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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット
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37.朝の散歩とエクムント様の言葉

 エクムント様がディッペル家に泊まった翌朝には、わたくしとクリスタちゃんはふーちゃんとまーちゃんに起こされて毎朝のことだがお散歩に出ていた。

 庭に出ると一面の銀世界で、寒くもあるのだが、ふーちゃんとまーちゃんは元気いっぱい庭を走っていく。ふーちゃんとまーちゃんを追いかけていると、エクムント様に合流した。


「おはようございます、エリザベート嬢。こんな寒い日も散歩をされているのですね」

「そうなのです。フランツとマリアが季節を問わずお散歩に誘うのです」

「フランツ殿とマリア嬢はエリザベート嬢とクリスタ嬢とお散歩に行けるのが楽しいのでしょうね」


 言われてみれば、わたくしは十二歳のときから学園に通うために王都の寮に入っているし、クリスタちゃんも十二歳になってから学園に通うために王都の寮に入っている。ふーちゃんとまーちゃんにしてみれば、わたくしとクリスタちゃんとお散歩ができる機会はそんなにないのかもしれない。

 そう思うとふーちゃんとまーちゃんと触れ合える時間が大事に思えてくる。


 暖かくふーちゃんとまーちゃんを見守っていると、ふーちゃんとまーちゃんがエクムント様に気付いてこちらに駆けてきた。


「エクムント様、おはようございます!」

「エクムント様もお散歩ですか?」

「エリザベート嬢との時間を持とうと思って、ご一緒させてもらっています」

「エリザベートお姉様と一緒にお散歩したいのですね」

「わたくしたちも一緒でいいですか?」

「もちろん構いませんよ」


 答えるエクムント様にふーちゃんとまーちゃんは興味津々で質問してくる。


「エリザベートお姉様は痩せていますが、エクムント様は、瘦せた女性と、ふっくらした女性、どちらが好きですか?」

「エリザベート嬢ならどちらでも好きですよ」

「エリザベートお姉様は背が高いですが、エクムント様は、背の高い女性と低い女性、どちらが好きですか?」

「エリザベート嬢ならどちらでも好きです」

「エクムント様は、お胸の大きな女性と、小さな女性、どちらが好きですか?」

「胸の大きさは関係ありません。その胸が誰のものであるかが大事なのです」


 興味のままに聞いている無邪気な七歳と六歳のふーちゃんとまーちゃんだが、わたくしは聞いているだけで顔が真っ赤になってきていた。

 エクムント様はわたくしならば、痩せていても太っていても、背が高くても低くても、胸が大きくても小さくても構わないと仰っている。

 わたくしならば、なんでも好きだと仰っているのだ。


「え、エクムント様、わたくしのこと、す、好きと……」

「私が好きになる女性はエリザベート嬢以外ありえません。エリザベート嬢が私にとっての唯一の女性です」


 はっきりと言われてしまって、わたくしは熱が出たかのように顔が熱くなっていた。コートの中で体も熱くなってぽかぽかしている。

 その様子をクリスタちゃんがじっと見つめていた。


「エクムント様、そういうところですよ! お姉様が恥ずかしがっているではないですか!」

「そう言われても、私は自分に嘘はつけませんので」


 さらりと仰るエクムント様に、わたくしは両頬を押さえていた。


「私は小さなころからエリザベート嬢を知っていますが、エリザベート嬢が誰か他の男性と結婚するようなことになれば、複雑な気持ちになっていたと思うのです。それが恋愛感情でなかったとしても、私はエリザベート嬢を妹以上に可愛いと思っていた。エリザベート嬢の相手が自分でよかったと今になってはっきりと思います」

