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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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38.わたくしの寂しさとエクムント様の気持ち

 可愛い弟のふーちゃんはレーニちゃんを誘ってお茶をするようになった。

 可愛い妹のまーちゃんは、今後オリヴァー殿を誘ってお茶をするようになるだろう。オリヴァー殿はこれから中央のお茶会にはほとんど招かれるようになるに違いない。


 クリスタちゃんはハインリヒ殿下とお茶をすることにしているし、わたくしは少し胸に寂しさを抱えていた。


 ふーちゃんとまーちゃんの早すぎる婚約や、クリスタちゃんは原作でもハインリヒ殿下と婚約する予定だったがそれが早まったことで、わたくしは可愛い弟妹を取られたような気分になってしまっていたのだ。

 クリスタちゃんのときにはクリスタちゃんも十二歳でハインリヒ殿下と築き上げてきた年月があったので納得するしかなかったが、ふーちゃんは六歳ととても幼かった。レーニちゃんはそもそもふーちゃんと結婚してディッペル家に嫁ぐためにリリエンタール侯爵家の後継者を退いたのだ。仕方がないと言えば仕方がないのだが、あまりにも早すぎる。

 それをやっと受け入れることができたと思ったら、まーちゃんが五歳で婚約することになった。


 まーちゃんの婚約に関してわたくしも手を貸していないわけではないが、実際に話が纏まって、国王陛下の許可が下りてしまうと寂しくないわけではなかった。


 ため息をついているわたくしにエクムント様は気付かれたようだ。


「どうされましたか? 話しにくいことならば、テラスに出ましょうか?」


 周囲に聞かれたくないことならばテラスに出て聞いてくださるというエクムント様にわたくしは甘えることにした。

 テラスは秋風が吹いていて、夏の暑さがやっと通り過ぎた風情だった。

 テラスにはわたくしとエクムント様しかいない。


 長く息を吐いて、わたくしは話し始めた。


「フランツもマリアも婚約してしまって、わたくしはとても幸福なはずなのに、少し寂しいのです。いつかわたくしも辺境伯領に嫁ぐ。そのときにはフランツやクリスタとは離れなければいけない。マリアは辺境伯領に嫁いでくるのでそばにいるかもしれないけれど、それでも、今はフランツやマリアの婚約に胸に穴が空いたような気分になります」


 正直に自分の寂しさを口にすると、エクムント様は静かにそれを聞いていてくれた。


「フランツ殿もマリア嬢も、自分の好きな相手と結婚するためには、今婚約しておく他ないですからね」

「そうなのです。適齢期になるレーニ嬢やオリヴァー殿の結婚を待たせておく理由がなくなってしまう。他に婚約者を持たれてしまってはいけないので、フランツもマリアもレーニ嬢とオリヴァー殿と結婚するには今婚約しておく他は方法がない。それは分かっているのです」

「それでも、姉としては複雑ですよね」

「フランツは六歳、マリアはまだ五歳です。わたくしはフランツの生まれた日も、マリアが生まれた日もよく覚えています。二人ともわたくしにとっては可愛い愛しい弟妹なのです」


 心の内を吐露すると、少し落ち着いてくる。

 解決することはなくても、エクムント様はわたくしの気持ちを否定せずに傾聴することでわたくしが納得するのを手伝ってくれていた。


「私は、エリザベート嬢が婚約したときに、相手が自分でなければ複雑だったかもしれません」

「え? エクムント様?」

「赤ん坊のころから知っていて、私はエリザベート嬢をたくさん抱っこさせていただきました。抱っこして庭を歩くのはとても楽しかった。エリザベート嬢は私に取って誰よりも可愛い相手だったのです」

「わたくしが婚約したときに、相手が別の方だったら、複雑なお気持ちだったのですか?」

「そうでしょうね。小さい頃から知っているエリザベート嬢がたった八歳で年上の男性と婚約させられてしまう。それを考えると、相手が自分でなければ、辺境伯の後継という立場を使って、阻止しに行っていたかもしれません」


 小さい頃からエクムント様に可愛がられているが、わたくしはそれほどエクムント様がわたくしに強い気持ちを持っていたとは知らなかった。

 可愛い妹を取られてしまうような気持で、わたくしがふーちゃんやまーちゃんの婚約に複雑な気持ちを抱くのと変わらないのだろうが、それにしても、辺境伯の後継という立場を使って阻止するとまで言われてしまった。


