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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット
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6.観劇の後で

 一緒に見に行ったときには頭が真っ白になって何も覚えていなかったお芝居をちゃんと見ることができて、わたくしはエクムント様との会話にも困らなくなって安心していた。

 わたくしもクリスタちゃんもレーニちゃんも慣れているが、リーゼロッテ嬢とミリヤムちゃんはユリアーナ殿下やわたくしの両親、レーニちゃんのご両親との観劇に緊張している様子だった。


「今日はチケットを手配してくださって本当にありがとうございました」

「楽しい観劇でした」


 ミリヤムちゃんとリーゼロッテ嬢がハインリヒ殿下にお礼を言っている。

 リーゼロッテ嬢の顔を見てノエル殿下は気付いたようだ。


「ホルツマン家のリーゼロッテ嬢ですね?」

「はい、わたくし、リーゼロッテ・ホルツマンと申します」

「エリザベート嬢がお茶会に招いたのはノルベルト殿下から聞いていました。お会いできて嬉しいですわ」

「わたくしもノエル殿下にお会いできて光栄です」


 普通の会話に聞こえるが、緊張感が満ちているのは確かだ。ノエル殿下はホルツマン家のラルフ殿の件でわたくしとレーニちゃんが相談したときに、ふーちゃんとの婚約を助言してくださった方であり、ローザ嬢が絡んで来たときもいち早く情報を得ていた方である。

 ホルツマン家のリーゼロッテ嬢をお茶会に招いたことに関して、心から歓迎しているのかどうかはわたくしにもよく分からない。

 分からないのだが、お茶会に招待したわたくしの顔を立てて、歓迎する姿勢は見せてくれている。


「わたくしが学園を卒業するときにはクリスタにお茶会を引き継ぎます。そのときに下級生が全くいなかったら寂しいかと思ってお誘いしたのです」

「そうなのですね」

「ホルツマン家とは様々なことがありましたが、リーゼロッテ嬢はローザ嬢を諫め、教育もきちんと受けていて、ラルフ殿とは全く違うと判断したのです」

「エリザベート嬢の判断を尊重しましょう。わたくしは卒業した身ですからね」


 そういってもらえて胸を撫で下ろしたのはわたくしだけではなかっただろう。ホルツマン家のしたことはそれだけ大きなことだったのだとリーゼロッテ嬢は改めて胸に刻むことになったに違いない。


「ノルベルト殿下、お芝居の口付けは強引でしたが、ロマンチックで紳士的なものでしたらわたくし……」

「ノエル殿下!?」


 大胆なことを言っているノエル殿下にノルベルト殿下が頬を赤くして目を見開いていた。男性にとって口付けというものはしたいものなのかもしれない。

 わたくしはエクムント様とならばしたい気はするのだが、まだ早いような気がして気後れしてしまう。

 エクムント様がロマンチックにリードしてくださって、自然な流れでそういう雰囲気になったら、わたくしは喜んで口付けを受け入れるだろう。だがエクムント様にとってわたくしはまだ子どもという感覚かもしれないのだ。

 もう十五歳なのだから大人として見て欲しいが、大人として扱われるにはまだ幼い気がして悩んでしまう。


 ため息をついているとクリスタちゃんがわたくしの顔を見上げていた。


 そういえばわたくしはクリスタちゃんよりも背が高い。母よりも背が高くなって、いつの間にか女性陣の中では一番背が高くなっている。

 エクムント様が背が高いので気付いていなかったが、わたくしは女性の中では背が高い部類に入るのかもしれない。


「悩ましそうなため息ですわね。エクムント様のことを考えていたのですか?」

「エクムント様はまだわたくしのことを子どものように考えているのではないかと思ってしまったのです」

「お姉様は美しいレディになっていますわ。エクムント様も口付けしたい気持ちを我慢しているのかもしれません」

「本当にそうでしょうか」


 観劇のときにはずっと手を握っていてくれたけれど、口付けしたいくらい大人と思ってくれているとはまだ考えられない。エクムント様の心を掴みたいのにわたくしはエクムント様の中でいつまでも子どもで、悔しいくらいなのだ。


