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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット
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12.フレンチネイルとまーちゃんのお誕生日

 朝食を食べ終わると部屋の中は賑やかになった。

 レーニちゃんとノエル殿下が部屋を訪ねて来たのだ。二人とも自分のマニキュアを持って来ている。ノエル殿下にはユリアーナ殿下もついて来ていた。


「自分でもできないことはないのですが、難しくて」

「エリザベート嬢、爪を塗ってくれませんか?」

「エリザベートじょうにわたくしもつめをぬってほしくて」


 昨日までのマニキュアは取ってあるレーニちゃんとノエル殿下とユリアーナ殿下に、まーちゃんも加わる。


「わたくしの爪も塗り直して欲しいのです。引っかけてマニキュアに傷が付いてしまいました」


 そう言われるとわたくしも爪を塗らないわけにはいかない。

 ノエル殿下から順番に塗っていく。

 ノエル殿下にはピンク色をベースに白っぽいピンクを可愛い丸フレンチに塗ると、ノエル殿下の青い瞳が輝きを増す。


「これは素敵ですね。とても可愛いです」

「ありがとうございます」


 ユリアーナ殿下の小さな爪をノエル殿下と同じ丸フレンチに塗ると、ノエル殿下と見比べて目を輝かせている。


「こういうふうにしてほしかったのです。エリザベートじょうはおじょうずです」

「ありがとうございます」


 続いてレーニちゃんには斜めのフレンチにマニキュアを塗る。


「綺麗です。ありがとうございます」

「いいえ、どういたしまして」


 まーちゃんには小さな爪を逆フレンチに塗ってみた。


 フレンチとは元々爪の先端に色を施したネイルアートのことだ。

 二種類の色を使って一種類は色の薄いもの、もう一種類は濃いものを使って、爪の先端と奥で色が違うように塗り分ければフレンチになる。


 前世でお洒落にそれほど力を入れられなかったわたくしでも、それくらいの知識はあるのでネイルアートでフレンチに塗り分けるくらいはできた。


「この塗り方を何というのですか?」

「全部フレンチですよ」

「フレンチというのはどういう塗り方なのでしょう?」

「爪の先端に色を施す塗り方ですね」


 レーニちゃんとノエル殿下の疑問に答えていると、ノエル殿下は爪を乾かしながらじっと自分の爪を見ている。


「これならば、二種類のマニキュアがあればわたくしでもできるかもしれませんね」

「もっと複雑な図案は技術者しかできないかもしれませんが、丸フレンチや斜めのフレンチや逆フレンチはノエル殿下でもできると思います」

「侍女に覚えさせて塗らせてもいいですね」


 爪を塗っているとマニキュアの匂いが籠ってしまうので、わたくしは窓を開けて換気をした。涼しい風が入って来てマニキュアの独特の匂いも流されて消えてしまう。


 爪が乾いてしまうとノエル殿下もユリアーナ殿下も部屋に戻った。

 わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんはお茶会のために着替える。私的なお茶会なので形式ばったドレスでなくてもいいのだが、エクムント様と会うとなるとそれなりの格好はしておきたい。

 お気に入りのワンピースを身に纏い、クリスタちゃんとレーニちゃんもワンピースを身に纏うと、昼食の後でお迎えが来た。

 エクムント様とハインリヒ殿下とふーちゃんだ。

 ふーちゃんは保護者の父も一緒について来ている。


「一緒にお茶会の会場まで参りましょう」

「クリスタ嬢、ご一緒しましょう」

「レーニ嬢、一緒に行きましょう」


 誘われてわたくしたちは部屋から出て廊下でわたくしはエクムント様の手に手を重ね、クリスタちゃんはハインリヒ殿下の手に手を重ね、レーニちゃんはふーちゃんと手を繋ぐ。

 途中両親とふーちゃんとまーちゃんの部屋の前を通ったが、オリヴァー殿に手を引かれてまーちゃんが嬉しそうに弾んで歩いているのが見えた。あれはスキップしているのではないだろうか。浮かれている様子が一目で分かって、わたくしも小さい頃エクムント様と一緒だったときにあんな感じだったのかと考えずにはいられない。


