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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット
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19.まーちゃんとわたくし

 辺境伯領に行く途中でわたくしはじっとまーちゃんを見詰めていた。

 まーちゃんの黒髪に紫色の光沢が出て来たような気がしてならないのだ。

 まーちゃんはオリヴァー殿と会ったときに目に銀色の光沢が出て来たことを指摘されている。

 わたくしの妹なのだから似て来ることはあるし、成長によって髪の色や目の色が変わることはよくあることだった。幼少期は薄い金髪のひとでも、大人になると茶色に近い濃い金髪になるということはよくある。

 まーちゃんの髪の色の変化もそういうものなのだろう。


 視線に気づいたまーちゃんがレギーナに手鏡を出してもらって身だしなみを整えている。


「エリザベートお姉様、どこかおかしいところがありましたか?」

「いいえ。マリアの髪に紫色の光沢が出ているのではないかと思ったのです」

「え? 本当ですか? お父様、お母様、わたくしの髪は紫色の光沢がありますか?」


 紫色の光沢の黒髪と銀色の光沢の黒い目は、初代国王陛下と同じものだった。異国と血を混ぜている国王陛下の系統には出なくなっていたが、王族が降嫁したディッペル家のわたくしにその特徴が出て、まーちゃんにまでその特徴が出ようとしている。


「言われてみれば紫の光沢があるような」

「エリザベートの小さい頃ととてもよく似ていますね」


 わたくしは生まれたときから黒髪に紫色の光沢があって、黒い目には銀色の光沢があったのだが、まーちゃんは成長してから出てくるという違った出方をしている。それでも、わたくしが物心ついてはっきりと自分というものを自覚したのは、六歳くらいなので六歳の頃のわたくしを思い出してみると、まーちゃんにとても似ているのだ。


「マリアも初代国王陛下の色彩を持っているとはめでたいことだ」

「辺境伯領に初代国王陛下の色彩を持ったディッペル家の娘が二人も嫁ぐことになるのですね」


 まーちゃんの色彩に関して両親は嬉しそうだったが、嫁ぐことに関しては少し寂しそうだった。


「お父様、お母様、辺境伯領は馬車と列車ですぐです。里帰りいたしますわ」

「まだまだ先のことです。しんみりしないでください」


 わたくしとまーちゃんで慰めると、両親は気を取り直している様子だった。


 辺境伯領に着くと、辺境伯家に馬車で行く。

 辺境伯家は相変わらず美しい庭があって、噴水も美しく、庭の木々の間を通る風が涼しそうだった。

 辺境伯領の暑さに汗をかいていたわたくしたちは一度部屋に案内されて、手と顔を洗って食堂に集合した。わたくしとクリスタちゃんと、両親とふーちゃんとまーちゃんの部屋は別々に用意されていた。


「ようこそ、辺境伯領へいらっしゃいました。ディッペル家の皆様を歓迎いたします」

「お招きいただきありがとうございます。今年もよろしくお願いします」


 挨拶をするエクムント様にわたくしも頭を下げる。わたくしの隣りで頭を下げているまーちゃんを見てエクムント様が目を丸くした。


「そのサマードレス、エリザベート嬢が着ていたものですよね」

「そうです。エリザベートお姉様のお譲りをいただいたのです」

「とてもよくお似合いです。マリア嬢はエリザベート嬢によく似ている」

「わたくし、エリザベートお姉様のことが大好きなのです。エリザベートお姉様のようになりたいのです」

「それならば、よく学び、よく動くことです。エリザベート嬢はその年で家庭教師について、乗馬も始めていました」


 エクムント様にアドバイスをされてまーちゃんは目を輝かせて頷いている。まーちゃんは本当にわたくしに似ていると思っていると、ふーちゃんが目尻を押さえて自己主張する。


「エリザベートお姉様とマリアは吊り目ですが、私は垂れ目です。私はクリスタお姉様に似ていると思うのですが」


 言われてみればふーちゃんは男の子なので若干精悍な顔つきになってきてはいるが、まだ頬のあどけない丸さは抜けていなくて、クリスタちゃんによく似ている。金色のふわふわの髪も水色の目も、クリスタちゃんそっくりだ。


