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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット
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13.アップルパイとアイスクリーム

 運ばれて来たケーキは焼き立てのアップルパイにアイスクリームを添えたものだった。温かいアップルパイの横でアイスクリームが蕩けそうになっている。

 林檎の季節ではないのでこの林檎はジャムにしておいたものを保存していたのだろう。

 熱々サクサクのアップルパイの上に蕩けるアイスクリームを乗せて食べるととても美味しい。わたくしはあっという間にアップルパイとアイスクリームを食べてしまった。まーちゃんもクリスタちゃんもレーニちゃんもノエル殿下ももう食べ終わっている。


「温かい物や冷たいものは式典ではなかなか口にすることも難しいからね」

「わたくしたちも食べたくてアップルパイとアイスクリームにしたのです」


 温かいものは挨拶を受けているうちに冷めてしまうし、アイスクリームは挨拶を受けている間に溶けてしまう。そんな悲しみを乗り越えて国王陛下も王妃殿下もここにいる。

 それを考えると、まーちゃんの誕生日ということで温かいアップルパイとアイスクリームを出したのは国王陛下と王妃殿下も食べたいという気持ちがあったからに違いない。

 国王陛下と王妃殿下にもクリスタちゃんやわたくしと同じような、食べたいけど食べられないという悲哀があった。これはわたくしとクリスタちゃんだけのものではなかった。


「とても美味しいアップルパイとアイスクリームでした。国王陛下、王妃殿下、ありがとうございました」

「マリアに喜んでもらえて嬉しいよ」

「来年も一緒にお祝いいたしましょうね?」

「はい! 喜んで!」


 お誘いいただいてまーちゃんは大喜びで答えていた。

 メインのケーキが終わると、お茶会は雑談に入る。今日はノエル殿下が王妃殿下に自分の爪を見せて青い目を煌めかせて話している。


「この爪は昼食前にエリザベート嬢に塗ってもらったのです。この丸い爪の先が可愛いでしょう?」

「とても可愛いですね」

「エリザベート嬢にこの塗り方を見せてもらったので、侍女にお願いして覚えてもらおうと思っております」

「わたくしのような年齢の女性でもそのような塗り方をしておかしくないでしょうか」

「王妃殿下はまだまだお若いですわ。お似合いになると思います」

「それならば、わたくしも侍女に塗ってもらうとしましょう。ユリアーナとレーニ嬢とマリア嬢の塗り方は少し違うのですね。見せてください」


 お願いされてユリアーナ殿下とレーニちゃんとまーちゃんが爪を見せに行っている。


「わたくしはノエルでんかとおそろいなのです」

「爪が小さいから可愛いこと。ユリアーナとても似合っていますよ」

「ありがとうございます、おかあさま」


 ユリアーナ殿下はノエル殿下と同じ丸フレンチだ。


「これは斜めになっているんですね」

「はい。爪の先が斜めに塗り分けられていてとてもお洒落です」

「レーニ嬢もとてもよくお似合いです」


 レーニちゃんは斜めのフレンチにしたはずだった。

 続いて見せるまーちゃんは、逆フレンチで色を施した部分の方が広くなっている。


「マリア嬢もとても可愛いですね」

「これは逆フレンチとエリザベートお姉様が言っていました。ユリアーナ殿下とノエル殿下は丸フレンチで、レーニ嬢は斜めのフレンチだそうです」

「フレンチという塗り方には様々な種類があるのですね」

「エリザベートお姉様は言っていました。爪の先端に色を施すものは全部フレンチというのだと」


 鼻高々で説明するまーちゃんに王妃殿下は聞き入っている。

 王妃殿下に教えることができてまーちゃんもとても嬉しそうだ。


「今辺境伯領で技術者を育てています。秋ごろには辺境伯領の技術者がオルヒデー帝国内で店を構えてネイルアートの仕事をするようになるでしょう」

「そのときにはわたくしも王宮に技術者を呼びますわ」

「ぜひごひいきにお願いいたします」


 エクムント様が今後のことを話すと王妃殿下はそれを楽しみにしているようだった。


 お茶会が終わるとわたくしたちは部屋に戻る。

