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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット
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9.エクムント様に想われたい十五歳

 ガブリエラちゃんのお誕生日のお茶会が終わって学園に戻ると、学園ではハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日のお茶会の話で持ちきりになっていた。

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下は今年十六歳と十七歳になる。成人して結婚する年齢までハインリヒ殿下が後二年、ノルベルト殿下は後一年になるのだ。

 結婚した後はノルベルト殿下は大公として元バーデン家が治めていた領地を受け継いで、領主となられる。王都からは少し離れてしまうし、ハインリヒ殿下とお誕生日は近いが、皇太子と大公という立場になられるので一緒に祝われることもなくなるだろう。

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日が共に祝われるのは残り二回。

 その貴重な二回の内一回が迫ってきている。


 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日の式典のために、わたくしはドレスを誂えなければいけなかった。

 いつの間にかわたくしは母よりも背が高くなっており、それがまだ伸びる様子を見せているのだ。

 前世で言えば百七十センチに近いのだろうか。クリスタちゃんよりもかなり大きくなってしまった。

 背は高いのだが胸は育ちが悪いようであまり膨らみがない。

 豊かな膨らみを持つ胸が欲しかったような気もするが、『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』でわたくしの挿絵はひょろりと背が高く胸がなかった気がするのでこれはこれで仕方がないと諦めるしかなかった。

 背が高いということは悪いことばかりではない。背は高いが細身のわたくしは、前世のモデルのような体型をしているので鏡を見ても自分で悪くないなとは思えるのだ。

 それにエクムント様は背が高い。この世界でメートル法は使われていないようだが、前世で考えれば二メートルに近い長身をお持ちである。エクムント様の隣りに立って映える身長と言えばそれなりになるので、わたくしは背が高くなっていることに対しては劣等感は抱いていなくて、むしろ嬉しさすらあった。


 辺境伯領の女性も背が高い方が多い。ラウラ嬢もそうだったし、カサンドラ様もわたくしよりも背が高かった。

 辺境伯領に嫁ぐに相応しい背丈に自分がなっていることは誇らしかった。


「お姉様、素敵です」


 新しいドレスを着ているとクリスタちゃんが見に来てうっとりと呟く。


「わたくしが男性でしたらお姉様を望みましたし、お姉様が男性でしたらわたくし、絶対にお嫁にいっておりました」


 頬を赤らめて言うクリスタちゃんは以前もそのようなことを言っていた気がする。わたくしにとってはクリスタちゃんは妹で、それが弟になったとしても弟として可愛がっただろうし、わたくしが男性として生まれて来たとしてもクリスタちゃんは妹に違いなかった。

 夢を見るように言うクリスタちゃんだが、今の形が一番良かったと思うのはわたくしだけではないだろう。クリスタちゃんにも愛しい婚約者がいるのだ。


「クリスタちゃんのドレスも素敵ですよ」

「本当ですか? 前のドレスは胸の辺りがきつくなってしまって」


 呟くクリスタちゃんは豊かというほどではなかったがそこそこに胸も育っている。わたくしとクリスタちゃんはやはり違う血を引いているのだと身長と胸の育ちで感じずにいられなかった。


 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日のお茶会には学園から向かって両親とふーちゃんとまーちゃんに合流した。まーちゃんは今度のお誕生日も国王陛下一家とお祝いできると楽しみにしている。


「お父様とお母様が国王陛下に招待状をいただいたのです。わたくしは、今年も国王陛下御一家とお茶会でお祝いができます」

「マリアのために屋敷に帰ってからお茶会を開いてもいいのだよ?」

「マリアも国王陛下御一家とわたくしたち家族だけのお茶会では寂しいでしょう?」

「オリヴァー殿がおられないのは寂しいですが、わたくしは幼い頃から国王陛下御一家に祝っていただいていますから。これが一番です」


 別にお茶会の準備をしようかと問いかける両親にまーちゃんはこれで十分だと答えていた。

 年頃になれば自分のお誕生日のお茶会も開いて欲しくなるのかもしれないが、まーちゃんは今年で六歳。まだまだ家族と国王陛下御一家だけのお祝いで十分のようだった。


「お父様、お母様、レーニ嬢には来ていただくのでしょう? それならば、オリヴァー殿もお招きしていいか国王陛下に聞いてあげたらよいではありませんか」


 可愛い妹のためにふーちゃんが両親に言っている。レーニちゃんはふーちゃんの婚約者として当然参加するものとして、オリヴァー殿はまーちゃんの婚約者として参加していいものか国王陛下にお伺いを立てて欲しいというのだ。


「マリアはそれを望んでいるのだね」

「はい、オリヴァー殿に誕生日を祝って欲しいです」

「それでは、国王陛下にお手紙を書きましょうね」


 両親もその方向で国王陛下にお手紙を書いていた。


「オリヴァー殿が来られるのならば、わたくしはずっとこのようなお誕生日でも構いません」


 ノルベルト殿下とハインリヒ殿下が別々の場所でお誕生日を祝うとなると、また忙しさが増すことになる。二年後からはますますまーちゃんのお誕生日はノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日の間に埋もれてしまうだろう。

 そうなると国王陛下御一家とのお茶会も実現するかは分からないのだが、とりあえず今年と来年は今のままの体制で行けることは確かだった。


 そこから後のことはそのときに考えればいい。


 その頃にはわたくしも六年生になっていて、エクムント様のいる辺境に嫁ぐ日を心待ちにしているのかと思うと胸がドキドキしてくる。


「国王陛下はエクムント殿もお誘いしているようだよ」

「エクムント殿はエリザベートの大事な方ですからね」


 両親の口からエクムント様の名前が出て、わたくしは顔に出ていたかと慌ててしまう。

 エクムント様の隣りに座ってお茶会に出るのがわたくしの一番の楽しみである。

 そのうちにわたくしはエクムント様の隣りの場所をしっかりと盤石なものとする。それは決められた未来なのだ。

 八歳でエクムント様と婚約をしたときから決まっていた未来。

 ディッペル公爵家と辺境伯家との間の婚約は国の一大事業であり、一度結ばれたら個人の気持ちで破棄できるようなものではない。

 エクムント様もその覚悟をしてわたくしとの婚約に臨まれたし、わたくしも八歳なりにその覚悟をして婚約に臨んだ。

 後悔することは一つもないのだが、エクムント様の心がまだわたくしに向いていない気がするのだけが心にかかっている。

 エクムント様からの好意も感じているし、紳士的に優しくわたくしに接してくださっているのも分かっている。わたくしの提案することを全て理解して、それを辺境伯領で広げようとしてくださっているのも分かる。

 しかし、恋愛感情があるのかどうかと言えば、まだ全然そういう気配がないのだ。


 わたくしも社交界にデビューする十五歳を超えた。

 そろそろエクムント様の恋愛感情がわたくしに向いてもいいのではないかと思っているのだが、エクムント様は紳士的過ぎるのだ。

 早くエクムント様の視界に入りたい。エクムント様を夢中にするようなレディになりたいとわたくしは思わずにはいられない。


 ただの政略結婚ではなくて、エクムント様にははっきりとわたくしのことを好きになって結婚して欲しかった。

 元が八歳と十九歳で始まったので、簡単な道のりではないと分かっていたが、エクムント様に好かれたいという気持ちはあのときから変わっていない。

 最愛になりたいと結婚するのならば誰でも思うのではないだろうか。

 政略結婚であっても両親は愛し合っているので、特にわたくしはそう思ってしまう。

 愛し合って結婚したい。例え政略結婚でも。

 それは贅沢なことなのだろうか。


読んでいただきありがとうございました。

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