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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット
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46.ふーちゃん、八歳

 ふーちゃんとクリスタちゃんのお誕生日に、ノルベルト殿下とハインリヒ殿下とユリアーナ殿下は参加しないとのことだった。王妃殿下の出産が近いので、できるだけ出産に立ち会いたいとのことだ。

 出産予定日が分かっていても、赤ちゃんというのはいつ生まれてくるか分からない。

 婚約者のクリスタちゃんの誕生日にハインリヒ殿下が来られないというのは残念なことだが、クリスタちゃんもそれを納得していた。


「わたくしもフランツとマリアが生まれるときにはお母様のそばにいたかったし、お父様はマリアが生まれるときにはハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日の式典を早く切り上げさせてもらって大急ぎで帰ってきました。ハインリヒ殿下がお誕生日のお茶会に参加されないのは寂しいですが、王妃殿下が無事に出産されることだけをお祈りしています」


 ハインリヒ殿下に色んなことを望みすぎていたクリスタちゃんだったが、レーニちゃんに言われてすっかりと心を入れ替えたようだった。お誕生日にハインリヒ殿下が来られなくても耐えられるようだった。


 ふーちゃんはレーニちゃんが来たのを見て挨拶に駆け付けている。


「レーニ嬢、来てくださったんですね! お待ちしていました」

「フランツ殿のお誕生日に来ないなんてありえませんわ。クリスタ嬢のお誕生日でもありますし」

「ようこそいらっしゃいました、レーニ嬢。わたくしとフランツのお誕生日に来てくださって嬉しいです」

「フランツ殿、クリスタ嬢、お誕生日おめでとうございます。クリスタ嬢のお誕生日には別にお伺いしますけれど」


 レーニちゃんは例年通り、クリスタちゃんのお誕生日にもディッペル家に来てくれるようだ。ハインリヒ殿下も王妃殿下の出産が終われば、クリスタちゃんのお誕生日には来られるかもしれない。


「クリスタ嬢はハインリヒ殿下が来られなくて残念でしたね」

「出産は何が起こるかわかりませんから。仕方がないと思っています」


 レーニちゃんに言われてクリスタちゃんは表情を引き締めている。クリスタちゃんは我が儘を言わないように気を付けているのかもしれない。


「クリスタお姉様、私ばかり楽しんでしまってごめんなさい」

「フランツは気にしないでレーニ嬢との時間を楽しんでいいのですよ」


 クリスタちゃんは大らかにふーちゃんに言っていた。


「オリヴァー殿、ナターリエ嬢、いらっしゃいませ。お兄様とクリスタお姉様のためにありがとうございます」

「マリア様、こんにちは。お招きいただきありがとうございます」

「マリア様、お久しぶりです」


 オリヴァー殿とナターリエ嬢にまーちゃんが挨拶をしている。


「ナターリエ嬢、冬にご一緒することがあったら、雪合戦をしませんか?」

「雪合戦ですか?」

「わたくしとユリアーナ殿下で女の子チーム、お兄様とデニス殿とゲオルグ殿で男の子チームで勝負したのです。女の子チームの方が数が少なかったので、準備時間を十分もらって、雪玉と身を隠すかまくらと、落とし穴を準備したのです」

「それは楽しそうです!」

「かまくらに身を隠していたら、お兄様とデニス殿とゲオルク殿が前に出てきて、落とし穴に落ちたのです」

「すごいです! 女の子チームが勝ったのですね」

「そうです! わたくしとユリアーナ殿下の勝利でした」


 銀色の光沢のある黒いお目目をきらめかせながら話すまーちゃんに、ナターリエ嬢が興味を持って聞いている。

 雪合戦に誘われたナターリエ嬢は身を乗り出している。


「わたくしも参加したいです。お兄様、いいでしょう?」

「次に冬にご一緒したときには、朝にお散歩に行きましょう。何時ごろですか?」

「毎朝六時ごろです」

「それでは、そのころに起きるようにナターリエに声をかけましょうね」


 オリヴァー殿にも時間を告げて、まーちゃんはナターリエ嬢と約束していた。


 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とユリアーナ殿下が来られていないので、お誕生日のお茶会は少し寂しい気配だった。

 一人でお茶を飲んでいるクリスタちゃんにわたくしとエクムント様が合流すると、レーニちゃんとふーちゃんも来ていた。


「クリスタお姉様、一緒にお茶をしましょう」

「クリスタ嬢、ご一緒しましょう」


 ふーちゃんとレーニちゃんに声をかけられて、クリスタちゃんはそちらに向かっている。わたくしも声をかけようかと思ったけれど、レーニちゃんとふーちゃんが一緒ならば安心だと送り出した。

