43.女の子チームの策略
王都での国王陛下の生誕の式典が終わった翌朝、わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんは元気な声に起こされた。部屋の空気は冷えていて、布団から出るのがつらい時刻だ。
それでも元気な声は容赦なくわたくしを呼ぶ。
「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、レーニ嬢、お散歩に行きましょう」
「おはようごさいます、エリザベートお姉様、クリスタお姉様、レーニ嬢」
ふーちゃんとまーちゃんだ。それに続いてデニスくんとゲオルグくんの声も聞こえる。
「エリザベート嬢、クリスタ嬢、おはようございます。お姉様、お散歩に行きましょう」
「わたし、はやおきしました。フランツどのとマリアじょうとあそびたいのです!」
弾む声で言われるとふーちゃんとまーちゃんとデニスくんとゲオルグくんのために起きるしかなくて、わたくしは布団から寒い室内に出た。震えるが洗面をして支度をしなければいけない。
「小さい子ってどうしてあんなに元気なのでしょう」
「元気なのはいいことですが、わたくしは寒いし、もう少し寝ていたかったですわ」
「可愛い弟たちのため、ふーちゃんとまーちゃんのためですから」
欠伸をかみ殺しているクリスタちゃんはわたくしと同じ意見のようだが、レーニちゃんはてきぱきと準備をしていた。
支度が整うと、コートとマフラーと手袋を身に着けて王宮の庭に出る。庭ではエクムント様とユリアーナ殿下が待っていた。
「今日はわたくしの方が早かったですわね。エクムント様とお話をしていました」
「ユリアーナ殿下は昨日は晩餐会が終わったらすぐに部屋に戻ったのですよね」
「そうです。舞踏会の様子も見ておきたかったけれど、眠くて眠くて、とても無理でした」
わたくしたちを待っている間、エクムント様はユリアーナ殿下と話をしていたようだ。エクムント様は優しくて小さい子どもにもよく話をしてくださるので、ユリアーナ殿下も退屈しなかったことだろう。
「デニス殿、ゲオルグ殿、フランツ殿、マリア嬢、わたくしも雪合戦をしたいのです」
「ユリアーナ殿下に雪玉をぶつけても不敬と言われませんか?」
「雪合戦はそういう遊びですから、わたくし、文句は言いません。お父様とお母さまが何か言ってきても、わたくしが了承したからいいと言います」
雪合戦に興味津々のユリアーナ殿下に、まーちゃんが手をあげる。
「ユリアーナ殿下、わたくしと女の子チームを組みましょう!」
「マリア嬢と二人のチームですか?」
「デニス殿とゲオルグ殿とお兄様は、男の子チームで対決するのです」
「わたくしたちの方が人数が少なくて不利ではありませんか?」
「そこを戦術で乗り切るのです。わたくしとユリアーナ殿下の方が人数が少ないので、準備時間を十分ください」
まーちゃんは男の子三人に勝てる戦略を練っているようだ。
準備時間をもらって何か作っている。
十分後、雪合戦が開始された。
まーちゃんとユリアーナ殿下はあらかじめ作っていた雪玉を投げてデニスくんとゲオルグくんとふーちゃんに応戦している。
よく見れば雪玉だけでなく、自分たちが入れる小さなかまくらを作って、そこに入って雪玉から逃れて投げているようだ。
「隠れられたら当たりません」
「こうなったら前進です!」
「すすめー!」
前進してデニスくんとゲオルグくんとふーちゃんが雪玉を投げようとしたところで、足場が崩れて膝まで埋まる。
「落とし穴ですわ、お兄様」
「しまったー!」
動けなくなったところを、デニスくんとゲオルグくんとふーちゃんは雪玉をたくさん当てられて降伏していた。
見事な戦術で勝ったまーちゃんとユリアーナ殿下はハイタッチをして喜び合っている。
「かまくらを作ったら相手が前に出るしかなくなるなんて、よく思い付きましたね」
「そこに落とし穴を掘っておけば必ずかかると思いました」
「さすがマリア嬢です。とても楽しかったです」
満足してユリアーナ殿下が笑っているのに、デニスくんとゲオルグくんとふーちゃんは悔しそうだった。
「次の機会があったらまた戦わせてください」
