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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット
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28.ユリアーナ殿下の悩み

 エクムント様のお誕生日の昼食会でわたくしは髪を結い上げて紫色のドレスを身に纏っていた。残念なことにわたくしは胸が大きいタイプではないようで、立派な胸はなかったけれど、細身で背が高くてドレス姿も美しく見えるのではないかと思っている。

 昔母を見てウエストがなんて細いんだろうと思っていたが、わたくしも成長したら自分でも驚くくらいウエストが細くて手足がすらりと長くて、胸は小さいが背も高くて鏡を見ると大人になりかけているわたくしが映っていて戸惑ってしまう。

 原作の『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』の挿絵を見たときには、わたくしはもっと意地悪そうに描かれていたし、背が高いのは嫌味のようにしか言及されていなかった。

 前世で言えばモデル体型なのではないかとわたくしは思って、自分が決して劣等感を持つような容姿ではないと感じるのだった。


「お姉様、とても美しいですわ」

「エクムント殿もエリザベートが横にいて鼻が高いだろうね」

「エリザベート、とても美しいですよ」

「エリザベートお姉様、素敵です」

「エリザベートお姉様もクリスタお姉様もとても美しいです」


 クリスタちゃんも両親もふーちゃんもまーちゃんも手放しで褒めてくれるのでわたくしは気分よくエクムント様にエスコートされて昼食会の会場に行くことができた。

 昼食会ではフィンガーブレスレットは外してパーティーバッグに入れて、食べることができないけれど、運ばれて来る料理が手付かずのままお下げ渡しになるのを見送る。

 エクムント様の元にはたくさんのひとたちがお祝いに来ていた。


「エクムント殿、エリザベートとよくお似合いで」

「二人ともとても素敵ですね」


 両親はエクムント様だけでなくわたくしもエクムント様に似合っていると言ってくれる。十六歳を目前にしてやっとわたくしはエクムント様に追い付けそうな気配がしてとても嬉しかった。


「エクムント様、お誕生日おめでとうございます」

「フィンガーブレスレットの売れ行きも順調です。今後とも辺境伯領に利益をもたらすものと思われます」


 シュタール侯爵とオリヴァー殿が挨拶に来ている。フィンガーブレスレットの売れ行きが順調と聞いてエクムント様も白い歯を見せて微笑んでいる。


「フィンガーブレスレットは今後、男性用も展開して、国中に広めていくつもりです。これからもよろしくお願いします」

「はい、お任せください、エクムント様」

「エクムント様、シュタール家がしっかりと取り仕切って参ります」


 シュタール侯爵もオリヴァー殿も心強い返事をくれた。

 ラウラ嬢も挨拶に来てくれた。


「エクムント様のおかげで婚約者のローラント殿と無事に結婚することができました。結婚をお許しくださってありがとうございます」

「ローラント殿との結婚は両家で決まっていたこと。辺境伯家はそれに承諾の印を押しただけです」

「それでも、それがなければわたくしは結婚できませんでしたから」


 結婚したのであればラウラ嬢をラウラ嬢と呼ぶのも失礼に当たるだろう。


「ヒューゲル伯爵、おめでとうございます」

「ありがとうございます。エリザベート様もきっと、幸せな花嫁になる日が来ます」

「わたくしもその日を心待ちにしております」


 軽やかにモダンスタイルのドレスを翻して席に戻るヒューゲル伯爵の隣りには、褐色の肌に黒髪の青年、ローラント殿の姿があった。

 仲睦まじく席に座っているのを見るのも心が和む。


 辺境伯領に来てくださっているハインリヒ殿下とノルベルト殿下も挨拶に来てくださった。


「お茶会にはユリアーナも出られるので、今回はユリアーナも一緒です」

「今日をとても楽しみにしていたのですよ」

「ユリアーナ殿下にも祝っていただけるとは光栄です」

「ユリアーナのお誕生日にもぜひいらしてください」

「ユリアーナは辺境伯領のことを知りたがっています」


 昼食会には出られないが、ユリアーナ殿下はお茶会に出るために辺境伯領に来てくださっているようだった。ユリアーナ殿下が興味を持つことが辺境伯領にはたくさんあるようだ。