 部屋で休んでいると、ユリアーナ殿下が訪ねて来た。


「エリザベートじょう、クリスタじょう、レーニじょう、おはなしをきかせてください」

「何のお話ですか?」

「まいあさ、デニスどのとゲオルグどのとフランツどのとマリアじょうとおさんぽにいっているのでしょう? なんじごろにおきればいいですか?」

「朝食の前ですね。六時ごろになると思いますよ」

「ろくじ!? わたくし、そんなじかんにおきたことがありません!」

「それから朝食まで三十分から一時間ほどお散歩をします」

「さんじゅっぷんから、いちじかん……そんなにいっしょにいられるわけですね」


 それならば頑張らねばと、気合を入れてユリアーナ殿下は部屋に戻って行った。

 ユリアーナ殿下がそんなにお散歩に行きたかったのかと、レーニちゃんが驚いている。


「お散歩が珍しかったのでしょうか?」

「ユリアーナ殿下はデニスくんに興味がおありのようです」

「デニスに!?」

「デニスくんのことを考えているのだと思います」


 わたくしとクリスタちゃんが単刀直入に伝えると、レーニちゃんが困惑しているのが分かる。


「デニスはまだ五歳です。恋愛などより、その辺に落ちている木の棒が気になる年頃ですよ」

「そうなのですか?」

「この前も、『デュクシ!』とよく分からない掛け声をかけて木の棒を振り回していました」

「『デュクシ!』……」


 ふーちゃんはそういうタイプではなくて、三歳のときから詩を読む文系だったので男の子というものはそんなものなのかとわたくしもクリスタちゃんも呆気に取られてしまう。


「いい感じの木の棒が落ちていたら、デニスとゲオルグで取り合いになって、デニスがゲオルグを泣かせることもあります」

「お散歩のときはそんなことはないのに」

「王宮の庭がよく掃除されていて、木の棒が落ちていないからですよ。木の枝でも落ちているのを見たら、葉っぱをむしって、枝を折って、剣に見立てるに決まっています」


 レーニちゃんに言われると子どもというものはそんなものだったような気がしてくる。大人しいふーちゃんやまーちゃんの方が稀な方なのだ。


「木の棒がなかったら、木に登って折ろうとしますし」

「王宮の花木は傷付けてはならないことになっています」

「そうなのです。ですから、止めるのに必死です」


 それでゲオルグくんとデニスくんとしっかりと手を繋いでレーニちゃんはお散歩をしているのか。ゲオルグくんもデニスくんと手を繋いでいるのは甘えっ子でお兄ちゃんに手を繋いでほしいからだけではなさそうだ。木の棒を見付けたときにゲオルグくんに先を越されないようにしっかりと捕まえておくためかもしれない。


 それを考えるとデニスくんとゲオルグくんの見方が全く変わってしまう気がしていた。


 翌朝のお散歩にはユリアーナ殿下も来てとても賑やかになった。

 ものすごく眠そうだったユリアーナ殿下もデニスくんを見て必死に目を開けている。

 お散歩にはエクムント様も同行なさった。


「エクムントさまは、ほんもののけんをこしにさげるのでしょう?」

「領地では下げますね。私は軍人ですから」

「ほんもののけんは、ほんとうにきれるのですか?」

「切れますよ。儀式的なものなので抜くことはほとんどありませんが」

「エクムントさまはかっこういいです」

「エクムントさま、いつか、ほんもののけんをみせてください」


 デニスくんとゲオルグくんはエクムント様に夢中の様子である。ユリアーナ殿下は上手く声をかけられずにいる。これまではユリアーナ殿下がいたら誰もが気にかけて話題の中心にしてくれたのだろうが、五歳のデニスくんと三歳のゲオルグくんを相手にはそうはいかない。

 自由な五歳男児と三歳男児に、ユリアーナ殿下は振り回されそうな予感である。


「ごえいたちもほんもののけんをもっているではないですか」

「ごえいのけんと、ぐんじんのけんはちがうのです」

「ぐんじんのけんをみてみたいものです」


 唇を尖らせて言うユリアーナ殿下にデニスくんとゲオルグくんはきちんと言い返している。ただ従うだけではなくて、対等な友達になれるかもしれない。そこからがユリアーナ殿下の努力の始まりだろう。


読んでいただきありがとうございました。

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