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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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47.お茶会の引継ぎ

 運動会から冬休み前の試験までは、何事もなく穏やかな日々が続いていた。

 冬休み前の試験では、わたくしはハインリヒ殿下と首席を競っていた。

 今回は詩の解釈もあるので油断はできない。オリヴァー殿の指導がなければわたくしは首席を逃していたかもしれなかった。


 結果はわたくしとハインリヒ殿下が同率首席、オリヴァー殿が三位、ミリヤムちゃんが四位だった。

 ノエル殿下のお茶会に招かれているものとして、全員がよい成績を修められたのでわたくしたちは満足していた。


 ノエル殿下のお茶会では、引継ぎが行われようとしていた。

 ノエル殿下は今年度で卒業してしまう。

 サンルームを借りる許可を取って、誰かがノエル殿下のお茶会を引き継がなければいけないのだ。

 お茶会を引き継ぐとなると、給仕の手配や紅茶やお菓子の手配もできるものでなければいけなかった。


「本来ならば王族であるノルベルト殿下にお譲りするのでしょうが、お茶会の主催となるのは女性の方がいいような気がするのです」

「分かります。女性の方が細々としたことに気が付きますし、女性同士で相談もしやすいでしょう」


 ノエル殿下の言葉にノルベルト殿下も頷いている。

 ノルベルト殿下が四年生で、三年生はハインリヒ殿下とわたくしとオリヴァー殿とミリヤムちゃんで、二年生がクリスタちゃんとレーニちゃんというこのメンバー、ノエル殿下が誰にお茶会の主催を譲りたいかは話を聞いていればすぐに分かった。


「ノエル殿下、わたくしでよろしければ、お茶会を引き継がせていただきます」

「エリザベート嬢、そう言ってくれるのを待っていたのです。本当はもっと早くから引き継ぎを始めなければいけないと思っていたのですが、エリザベート嬢にお願いして、ノルベルト殿下やハインリヒ殿下にお願いしないというのはどうかと悩んでいました。エリザベート嬢が申し出てくれたことでわたくしの心は決まりました」


 さすがに王族のハインリヒ殿下やノルベルト殿下にサンルームの使用許可を取ったり、給仕や紅茶やお菓子の手配をさせたりするわけにはいかない。ノエル殿下はそれを好きでやっていたが、本来ならばノエル殿下の学友がやるべきことだったのだ。


「これからお茶会の開催の仕方を教えてもらえますか?」

「お茶会の主催者として得た経験は、エリザベート嬢が嫁いだ後も辺境伯領で役立つことでしょう。エリザベート嬢、わたくしがしてきたことを全て伝えますので、覚えてくださいね」


 サンルームの使用許可の取り方、給仕の手配の仕方、贔屓にしている紅茶とお菓子の仕入れ先など、ノエル殿下は全てわたくしに教えてくれた。それはいつか辺境伯領でお茶会の主催者となるであろうわたくしにとっては、とても参考になることだった。


 辺境伯領に嫁いだ後にお茶会を開くとしたら、給仕をどのように手配するか、紅茶とお菓子をどのように仕入れるかなど考えなければいけなくなるのだ。

 残り三年の学園生活でそれをしっかりと学ぼうとわたくしは思っていた。


 冬休みに入るとわたくしとクリスタちゃんはディッペル家に帰る。ディッペル家では毎日のようにまーちゃんが婚約式で着る白いドレスとわたくしが使った白薔薇の花冠を見せに来てくれていた。

 何度見ても天使のように可愛らしいので、わたくしもクリスタちゃんもまーちゃんを絶賛して、見飽きることなどなかった。


「今日も見せに来てくれたのですね」

「とても可愛いですよ、まーちゃん」

「本当に天使のようです」

「まーちゃん、素敵です」


 絶賛されてまーちゃんはその場でゆっくりと一回転して、カーテシーでお辞儀をして部屋に戻って着替えていた。

 冬休みに入ってから気付いたことだが、ふーちゃんとまーちゃんのおもちゃにおままごとセットとぬいぐるみが増えている。

 おままごとセットは人形のジャンとマリーで遊ぶために買ってもらったようだ。ぬいぐるみもノエル殿下にいただいた犬のぬいぐるみが気に入っていたのだろう、他にも熊や兎や猫を揃えている。