「今度は負けません」
「つぎは、わたしたちもせんりゃくをかんがえましょう、おにいさま、フランツどの」
男の子チームも次は戦術を考えて、応戦する構えのようだった。
「子どもがもっと増えれば楽しく遊べるのに」
呟くユリアーナ殿下に、まーちゃんが囁く。
「次はナターリエ嬢も誘いましょう。女の子チームと男の子チームの数が同じになります」
「ナターリエ嬢はシュタール家のご令嬢でしたね。マリア嬢の婚約者のオリヴァー殿の妹で。お誘いしましょう。きっと楽しいでしょう」
次の計画を立てているのは男の子チームだけではない。女の子チームもだ。ナターリエ嬢が参加するともっと雪合戦は賑やかになるだろう。
朝のお散歩が終わると、朝食を食べてわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親はディッペル領に帰らなくてはいけない。ふーちゃんはレーニちゃんと、まーちゃんはオリヴァー殿ともっと一緒にいたかった様子だった。
「レーニ嬢、私のお誕生日には来てくださいね」
「はい、必ず参ります、フランツ殿」
「大好きです、レーニ嬢!」
馬車を待っている間にふーちゃんはレーニちゃんの手を握って一生懸命言っていた。
「オリヴァー殿、次に会えるのは、お兄様とクリスタお姉様のお誕生日ですね」
「お会いできるのを楽しみにしています」
「きっと来てくださいね」
「はい、行かせていただきます」
まーちゃんもオリヴァー殿を見上げて目を潤ませていた。
貴族の中ではディッペル家が一番に馬車が来るので、エクムント様がわたくしを馬車に乗れるように手を取ってステップを上がらせてくださる。
クリスタちゃんはハインリヒ殿下にエスコートされていた。
「ハインリヒ殿下、わたくし、ハインリヒ殿下とエクムント様を比べるようなよくないことを考えていました。お許しください。ハインリヒ殿下はハインリヒ殿下のまま、わたくしを想ってくださっていることがよく分かりました。これからは心を入れ替えてハインリヒ殿下に無理なことは望まないようにします」
「クリスタ嬢の望むような私になりたいのですが、私が力不足で申し訳ない」
「いいえ、わたくしが望みすぎたのです。エクムント様とハインリヒ殿下は違って当然でした」
「そう言っていただけると安心します。クリスタ嬢、これからもよろしくお願いします」
「はい。次は学園でお会いしましょう」
ハインリヒ殿下とクリスタちゃんの仲も落ち着いたようである。
レーニちゃんの注意のおかげでクリスタちゃんは心を入れ替えることができた。レーニちゃんがはっきりとものを言ってくれる友人でよかったと心から思う。
人数が多いので、わたくしとクリスタちゃんが乗る馬車と、両親とふーちゃんとまーちゃんが乗る馬車の二台に分かれてわたくしたちは列車の駅まで行く。列車の個室席は六人掛けなので、ちょうどいいのだが、馬車は家族全員で座ると手狭だった。
春には王妃殿下の出産が近付いてきているということなので、ふーちゃんやクリスタちゃんのお誕生日近くに新しい殿下が生まれてくるかもしれない。
年度をまたぐか、またがないかは、まだ分からない。
性別も生まれてみなければ分からない。
ユリアーナ殿下は弟妹が生まれてくるのに喜びを感じているのだろうか。
王妃殿下の年齢からすれば、これが最後の出産となるだろう。
国王陛下一家にお子様が増えることは本当に喜ばしい。
「新しく生まれてくる殿下は男の子だと思いますか、女の子だと思いますか?」
わたくしが問いかけると、クリスタちゃんは少し考えていた。
「国王陛下のご一家はノルベルト殿下とハインリヒ殿下の男性が二人、ユリアーナ殿下の女性が一人なので、女の子だったら二人ずつになると思います」
「ディッペル家は女性三人に、男性一人ですよ」
「そうでした。男の子だったら、ディッペル家の逆になりますね」
どちらにせよめでたいことには変わりはないので、わたくしもクリスタちゃんも笑顔でそのことを話しながら馬車に乗っていた。
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