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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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50.ユリアーナ殿下の恋とわたくしの黒歴史

「デニスどの、ぜひわたくしのしょうめんにすわってください」


 積極的にデニスくんに話しかけるユリアーナ殿下に、デニスくんはレーニちゃんが戻ってくるのを待っているようだ。


「おねえさまにきいてみないと……」

「わたくしがゆるすといっているのです」

「でも……」


 初めてのお茶会でユリアーナ殿下の正面に座ることは不作法ではないのか、レーニちゃんに確認しないと安心できない様子のデニスくんに、ユリアーナ殿下は興味津々で青い目を煌めかせている。


「はずかしがっているのでしょうか? ハインリヒおにいさま、ノルベルトおにいさま、デニスどのにだいじょうぶだとつたえてください」


 大きな声で呼ばれてノルベルト殿下とハインリヒ殿下が、ノエル殿下とクリスタちゃんと一緒にテーブルのところに来る。


「どうかしたのかな、ユリアーナ?」

「軽食とケーキを取って来てあげようか?」

「おにいさまたち、それはうばがしてくれています。デニスどのにしょうめんのせきにすわってほしいのですが、デニスどのはえんりょしているようなのです」


 ユリアーナ殿下から話を聞いてハインリヒ殿下とノルベルト殿下の視線が小さなデニスくんに向く。


「赤毛の可愛い男の子だね。ユリアーナ、気に入ったの?」

「おともだちになりたいのです。デニスどのはわたくしとおなじとしではないですか? がくえんににゅうがくするころには、がくゆうになれるのではないですか?」

「学友は同性の生徒のことを言うね。デニス殿は同級生かな?」

「そうなのですか。わたくし、がくえんにかようようになったら、こんやくできるでしょうか?」

「婚約!?」

「誰と!?」

「それはおにいさまたちにもないしょです」


 急に婚約の話が出て来てハインリヒ殿下もノルベルト殿下も動揺しているが、ユリアーナ殿下の態度からデニスくんにユリアーナ殿下の気持ちが向いているのは間違いない。


「同席させていただこう」

「私も」


 ノルベルト殿下とハインリヒ殿下はユリアーナ殿下と同席してお茶をすることに決めたようだった。


「あ、おねえさま。ユリアーナでんかにしょうめんのせきにすわるようにすすめられたのですが、しつれいではないでしょうか?」

「ユリアーナ殿下から勧められたのでしたら、そのようになさい」

「わかりました」


 デニスくんは戻ってきたレーニちゃんから軽食とケーキの乗ったお皿を受け取って、ユリアーナ殿下の正面の席に座っていた。隣りにレーニちゃん、その隣りにふーちゃんが座る。


「マリアじょうはごさいでこんやくしました。フランツどのはろくさいでこんやくしました。エリザベートじょうははっさいでこんやくしたときいています。わたくしはなんさいでこんやくできるのでしょう?」

「父上は私の婚約を、クリスタ嬢が十二歳で学園に入学するときに決めていた。ユリアーナもそれくらいの年齢になると思うよ」

「わたくしもはやくこんやくしたいのです」

「だから、誰と!?」


 穏やかに説明するハインリヒ殿下と、落ち着いていられない様子のノルベルト殿下に、デニスくんは自分の話をされていると思っていないのか、紅茶にミルクポッドで牛乳をたっぷり入れて、飲みながら軽食とケーキをもりもりと食べている。

 ユリアーナ殿下の視線も気にしていないようだ。


「ユリアーナ殿下は積極的ですね」

「わたくしも幼い頃はあんな風だったのではないかと恥ずかしくなります」

「エリザベート嬢が?」

「はい。マリアの様子を見ても、ユリアーナ殿下の様子を見ても、わたくしの秘めたる恋は実は周囲にはあからさまに見えていたのではないかと恥ずかしくなるのです」


 ずっとエクムント様を好きなことを隠していたつもりだったが、わたくしが小さい頃からエクムント様を好きで好きで堪らなかったことは両親にもバレていた。

 まーちゃんやユリアーナ殿下の行いを見ていると、わたくしは庭で遊んでいるときにエクムント様をままごとに誘ったり、折り紙を習うために子ども部屋に呼んだりして、たくさん露骨なことをしてしまっていたのではないだろうか。

