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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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52.ノエル殿下の卒業

 冬休みが終わると、学園のお茶会はわたくしが主催するようになって、ノエル殿下から様々な引継ぎを受けた。サンルームの鍵の借り方、お茶やお菓子や牛乳の手配の仕方、給仕の手配の仕方など、将来辺境伯夫人になるわたくしにとっては勉強になることばかりだった。


 わたくしやクリスタちゃんはミルクティーが好きなので、ミルクティーに合う紅茶の茶葉を手配して、サンドイッチやキッシュやスコーンやケーキはノエル殿下のご用達の店で手配する。

 料金は一度はディッペル家に請求されて、そこから参加者の家に請求を回す方式になっていた。これもわたくしが請求書をディッペル家に送らなければいけないので、金銭の取り扱いの勉強になる。


「エリザベート嬢はよく覚えてくださって助かります。エリザベート嬢が卒業した後はクリスタ嬢が引き継いでくださいね」

「はい、分かりました」


 春が近くなるとノエル殿下の卒業が近くなるということでわたくしもクリスタちゃんもレーニちゃんもミリヤムちゃんも寂しくなる。

 酷い苛めを受けていたミリヤムちゃんはノエル殿下に助けてもらったので、それだけ恩を感じてノエル殿下が学園からいなくなるのを心細く思っていることだろう。


「わたくし、卒業したら大学に進みます。大学で二年間勉強した後で、ノルベルト殿下と結婚いたします」

「そのことについてなのですが、僕も大学に進もうと思っていて」

「大学で勉強なさるのですか?」

「はい。僕は医者になりたいのです」


 ノルベルト殿下が医者になりたいだなんて話は初めて聞いたのでわたくしも、ノエル殿下も驚いていた。


「ユリアーナの出産のときに月が満ちてもなかなかユリアーナは生まれてきませんでした。パウリーネ先生の献身的な支えがあって、王妃殿下は無事にユリアーナを生むことができました。あのとき、ひとの命を助け、献身的に患者を支える姿に、僕は感動したのです」

「では、産科の医者になるつもりですか?」

「それは分かりません。勉強してみて、医者として僕がどの分野で一番役に立つのかを試したいのです。大学に通いながら結婚もするつもりです」

「そうなのですね。わたくし、ノルベルト殿下を応援いたしますわ」


 この時代、医者は貴族か裕福な平民しかなれない職業だった。大学に入学するのも、その前の学校で勉強するのも、お金がないと成り立たないのだ。

 貴族の当主が医者で、その領地の領民を診ているなんてことはよくあることだったのだ。


「何かといえば瀉血で物事を済ませてしまおうという医者もたくさんいると聞いています。僕はそういう医者にはなりたくないのです」


 瀉血とは、この時代に信じられていた医療方法で、血を抜くことによって悪いものを外に出そうという考えだった。前世の医学では全く推奨されていなかった。

 ノルベルト殿下も瀉血をひたすらに勧める医者が多いことを問題視しているようだった。


「ノルベルト殿下が医者ならば、わたくしは安心ですね」

「ノエル殿下のことはしっかりと診られるようにしたいと思います」

「医者で大公の夫を持つだなんて、心強いですわ」


 ノエル殿下もノルベルト殿下の考えに賛成して、ノルベルト殿下が医者になることを応援する様子だった。


 春の試験が終わると、ノエル殿下の卒業式がある。

 卒業式にはノエル殿下のお茶会のメンバーであるわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんとミリヤムちゃんとハインリヒ殿下とノルベルト殿下は招かれていた。

 卒業式でノエル殿下は代表の挨拶をした。


「この学園に入学して六年、様々なことを学びました。この学園で学んだことを糧にわたくしたちはこれから先の未来へと羽ばたいて参ります。卒業するとすぐに結婚するものもいるでしょう。大学に進学するものもいるでしょう。全ての生徒に輝かしい未来があらんことを願っています」


 挨拶が終わると拍手が起きる。

 わたくしも手が痛くなるくらいまで拍手をした。


「卒業式に来てくださってありがとうございました。お茶会の主催はエリザベート嬢にしっかりと任せました。ハインリヒ殿下、ノルベルト殿下、エリザベート嬢を支えてあげてください。ノルベルト殿下は学園を卒業されるのをお待ちしております」