「エリザベート嬢がノエル殿下とユリアーナの爪を塗り替えてくださったと聞いています」

「お願いされて塗らせていただきました」

「二人とも喜んでいましたよ」


 ハインリヒ殿下に声をかけられてわたくしは微笑む。あれくらいのことで喜んでもらえるのならばお安い御用だ。

 お茶会は例年通り、王宮の庭にある国王陛下のサンルームで行われた。明るい日差しがよく入るサンルームに、お茶会の準備がされている。

 わたくしとエクムント様、クリスタちゃんとハインリヒ殿下、ふーちゃんとレーニちゃん、ノエル殿下とノルベルト殿下、まーちゃんとオリヴァー殿、ユリアーナ殿下と国王陛下と王妃殿下、それにわたくしの両親の十五人が集まると広いサンルームも手狭に感じてしまう。

 それぞれに席に着いたわたくしたちに、国王陛下と王妃殿下が声をかけてくださる。


「今日はマリアのお誕生日だ。おめでとう、マリア」

「今年もわたくしたちでお祝いできることを嬉しく思いますわ」


 今日のお誕生日でまーちゃんも六歳になる。六歳といえばお茶会に出席してもいい年齢だ。

 前世では六歳は小学校に入学する年で、その年齢に子どもがなると周囲の母親たちは安心していた気がする。

 七歳までは神の子というが、子どもはとにかく死にやすい。そんな中で六歳まで成長したということはとてもおめでたいことなのだ。


「お祝いありがとうございます。わたくし、毎年国王陛下と王妃殿下のお茶会でお祝いしてもらえて嬉しく思っております」

「今年も特別なケーキを用意している」

「楽しみにしていてくださいね、マリア嬢」

「はい!」


 元気に答えたまーちゃんは軽食を取るためにフィンガーブレスレットを外していた。大事なオリヴァー殿からもらったフィンガーブレスレットをお誕生日という席に着けて来たい気もちはあったのだが、汚したくないという気持ちも同時にあったのだろう。

 ポケットにフィンガーブレスレットを入れているまーちゃんにオリヴァー殿が囁いている。


「そのフィンガーブレスレットが小さくなったり汚れたりしたら、新しいものを贈ります。安心して使ってください」

「ありがとうございます、オリヴァー殿」


 お礼を言ったところでオリヴァー殿が自分の従者から花束を受け取った。ピンク色の薔薇の花束だ。


「従者に頼んで買って来させました。マリア様、お誕生日おめでとうございます」

「わたくしに!?」

「そうです。受け取ってくださいますか?」


 問いかけられてまーちゃんは顔を真っ赤にして喜んでいる。


「嬉しいです。ありがとうございます」


 棘が取られて綺麗に処理されたピンクの薔薇の花束は、まーちゃんの前に飾られた。

 ミルクティーを飲んで軽食を食べていると、ユリアーナ殿下が国王陛下と王妃殿下に聞いている。


「デニスどのはどうしておまねきしてはいけないのですか?」

「デニスはまだ小さいからね」

「それにディッペル家の婚約者というわけでもありません」

「レーニじょうはフランツどののこんやくしゃで、デニスどのはそのおとうとではないですか。かぞくではないのですか?」

「そうなると、リリエンタール家の者たちもみんな呼ばなくてはいけなくなって、私的なお茶会が当初の目的と違うものになってしまう」

「デニス殿はここには呼べないのですよ」


 国王陛下と王妃殿下に説明してもらっているが、ユリアーナ殿下はそれに納得していない様子だった。

 デニスくんもお茶会に出席できる年齢にはなっているはずなので、ユリアーナ殿下がデニスくんと一緒にお茶をしたいと思う気持ちは分からなくもない。しかし、この場はあくまでも国王陛下と王妃殿下がディッペル家を招いた私的な場所だった。

 あまり人数が増えすぎるのもよくないのだろう。


「ユリアーナ殿下、デニス殿は早朝にお散歩に出ているようですよ。そうですよね、レーニ嬢」

「はい。わたくしとデニスとゲオルグ、エリザベート嬢とクリスタ嬢とフランツ殿とマリア嬢は一緒に朝食前にお散歩に行くのです」

「わたくし、はやおきはにがてなのです」

「デニス殿と一緒に過ごしたいのならば努力してみてはいかがですか?」

「はやおき……」


 そういえば、ハインリヒ殿下も朝に弱かった。ユリアーナ殿下も朝に弱いのだろう。早朝のお散歩に同行すればいいというノエル殿下のアドバイスもユリアーナ殿下の唇を尖らせた顔を元に戻せなかった。


 ケーキが運ばれて来る。

 まーちゃんのお誕生日のケーキだ。


読んでいただきありがとうございました。

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