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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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49.まーちゃんの婚約式

 昼食会が終わると、わたくしとクリスタちゃんと両親は部屋で待っているふーちゃんとまーちゃんを迎えに行く。ふーちゃんとまーちゃんは着替えを終えて部屋でわたくしたちを待っていた。

 辺境伯領の特産品の布で誂えたスーツ姿のふーちゃんも可愛いが、今日は純白のドレスに白薔薇の花冠に短いヴェールを被ったまーちゃんが主役なのだ。

 まーちゃんは靴も白で合わせていて、本当に天使のように可愛らしい。


 わたくしにとっては、クリスタちゃんもふーちゃんもまーちゃんも世界で一番可愛く、賢く、素晴らしく尊い存在であるのは間違いなかった。


「失礼いたします。オリヴァー・シュタールです。マリア様、お迎えに上がりました」


 ドアがノックされてオリヴァー殿の声が響く。

 まーちゃんは両親の顔をじっと見ている。


「マリア、行って来なさい」

「オリヴァー殿にエスコートしてもらうのです」

「はい、お父様、お母様」


 両親の了承を得て、まーちゃんはオリヴァー殿の元に駆けて行った。


「エリザベート嬢、お迎えに上がりました」

「クリスタ嬢、ご一緒しましょう」


 エクムント様もハインリヒ殿下もわたくしとクリスタちゃんを迎えに来ている。

 わたくしとクリスタちゃんも両親の顔を見て、両親が頷くのを確認してから廊下に出た。

 エクムント様の手に手を重ねると、胸がドキドキする。

 オリヴァー殿にエスコートされているまーちゃんは羽が生えたかのように軽やかに歩いているが、婚約式を前に天にも昇る心地なのだろう。


「お父様、私もレーニ嬢を迎えに行きたいです」

「フランツ、私が付いて行ってあげよう」

「ありがとうございます、お父様」


 ふーちゃんはレーニちゃんをお迎えにリリエンタール公爵の部屋に父と一緒に行っていた。


 お茶会の会場は大広間で、天井がドーム状になっていて音がよく響く。大広間の端で音楽隊が音楽を奏でていた。


「本日は私の生誕の式典に来てくれてありがとう。今日は素晴らしい発表がある。ディッペル家のマリアとシュタール家のオリヴァー、前へ」


 呼ばれてまーちゃんがオリヴァー殿に手を引かれて前に出る。

 オリヴァー殿も白を基調としたタキシードを着ている。わたくしの婚約式のときにはエクムント様は軍服だったので、辺境伯領の方が婚約式でタキシードを着ているのは初めて見るかもしれない。


「ディッペル家のマリアとシュタール家のオリヴァーは、今日、私、国王の名において婚約をする」


 前に出たオリヴァー殿とまーちゃんが膝を突いてお辞儀をしている。


「オリヴァー・シュタールよ。マリアはまだ幼く成人までには時間がかかるが、マリアの成長を待ち、成人の暁には結婚することを誓うか?」

「誓います」

「マリア・ディッペルよ。まだ成人するまでには時間がかかるが、しっかりと学び、立派な淑女となって、成人の暁にはオリヴァーと結婚することを誓うか?」

「はい、誓います」


 オリヴァー殿とまーちゃんの声が大広間に響き渡る。


「それでは、二人の婚約を認めよう」


 国王陛下の声が響くと、周囲から拍手が沸き起こった。

 今年の国王陛下の生誕の式典はそれだけではない。

 わたくしの正式な社交界デビューの儀式もあるのだ。


「国王陛下、エリザベート・ディッペル公爵令嬢です。今年十五歳になられました」

「国王陛下、王妃殿下、どうぞよろしくお願いします」


 社交界デビューの儀式は、王妃殿下から国王陛下に紹介されて、国王陛下にお辞儀をすることで成立する。

 わたくしがカーテシーでお辞儀をすると、周囲から拍手が起きる。

 これまでは暫定的に社交界デビューをしていたわたくしだったが、これで正式に社交界の一員となったことになる。


「国王陛下、オリヴァー・シュタール侯爵子息です。今年十五歳になられました」

「国王陛下、王妃殿下、どうぞよろしくお願いします」


 わたくしだけでなく、オリヴァー殿も王妃殿下に紹介されて、膝を突いてお辞儀をして社交界デビューを果たしていた。

 その他にも今年十五歳になった紳士淑女が王妃殿下に紹介されて、国王陛下の前でお辞儀を披露して社交界デビューを認められていた。


「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、お兄様、わたくしがオリヴァー様と婚約したのを見てくださっていましたか?」


 飛び跳ねるようにして喜びを隠しきれないまーちゃんに、わたくしは小さく咳払いをする。

 まーちゃんは心の中でオリヴァー殿を「オリヴァー様」と呼んでいるのが、すぐに口に出てしまうようだ。まだ五歳なので仕方がないし、わたくしもエクムント様がディッペル家に仕えていたときに呼び捨てにするように言われていたが、心の中ではずっと「エクムント様」と呼び続けていたので、ひとのことは言えないのだが、こういう公の場では気を付けた方がいい。

