスタちゃんを迎えに来てくださったのだ。残念ながらふーちゃんは年齢的な問題で昼食会には参加できない。

 レーニちゃんだけエスコートしてくださる男性がいないというのは不公平な気もしたが、レーニちゃんはふーちゃんと年が離れていることを分かっていて婚約したのだからそれも当然のことと受け止めているだろう。


 わたくしはエクムント様に手を引かれて、クリスタちゃんはハインリヒ殿下に手を引かれて昼食会の会場に行った。

 クリスタちゃんは正面の王族の席に座って、わたくしはそのテーブルと直角になる公爵家の席に着く。両親が一番前に座って、その正面がリリエンタール公爵とレーニちゃんで、わたくしが両親の隣りで、その隣りがエクムント様だった。

 大人のグラスには辺境伯領の葡萄酒が注がれて、わたくしとレーニちゃんのグラスには葡萄ジュースが注がれた。

 葡萄酒と葡萄ジュースは一目では違いが分からない。口を近づけて匂いを嗅げばすぐに違いは分かった。


「本日はノルベルトの誕生日を祝ってくれて感謝する。ノルベルトも十八歳になって成人することになった。今年で学園を卒業し、ノエル殿下と結婚して、来年からはアッペル大公として元バーデン家の所領を治めることになる。ノルベルトが大公となってからもどうか皆の者、よろしく頼む」


 国王陛下直々に乾杯の音頭を取られたのは、今年がノルベルト殿下にとってとても大事な年だったからだろう。

 乾杯と言ってグラスを持ち上げる国王陛下に合わせて、わたくしもグラスを持ち上げた。


 ノルベルト殿下の隣りにはノエル殿下が誇らしげな顔で座っている。ノエル殿下にとってはノルベルト殿下の成人はずっと待っていたのではないだろうか。


「ノルベルト殿下、本当におめでとうございます」

「来年からはアッペル大公として領地でお誕生日を祝われるのですね」

「そうなりますね。ノエル殿下も一緒にいてくださるので、安心です」

「結婚したら、わたくしのことは『ノエル』と呼んでくださいね、ノルベルト殿下」

「はい、ノエル殿下」


 エクムント様と一緒にご挨拶をしに行くと、ノルベルト殿下とノエル殿下の仲睦まじさにあてられてしまう。わたくしはお二人を祝福するつもりで深くお辞儀をしてその場を辞した。


「エリザベート嬢は今日もとても美しい。私の婚約者がこんなに美しくて、私はとても自慢ですよ」

「そんな……エクムント様はお上手なんですから。そういえば、お約束通りに両親とフランツとマリアと、列車の時間を合わせてくださったそうで、本当にありがとうございます」

「それくらいのことで、エリザベート嬢の笑顔が見られるのだったら、いくらでもしますよ。ディッペル家のご家族は、私にとっても大事な家族のようなものですからね」


 そんなことを心から言えるエクムント様は本当に心憎いほど格好いいと思ってしまう。わたくしが見惚れていると、エクムント様がナイフとフォークを手に取る。


「食べましょうか。次の料理が運ばれてきてしまいます」

「そ、そうですね」


 食事をしっかりとして、間食はあまりしないエクムント様。今日は自分が主催の昼食会ではないのでしっかりと食べることができる。王家のテーブルで料理に口を付けることもできないクリスタちゃんに関しては気の毒に思うが、わたくしが食べるのを控えてもクリスタちゃんの口に食べ物が届くわけではないので、わたくしはわたくしでしっかりと食べる。

 レーニちゃんも王宮のご馳走をしっかりと食べていた。


 昼食会が終わると、少し休憩が入って、お茶会になる。

 休憩時間にわたくしとクリスタちゃんはふーちゃんとまーちゃんを迎えに行って、レーニちゃんはデニスくんを迎えに行っていた。

 お茶会にはユリアーナ殿下もナターリエ嬢も参加する。

 ユリアーナ殿下はハインリヒ殿下に連れてこられて、一番にノルベルト殿下のところに走っていた。


「ノルベルトお兄様、お誕生日おめでとうございます。成人、本当におめでとうございます」

「ありがとう、ユリアーナ。可愛い妹に祝ってもらえて僕は本当に幸せ者だよ」


 出産後公務は休んでいた王妃殿下も今日のお誕生日のお祝いには参加されている。

 参加されているが、負担が少ないように挨拶などはしなくていいように国王陛下が取り計らってくれているようだ。


「ノルベルト、あなたは本当に立派に育ってくれました。育ての親として嬉しく思います。わたくしはあなたを本当の息子のように思っています」

「王妃殿下、ありがとうございます。王妃殿下は僕にとって親以上の存在です。王妃殿下は僕に弟妹をくれました。弟妹と触れ合うことを許してくれました。僕は王妃殿下にどれだけ感謝してもしきれないのです」


 王妃殿下とノルベルト殿下も手を取り合って今日という日を祝っているようだった。


 ノルベルト殿下にお祝いを述べたユリアーナ殿下は、今度こそ、ちゃんとデニスくんを誘いに行っていた。


「デニス殿、わたくしとお茶をしましょう」

「はい、ユリアーナ殿下」


 デニスくんはもうレーニちゃんに判断を仰がなくても返事ができるようになっている。仲良く椅子に座ってお茶をするデニスくんとユリアーナ殿下の姿に、国王陛下が王妃殿下に聞いている。


「ユリアーナはもしかして、リリエンタール公爵家のデニスが好きなのか?」

「まだユリアーナは小さいですから。恋というものが分かっていないかもしれません」

「リリエンタール家にユリアーナが嫁ぐとしたら、私は何をすればいいのだろう」

「国王陛下、気が早すぎますよ。ユリアーナはまだ六歳ではないですか」


 逸る国王陛下を王妃殿下が止めていた。


 お茶会の軽食やケーキの置かれているテーブルに行くと、サンドイッチやキッシュやスコーンの他に美味しそうなケーキもあってわたくしは大いに誘惑されてしまう。エクムント様のようにストイックに自分が食べる量を調整できればいいのだが、様々な種類のケーキを見ると、これも食べたい、あれも食べたいと、ついつい手が伸びる。

 お皿に山盛りになってしまわないように気を付けながら、わたくしはケーキとキッシュとサンドイッチを取り分けた。スコーンも食べたかったが、ぐっと我慢した。


 エクムント様は少しのサンドイッチをお皿に乗せているだけで、後はお茶で済ますおつもりのようだ。

 わたくしも紅茶を頼んで、ミルクポットから牛乳をたっぷりと入れた。


「明日はマリア嬢のお誕生日ですね」

「はい。マリアは国王陛下御一家とお茶をするのを楽しみにしております」

「私も招待されています。明日もお迎えに上がりますね」

「は、はい」


 優しく低く甘く響くエクムント様の声に、わたくしは頬を染めながら頷いた。


読んでいただきありがとうございました。

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