「ノエル殿下、僕も早く学園を卒業したいと思っています。ノエル殿下がこの国の大学に通って、この国に残って下さることだけが喜びです」

「おそばにいます、ノルベルト殿下。わたくしたちは、ノルベルト殿下が学園を卒業したら、一生一緒なのですから」


 手を取り合っているノエル殿下とノルベルト殿下の姿は美しかった。

 見惚れていると、後ろから咳払いが聞こえる。

 振り向けばノエル殿下とよく似たプラチナブロンドの髪に青い目の女性が清楚なドレス姿で立っていた。


「お母様!? 来てくださっていたのですか!?」

「ノエルの晴れの舞台です。卒業おめでとう、ノエル」

「ありがとうございます、お母様」


 気が付けばわたくしたちの周りにはぐるりと護衛の兵士たちが取り巻いて他の生徒を近付けないようにしている。


「女王陛下、お久しぶりです。ノルベルト・アッペルです」

「ノルベルト殿下、ノエルが我が国に帰りたくないというのも分かります。あなたのそばにいたいのですね」

「光栄なことです」

「ノエルのことをよろしくお願いします。わたくしにとっては、一番下の可愛い娘です」

「ノエル殿下を一生大事にして、お守りすることを誓います」

「まるで結婚式の誓いのようですね。二年後にはその言葉をまた聞けることを楽しみにしています」


 まさか隣国の女王陛下がお忍びでノエル殿下の卒業式に来られているとは思わずに、わたくしもノエル殿下もクリスタちゃんもレーニちゃんもミリヤムちゃんも、ハインリヒ殿下もノルベルト殿下も驚いていた。

 ノルベルト殿下はそれでも落ち着いて対処ができた方だろう。


「ノエル、春休みには国に帰ってくるのですよ」

「はい。荷物を用意して春休みには帰ります。ですが、クリスタ嬢のお誕生日には出席することをお許しください」

「クリスタ嬢は皇太子のハインリヒ殿下の婚約者でしたね。よいでしょう」

「そして、今年からはわたくしのお誕生日はこの国で祝わせてほしいのです」


 学園を卒業したノエル殿下はそれまで隣国で祝っていたお誕生日をこの国で祝わせてほしいと願っている。


「いいでしょう。ノエルも十八歳。成人の年齢になりました。これからはオルヒデー帝国に嫁いだものと思って、この国でお誕生日の式典を開くといいでしょう。わたくしもお祝いに参ります」

「ありがとうございます、お母様」


 女王陛下はどんな方かと思っていたが、思ったよりも優しくノエル殿下のことを深く愛している母親のようだった。


「あなたたちがノエルと仲良くしてくださっていたのですね」

「こちらがエリザベート・ディッペル嬢。この国で二つだけの公爵家の令嬢で、辺境伯との婚約が決まっています」

「初めまして、エリザベート・ディッペルです」

「アデライド・リヴィエです。よろしくお願いいたします」

「お母様、こちらがエリザベート嬢の妹君のクリスタ・ディッペル嬢です」

「お初にお目にかかります、クリスタ・ディッペルです」

「皇太子殿下の婚約者のクリスタ嬢ですね。よろしくお願いします」

「こちらはレーニ・リリエンタール嬢です。我が国とオルヒデー帝国を繋ぐ鉄道事業を手掛けたリリエンタール公爵の令嬢です」

「鉄道事業のおかげで我が国とオルヒデー帝国の結びつきがますます強くなりました。感謝しています」

「ありがとうございます、女王陛下。レーニ・リリエンタールです」


 順番にノエル殿下が紹介してくださるので、わたくしたちは頭を下げて女王陛下にご挨拶をしている。


「この方は、ミリヤム・アレンス嬢です。子爵家の令嬢ですがわたくしと交友が深く、将来はわたくしの屋敷で侍女頭を勤め、わたくしに子どもが生まれた暁には、乳母になってもらおうと思っております」

「それは大事な役目ですね。ミリヤム嬢、よろしくお願いします」

「わたくしなどに務まるか分かりませんが、頑張ります」


 ミリヤムちゃんも女王陛下にご挨拶をしていた。

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下は何度かお会いしたことがあるようなので、ノエル殿下は紹介しなかった。


「皆様、ノエルのことをよろしくお願いします。ノエルは我が国を離れてこの国で暮らすことを選んでいます。それもノルベルト殿下の妻となる日のため。皆様、ノエルとこれまで以上に仲良くしてあげてくださいね」


 学園を卒業したからと言ってノエル殿下との交流が断たれるわけではない。ノエル殿下はこの国で今年からお誕生日を祝うし、ますますこの国に馴染んでいくのだろう。


「わたくしのお誕生日は冬の始めです。どうぞよろしくお願いします」


 微笑むノエル殿下にわたくしたちは深くお辞儀をした。

読んでいただきありがとうございました。

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