 それを考えると、いわゆる黒歴史というやつだろうか、恥ずかしくて顔から火が出そうな勢いだった。


「エリザベート嬢は大人しいレディでしたよ、小さな頃から」

「そうだといいのですが」

「元ノメンゼン家で酷い扱いを受けていたクリスタ嬢を、ご両親に泣きながら引き取ってくれるように言われたと聞いたときには、なんて心の優しいお嬢様に育ったのだろうと思いました」


 あのときのことはよく覚えている。

 わたくしは前世の記憶を取り戻して、『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』の世界に自分が生まれ変わったことを知った頃だった。主人公のクリスタちゃんとは絶対に関わり合いになるまいと思っていたのに、クリスタちゃんはあまりにも酷い目に遭っていて、わたくしは見過ごすことはできなかったのだ。

 あの日からクリスタちゃんの運命も変わって、わたくしの運命も変わって、わたくしは悪役からクリスタちゃんの姉になれたし、辺境に追放される予定だったのが、辺境伯に嫁ぐことに決まっている。

 公爵家と辺境伯家の結婚は国の一大事業なので、婚約破棄などあり得ないし、わたくしはカサンドラ様から選ばれて望まれて辺境伯家に嫁ぐ未来しかないのだ。


 未来を変えられるかわたくしも分からなかったが、わたくしがしてきたことが実っている気がする。


「クリスタを引き取ってから、両親は諦めていた妊娠・出産をもう一度考えてくださるようになって、わたくしにはフランツとマリアというかけがえのない可愛い弟妹が生まれました。クリスタを引き取ってもらったことが、わたくしの幸せを増やすことにも繋がりました」

「フランツ殿とマリア嬢が生まれたとき、エリザベート嬢はとても喜んでいましたよね。ディッペル公爵夫妻もものすごくお喜びでした」

「今ではあの子たちのいない人生なんて考えられません。フランツが生まれたことによって、わたくしは後継者の座をフランツに譲って、エクムント様と婚約することができました」

「その件に関しては私も感謝しています。エリザベート嬢が決意してくださらなかったら、辺境伯領はずっとオルヒデー帝国と融和できないままだったかもしれません」


 しみじみと婚約の頃の話をしていると、ふーちゃんの水色の目がこちらに向いていた。


「クリスタお姉様が養子なのは前に聞きましたが、エリザベートお姉様がディッペル家の後継者だったのですね。私は物心ついたらディッペル家の後継者だったから、ずっとそうだったと思っていました」

「フランツ、オルヒデー帝国は長子相続ですよ。一番初めに生まれた子どもがその家の当主となります。わたくしが後継者をフランツに譲ったのは、カサンドラ様からエクムント様と婚約をして辺境伯家に将来嫁いでほしいとのお願いがあったからなのです」

「そうだったのですね。私も何かおかしいと思っていました」

「エリザベートお姉様、お兄様がディッペル家の後継者なのはそういうことだったのですね」


 そういえば、わたくしがふーちゃんに後継者を譲ったとき、ふーちゃんはまだ一歳にもなっていなかった。生まれたばかりだったのではないだろうか。まーちゃんに至ってはまだ存在もしていなかった。


 そんなふーちゃんとまーちゃんがわたくしがふーちゃんに後継者を譲った話について知らなくても仕方がないことだった。

 この国は長子相続だから長子のわたくしがエクムント様と婚約して辺境伯領に嫁ぐ予定で、ふーちゃんが後継者になっていることに疑問は抱いていたようだが、はっきりとした理由は知らなかったようだ。


「エリザベート嬢があまりにも幼くて婚約をしたので、大きくなってから後悔しないか悩んだのですよ」

「わたくしの心は決まっていました。幼い頃からエクムント様をお慕いしていたのです」

「幼い頃にそうであっても、成長するにつれて私に幻滅して気持ちが変わるということもあるでしょう」

「ありません。ますますエクムント様への気持ちは大きくなるばかりです」


 恥ずかしいがここははっきりと言っておかなければいけない。

 わたくしがエクムント様を好きなことは、エクムント様によく知っていてもらわねばならないのだ。


「エリザベート嬢が成人するころには私は二十九歳になります。あまりに年上すぎませんか?」

「そんなことはありません。男性は三十代からだと言う方もいますわ」


 エクムント様が二十九歳になっても、わたくしは若い頃のエクムント様を知っているのでその印象は大きく変わることはないだろう。


 エクムント様はわたくしが赤ん坊のころから知っていて、一番安心できる相手なのだ。

読んでいただきありがとうございました。

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