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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット
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27.エクムント様の誕生日前夜

 長い夏休みが終わると学園が始まるのだが、わたくしはまだ学園に戻っていなかった。

 夏休みの終わりにエクムント様のお誕生日があるのだ。

 エクムント様は辺境伯として昼食会からお茶会、晩餐会までを開くようにしている。わたくしのお誕生日とも近いので、結婚したら合同でお誕生日を祝うようになるのかもしれない。

 結婚してからのことを最近ものすごく意識してしまうのだが、それも学園で四年生になって、卒業まで折り返し地点を過ぎたから仕方がないのだ。

 エクムント様のお誕生日にはわたくしは辺境伯領に行く。前日から辺境伯家に入っておくのだが、クリスタちゃんもふーちゃんもまーちゃんも、両親も一緒なので心配はない。

 部屋はクリスタちゃんとわたくしは、両親とふーちゃんとまーちゃんと別の部屋なのだが、それももう慣れているので問題はない。

 部屋で寛いでいると、部屋にエクムント様がやってきた。

 廊下で待っていてくださって、部屋に入らないのも紳士的で素敵だと思ってしまう。

 廊下に出ると、クリスタちゃんの目が光っている気がするがドアは閉めずに話をする。


「エリザベート嬢、最近のお茶会や昼食会、晩餐会では髪を結い上げていますよね」

「はい、わたくしももうすぐ十六歳になりますし、大人と同じ装いをしたくて髪を結い上げています」

「明日の私の誕生日でも髪を結い上げて参加していただけますか?」

「勿論、そのつもりでしたわ。でも、なぜですか?」

「社交界デビューした女性は正式には髪を上げるのがマナーだそうで」


 わたくしは自然とそうしていたが、髪を降ろしていたり、ハーフアップにしていたりするのは、子どもの装いで、正式には髪を結い上げておくのだとエクムント様に教えてもらった。

 わたくしもそうではないのかと薄々気付いていたので、納得の内容だった。


「エリザベート嬢はご存じだったでしょうが、もし、知らなくて私の誕生日に恥をかかせてしまってはいけなかったので」

「お気遣いありがとうございます。フィンガーブレスレットを着けて行ってはいけないなどということはないですよね?」

「フィンガーブレスレットに関してはまだできてすぐなのでマナーが決まっていませんが、食事のときには外しておいた方がいいかもしれませんね」


 例え食事を食べられないままにお皿を下げられるとしても、わたくしはフォークやナイフを持つ手を華美に飾っていることはよくないのではないかと思っていたので、エクムント様の言葉に頷いた。


「分かりましたわ。わざわざありがとうございます」

「明日のエリザベート嬢の美しい装いを楽しみにしています」

「エクムント様に美しいと思っていただけるようにできる限り頑張りますわ」


 挨拶を交わして部屋に戻ってきたわたくしをクリスタちゃんがじっと見詰めている。クリスタちゃんはどうもわたくしとエクムント様の間を観察したい気持ちでいっぱいのようなのだ。


「クリスタちゃん、何を見ていたのですか?」

「エクムント様がお姉様に何をなさるか見ていました」

「わたくしは何もされていませんよ?」

「『美しい装いを楽しみにしています』と言われていました。エクムント様はお姉様が美しいと思っているのです」

「そ、そうなのでしょうか。そうだと嬉しいのですが」


 はっきりとクリスタちゃんに言われてしまうと照れてしまう。わたくしが頬を押さえていると、クリスタちゃんは深くため息を吐く。


「わたくし、エクムント様にだけは敵わないと思っていますの」

「クリスタちゃんが、ですか?」

「お姉様を大好きなことに関して、わたくしどんな方にも負けません。お姉様はわたくしを救い出してくださった女神のようなお方です。小さい頃もバーデン家のブリギッテ様からわたくしを守って下さったり、わたくしが寂しいときもつらいときもそばにいてくださいました」