「八歳で婚約したときには、十五歳なんてものすごく大人に思えたものですが、なってみるとまだまだ子どもですね」

「お姉様自身がそんなことを言われるなんて」

「分かるのです。エクムント様にとってわたくしは恋愛対象に入っていないというのが」


 これからだと思うのだが、いつになればエクムント様がわたくしを恋愛対象に入れてくれるのかが不安でならない。

 七歳の頃のわたくしにエクムント様は誠実に答えてくれた。


――エクムント様は、どんな女性が好きですか?

――私は、女性を選べる立場ではありません

――選べる立場ではないってどういうこと?

――私が辺境伯家に養子に行けば、その結婚は辺境伯家と他家を結ぶ重要なものです。私が好きになる相手は、結婚する相手だとお答えしておきましょう。


 結婚をする前に恋愛をして、結婚と恋愛は別だという貴族もいるようだが、エクムント様はそんなタイプではなかった。

 結婚をする相手が好きになる相手。

 はっきりとそう答えてくれた。


 そうなるとエクムント様が好きになる相手はわたくししかいないのだし、エクムント様からの好意は感じている。プレゼントもたくさんいただいているし、手紙を一通書けばフィンガーブレスレットを製品として仕上げてくださるまでの信頼も得ている。

 お芝居の間中手を握っていてくださったのだって、クリスタちゃんに言われるまで気付かなかったが好意がなければするはずがない。


 七歳のときにエクムント様の好きな相手になるためには婚約をするしかないと考えて、カサンドラ様に気に入られるように必死に頑張った。

 その結果として婚約はできたのだが、そこから先がまた長かった。


 わたくしは今年十六歳になる。

 婚約をしたのが八歳だから、それから倍の年月が経つということだ。


「エクムント様に愛されたいのです」


 恋愛感情を持って好きだと言って欲しい。

 愛していると囁いて欲しい。


 エクムント様が優しければ優しいほどわたくしは強欲になって、愛されたいと思ってしまうのだ。


「その気持ち、わたくしも分かりますわ」

「クリスタも?」

「ハインリヒ殿下も、まだわたくしに愛しているとは言ってくださいませんもの」


 クリスタちゃんは十四歳でハインリヒ殿下は十五歳。愛しているという単語が出て来るには少し早いような気がする。

 それでもわたくしやクリスタちゃんのような恋する乙女は相手に大きな期待をしてしまうのだろう。


「く、クリスタ嬢に、あ、あい、あ、あい……」


 話が聞こえてしまったのかハインリヒ殿下が動揺しているのが分かる。

 十五歳のハインリヒ殿下には「愛している」の言葉はハードルが高いのはよく分かる。


「エリザベート、クリスタ、ガブリエラ嬢のお誕生日に招かれているけれど、今年はどうするつもりなのかな?」

「ディッペル家の全員を招待する手紙が届いていますよ」

「お祝いに行かせていただきます」

「お姉様、エクムント様も来られますものね」

「エクムント様もそうですが、ガブリエラ嬢は可愛い将来の義理の姪です」


 両親に問われてわたくしとクリスタちゃんが答える。

 エクムント様は姪のガブリエラちゃんを可愛がっているので、お誕生日のお茶会には必ず出席するだろう。

 何より、エクムント様と結婚すればガブリエラちゃんは義理の姪になるのだ。


「お父様、お母様、お返事をしておいてください」

「分かりました」


 お願いするわたくしに、母が答えてくれる。


「レーニはどうしますか?」

「わたくしも出席するつもりです」

「分かりました。返事をしておきますね」


 レーニちゃんもガブリエラちゃんのお誕生日のお茶会に参加するようだ。

 ガブリエラちゃんのお誕生日も賑やかなものになりそうだった。


読んでいただきありがとうございました。

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