 エクムント様とお茶をしようとしていると、エクムント様がわたくしの手を握る。

 指を絡めて手を繋がれて、わたくしは思わずエクムント様の手を見てしまう。


 これは、恋人繋ぎというのではないだろうか。


 こんな風に指を絡めて手を繋いでいると、身動きが取れなくなる。


「エクムント様……?」

「エリザベート嬢、こういう風に手を繋いだことはなかったですね」

「は、はい」


 指を絡めているとエクムント様の手が大きいのがよく分かる。エクムント様の手に包まれてわたくしの手がじんわりと熱くなってくる。手汗をかきそうになってわたくしは慌ててしまうが、エクムント様はわたくしの手を放してくれない。

 エクムント様はとても敏感な方だ。軍人をされているので、ひとの変化によく気付かれるのだ。


「エリザベート嬢、踊りましょうか?」

「はい、エクムント様」


 この状況から逃れられるならばわたくしは踊ってもいいと思った。

 ピアノを中心に大広間の端で音楽隊が演奏している。そこに近付くと踊りの輪ができていた。

 踊りの輪の中に入ると、手が離れる。安心すると共に、少し寂しさが沸き上がった。


 エクムント様の大きな手がわたくしの腰に回って、反対の手が手を取る。わたくしはエクムント様の肩に手を置いて、エクムント様の手の上に手を置いた。

 音楽に合わせてエクムント様と一緒に踊る。

 エクムント様の足を踏まないように気を付けながら踊っていると、エクムント様がわたくしの耳に囁いた。


「注目されていますよ。私が美しいエリザベート嬢を独占しているから」

「ど、独占!?」


 わたくしはエクムント様以外と踊る気はなかったし、エクムント様に独占されているのは嬉しかったのだが、言葉にされると恥ずかしくて飛び上がりそうになってしまう。

 エクムント様は最近わたくしにこんな甘いことばかり囁いてくる。

 慌ててしまうわたくしの手を引いてエクムント様がわたくしをバルコニーに連れ出す。

 バルコニーでエクムント様と二人きりでわたくしは踊る。

 エクムント様の腕がわたくしを強く引き寄せて、気が付けばわたくしは抱き上げられていた。

 そのままくるくるとエクムント様が回る。


 わたくしは顔も真っ赤になっていたに違いない。


 踊りが終わってわたくしとエクムント様は会場に戻った。


「急に抱き上げられたので驚きました」

「私がエリザベート嬢を落とすことはないだろうと思ったのでリフトさせていただきました」

「エクムント様、心臓に悪いです」

「すみません。美しいエリザベート嬢を誰にも見せたくなかったのです」


 本来ならばリフトなど社交ダンスでは行わないが、二人きりだったので特別だったのだろう。


 そんなことを言われてしまうとそれ以上エクムント様を責めることはできなくなる。

 軽食の乗っているテーブルからサンドイッチやキッシュを取り分けてミルクティーと一緒にいただいて一息つくと、エクムント様がわたくしのお皿を見て首を傾げる。


「ケーキやポテトチップスはいいのですか?」

「わたくしもエクムント様と同じようにしたいのです」

「私に合わせる必要はないのですよ。エリザベート嬢はまだ十六歳で食べ盛りです。しっかり食べてください」


 エクムント様に言われると、そうしてもいいかもしれないと思えてくる。

 わたくしは我慢していたケーキやポテトチップスもお皿に取り分けた。


「ユリアーナ殿下はポテトチップスが大好きでしたね。来られなくて残念です」

「王妃殿下が無事に出産なさったら、ユリアーナ殿下もハインリヒ殿下とノルベルト殿下と一緒に自由にお茶会に参加できることでしょう」


 王妃殿下の出産予定日は明らかにされていたが、それはクリスタちゃんのお誕生日の後なので、クリスタちゃんのお誕生日にもハインリヒ殿下が来られるかは分からない。

 ハインリヒ殿下ならば、その日だけは特別にしてもらって来るかもしれないが、それも今は分からない。


「王妃殿下の出産が無事に終わりますように」

「祈ることしかできませんね」


 わたくしもエクムント様も、王妃殿下の出産の無事を祈ることしかできなかった。


 クリスタちゃんのお誕生日が終われば新しい年度になる。

 わたくしは学園の五年生になり、クリスタちゃんは学園の四年生になるのだ。


 わたくしがエクムント様に嫁ぐまで後二年。


 わたくしはその日を心待ちにしていた。


これで十一章は完結です。

エリザベートの恋の行方はいかがだったでしょうか。

次の章も引き続きお楽しみいただけると幸いです。

感想、励ましなどいただけると、作者の励みになります。

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