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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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42.謎の女子生徒の正体

 夏休み明けの最初のお茶会でノエル殿下は詩を読むと仰っていた。

 オリヴァー殿もお茶会に招かれて、詩の解説をしてくれるということなので、わたくしはノエル殿下の詩がそれほど憂鬱ではなくなっていた。ノエル殿下の詩はよく分からないし、理解をしようとしても頭がそれを拒むイメージがあるのだが、オリヴァー殿が解釈したものならば受け入れられる。

 お茶会での詩の披露が苦痛ではなくなるのはわたくしにとってありがたいことだった。


 授業が終わってからミリヤムちゃんとサンルームに行くと、クリスタちゃんもレーニちゃんも来ていた。

 わたくしとミリヤムちゃんが来たところで、ノエル殿下がわたくしとミリヤムちゃんとクリスタちゃんとレーニちゃんに向き直った。


「食堂で絡まれたのですか?」


 食堂で何かあっただろうか。

 わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんとミリヤムちゃんは楽しく運動会の話をしていた。その間見知らぬ女子生徒が何か言っていたが、それはもう頭に残っていない。


「誰かに絡まれましたか、クリスタ、レーニ嬢、ミリヤム嬢?」

「お姉様、わたくしよく分かりませんわ。話に夢中でしたし、お昼も食べなければいけなかったし」

「わたくしも絡まれた気はしませんでした。何か周囲がうるさかった気がしますが、エリザベート嬢とクリスタ嬢とミリヤム嬢とのお話に集中していました」

「わたくし、絡まれることはよくあるので、感覚が麻痺しているのかもしれません。絡まれた印象はないのですが」


 誰も誰かに絡まれたという印象を持っていなかった。ミリヤムちゃんが絡まれるのには慣れているというようなことを言っているが、それは由々しき問題だとは思うが、今日は誰かに声をかけられただろうか。

 周囲でうるさくしていた女子生徒はいたが、わたくしたちに話しかけてきていたとはわたくしたちは認識していなかった。


「ホルツマン家のものが、エリザベート嬢とクリスタ嬢とレーニ嬢とミリヤム嬢に絡んでいたと知らされていますが」

「ホルツマン家? ラルフ殿は学園を退学になったのですよね」

「ホルツマン家に他に学園に通っている生徒がいましたか?」

「わたくしにはよく分かりません」


 わたくしもクリスタちゃんもレーニちゃんもミリヤムちゃんも、誰かに絡まれた感覚がないので、全くノエル殿下と話が噛み合わない。

 それでもノエル殿下に報告が行ったということは、わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんとミリヤムちゃんが話しているときに、何か話しかけて来た相手がいるのだろう。