 わたくしが言いたいことがまーちゃんにも伝わったようだ。


「オリヴァー殿、でした」

「そうですね。マリア、気を付けるのですよ」

「はい、エリザベートお姉様」


 立派な淑女とならなければまーちゃんはオリヴァー殿と結婚できない。それを今誓ったところである。

 まーちゃんには今まで以上に淑女教育をしっかりとしていかなければいけないと思っていた。


「マリア、とても可愛かったよ」

「マリアは本当に天使のように可愛かったです」


 褒められてまーちゃんは唇を尖らせている。


「美しい、ではないのですか?」

「残念ながら、マリアは美しいと讃えるには幼すぎますね」

「マリアはまだ五歳なんだから」

「わたくし、オリヴァー殿に追い付きたいのです。オリヴァー殿の隣りに立って恥ずかしくない婚約者になりたいのです」


 まーちゃんの気持ちはわたくしが幼い頃に持っていたものと同じだった。

 エクムント様に相応しい婚約者になりたい。その思いだけでわたくしは厳しい淑女教育も受けて来られた気がする。


「マリア、わたくしもエクムント様と十一歳年が離れています。わたくしは八歳のときに婚約しましたが、エクムント様に相応しい淑女となるにはどうすればいいのかずっと考えて来ました。マリア、しっかりと学びなさい。オリヴァー殿に相応しい淑女になるのです」

「エリザベートお姉様、わたくし、頑張ります!」


 小さなまーちゃんの手を取って目を見詰めて話すと、まーちゃんは深く頷いていた。


 お茶会ではユリアーナ殿下がまーちゃんを誘いに来た。


「マリアじょう、おちゃをごいっしょしませんか?」

「ユリアーナ殿下、わたくしでよろしければ」

「オリヴァーどのもごいっしょしましょう。こんやくのおはなしをききたいです」

「喜んで、ユリアーナ殿下」


 まーちゃんとユリアーナ殿下がオリヴァー殿と共にテーブル席に着くのに、ふーちゃんがレーニちゃんの手を引いて連れて行こうとしている。


「ユリアーナ殿下、私とレーニ嬢もご一緒してよろしいですか?」

「もちろんです、フランツどの」

「ユリアーナ殿下、実は、デニスもご一緒したいようなのですが」


 そのときになってわたくしはレーニちゃんのスカートを握り締めている、小さなデニスくんの姿に気付いていた。デニスくんは今日が初めてのお茶会なので、姉であるレーニちゃんのそばを離れられないのだろう。


「デニスどの、はじめまして。わたくし、レデラーけのユリアーナです」

「ユリアーナでんか、はじめまして。わたしはリリエンタールけのデニスです」


 挨拶を交わしているユリアーナ殿下とデニスくんは年も近く、お互いに興味を持っているようだ。


「おねえさま、わたし、あいさつ、ちゃんとできた?」

「上手でしたよ。デニス、わたくしが軽食とケーキを取って来てあげましょうね」

「ありがとうございます、おねえさま」


 初めてのことなのでレーニちゃんに確認しているデニスくんは、他のひとに聞こえていないつもりなのだろうが、しっかりと聞こえている。


「かわいいかたですね、デニスどの」

「ユリアーナ殿下、デニス殿とは初めてだったのですね。わたくしは朝のお散歩でデニス殿と雪合戦をしました」

「マリアじょうはデニスどのともしたしいのですね」

「リリエンタール家とディッペル家は交流が盛んなのです」

「デニスどの……あかげでかわいらしいおとこのこ……」


 ユリアーナ殿下はデニスくんのことが気になっている様子である。

 デニスくんはリリエンタール家の後継者だが、ユリアーナ殿下が望むのならば臣籍降下も有り得るかもしれない。


 まだ二人とも幼いのでわたくしは気が早すぎると思うのだが、まーちゃんやふーちゃんを見ているとそうでもないような気がしてくるのだ。


「マリアじょうはオリヴァーどのとこんやくして、うらやましいですわ。わたくしもはやくこんやくしたいとおもうくらい、すてきなかたにであいたいものです」

「マリア様はシュタール家を助けるために婚約を提案してくださったのです。マリア様が成長して、この婚約が間違っていたと思うときには白紙に戻してもいいと思っています」

「わたくしは、オリヴァー殿が詩の世界を教えてくれて、世界が広がった気がして、オリヴァー殿をお慕いしているのです。気持ちが変わることはありません」

「まだマリア様は幼い。成長するにつれて気持ちが変わるのはあり得ることです」

「オリヴァー殿、わたくしを信じていないのですか?」

「信じてはいますが、マリア様はまだ五歳ですからね」


 年齢のせいで信じてもらえないというのも切ない話ではあるが、十歳も年が離れていて、まーちゃんはまだ五歳なのでその年の差を埋めることができないのはどうしようもないことだった。


 まーちゃんの気持ちに偽りはない。まーちゃんの気持ちが変わることはない。

 それはわたくしがそうだったから、言えることだった。

読んでいただきありがとうございました。

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