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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット
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29.ユリアーナ殿下、六歳

 エクムント様のお誕生日が終わるとわたくしたちは慌ただしくディッペル家に帰って、今度はユリアーナ殿下のお誕生日のお茶会に出席する準備をしなければいけない。

 その次はわたくしのお誕生日があるし、夏の終わりから秋にかけてはとても忙しかった。


 ユリアーナ殿下のお誕生日には王都まで馬車と列車を乗り継いでいく。ユリアーナ殿下のお誕生日はお茶会だけなのでそれで間に合うのだ。

 お茶会の時間までに王宮に着いて、控室で髪型やドレスを整えていると、クリスタちゃんが塗っている口紅にまーちゃんの視線が釘付けだった。わたくしも口紅を取り出すが、まーちゃんはそれもじっと見ている。


「マリア、口紅が付けたいのですか?」

「はい。わたくしも口紅を付けて美しくなりたいのです」


 手を組んでお願いするまーちゃんにどうするべきかわたくしが迷っていると、クリスタちゃんが母にお願いする。


「わたくしも小さい頃、肖像画を描いてもらったときに、口紅が付けたくてお母様にお願いしましたわ。マリアにも口紅を付けさせてはいけませんか?」


 母もクリスタちゃんが小さい頃を思い出していたようである。


「クリスタは肖像画を描くときに、どうしても口紅を付けたいと言って、一番薄い色を薄く付けていましたね。マリアもそういう年齢になったのでしょう。クリスタの一番薄い色の口紅を薄く付けてあげてください」

「ありがとうございます、お母様!」


 許可されて喜んでお礼を言って、まーちゃんはクリスタちゃんに口紅を塗ってもらっていた。薄いピンク色の口紅は色はそれほど目立たないが、艶があって、まーちゃんの唇がつるりと光って見えるのが可愛らしい。


「とても可愛いですよ、マリア」

「ありがとうございます、クリスタお姉様」

「マリアは本当に可愛い。わたくしの自慢の妹です」


 クリスタちゃんに抱き締められてまーちゃんは誇らし気な顔をしていた。

 わたくしも小さい頃クリスタちゃんが可愛くて堪らなかったし、ふーちゃんとまーちゃんが生まれてからはふーちゃんとまーちゃんのことも可愛くて堪らなかった。

 クリスタちゃんもふーちゃんとまーちゃんに対して同じような感情を抱いているのかと思うと、姉として感慨深い思いがあった。


 ユリアーナ殿下のお誕生日のお茶会では、ユリアーナ殿下が一生懸命挨拶をしていた。


「わたくしのお誕生日に来てくださってありがとうございます。わたくしも六歳になります。こうして無事に六歳になれたのも、父と母と兄たちと皆様のおかげです。本当にありがとうございます」


 六歳になったユリアーナ殿下の喋り方からは幼さが抜けつつあった。こうしてユリアーナ殿下も大人への階段を一歩登るのだと思うとしみじみしてしまう。

 わたくしがクリスタちゃんと出会って、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下と出会った頃には、国王陛下と王妃殿下は仲違いをしていて、国王陛下は王宮に、王妃殿下は国王陛下の別荘に暮らしていた。

 夫婦生活が破綻していたのは間違いなかった。その原因は、国王陛下が王妃殿下と婚約が決まっていたにも関わらず、他の女性を愛し、ノルベルト殿下を生ませたということだった。

 ノルベルト殿下は王妃殿下に引き取られて実子のハインリヒ殿下と分け隔てなく育てられることになっていたし、国王陛下と相手の女性は二度と会わぬことを誓ったと聞いている。その女性がノルベルト殿下の乳母だったのではないかという話が持ち上がったこともあったが、それは王妃殿下の恩情ということで誰も何も詮索しないことにしてあった。

 それから関係性を築いて行って、国王陛下と王妃殿下は国を共に支えるパートナーとして力を合わせることで合意し、ユリアーナ殿下が生まれた。

 ユリアーナ殿下は国王陛下と王妃殿下の和解の証でもあり、二人にとっては大事な末っ子として育てられていた。


 先日、ユリアーナ殿下がエクムント様に相談していたが、ユリアーナ殿下のお誕生日にお茶会を開くだけで、昼食会や晩餐会を開かないのも、ユリアーナ殿下が可愛いからなのだろう。

