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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット
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34.冬休みの前に

 冬休みまでの間、わたくしもクリスタちゃんもレーニちゃんも、ミリヤムちゃんもオリヴァー殿もリーゼロッテ嬢も、ハインリヒ殿下もノルベルト殿下も勉強に努めた。

 わたくしたちの目指すものは学年一位の成績を持つ首席だった。


 わたくしとハインリヒ殿下はオリヴァー殿に詩の解釈や読み方を聞いて、クリスタちゃんとレーニちゃんはわたくしに分からないところを聞いて、ミリヤムちゃんは自分で学習を進めて、リーゼロッテ嬢は同じリーリエ寮ということでオリヴァー殿に分からないところを聞いているようだった。

 ノルベルト殿下はご自分で勉強を進めている。


 冬休みにはわたくしの両親のお誕生日もあるのだが、何より大きな出来事としては、国王陛下の生誕の式典がある。

 去年は国王陛下の生誕の式典でわたくしとオリヴァー殿が王妃殿下から国王陛下に紹介されて、お辞儀をして正式に社交界にデビューした。

 クリスタちゃんはお誕生日が春なので来年になってしまうが、レーニちゃんはお誕生日が来ていて十五歳になっているので、正式な社交界デビューができると、楽しみにしているのだ。


「わたくし、国王陛下の前で上手にお辞儀ができるでしょうか?」

「わたくしも王妃殿下に呼ばれたときには頭が真っ白になって緊張してしまいましたが、お辞儀は自然とできていました。レーニ嬢もきっと大丈夫です」

「エリザベート嬢は国一番のフェアレディと呼ばれたディッペル公爵夫人の令嬢だから。わたくしは自信がありませんわ」


 気弱なことを言うレーニちゃんに、わたくしは「大丈夫です」と繰り返し言うのだった。


 冬休み前の試験が終わって成績が貼り出される。


 二年生はリーゼロッテ嬢が首席、三年生はクリスタちゃんが首席でレーニちゃんが二位、四年生はわたくしとハインリヒ殿下が同点で首席でミリヤムちゃんとオリヴァー殿は五位以内に入っていた。五年生は当然ノルベルト殿下が首席である。

 成績面においてもペオーニエ寮の生徒が勝っているのは、教育の賜物といえるだろう。


 学園は平等だと言われていても、ペオーニエ寮の生徒は王族や公爵家の子どもや侯爵家の子ども、リーリエ寮の生徒は侯爵家の子どもや伯爵家の子ども、ローゼン寮の生徒は伯爵家の子どもや僅かにいる子爵家や男爵家の子どもが中心なのだ。寮の生徒は身分によってきっちりと分けられている。

 身分が高い方が実家にいるときの家庭教師のレベルも高かったようで、ペオーニエ寮の生徒が成績上位を占め、続いてリーリエ寮、ローゼン寮と続いている。

 とはいえ、リーゼロッテ嬢やオリヴァー殿やミリヤムちゃんのように例外もないわけではない。

 それは個人の努力といえるだろう。


 冬休み前の最後のお茶会でわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんと、ミリヤムちゃんとオリヴァー殿とリーゼロッテ嬢と、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下はサンルームに集まっていた。

 外は雪が降り始めているが、サンルームの中は暖かい。

 紅茶も熱々のものに牛乳を入れているのだが、すぐに冷めたりしないように、紅茶のポットにはティーコゼーがかけてある。

 給仕たちも紅茶がすぐに冷めてしまわないようにこまめに入れているようだ。


「冬休みは皆様はどう過ごされますか?」

「僕はノエル殿下と隣国に挨拶に行きます。今年からノエル殿下のお誕生日はこの国で祝うはずでしたが、今年は僕とノエル殿下が隣国に行って祝うことになりました」

「私は、彼の国の国王陛下に招かれているので、そちらに向かいます。彼の国の国王陛下はかなり体調がよくなって、後継者を選ぶのにも積極的になれているようで、私にお礼をしたいと仰っていました」


 ノルベルト殿下は隣国に挨拶に行くとのことだった。そのときにノエル殿下のお誕生日も祝われるのだろう。今年からノエル殿下のお誕生日はこの国で祝うと言っていたが予定は変わったようだ。

 ハインリヒ殿下は彼の国に行くと言っている。後継者がいないままに病気に倒れた彼の国の国王陛下だったが、わたくしがハインリヒ殿下を通じて伝えた治療方法で何とか命は取り留めたようだ。彼の国の国王陛下が脚気だったというわたくしの見立ても間違いではなかった。