「え、エクムント様……」


 恥ずかしくてわたくしは頬を押さえたまま動けなかった。

 クリスタちゃんがエクムント様を見つめている。


「わたくしも、エクムント様でなければ大事なお姉様を任せることはできないとは思っていましたが、エクムント様の言い方ではお姉様が熱を出してしまいますわ」

「私が何か?」

「自覚がないのがますますいけません! こういうことは二人きりのときにそっと伝えるべきことであって、わたくしやフランツやマリアの前で言うことではありません」

「なるほど。エリザベート嬢を恥ずかしがらせるつもりではありませんでした。すみません」


 謝ってくださるのだが、わたくしはそれどころではなくて、頭の中が沸騰しそうだった。


 朝のお散歩が終わると食堂で朝食を食べる。

 エクムント様も一緒なのだが、わたくしはエクムント様の顔を見られる気がしない。

 朝からエクムント様に告白されたような形で、胸は高鳴っているし、顔は真っ赤だし、わたくしはとても平静ではいられなかった。


 昼食が終わって両親のお誕生日のお茶会が始まる。

 エクムント様はわたくしの部屋までわたくしを迎えに来てくださった。エクムント様の手を取ると、わたくしがドキドキしているのが伝わりそうな気がする。軍人で他人の動きに聡いエクムント様は、わたくしの手の平からわたくしの感情を読み取りそうな気すらしていた。


 両親のお誕生日には毎年国王陛下と王妃殿下がいらっしゃる。

 国王陛下と王妃殿下に挨拶をしている両親は、とても親しげだ。父が国王陛下の学生時代の学友で同じ年だというのもあるのだろうが、王妃殿下もわたくしたちディッペル家のひとたちと親しくしてくださっている。


 国王陛下が両親に内緒で囁くのをわたくしは耳にしてしまった。


「ユストゥス、実は、王妃が妊娠したのだ」

「それはおめでとうございます」

「正式に発表するのは私の生誕の式典のときにしようと思っているのだが、ユストゥスには早く伝えたくて」

「とてもおめでたい知らせに私も嬉しくなります」


 父が答えていると、王妃殿下が口元を押さえて目を伏せる。


「わたくし、ディッペル公爵夫妻が羨ましかったのです。四人もお子様がいて。わたくしも、ノルベルトを自分の子どものように思っておりますし、ハインリヒにユリアーナ、それに生まれてくる子どもで四人。同じになってとても嬉しいのです」

「無事に出産されることをお祈りしております」

「ありがとうございます。男の子でも女の子でも、元気に生まれてきてくれたらそれでいいと思っています」


 王妃殿下も懐妊に対してとても嬉しそうだった。


 国王陛下が生誕の式典で三十六歳になられるのだから、王妃殿下は今年三十五歳になられたはずだ。この世界においては高齢出産になるのかもしれないが、パウリーネ先生も戻ってきて王妃殿下のおそばでお助けするだろうし、わたくしはそれほど心配していなかった。

 ノルベルト殿下とハインリヒ殿下とユリアーナ殿下の弟か妹が生まれてくる。

 それはこの国にとってもとてもおめでたいことだった。


「ユストゥスはもう子どもは考えていないのか?」

「私は四人も可愛い子どもたちがいます。四人で十分です」

「赤ん坊は可愛いぞ。大変だが」

「国王陛下のお生まれになったお子様を可愛がらせていただきますよ」

「それは許そう。ユストゥスは私の親友だからな」


 国王陛下が笑いながら父の肩を叩いている。肩を叩かれて父も微笑んでいた。


 両親のお誕生日のお茶会にはハインリヒ殿下もノルベルト殿下もユリアーナ殿下も、レーニちゃんもデニスくんも、キルヒマン侯爵夫妻もガブリエラちゃんもフリーダちゃんもケヴィンくんも、シュタール侯爵もオリヴァー殿もナターリエちゃんも来ていた。


 両親のお誕生日のお茶会が終われば、王都で国王陛下の生誕の式典が行われる。

 国王陛下の生誕の式典では、王妃殿下にレーニちゃんが国王陛下に紹介されて、カーテシーというお辞儀を披露して、社交界デビューを果たすのだ。

 レーニちゃんの社交界デビューはわたくしにとっても楽しみな行事だった。


読んでいただきありがとうございました。

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