40.十五歳のお誕生日は特別な日
学園の運動会は毎年日程が違うので、わたくしのお誕生日前にあることもあれば、お誕生日後にあることもある。
わたくしが一年生のときにはお誕生日前にあったので、王都の学園に戻って運動会に出てから、またディッペル家に帰ってきてお誕生日のお茶会に参加していたが、二年生のときはお誕生日の後だったので、夏休み後王都の学園に行くことなくそのままディッペル家で過ごしてお誕生日のお茶会まで終わってから学園に戻った。
今年も日程的にわたくしのお誕生日の後に運動会があるので、王都の学園には戻らなくてよかった。
わたくしのお誕生日のお茶会を主催するというのも貴族としては当然のことなので、学園は休んでいいことになっている。公爵家の娘であるわたくしのお誕生日のお茶会に出席する学生も学園は休んでよいことになっている。
今年はユリアーナ殿下もお茶会に参加されるようになって、わたくしのお茶会は賑わいそうだった。
今年でわたくしは十五歳。正式に社交界にデビューする年になる。
社交界デビューは、国王陛下の式典のときに国王陛下にお声をかけていただいて、そこで男性ならば膝を付いてお辞儀をして、女性ならばカーテシーと呼ばれる目上の方に対する正式な礼を取る。カーテシーは片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたままする挨拶だ。その際、スカートを軽く持ち上げるのが通例となっている。
わたくしもクリスタちゃんも例外的に低い年齢で社交界にデビューしたので、正式な社交界デビューのご挨拶は国王陛下にできていなかった。
十五歳になった後の国王陛下の生誕の式典でわたくしは国王陛下に呼び出されて、カーテシーでご挨拶をするのだ。
クリスタちゃんは再来年十五歳になるので、その後の国王陛下の生誕の式典でカーテシーを披露することになるだろう。
十五歳というのはそれだけ特別な年齢なのだ。
お誕生日のお茶会のためにドレスを着て、エクムント様からプレゼントされたコスチュームジュエリーを身に付けて、わたくしが部屋から出ると、廊下でエクムント様が待っていてくれた。
「夏に執務を休みすぎて仕事がたまっていて、今回は前日からは来られませんでしたが、プレゼントは無事に届いたようでよかったです」
「素敵なネックレスとイヤリングとブレスレットをありがとうございます。本日も朝早くから来られたのではないですか?」
「エリザベート嬢は私の誕生日のときに昼食会から晩餐会まで参加してくれます。婚約者の勤めとして少しくらい早くくることくらいは当然です」
手を取って大広間までエスコートしてくださるエクムント様にわたくしは頬が熱くなるのを感じていた。
大広間に行くと、クリスタちゃんもふーちゃんもまーちゃんも両親も揃って、お客様の到着を待つ。
最初に到着したのはミリヤムちゃんだった。
「お招きいただきありがとうございます。エリザベート様、お誕生日おめでとうございます」
「来ていただきありがとうございます」
「コスチュームジュエリーもドレスもとてもよくお似合いですね。そのコスチュームジュエリーは新作ではないですか?」
「そうなのです、エクムント様にお誕生日のプレゼントにいただいたのです」
コスチュームジュエリーのことに気付いてもらって嬉しくてわたくしは隣りに立つエクムント様の方を見る。エクムント様はわたくしを見つめて微笑んでいらっしゃる。
「ミリヤム嬢、見てください。わたくしもオリヴァー殿からブレスレットをいただいたのです」
「とても美しいブレスレットですね。マリア様、お似合いです」
どうしてもブレスレットを見て欲しかったのだろう、まーちゃんが前に出てくるのに、ミリヤム嬢はにこにこしてまーちゃんに声をかけてくれてた。
レーニちゃんが来るとふーちゃんが前に出て挨拶をする。
「レーニ嬢、姉の誕生日に来てくださってありがとうございます」
「お招きいただき光栄です。エリザベート嬢、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。フランツがレーニ嬢の到着を待っていたようですよ」
