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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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48.ふーちゃんとまーちゃんとデニスくんとゲオルグくんの雪合戦

 冬には両親のお誕生日がある。

 両親のお誕生日にはふーちゃんもまーちゃんもお茶会に出慣れていた。元々赤ん坊のころから父はふーちゃんとまーちゃんを見てもらうために自分たちのお誕生日に出席させていた。

 ふーちゃんとまーちゃんが小さくてもお茶会に出られるようになったのは、両親のお茶会での経験があったからだろう。

 レーニちゃんのお誕生日のお茶会でまーちゃんはユリアーナ殿下に誘われたが、絶対に立って飲食はしなかった。自分ができることとできないことを弁えているのだ。


 両親のお誕生日のお茶会には国王陛下と王妃殿下も毎年やってくる。

 挨拶をして国王陛下と王妃殿下を迎えた両親の話題はまーちゃんのことに移っていた。


「国王陛下、王妃殿下、マリアの婚約式、どうぞよろしくお願いします」

「ディッペル公爵夫妻はお子様が次々と婚約されておめでたいことですね」

「マリアの晴れ舞台だ。任せておいてくれ」


 国王陛下の言葉に両親は安堵していたようだった。


 両親のお誕生日のお茶会が終わると、国王陛下の生誕の式典の時期になる。

 毎日のようにわたくしとクリスタちゃんにドレスを見せに来ていたまーちゃんが、遂に本当に婚約をするのだ。

 五歳で婚約というのはとても早いのだが、公爵家の娘としてはあり得ない話ではないのかもしれない。

 両親もわたくしも、早すぎる婚約に賛成というわけではなかったが、まーちゃん自身が望んでいて、辺境伯領を支えるシュタール家のためならば仕方がないと両親も思っていることだろう。


 毎日のようにドレスを着てわたくしとクリスタちゃんに見せに来るし、婚約式ごっこをするし、まーちゃんが幼いなりにこの婚約をとても楽しみにしていることはわたくしにもクリスタちゃんにも両親にも伝わって来ていた。


 五歳でまーちゃんはオリヴァー殿に夢中になってしまったが、わたくしはもっと小さい頃からエクムント様が好きで、物心ついたときには恋をしていたので、血は争えないというやつである。

 まーちゃんが婚約してしまうのは寂しいが、それがまーちゃんの願いならば祝福するしかない。


 国王陛下の生誕の式典ではわたくしたちディッペル家の一同は王都に行って王宮の客間に泊まる。わたくしとクリスタちゃんは別部屋なのだが、そこに嬉しい来訪者が現れた。


「両親とデニスとゲオルグと同じ部屋ではない方がいいと言われたのですが、新しく部屋を準備するには一人で寂しいので、エリザベート嬢とクリスタ嬢とご一緒できませんか?」


 レーニちゃんも学園に入学した頃から両親と弟たちと別部屋になっていたようだが、一人の部屋は寂しいので今年はわたくしとクリスタちゃんと一緒の部屋にして欲しいと申し出たようだ。