「わたくしはエクムント様と婚約できて嬉しく思っています」

「私も、エリザベート嬢が別の誰かと婚約するよりは自分でよかったと思っています。年が離れすぎているので、エリザベート嬢は無理をして私と婚約してくれたのではないかとは思っているのですが」

「そんなことはありません。わたくしは当時八歳でしたが、自分の意思で婚約を決めました」


 はっきりと言えばエクムント様が唇を笑みの形にする。


「内緒にしておいてくださいね。失礼かもしれないけれど、私は自分がエリザベート嬢をどれだけ可愛いと思っていたか、あのときに思い知ったのです」

「婚約のときに……」

「幼い頃から触れ合わせていただいて、護衛としても一緒に過ごさせていただきました。私にとってはエリザベート嬢は最愛の妹以上の存在だったのです」


 まだ妹枠からは抜けられていないが、最愛の妹とまで言われると悪い気はしない。

 照れながらもその言葉を噛み締めていると、エクムント様が目を細める。


「今日のマリア嬢のドレスは、エリザベート嬢がかつて着ていたものでしたね」

「はい。マリアはわたくしとクリスタのように幸せな婚約がしたいと憧れて、わたくしとクリスタのお譲りを着たがるのです」

「エリザベート嬢の小さな頃を思い出しました。あの頃のエリザベート嬢もとても可愛かった」

「可愛いと言っていただけるのは嬉しいですが、わたくしはもうすぐ十五歳ですよ?」


 正式に社交界デビューする年齢になるのだ。

 それなのにいつまでも「可愛い」と言われているのは気になってしまう。


「美しくなられました。でも、私の中にはいつまでもあの小さなエリザベート嬢がいるのです。小さくて柔らかくて私に抱っこを強請って来た可愛いエリザベート嬢が」

「エクムント様、わたくしはエクムント様の妹になるために嫁ぐのではありません」

「そうですよね。どこかで切り替えられたらと思うのですが、すみません、今はまだ難しくて」


 「可愛い」の言葉が嬉しくないわけではないが、十五歳になるのだからもっと別の誉め言葉があってもいい気がするのだ。

 わたくしはエクムント様に一人の女性として愛されたい。

 それはまだ今は難しいようだった。


「そういえば、エクムント様は男性三人のご兄弟でしたね。マリアのように服をお譲りすることがありましたか?」


 聞いておきたかったことを口にすれば、エクムント様は微妙な笑顔になる。


「女性はそれほどでもないのでしょうが、男子というのは、なかなかに難しいものでして」

「公式の場での服は着る頻度も少ないし、保存状態がよければお譲りできるのではないですか?」

「それが、なぜか裏ポケットに石が大量に入れられて穴が空いていたり、胸ポケットに虫を入れていてそれが潰れてシミになっていたり……」

「あぁー……」


 ふーちゃんは大人しい方で、上に姉が二人、下に妹と女性に囲まれているのでそんなやんちゃなことはしなかったが、男性だけの兄弟になってくると、両親の見ていない隙にやることが違うようだ。

 話を聞いてこれはお譲りなどという段階ではないと判断する。


「そうなのですね」

「参考にならなくてすみません。女性同士の姉妹ならば参考になるかもしれないのですが」

「女性同士の姉妹……」


 言われてわたくしは考えてしまう。

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下は男性二人にユリアーナ殿下という妹君が一人。

 レーニちゃんはデニスくんとゲオルグくんという弟君が二人。

 ミリヤムちゃんはお兄様がおられるようだ。

 ノエル殿下は姉君と兄君がおられるようだが、王族なのでお譲りなどしていないだろう。


 全く参考にならない方々しかわたくしの周囲にはいないことに気付いて困るわたくしに、エクムント様が言葉を添えてくださる。


「ガブリエラにはフリーダという妹がいます。ガブリエラに今度聞いてみましょうか」

「ガブリエラ嬢には妹君がいましたね」

「フリーダもケヴィンもお茶会に参加する年になっています。ドレスをお譲りしているのか聞いてみましょう」


 貴族社会でもお譲りはよくあることなのか。

 わたくしはエクムント様と話したことによって、ふーちゃんとまーちゃんの婚約の寂しさが紛れて、そちらの方が気になっていた。

読んでいただきありがとうございました。

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