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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット
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1.クリスタちゃんの誕生日とネイルアート

 クリスタちゃんとふーちゃんは合同でお誕生日のお茶会を開いていた。

 その日はふーちゃんのお誕生日で、クリスタちゃんのお誕生日は少し先だった。


 お誕生日のお茶会から帰る前にハインリヒ殿下がクリスタちゃんの手を取って告げる。


「クリスタ嬢のお誕生日にもディッペル家を訪ねさせてください」

「嬉しいです。ありがとうございます」

「お誕生日お祝いは何がいいですか?」

「ハインリヒ殿下が下さるものなら何でもいいですわ」


 決して物を強請ったりしないのも淑女としての嗜みである。クリスタちゃんはしっかりとそれを守っていた。


「私もクリスタ嬢のお誕生日を祝いに来てもよろしいでしょうか?」

「エクムント様、賑やかになりそうで嬉しいですわ」

「ハインリヒ殿下、少しよろしいですか?」

「はい、なんでしょう?」


 クリスタちゃんのお誕生日にディッペル家を訪ねて来る宣言をしたエクムント様がハインリヒ殿下を呼んで何か囁いている。耳を澄ましていると、クリスタちゃんのプレゼントのことのようだ。


「マリア嬢がマニキュアに興味を持って、クリスタ嬢やエリザベート嬢はマニキュアを塗ってあげているようなのです。新しい色のマニキュアがあったら喜ばれるのではないでしょうか」

「さすがエクムント殿。頼りになります。ですが、今持っている色が分かりません」

「クリスタ嬢が今塗っているマニキュアが今持っている色です」

「そうですね! そうでした!」

「エリザベート嬢の塗っているマニキュアとも同じにならないように気を付けてください」

「分かりました」


 エクムント様の助言を得てハインリヒ殿下はクリスタちゃんのお誕生日のプレゼントを決めたようだった。

 クリスタちゃんはレーニちゃんに声をかけられて、ハインリヒ殿下とエクムント様の会話に気付いていない。


「クリスタ嬢、わたくしもクリスタ嬢のお誕生日にはお祝いに来てもよろしいでしょうか?」

「レーニ嬢はフランツの婚約者で家族のような存在です。来てくださるととても嬉しいです」

「それでは、わたくし両親にお願いして訪ねさせていただきますわ」


 クリスタちゃんとレーニちゃんが話していると、ユリアーナ殿下がもじもじとしているのが分かる。ユリアーナ殿下はまーちゃんに話しかけたいようなのだ。


「マリアじょうのつめ、とてもかわいいです」

「ありがとうございます、ユリアーナ殿下」

「わたくしも、つめがぬりたいのですが、どうすればいいのでしょう?」

「わたくしはエリザベートお姉様とクリスタお姉様に塗ってもらっています。ユリアーナ殿下にはお兄様しかおられませんよね」


 ユリアーナ殿下に悩みを告げられて困ってしまっているまーちゃんに、ノエル殿下が声をかける。


「ユリアーナ殿下、わたくしはユリアーナ殿下の義理の姉になるのです。よろしければ、わたくしのマニキュアを塗って差し上げましょうか?」

「いいのですか、ノエルでんか?」

「もちろんです。ユリアーナ殿下は弟妹のいないわたくしの可愛い妹のような存在です」

「ありがとうございます、ノエルでんか」


 ユリアーナ殿下はノエル殿下にマニキュアを塗ってもらうということで話がまとまった。

 それにしても、マニキュアがこんなに流行るのならば、もっとマニキュアで違うことができないかとわたくしは考えてしまう。

 前世のようにラインストーンを散りばめたり、精密な絵を描いたりすることは難しいかもしれないが、簡単なものならばわたくしでもできるのではないだろうか。


 クリスタちゃんのお誕生日の前にわたくしとクリスタちゃんにプレゼントが送ってきた。クリスタちゃんにはハインリヒ殿下から、わたくしにはエクムント様からだった。

 クリスタちゃんは少し濃い目のピンクのマニキュア、わたくしはシェルピンクの不透明のマニキュアだった。


 お誕生日に向けてマニキュアを塗ろうとするクリスタちゃんに、わたくしはマニキュアを手に取って申し出てみる。


「わたくしが塗ってみていいですか?」

「お姉様が塗って下さるのですか? 何だかくすぐったいですね」


 くすくすと笑いながらクリスタちゃんは白い手をわたくしに預ける。わたくしは濃淡の違うマニキュアを使って、少しずつ指先に向かって濃くなるようにグラデーションを作っていった。

