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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
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9.ネイルアートの技術者の名前はクラリッサ

 不幸にも事故が起きてしまってレーニちゃんのお誕生日のお茶会には残念ながら参加できなかったが、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日には参加する予定だった。

 前日から王宮に入るわたくしとクリスタちゃんは、学園から直接王宮に向かっていた。

 王宮でディッペル家の両親とふーちゃんとまーちゃんと合流する。

 両親とふーちゃんとまーちゃんはわたくしとクリスタちゃんに話してくれた。


「エクムント殿が婚約者の家族の安全のためにと、駅で列車の時間を合わせてくれて待っていてくれて、王宮までは一緒に来ました」

「エクムント殿の馬車が後ろについていてくださると思うと、心強かったよ」

「エクムント様、馬車を降りるときに私に手を貸してくださいました」

「わたくしにもです」


 約束通りエクムント様はわたくしの家族を守っていてくれた。見えないところでも家族が守られているのを感じるとわたくしも心底安心する。わたくしが馬車の事故をとても怖がっているのを理解してくださって、申し出てくださったのだが、ありがたくてわたくしはエクムント様に一刻も早くお礼を申し上げたい気分だった。


「ネイルアートの技術者も連れてきました」

「お母様、その方もディッペル家の専属になったのですから、お名前で呼んでもいいでしょうか?」

「そうですね。あなた、名前は何といいますか?」

「クラリッサと申します」

「それでは、今後はクラリッサと呼ばせてもらいますね」


 ディッペル家専属のネイルアートの技術者となった女性は、認められて今後は名前で呼ばれるようになった。母がそれを認めたのだから誰も文句はない。


「クラリッサ、明日は早いので、今日のうちに爪を塗ってくれますか?」

「わたくしもお願いします」

「順番にお塗り致しますね」


 母とまーちゃんは爪を塗ってから来ていたので、わたくしとクリスタちゃんが爪を塗ってもらう。


「換気をさせていただいていいですか? マニキュアの匂いは気分が悪くなってしまわれる方もいるようなのです。頭が痛いなど、ありませんか?」

「わたくしは平気です」

「わたくしも平気ですが、換気はさせましょうね」


 ついてきているヘルマンさんとレギーナに指示すると、すぐに窓を開けてくれる。初夏で暑かったので涼しい風が入ってきて心地よかった。

 丁寧に爪を塗ってもらって、乾いたのを確認してからわたくしとクリスタちゃんは自分たちに振り分けられた部屋に向かった。そこには例年通りレーニちゃんも一緒だ。


「クリスタちゃん、エリザベートお姉様、遅かったのですね」

「爪を塗ってもらっていたのですよ」

「ディッペル家では専属のネイルアートの技術者を雇ったのです。クラリッサというのですが」

「そうなのですね。リリエンタール家も専属のネイルアートの技術者を雇ってほしいですわ」


 そう言うレーニちゃんの爪は塗られていなかった。

 レーニちゃんもお洒落をしたかったであろうことを考えると、わたくしは召使いの部屋に戻っているクラリッサを呼んだ。


「クラリッサ、リリエンタール家のレーニ嬢です。レーニ嬢にもネイルアートをしてくださいませんか?」

「喜んでさせていただきます」


 換気をといわれていたのでわたくしは部屋の窓を開けて、レーニちゃんが爪を塗ってもらうのを見ている。

 レーニちゃんの爪もはみだしもなく、クラリッサは綺麗に塗ってしまった。


「ありがとうございます、クラリッサ」

「お気に召せば幸いです」

「お礼にリリエンタール家から代価を払わせます」

「いいえ、わたくしはディッペル家から十分な代価をいただいております。それ以上を望むなど恐れ多いことです」

「技術には対価が払われなければいけません。どうか、受け取ってください」


 強くレーニちゃんに言われてクラリッサは困っているようだ。

 ディッペル家から代価をもらってリリエンタール家からまでもらうと、ディッペル家の専属のネイルアートの技術者という地位を失いかねないと思ったのかもしれない。


「わたくしがお願いしたのですから、両親にもしっかりと伝えておきます」


 そこは年長者のわたくしが責任をもって伝えるというと、クラリッサも安心していた。

 夕食の時間になってわたくしはディッペル家の部屋に、レーニちゃんはリリエンタール家の部屋に一度戻る。

 食事をしながらわたくしはレーニちゃんの爪をクラリッサに塗ってもらったことを両親に報告した。


「リリエンタール家にはまだ専属のネイルアートの技術者がいないようで、レーニ嬢が爪を塗れていなかったので、クラリッサにお願いしました」

「クラリッサは腕のよい技術者だから重宝しますね」

「レーニ嬢は喜んだだろう」

「リリエンタール家から代価を支払うと言っていました。それをクラリッサは遠慮しようとしたのですが、わたくしはもらって当然のお金と思ったので受け取るように言いました」