「フランツ殿、どうされましたか?」
レーニちゃんに一番に声をかけたふーちゃんは、レーニちゃんと話したくてたまらない様子だった。
「私、両親に相談しました。レーニ嬢に私もコスチュームジュエリーを贈りたいのです」
「よろしいのですか?」
「贈らせてください。私は小さくてまだコスチュームジュエリーを注文することは難しいですが、両親が代わりに注文してくれます」
「嬉しいです。大事に使わせていただきます」
コスチュームジュエリーをレーニちゃんに贈りたかったフーちゃんの想いは両親が叶えてくれた。
「エリザベート様、この度はお誕生日のお茶会にご招待くださり、ありがとうございます」
「オリヴァー殿、こちらこそ、いらしてくださってありがとうございます。マリアにもブレスレットをありがとうございます」
「オリヴァー殿、ブレスレット、届きました。とても美しくて、わたくし、これをつけてお茶会に出るのが楽しみでした」
「マリア様、気に入ってくださったのならよかったです。マリア様はエリザベート様と同じ銀色の光沢のある黒い目をされています。今後成長に伴って、髪の色も紫に寄ってくるかもしれないと思って、薄紫のブレスレットにしました」
「わたくし、エリザベートお姉様のようになりたいので嬉しいです」
オリヴァー殿にはまーちゃんが目を輝かせて話しかけている。
まーちゃんはオリヴァー殿に手を伸ばして、エスコートして欲しそうにしているのに、気付かないオリヴァー殿ではない。まーちゃんの小さな手を取って、軽食やケーキの置いてあるテーブルにオリヴァー殿がまーちゃんを連れて行っていた。
「エリザベートじょう、じゅうごさいになったとききました。おめでとうございます」
「ありがとうございます、ユリアーナ殿下」
「エリザベート嬢、ユリアーナにとっては他家に招かれる初めてのお茶会になります。どうぞよろしくお願いします」
「レーニ嬢のときのことは、忘れてくださいね」
「分かっております。ハインリヒ殿下もノルベルト殿下もようこそお越しくださいました」
ユリアーナ殿下がハインリヒ殿下とノルベルト殿下と一緒に来られている。小声でノルベルト殿下が言っていたが、レーニちゃんのお誕生日のときには、ユリアーナ殿下はまだ五歳のお誕生日を迎えていなかったし、失敗もしてしまったので、仕切り直しでお茶会に参加するのは五歳のお誕生日を迎えてからにしようと国王陛下と王妃殿下とユリアーナ殿下の間で取り決めたのだった。
ユリアーナ殿下のお誕生日のお茶会から初めてのお茶会がわたくしのお誕生日になるのだ。
「エクムントどのからいただいたブレスレットをつけてきました。わたくしのおきにいりです」
「マリアもオリヴァー殿からブレスレットをいただいているので、見てやってくださいね。きっとユリアーナ殿下に見て欲しいと思っていると思います」
「マリアじょうとわたくしはおちゃをごいっしょします!」
まーちゃんのことを言えば、ユリアーナ殿下はオリヴァー殿とお茶をしているまーちゃんのもとに小走りに駆けて行った。
ハインリヒ殿下はクリスタちゃんの手を取ってお茶に誘っている。
他の貴族たちも来て、エクムント様と一緒にご挨拶を終えると、わたくしも軽食とケーキの並ぶテーブルにエクムント様と一緒に向かった。
「レーニ嬢、わたくし、レーニ嬢の顔を見たら何かを思い出しそうなのですが」
「わたくしの顔ですか? リリエンタール家に関わりのあることでしょうか?」
「わたくし、何かを忘れている気がするのです。それが思い出せなくて、最近、ずっと気になっていて」
軽食とケーキを取り分けていたレーニちゃんの顔を見ると、何かを忘れていたことを思い出して、それなのに、その内容が思い出せなくてわたくしは首を傾げる。
「忘れているのだから、それほど重要なことではないのではないでしょうか?」
「そうですよね。これだけ思い出せないのだから、重要なことではありませんよね」
レーニちゃんに言われて、わたくしは思い出すことを放棄して、軽食とケーキを取り分けた。
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