 出来上がった爪を見てクリスタちゃんが目を丸くしている。


「これはお姉様が考えたのですか?」

「せっかく違う濃さのピンクがあるのでやってみたかったのです」

「とても可愛いです!」


 感動しているクリスタちゃんの前でわたくしは自分の持っている透明のピンクのマニキュアを全体に塗って、乾いてから、爪の先にだけシェルピンクのマニキュアを塗り重ねて、フレンチに塗り分ける。

 クリスタちゃんの爪とわたくしの爪を見ていたまーちゃんがお目目を輝かせている。


「お姉様たちの爪、素敵! とても綺麗!」

「まーちゃんはどちらがいいですか?」

「わたくしにもしてくださるのですか? わたくし、エリザベートお姉様と同じのがいいです!」


 小さな可愛い手を差し出してくるまーちゃんに、わたくしは小さな爪をフレンチに塗り分けた。


 グラデーションとフレンチに塗り分けるくらいならばわたくしの技術でもできる。それが分かってわたくしは満足していた。


 クリスタちゃんのお誕生日にやってきたレーニちゃんはわたくしとクリスタちゃんとまーちゃんの爪を見て夢中になっていた。


「とても可愛いですね。こんな風に塗ることができるのですね」

「クリスタちゃんの爪は二種類のマニキュアでグラデーションにしました。わたくしとマリアの爪は二種類のマニキュアでフレンチに塗り分けました。どちらも難しくはないのですよ」

「グラデーションとフレンチ! エリザベート嬢がまた新しい単語を作ったのですね」

「え?」


 そうだった。

 この国、この時代にはまだネイルアートもなかったのだ。グラデーションとフレンチに塗り分けるという言葉すらこの世界にはなかった。

 グラデーションという言葉はあったのだが、爪に対して使うことはなかったのだ。


「ハインリヒ殿下、見てくださいませ。お姉様がハインリヒ殿下のくださったマニキュアとわたくしが持っていたマニキュアでグラデーションにしてくださったのです」

「とても美しいです」


 グラデーションという言葉を覚えてクリスタちゃんが早速使っている。


「エクムント様、わたくしがシェルピンクのマニキュアが欲しいと言っていたので、エリザベートお姉様にシェルピンクのマニキュアをくださったのですね」

「それはどうでしょうか」

「エリザベートお姉様がもらえば、わたくしが使えると思ったのでしょう。とても嬉しいです」

「変わった塗り方をしていますね。とても綺麗ですが」

「これは、エリザベートお姉様がフレンチと言っていました」

「フレンチ、聞かない言葉ですね」

「エリザベートお姉様は新しい塗り方の名称を考えてしまったのです」


 まずい、わたくしがフレンチに塗り分けるやり方の第一人者のようになってしまった。

 うっかりと口を滑らせたのがいけなかったのだが、この世界にグラデーションに爪を塗り分けることも、フレンチに塗り分けることも誰もしたことがないなんて思わなかったのだ。


「もっとマニキュアの色があると様々なことができそうですね」

「エクムント様、わたくしは今持っているもので十分ですからね。ありがたく使わせてもらっています」

「そうですか。エリザベート嬢の発想をもっと知りたかったのですが、残念です」


 もっと色々なマニキュアがあったら、色んなネイルアートに挑戦できるかもしれないが、今はわたくしは自分の持っているマニキュアだけで十分だった。

 マニキュアもお茶会のときには使うのだが、学園では使うことを許されていないし、普段はつけないのでそんなに減ることもない。


「皆様、ようこそいらっしゃいました。クリスタのためにありがとうございます」

「家族だけで祝うつもりでしたがお客様がたくさんでクリスタも喜んでいます」


 両親が挨拶をして、全員で食堂に向かう。

 椅子に座ってミルクティーを飲んで、ケーキとサンドイッチとキッシュとスコーンを食べて、わたくしたちはお茶を堪能した。


読んでいただきありがとうございました。

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