「それは、クリスタちゃんの姉だから当然のことです」

「わたくし、お姉様のことが大好きです。わたくしが殿方だったら、絶対にお姉様と結婚しています」


 そう宣言されても、わたくしはクリスタちゃんのことを妹としか思えないし、わたくしが好きな相手はエクムント様だし、反応に困ってしまう。


「クリスタちゃんと結婚は考えられませんね」

「お姉様はそうなのです。そして、わたくしが絶対に勝てない相手が、エクムント様なのです」


 力を込めて話すクリスタちゃんに、わたくしはそうなのかくらいの感想しか抱けない。


「エクムント様はわたくしがお姉様と知り合う前からお姉様のことを知っています。わたくしが生まれる前から、生まれたばかりのお姉様を抱っこしてお庭を散歩していたのです。わたくし、どんなに頑張ってもエクムント様に勝てる気がしていませんでした」

「勝たなくていいのではないですか? エクムント様はわたくしの好きな方、クリスタちゃんは大事な妹です」

「勝ちたかったのです。わたくしはお姉様の一番になりたかった」


 こんな風にクリスタちゃんが考えていただなんてわたくしは全く知らなかった。わたくしが驚いているとクリスタちゃんは熱弁していたのを止めて、長く息を吐いた。


「小さい頃の話です。小さい頃の幼稚な独占欲です。でも、絶対にエクムント様には敵わないのだと思っているうちにお姉様はエクムント様と婚約してしまって、それが決定的になりました」

「わたくしの婚約は早かったですからね」

「わたくし、お姉様を取られたような気分だったのです」


 少し拗ねたようなクリスタちゃんにわたくしはその手を取って真剣に言う。


「クリスタちゃんは永遠にわたくしの大事な妹です。二人いる妹の中でも、年が近くて何でも話せる大事な大事な妹です。そのことは一生変わりません」

「お姉様……」

「一生こうして何でも話し合える姉妹でいたいと思っています」

「はい、わたくしもお姉様と一生こうして何でも話し合える姉妹でいたいです」


 クリスタちゃんが敵わないと思うくらいわたくしは小さな頃からエクムント様をお慕い申し上げていたし、エクムント様もわたくしのことを小さな頃から知っていた。可愛がってくれていた。

 エクムント様からも聞いたことがある。

 もしわたくしと婚約したのがエクムント様でなければ、エクムント様は複雑な気持ちになっていたかもしれないということを。

 それを考えるとわたくしは本当にエクムント様と婚約できて幸運なのだと実感する。エクムント様はわたくしに好意を寄せてくださっているし、わたくしはエクムント様に夢中である。

 八歳のときにはまだまだ結婚する未来は見えてこなかったが、十六歳を間近にすると、結婚する二年後の未来が見えてきている気がする。


「クリスタちゃん、わたくしがエクムント様と結婚して、クリスタちゃんはハインリヒ殿下と結婚して、辺境伯領と中央で別々になっても、会いに来てくれますか?」

「勿論ですわ。お姉様もわたくしに会いに来てください」

「勿論、会いに行きます」


 二人で手を取り合って話していると、おかしくなってわたくしは笑ってしまう。クリスタちゃんもくすくすと笑っていた。


「エクムント様のお誕生日、お姉様は髪を結い上げていくのでしょう?」

「クリスタちゃんはまだ降ろしていていいのですよ?」

「お姉様とお揃いにしたいのです。お姉様に教えてもらった方法で結い上げていきますわ」


 明日のエクムント様のお誕生日にはクリスタちゃんも豪華な金髪を結い上げるようだ。

 わたくしも紫色の光沢のある黒髪を結い上げて出席する。

 わたくしの髪の色と目の色。これが辺境伯領に置いては王家の象徴ともいうべき色彩になるというのは分かっている。

 辺境伯家は王家の血を引くディッペル公爵家の娘を嫁にもらう。

 これは定められた未来で、決して変えることができないものだった。


読んでいただきありがとうございました。

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