「本当はエリザベート嬢が治療法を教えてくれたので、エリザベート嬢がお礼を受け取るべきだと思うのですが」

「わたくしは聞いたことを伝えただけです。それをハインリヒ殿下が上手に伝えてくださったのでしょう。ハインリヒ殿下がお礼を受け取ってくださいませ」

「なんだか申し訳ないですね」


 ハインリヒ殿下は遠慮しているが、わたくしは彼の国の後継者争いが起きなければそれでいいので、お礼など求めていなかった。

 わたくしが彼の国に行ってお礼を受け取るなんてとんでもない。

 それよりもわたくしはディッペル家でふーちゃんやまーちゃんと一緒に過ごしたかった。


「私はフィンガーブレスレットの事業を手伝いますね。父も母を亡くしてから仕事が手につかなかったようですが、フィンガーブレスレットの製造を任されてから意欲的に働いていますし」


 オリヴァー殿は辺境伯領でフィンガーブレスレットの製造の事業を手伝うと決めているようだ。この年から事業に関わっていれば、将来はどれほどしっかりした当主になるのか楽しみでしかない。

 まーちゃんもオリヴァー殿のところに嫁ぐのならば安心だろう。


「ディッペル公爵夫妻のお誕生日には必ず伺います」

「お待ちしておりますわ」

「マリアも喜ぶと思います」


 両親のお誕生日には来てくれるというオリヴァー殿にわたくしもクリスタちゃんも微笑んで答えた。


「わたくしは今学期の復習をしっかりとしようと思っています」

「リーゼロッテ嬢は勤勉なのですね」

「わたくしは努力しないと勉強ができないので」


 わたくしやクリスタちゃんも努力していないわけではないが、リーゼロッテ嬢は特に努力しないと首席を守っていられないのだろう。冬休みは今学期の復習をするというリーゼロッテ嬢にわたくしは「頑張ってくださいね」と声をかける。


「わたくしは社交界デビューに向けて、礼儀作法をもう一度学び直しますわ」

「レーニ嬢ならば大丈夫ですよ」

「その油断が恥をかく原因になるかもしれないのです。リリエンタール家の娘として恥ずかしくない振る舞いができるように頑張ります」


 レーニちゃんは礼儀作法やマナーを学び直すと意気込んでいた。


「わたくしは、ノエル殿下からお招きいただいているので、王都に残ってノエル殿下のもとに通いますわ」

「ノエル殿下はミリヤム嬢を招待しているのですか?」

「はい。光栄なことに、隣国に帰られるまでの間、毎日のようにお茶に誘われています」


 ミリヤムちゃんはノエル殿下との交友が深いままのようである。学園を卒業した後、ミリヤムちゃんはノエル殿下の侍女になり、子どもが生まれた暁には乳母になるという道もあり得ない話ではなくなっているようだ。


 お茶会が終わって、わたくしとクリスタちゃんは部屋に戻ってディッペル家に帰る準備をしていた。

 外は相当寒くなっているので、コートやマフラーや手袋も準備している。

 荷物を詰めるクリスタちゃんが、小さな声でわたくしに言った。


「レーニちゃんはわたくしと同じ学年なのに、今年正式に社交界デビューをして、わたくしは誕生日が遅いから来年というのが、少し置いて行かれたような気分になります」

「クリスタちゃんは十二歳から仮に社交界デビューをしているからいいではないですか」

「それはそうなのですが……」


 クリスタちゃんのお誕生日が学年の最後の方であることに関して、クリスタちゃんが気にしているのを見たのはこれが初めてである。

 クリスタちゃんはわたくしの前世でいういわゆる早生まれだったのだ。


「もう少しお誕生日がずれていたら、クリスタちゃんは次の年度になっていたのだから、レーニちゃんと同じ学年になれてよかったではないですか」

「それはそうですけれど……」

「ハインリヒ殿下が国王陛下の生誕の式典ではエスコートしてくださると思いますよ」


 元気づけるためにハインリヒ殿下の名前を出すと、クリスタちゃんの目がきらりと光る。


「お姉様、お誕生日にエクムント様と何かあったでしょう?」

「え!? な、なにもありません」

「エクムント様はお姉様がお誕生日だから、特別に何かしたのではないですか?」

「な、なにも」


 ない、わけではない。

 「キスをして、よろしいですか?」と問いかけられて、唇にされると思い込んだわたくしが目を瞑って、若干唇も尖らせていたのに対して、エクムント様はわたくしのおでこにキスをした。

 あれはものすごく恥ずかしかった。

 エクムント様に対して「憎らしいお方」と評するクリスタちゃんの気持ちがよく分かった。

 しかし、そんなことを言えるわけがない。


「お姉様、顔が赤いですわ!」

「何でもないのです!」


 例えクリスタちゃんといえども、あのときのことは話せないとわたくしは誤魔化したのだった。


読んでいただきありがとうございました。

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