「フランツはわたくしの弟ですから、似ていてもおかしくはありませんね」


 実際には従弟なのだが、ディッペル家に来る前の記憶がほぼないクリスタちゃんにしてみれば、ふーちゃんは実の弟以上の思い入れのある子だろう。ふーちゃんが生まれるときにはクリスタちゃんと二人で無事に産まれるようにお祈りをして、ふーちゃんが生まれて来たときにはどれほど喜んだか分からない。

 まーちゃんも大事な妹だが、ふーちゃんはわたくしとクリスタちゃんが待ち望んだ弟で、ふーちゃんの存在がなければまーちゃんの存在もないので、ふーちゃんが特別なのは仕方がなかった。


「レーニ嬢は来られるのですか?」

「今年はレーニ嬢だけでなくデニス殿とゲオルグ殿もお誘いしてみました。デニス殿とゲオルグ殿は二人だけでは眠れないので、お父上と一緒に来られるということです」


 リリエンタール公爵は執務があるので領地を空けられなかったが、レーニちゃんとデニスくんとゲオルグくんに三人のお父様も来られるということで、ふーちゃんは喜んでスキップをしていた。嬉しいことがあると無意識のうちに弾んでしまうのは、まだふーちゃんが七歳だから仕方がない。


「オリヴァー殿は辺境伯家を訪ねて来ますか?」

「オリヴァー殿はマリア嬢に妹君を紹介するのだと言っていましたよ」

「まぁ! ご家族に紹介してもらえるのですね!」


 エクムント様の嬉しい言葉にまーちゃんも弾んでくる。

 食堂で席に着いて冷たいフルーツティーを飲んでいると、レーニちゃんとデニスくんとゲオルグくんとお父様が現れた。


「辺境伯、この度はデニスやゲオルグまでお招きいただいてありがとうございます」

「デニス殿とゲオルグ殿とは、王宮の庭を一緒に散歩した仲です。辺境伯領にお招きしたいと思っていました」

「エクムントさま、よろしくおねがいします」

「エクムントさま、あすのあさは、おにわをさんぽしてもいいですか?」

「ぜひ庭を散歩してみてください。私も同行します。辺境伯家の庭は私の自慢なのです」

「ありがとうございます」


 頭を下げて挨拶をしているデニスくんとゲオルグくんにレーニちゃんがにこにことして見守っている。


「おとうさま、いっしょにすわってください」

「わたしとも!」

「はいはい、一緒に座りましょうね、デニス、ゲオルグ」

「おとうさま、わたしがおまめがにがてなことはないしょにしていてくださいね」

「わたしもたまねぎがにがてなのはないしょにしていてください」

「分かりました。言いませんよ」


 耳に口をくっ付けて小さな声で言っているつもりなのだろうが、デニスくんもゲオルグくんもばっちりと聞こえている。微笑ましくてくすくすと笑っていると、レーニちゃんがエクムント様に問いかける。


「ユリアーナ殿下はいつ来られるのですか? デニスもゲオルグも、年の近いユリアーナ殿下と友人になれるのではないかと楽しみにしているのです」

「ユリアーナ殿下は明日来られますよ。ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とご一緒です」

「明日だそうですよ、デニス、ゲオルグ」

「それじゃ、あすのあさのおさんぽはごいっしょできませんね」

「あすのあすから、ごいっしょしましょう」

「あすのあすは、あさってというんだよ」

「はい、あさってから、ごいっしょしましょう」


 可愛い言い間違えの指摘があって、素直にゲオルグくんは言い直していた。


「そういえば、エクムント様、辺境伯領では日焼け止めなど使われていないのですか?」


 一応わたくしが聞いてみると分からない様子のエクムント様に代わって、食堂に来ていたカサンドラ様が答えてくれた。


「日焼け止めとは、日焼けが酷くならないように塗るものだね。オリーブオイルや、米とジャスミンとルピナスの抽出物を使っていると聞いたことがあるが」


 日焼け止めがこの世界にないわけではない。

 それにどれだけの効果があるか分からないが、わたくしは試してみたい気持ちが沸き上がっていた。


読んでいただきありがとうございました。

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