「クラリッサが働いたのならば、リリエンタール家から代価をもらって当然ですね」

「クラリッサはそれではディッペル家に示しがつかないと思ったようです」

「クラリッサにもらっても構わないということを後で伝えよう」


 両親も認めてくれたのでわたくしは安心していた。

 クラリッサのことはまーちゃんもとても気に入っているので、ディッペル家で長く仕えるネイルアートの技術者になりそうだ。母も気に入っているので、まーちゃんが結婚して辺境伯領に行った後も、ふーちゃんがレーニちゃんを妻として迎えて、母とレーニちゃんにネイルアートをしてもらっているかもしれない。


「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、お休みなさい」

「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、また明日」


 部屋を出るときにはふーちゃんとまーちゃんが送り出してくれた。

 わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんの部屋に戻って、お風呂に入って髪を乾かして、寝る準備をしていると、レーニちゃんがわたくしとクリスタちゃんに聞いてくる。


「明日は朝のお散歩にオリヴァー殿とナターリエ嬢もご一緒するのでしょうか?」

「まーちゃんがお声をかけていたようだから、ご一緒すると思いますよ」

「オリヴァー殿もナターリエ嬢も早起きは得意のようでしたし」


 わたくしとクリスタちゃんが答えると、レーニちゃんは納得して眠りに落ちて行った。わたくしとクリスタちゃんもすぐにぐっすりと眠った。


 早朝にはふーちゃんとまーちゃんとデニスくんとゲオルグくんの元気な声で起こされる。


「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、お散歩に行きましょう!」

「今日はオリヴァー殿とナターリエ嬢は来てくださるかしら」

「お姉様、お散歩に行きましょう」

「おねえさま、おきてー!」


 起こされて支度をして部屋から出ると、ふーちゃんは素早くレーニちゃんと手を繋ぐ。デニスくんはゲオルグくんと手を繋いでいる。まーちゃんはクリスタちゃんと手を繋いで、わたくしを置いていきそうなくらい元気よく歩いて行った。

 王宮の庭ではエクムント様とオリヴァー殿とナターリエ嬢と、ユリアーナ殿下とハインリヒ殿下と合流する。

 ユリアーナ殿下もハインリヒ殿下もものすごく眠そうだが、何とか頑張って起きてきたようだ。


「クリスタ嬢と朝の散歩をしたくて起きました」

「嬉しいですわ、ハインリヒ殿下」


 クリスタちゃんがハインリヒ殿下の元に歩み寄っているときには、まーちゃんはさっさとクリスタちゃんの手を放し、オリヴァー殿とナターリエ嬢の方に向かっていた。


「おはようございます、オリヴァー殿、ナターリエ嬢」

「朝のお散歩をナターリエがとても楽しみにして、五時過ぎから起きているのですよ」

「お兄様、恥ずかしいからやめてください」

「マリア様に誘われたのが嬉しかったようです」

「わたくしも来てくださって嬉しいです。一緒に庭を見て回りましょうね」


 まーちゃんは王宮に来ると毎回お散歩に行っているので、オリヴァー殿とナターリエ嬢を案内するつもりのようだ。


「皇帝ダリアを見たことがありますか? わたくし、見てびっくりしたのですよ」

「見たことがないですね」

「わたくしも見たいです」


 オリヴァー殿とナターリエ嬢の手を引くまーちゃんの言葉に、今日のお散歩の行き先は決まった。

 皇帝ダリアはとても背が高く五、六メートルにもなる花だ。それを初めて見せてくれたのはエクムント様で、わたくしにとってもいい思い出になっている。

 自然と手を差し出すエクムント様の手に手を重ね、わたくしはまーちゃんとオリヴァー殿とナターリエ嬢を追いかけて歩き出した。

 ハインリヒ殿下はクリスタちゃんの手を引いて、ふーちゃんはレーニちゃんの手を引いて、デニスくんとゲオルグくんは仲良く手を繋いで歩いている。

 ちょっとだけデニスくんと手を繋ぎたそうなユリアーナ殿下だが、素直に言えないのかデニスくんの後を追いかけていた。


 皇帝ダリアは相変わらずの迫力で咲いている。

 それを見ながら、わたくしたちは朝のお散歩を楽しんだのだった。


読んでいただきありがとうございました。

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