 それはわたくしにとっても嬉しい話だった。


「レーニ嬢なら喜んで。いいですわよね、クリスタ?」

「はい、レーニ嬢と同じ部屋は嬉しいです」


 リリエンタール公爵も一緒にディッペル家の部屋に来ていて、両親にも了承を取っているが、わたくしとクリスタちゃんはレーニちゃんが同じ部屋になるのは大歓迎だった。


 同じ部屋になって荷物を片付けていると、部屋のドアが叩かれる。ふーちゃんとまーちゃんだと思ったので、わたくしは声をかけて待ってもらうことにした。


「今荷物を片付けています。少し待ってください」

「レーニちゃんにご挨拶させてください、お姉様たち」

「お兄様もお姉様たちもレーニ嬢をレーニちゃんと呼んでいますね。わたくしも何か特別な呼び方が欲しいです」


 廊下で待つふーちゃんとまーちゃんが話している。

 先に荷物を片付け終わったレーニちゃんがふーちゃんとまーちゃんを部屋に招き入れていた。


「まーちゃん、婚約式が行われますね。おめでとうございます」

「ありがとうございます、レーニ嬢。……うーん、やっぱり、わたくしも特別な呼び方が欲しいです」

「まーちゃんにとっては、わたくしは兄の婚約者。お姉様と呼ぶのはどうですか?」

「レーニお姉様! それは素敵です! わたくし、レーニ嬢をレーニお姉様と呼びます」


 レーニちゃんの提案にまーちゃんは目を輝かせていた。


「レーニちゃんは食事はリリエンタール公爵のお部屋でとるのですか?」

「はい。そのつもりです」

「エリザベートお姉様とクリスタお姉様と部屋は同じだけれど、食事は別々なのですね」

「デニスやゲオルグが寂しがりますからね。デニスがお茶会に出られる年齢になったので、お屋敷でお留守番させるわけにはいかないのですよ」

「デニスくんもお茶会に出席するのですか。それは楽しみです」

「先輩として仲良くしてあげてください、ふーちゃん」


 頼りにされてふーちゃんは嬉しそうな顔をしている。


 その日はわたくしとクリスタちゃんは両親とふーちゃんとまーちゃんの部屋で、レーニちゃんはリリエンタール家の部屋で夕食を食べて休んだ。


 翌日は国王陛下の生誕の式典の日だったが、わたくしもクリスタちゃんもレーニちゃんも早朝に起こされた。

 ふーちゃんとまーちゃんだけかと思っていたら、デニスくんとゲオルグくんもドアの前にいてわたくしたちを待っていた。


「お散歩にいきましょう!」

「わたくし、コートとマフラーと手袋を持ってきました」

「おねえさま、エリザベートじょう、クリスタじょう、いっしょにおさんぽにいきましょう」

「わたし、ゆきであそびたい」


 防寒具も完璧なふーちゃんとまーちゃんとデニスくんとゲオルグくんに、わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんは準備をして一緒に庭に出た。

 雪の積もった庭は寒かったが、デニスくんとゲオルグくんは元気いっぱい雪の中を走っている。


「マリアじょう、フランツどの、ゆきがっせんをしましょう!」

「わたし、ゆきをまるめるの、じょうず!」

「レーニちゃん、応援していてください」

「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、レーニお姉様、何回雪玉に当たったか数えていてください。一番当たらなかったひとがいるチームを優勝にしましょう!」


 ルールをまーちゃんが決めて、デニスくんとゲオルグくんとふーちゃんとまーちゃんで雪合戦が始まる。

 デニスくんとゲオルグくんのチームはゲオルグくんが丸めた雪玉をデニスくんが投げて、連携している。ふーちゃんとまーちゃんは別々に雪玉を丸めているので、効率が悪い。

 結果として、デニスくんがふーちゃんとまーちゃんにたくさん雪玉を当てて、デニスくんとゲオルグくんのチームが勝った。


「おにいさま、やりました!」

「ゲオルグがゆきだまをまるめてくれたおかげだよ」

「わたし、ちいさいけどかてた!」


 飛び跳ねて喜んでいるデニスくんとゲオルグくんに、ふーちゃんとまーちゃんは負けを認めて拍手を送っていた。


 楽しい雪合戦が終わると、雪を払ってわたくしたちは部屋に戻った。

 レーニちゃんはデニスくんとゲオルグくんとリリエンタール公爵の部屋に朝食を食べに行って、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんは両親のいる部屋に朝食を食べに行った。

 雪合戦で頬っぺたを真っ赤にしているふーちゃんとまーちゃんの頬を、両親は優しく手で包み込んで温めていた。


「寒かったのではないですか?」

「風邪は引いていないね?」

「私、デニス殿とゲオルグ殿と雪合戦をしました」

「ゲオルグ殿が雪玉を丸めて、デニス殿が投げて、とても連携がすごかったので、わたくしたち負けてしまいました」

「負けたけれど、とても楽しかったです」

「それはよかった」

「温かい紅茶を飲んで体を温めるといいですわ」


 朝食の前に温かいミルクティーを飲んでふーちゃんとまーちゃんは体を温めていた。わたくしとクリスタちゃんも寒かったので温かいミルクティーを飲んだ。


 朝食が終わると、ドレスに着替えて昼食会に参加する準備をする。

 まーちゃんの婚約式はお茶会のときに行われる。ふーちゃんとまーちゃんはまだ昼食会に出られる年齢ではないからだ。


 昼食会の前に国王陛下と王妃殿下とハインリヒ殿下とノルベルト殿下が王宮のバルコニーに出て国民に手を振る。

 国民からは歓声が上がっている。

 この国では国王陛下が愛されているのだとよく分かる。


 昼食会はクリスタちゃんはハインリヒ殿下と王家のテーブルに着いて、わたくしは両親の正面の席で、隣りにはエクムント様がいるという配置になる。

 エクムント様はわたくしに話しかけてくださる。


「朝に庭でディッペル家の御令嬢と御子息、リリエンタール家の御令嬢と御子息で散歩されていたようですね」

「見ておられたのですか?」

「楽しそうな子どもの声が聞こえたので、テラスに出てみたら、お姿が見えました」

「フランツとマリアとデニス殿とゲオルグ殿が雪合戦をしていたのです。とても楽しそうでした」

「見ていましたが、とても盛り上がっていましたね」


 エクムント様は庭の見える部屋に泊まっているようだった。

 結婚前の女性が男性の部屋を訪ねるなんてことははしたないのでするつもりはないが、エクムント様はわたくしの部屋の前の廊下によく迎えに来てくださるが、わたくしの方はエクムント様の部屋を知らないことに気付く。


「エクムント様はどの部屋に泊まっているのですか?」

「庭側の一番端の部屋です。一人で泊まるには広いのですが、辺境伯という地位のある以上は仕方がないですね」


 家族用の広い部屋にエクムント様は一人で泊まっているようだ。

 エクムント様が結婚すれば、わたくしも同じ部屋に泊まるようになるのかもしれない。

 その日が待ち遠しいような、夢想するだけで少し恥ずかしいような気がしてくる。

 はしたないことはしたくないが、わたくしはエクムント様の部屋が少し気になっていた。


読んでいただきありがとうございました。

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