 ネイルアートも、コスチュームジュエリーも、フィンガーブレスレットも。

 ユリアーナ殿下は流行の最先端になりたいのかもしれない。


「再来年にはノエル殿下との結婚も叶います。そのときはノエル殿下も一緒に辺境伯領に参ります」

「お待ちしておりますよ、ノルベルト殿下」


 ノルベルト殿下は気が早いことに再来年の話をしていた。

 ノルベルト殿下は学園の卒業まで後一年と半分、わたくしは卒業まで後二年と半分ある。

 少しでも早く卒業して結婚したい気持ちが抑えきれないのはわたくしも同じなのでよく分かった。


 お茶会の席にはユリアーナ殿下とふーちゃんとまーちゃんとレーニちゃんとデニスくんが参加していた。ゲオルグくんはお留守番のようである。ゲオルグくんはまだ小さいので仕方がないのだろうが、小さい頃のふーちゃんやまーちゃんのように泣いていないか心配だった。


「エクムント様、お誕生日おめでとうございます。本日はお招きいただきありがとうございます」

「ありがとうございます、レーニ嬢」

「エクムントさま、またいっしょにおさんぽしてくれますか?」

「時間が合いましたら一緒に散歩しましょう」

「サーベルもみせてくれますか?」

「機会がありましたら」


 デニスくんはすっかりエクムント様に憧れている様子である。このままだと士官学校に進学すると言いかねない勢いだが、デニスくんはリリエンタール家の後継者なので学園に入学させられるだろう。


「ほんじつは、おまねきくださってありがとうございます」

「よくいらしてくださいました、ユリアーナ殿下。ユリアーナ殿下に誕生日を祝っていただけて光栄です」

「わたくし、エクムントさまにごそうだんがありますの」


 ユリアーナ殿下が真剣な顔でエクムント様に話しかけるのを、ハインリヒ殿下もノルベルト殿下もじっと見つめている。


「おとうさまとおかあさまは、わたくしがちいさいので、おたんじょうびにちゅうしょくかいとゆうしょくかいをひらかなくていいとおっしゃったのです。おにいさまたちはわたくしとおなじとしから、ちゅうしょくかいやばんさんかいにさんかしています。わたくし、おうぞくとしてそんなにたよりないでしょうか?」


 そういえばハインリヒ殿下もノルベルト殿下も幼いときからお誕生日は国の式典になっていて、昼食会からお茶会、晩餐会まで出席していた。小さい体で大変だっただろうとわたくしも思っていたのだ。


「王族として頼りないのではなくて、ユリアーナ殿下を国王陛下と王妃殿下が大事に思っている証だと思いますよ」

「そうなのですか?」

「ユリアーナ殿下は今度のお誕生日で六歳になられます。六歳で昼食会からお茶会、晩餐会まで参加するのはとても大変だと思います。ユリアーナ殿下のお体のことも考えて国王陛下と王妃殿下は決められたのだと思います」

「ですが、おにいさまたちはわたくしとおなじとしから、ちゅうしょくかいやばんさんかいにさんかしていました」

「ハインリヒ殿下とノルベルト殿下はお二人のどちらかが皇太子殿下となられることが決まっていたからです。ユリアーナ殿下はそんなことはありません。ハインリヒ殿下が皇太子殿下ですからね。それならば、ユリアーナ殿下が過ごしやすい環境を作るのが国王陛下と王妃殿下の親心というものなのではないでしょうか」

「おちゃかいしかしないのははずかしくないですか?」

「ディッペル公爵夫妻もお誕生日は夫婦で祝われますし、お茶会だけです。昼食会や晩餐会までするのが絶対ではないのですよ」

「そうなのですか……。おはなししてよかったです。わたくし、なっとくできました。ありがとうございます」


 ずっと気にかかっていたのだろう。ユリアーナ殿下はエクムント様に話を聞いてもらって納得していた。その後ろでハインリヒ殿下とノルベルト殿下が胸を撫で下ろしているのが分かる。


「ユリアーナはずっとそのことで悩んでいたのです」

「両親も何度も説明したのですが、どうしても納得できなかったようで」

「エクムント殿のおかげでユリアーナも納得できたようです」

「大人としてユリアーナ殿下の相談に乗ることができてよかったです」


 穏やかに答えるエクムント様を見ながらわたくしは自分の小さい頃を思い出していた。

 エクムント様はわたくしがどれだけ小さくても絶対に話を遮ったりせずに、最後まで聞いてくれて、丁寧に返事をしてくれていた。エクムント様はどんな小さい子どもでも馬鹿にすることはなかった。

 その姿勢が分かっていたからこそ、ユリアーナ殿下もエクムント様に相談をしたのかもしれない。


 エクムント様の立派な姿にわたくしはエクムント様を改めて尊敬するのだった。


読んでいただきありがとうございました。

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