 ユリアーナ殿下がお茶会に出たいと言ったのを止められず、四歳でレーニちゃんのお誕生日のお茶会に参加させて、ユリアーナ殿下が紅茶を零して、それをわたくしが助けたこともあった。

 四歳のユリアーナ殿下を止められないくらい、国王陛下も王妃殿下もユリアーナ殿下が可愛くて堪らなかったのだろう。


 意地を張っていたユリアーナ殿下も心を入れ替えて自分でできないことは無理をしないと決めたのも大きかっただろう。


「ユリアーナ殿下、お誕生日おめでとうございます」

「ユリアーナ殿下、とても豪華なお茶会ですね」


 わたくしがユリアーナ殿下にご挨拶に行くと、エクムント様も隣りに並んでくださる。

 ユリアーナ殿下はわたくしとエクムント様を見上げてお辞儀をする。


「エリザベート嬢、エクムント殿、お越しくださってありがとうございます。お茶会、楽しんで行ってください」


 王宮のお茶会というだけあって、テーブルの上の軽食もケーキも豪華で種類が多いし、ユリアーナ殿下のリクエストなのだろう、ポテトチップスも置いてあった。


「あのお菓子は何なのでしょう?」

「ジャガイモのように見えますが」


 ポテトチップスに戸惑っているお客様もいる。


「このお菓子はエリザベート嬢が考えたポテトチップスというジャガイモを薄く切って油で揚げたものです。とても美味しくて、わたくし大好きなのです。わたくしがお願いして、お父様とお母様にポテトチップスを出してくださるように言いました」


 説明しながら、ユリアーナ殿下はポテトチップスを取り分けてもらっている。ポテトチップスとケーキが乗ったお皿がユリアーナ殿下の座る椅子の前に置かれる。


「マリア嬢、お茶をご一緒しましょう!」

「はい、ユリアーナ殿下」


 呼ばれてまーちゃんがオリヴァー殿に取り分けてもらってユリアーナ殿下の正面の椅子に座っている。オリヴァー殿もまーちゃんの隣りの椅子に座ってお茶をするようだ。


「デニス殿もご一緒しましょう」

「わたしは……おねえさまにきいてきます。すこしまっていてください」


 デニスくんはレーニちゃんにユリアーナ殿下とお茶をしていいか聞きに行ったようだった。すぐに乳母に軽食やケーキを山盛りにしたお皿を持って来てもらって、ユリアーナ殿下に促されてユリアーナ殿下の隣りに座る。


「ユリアーナでんか、よろしくおねがいします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 仲良くまーちゃんとオリヴァー殿とユリアーナ殿下とデニスくんがお茶をしているのを見守っていると、エクムント様がわたくしに手を差し伸べた。


「こちらでお茶をしませんか?」

「はい、致しましょう」


 お誘いを受けてわたくしは空いているテーブルのところに移動する。お皿にサンドイッチとキッシュとスコーンとポテトチップスとケーキを取り分けて持ってくると、エクムント様もサンドイッチとキッシュを取り分けて戻って来ていた。

 わたくしのお皿の方が乗っているものの量が多くてわたくしは恥ずかしくなってしまう。


「わたくし、食べ過ぎですか?」

「エリザベート嬢は成長期ですから、しっかりと食べてください。私はもう成長はしないので、体を維持できるだけの量でいいのです」


 エクムント様の体を維持できるだけの量。

 わたくしは思わずエクムント様を見上げてしまった。

 エクムント様はとても背が高い。それに軍人なので筋肉もついている。この肉体を維持するだけでかなりの量食べなければいけないのではないかと思うのだが、お茶の時間はそれほど食べないようだ。


「それだけで足りますか?」

「私は食事の量が多いのです。それに、甘いものはそれほど得意ではなくて」


 ポテトチップスも食べないと言っていたがエクムント様は甘いものも召し上がらないようだった。そう言えばエクムント様がケーキを食べているのは、デザートで出されたときや、エクムント様用に用意されたときで、それ以外で自分で選べるときには取り分けていない気がする。


「そうだったのですね」

「エリザベート嬢は気にせずに食べてください」

「はい」


 答えたが、わたくしばかり食べているというのも恥ずかしい気がして、次からエクムント様とご一緒するときには取り分ける量を考えるようにしようと思うわたくしだった。


読んでいただきありがとうございました。

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