 ふーちゃんは子ども部屋の椅子に座っておままごとのティーセットでぬいぐるみとジャンを招いていた。


「お兄様、お茶会ですか? わたくしと妹のマリーもお邪魔していいですか?」

「どうぞ、まーちゃん」

「ありがとうございます」


 ふーちゃんのお茶会にまーちゃんが人形のマリーを抱っこして参加する。

 小さなティーセットを使ってお茶を飲ませるふりをしているふーちゃんとまーちゃんを見ていると、わたくしも小さな頃を思い出していた。


「小さな頃、お庭でエクムント様をお招きしてお茶会ごっこをしましたね」

「しました。とても楽しかったです」

「エクムント様はお茶会ごっこに付き合ってくださって優しかった」

「エクムント様は、お茶会だけでなく、わたくしたちがお部屋にいたら、絵本を読んでくださったり、折り紙を教えてくださったりしましたね」


 クリスタちゃんと話していると当時の記憶が鮮やかに蘇る。

 あの頃からエクムント様はとても優しかった。わたくしとクリスタちゃんが小さいからと言って子ども扱いせずに、きちんとわたくしとクリスタちゃんに向き合って接してくださっていた。

 プレゼントをするときにも、一人だけにではなくて、必ず二人ともに用意してくださったものだ。


 思い出すと本当に懐かしくて幸せな気分になる。


 エクムント様が十七歳から五年間、ディッペル家で修行をしていただなんてことは、もう遠い昔のような気がしていた。


「エクムント様の話をしていたら、わたくし、折り紙が折りたくなってきましたわ。クリスタちゃん、色紙を分けてくれますか?」

「はい、すぐに持ってきますね」


 クリスタちゃんがソファから立ち上がると、ふーちゃんとまーちゃんの視線がクリスタちゃんとわたくしに向いている。


「折り紙をするのですか、エリザベートお姉様?」

「わたくしもご一緒していいですか?」

「いいですよ。折り紙をするのだったら、テーブルを使いたいので、お茶会のティーセットは片付けてくれますか?」

「分かりました、エリザベートお姉様」

「クリスタお姉様、わたくしとお兄様の分も色紙をお願いします」


 お茶会ごっこから興味は折り紙に移ったようで、ふーちゃんとまーちゃんはクリスタちゃんが色紙を持ってくる間に、お茶会ごっこのティーセットやぬいぐるみや人形を片付けていた。

 ソファのローテーブルの上が片付くと、クリスタちゃんがそこに正方形に切った様々な柄のある色紙を置いて行く。どの色紙を使うか悩むのもまた楽しかった。

 わたくしとふーちゃんとまーちゃんが色紙を選ぶと、クリスタちゃんも色紙を選んでいる。


「お姉様、何を折るのですか?」

「久しぶりにエクムント様に習った捩じる薔薇を折ってみようかと思います」

「いいですね。あの薔薇はとても綺麗ですからね」


 わたくしが折っていくと、それに合わせてふーちゃんとまーちゃんも真似をする。

 最初は平面なのだが、最後に中央に指を入れて捩じることで立体の薔薇が出来上がる。


「エリザベートお姉様、最後のところが分かりませんでした」

「もう一回教えてください」

「こうやって、中央に指を入れて全体を捩じるのです」

「わぁ! 魔法みたいです」

「あ! わたくしできましたわ! エリザベートお姉様、これでいいんですか?」

「まーちゃん、上手ですよ。ふーちゃんもできていますね」


 出来上がった折り紙を手の平に乗せてじっと見ていたまーちゃんが、わたくしたちに提案する。


「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、お兄様、手伝ってくださいませんか?」

「何を作るのですか?」

「白い色紙で花冠を作ります。婚約式ごっこをしたいのです!」


 まーちゃんがしたいと思うことは叶えてあげたい。それはわたくしもクリスタちゃんもふーちゃんも同じだった。

 白い色紙で薔薇の花を作って、シンプルなカチューシャの上にくっ付けて花冠を作る。

 白い大きなハンカチを持って来てヴェール代わりにした。


「わたくし、婚約いたしますの。可愛いですか?」

「とても可愛いですよ、まーちゃん」

「まーちゃん、花嫁さんみたいだよ」

「まーちゃん、素敵ですね」


 折り紙の花冠と白い大きなハンカチのヴェールで婚約式に見立てているまーちゃんは楽しそうでとても可愛かった。


「オリヴァー殿と早く婚約したいです」


 夢見るように呟くまーちゃんは、間違いなくわたくしの妹で、恋する乙女だった。


読んでいただきありがとうございました。

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