「周囲がうるさかったのは覚えています。今日は食堂は賑やかなのだなと思っていました」

「わたくしたち、誰かに絡まれていたのですか?」

「それは誰ですか、ノエル殿下?」

「わたくしに絡んできたのでしょうか? 苛めをしていた同級生も、寮の上級生も、もう近寄って来ないと思っていたのに」


 ミリヤムちゃんが呟けば、そうなのかもしれないとわたくしも思ってしまう。


「ミリヤム嬢に絡むなど許せませんわ。まだ改心していない同級生がいたのですか?」

「ミリヤム嬢の話は解決したものと思っていました。まだ解決していないのならば、お姉様と共にまたお茶会を開いて、招待して説教するしかないのでしょうか?」

「そんなことがあったのですか?」

「クリスタ様、レーニ様はその話は知らないので、ここでは止めておきましょう」


 ミリヤムちゃんが再び苛められ始めたのだったらそれを許すことはできない。わたくしとクリスタちゃんの言葉に、ノエル殿下が緩々と首を振る。


「ホルツマン家に戻されたレーニ嬢の前の父君が引き取った子どもの話です」

「ホルツマン家に戻されたレーニ嬢の前の父君……レーニ嬢に絡んできたのですか!?」

「そういえば、『お姉様』と口にしていたような気がします。前の父君とは縁は切れたはずなのに、レーニ嬢を『お姉様』と呼ぶなんて!」

「わたくしの前の父親の話ですか? そういえば、子どもを引き取ったという話は聞いていました」

「レーニ様に絡んできたのですか?」


 わたくしとクリスタちゃんが憤慨して、レーニちゃんを「お姉様」などと勘違いして呼んだ女子生徒のことを語っていると、ノエル殿下がまた緩々と首を振る。


「元ノメンゼン子爵の妾の子です。名前は、確か、ローザ」

「ローザ……え!? ローザ!?」


 完全に忘れていた。

 ノエル殿下がはっきりと口に出して教えてくださって初めてわたくしはその存在を思い出した。

 そうだった、レーニちゃんの前の父親は元ノメンゼン子爵の妾を愛人にしていて、リリエンタール公爵と別れた後に、実家に帰らされた後で、元ノメンゼン子爵の妾の子を養子にしたのだった。

 最後に会ったのがわたくしが六歳くらいのことである。

 わたくしがローザの顔立ちや姿が全く分からなくても仕方のないことだった。


「ローザ? それは誰ですか?」


 クリスタちゃんに至っては完全に忘れている。


「クリスタ、ディッペル家に引き取られる前のことを覚えていますか?」

「いいえ、わたくし、お姉様と一緒に暮らす前のことは記憶にないのです。物心ついたらお姉様と一緒でした」


 クリスタちゃんがディッペル家に引き取られたのは四歳のときだ。それ以前のことを完全に忘れていてもおかしくはない。

 つらい記憶が残っていないことはクリスタちゃんにとってよかったとまで思ってしまう。


「ということは、あの女子生徒はローザで、クリスタに話しかけていたということですか!?」


 真実に気付いたとき、わたくしはずっと忘れていて気になっていたことを完全に思い出していた。

 ホルツマン家に戻されたレーニちゃんの前の父親は、元ノメンゼン子爵の妾の子であるローザを養子に迎えて、学園に入学させたのだ。今年はローザが入学してくる年だったから、わたくしは何かを忘れているような気がしたのだ。

 しかし、ローザは身分は伯爵家の養子で、リリエンタール公爵から縁を切られて出戻りになったレーニちゃんの前の父親が引き取っているので、全く身分も地位も高くはない。むしろ、よく学園がそのような生徒を受け入れたものだと呆れてしまうほどだ。


「絡まれてはいなかったのですか?」

「はい、わたくしたち、自分たちの話をしていて、ローザの話は聞いていませんでした」

「お姉様、ローザとはどのようなひとなのですか?」

「クリスタは覚えていないかもしれませんが、クリスタがディッペル家に来る前にいた家で、妾として囲われていた女性の娘です」

「その方がどうしてわたくしに絡んでくるのですか?」

「えーっと……クリスタは覚えていないでしょうが、そのローザとクリスタは父親が同じなのです」

「え!? わたくしのお父様は、お姉様のお父様じゃなかったのですか!?」


 元ノメンゼン子爵のこともクリスタちゃんは完全に忘れていた。

 これも仕方のないことだ。クリスタちゃんはディッペル家に来たときにあまりにも幼かったのだ。


「クリスタは自分の本当のお母様がわたくしのお母様の妹のマリア叔母様だということを知っているでしょう」

「はい、そのことは朧気に覚えています」

「マリア叔母様は、わたくしのお父様ではない、ノメンゼン子爵と結婚していたのです」

「そうだったのですね! お父様が二人も妻を持つはずはないから何かおかしいとは思っていたのです」


 クリスタちゃんの中にも疑問はあったようだ。それが父親が実は他にいるということに結び付いてはいなかったようだが。


「ということは、あの方……ローザ嬢とお呼びした方がいいのかしら。あの方が言っていた『お姉様』とは、わたくしのことですか!?」

「そうだと思います。元ノメンゼン子爵の正式に認められた子どもでもないし、ホルツマン家の養子になっているので、クリスタがローザ嬢を妹と思う必要はないと思いますが」

「わたくしの妹はマリアだけです。可愛いマリアだけがわたくしの唯一の妹です」

「それでいいと思います」


 今後、ローザ嬢がクリスタちゃんに近付いてくるつもりならば、わたくしは覚悟を決めてローザ嬢に向き合わなくてはいけない。

 ローザ嬢が何を言って来ても、わたくしたちに適う気は全くしていなかったのだが。

読んでいただきありがとうございました。

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