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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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33.シュタール家にかけられた嫌疑

 夏休みも終わりに近付いていた。

 夏休みが終わっても、わたくしはエクムント様のお誕生日のパーティーに出席して、ユリアーナ殿下のお誕生日のお茶会に出席して、わたくしのお誕生日のお茶会にも出席しなければいけない。

 それが終わるまでは実質的にわたくしの夏休みは終わったとは言えなかった。


 宿題も全て終わらせて、辺境伯領に行く準備をしていたわたくしの元に知らせが届いたのは、エクムント様のお誕生日の二日前だった。

 両親の様子が俄かに慌ただしくなったので、わたくしは両親のいる部屋に行ってみたのだ。


「お父様、お母様、どうなさったのですか?」

「辺境伯家から手紙が届いた」

「オリヴァー・シュタール殿がユリアーナ殿下の暗殺を企んでいたと嫌疑をかけられているようです」

「オリヴァー殿が!?」


 オリヴァー殿は今辺境伯領にいるはずだ。何が発端でそんな話が出たのかわたくしは知りたかった。


「何故オリヴァー殿が?」

「ユリアーナ殿下に近付いて暗殺の機会を伺っていたと言われているようだよ」

「エクムント殿がオリヴァー殿を辺境伯家に呼んで、シュタール家の方々と共に話を聞いているようです」


 わたくしと両親の声は大きかったとは言えなかった。けれど、廊下で小さな悲鳴が上がる。


「オリヴァーさまが!?」

「マリア!? 聞いていたのですか!?」

「おねえさま、オリヴァーさまはユリアーナでんかをあんさつしたりしません! ユリアーナでんかにあんなにしんせつだったではないですか」

「わたくしもそう思います。オリヴァー殿を国王陛下に紹介したのはわたくしです。わたくしはオリヴァー殿を信頼できる方と思っています。お父様、お母様、辺境伯領に行くことをお許しください」

「国王陛下と王妃殿下にオリヴァー殿のことをお伝えする手紙を書いたのは私だ」

「わたくしも辺境伯領で会ったオリヴァー殿は信頼できる方と思いました。エリザベート、わたくしたちも参ります」


 両親とわたくしが辺境伯領に行く準備をするのを見て、まーちゃんもトランクに荷物を詰めている。


「わたくしもまいります! オリヴァーどののけんぎをはらすのです」

「まーちゃん、どうしたの?」

「おにいさま、オリヴァーどのがたいへんなのです!」


 動揺していたのでオリヴァー殿を「様」と呼んでいたまーちゃんも、「殿」に戻っていた。

 クリスタちゃんとふーちゃんも準備をして、わたくしたちは少し早く辺境伯家に入ることとなった。

 辺境伯家ではシュタール家の取り調べが行われていた。


 罪人のように縛られてはいなかったが、護衛の騎士が両脇についてシュタール家の人々がエクムント様とカサンドラ様の前に立たされている。

 シュタール家の当主であるオリヴァー殿のお父様、オリヴァー殿、オリヴァー殿の妹君の三人だ。

 お母様はおられないようだ。


「シュタール家がユリアーナ殿下の暗殺を企んでいるなど、何かの間違いです。確かに息子は国王陛下の別荘に行き、ユリアーナ殿下にお目通り致しました。しかし、本当に暗殺を企んでいるのならば、そのときにどれだけでも機会はあったでしょう」

「私も同席していたが、御子息のオリヴァー殿がユリアーナ殿下を狙う気配はなかった。それに、オリヴァー殿は失礼だが、私がいれば簡単に取り押さえられるし、護衛にも勝てるとは思えない」

「オリヴァー殿がユリアーナ殿下の特別講師となったから、今後どれだけでも機会があると思われているのかもしれないが、ユリアーナ殿下に詩を教えるときには必ず護衛が同席する。オリヴァー殿の技量で護衛の目を盗んでユリアーナ殿下を暗殺し、逃げ延びるなどできないだろう」


 最初からエクムント様はシュタール家の嫌疑を疑っていらっしゃったようだ。

 カサンドラ様も最初からオリヴァー殿がユリアーナ殿下を暗殺することなどできないと理解していた。

 士官学校に通っている訓練された他の家の辺境伯領の貴族と違って、オリヴァー殿は護衛を倒すだけの技量もないと言われていた。


「その通りです。息子にできるわけがありません。誰がこんな根も葉もないことを言いだしたのやら」


 シュタール家の当主であるオリヴァー殿のお父様も困惑している様子だ。


「エクムント様、カサンドラ様、失礼いたします」

「エリザベート嬢、来られていたのですね。ディッペル家の方々も」

「オリヴァー殿を辺境伯家に招いていただき、両親と顔を合わせてもらって、国王陛下の別荘にお招きするようにお願いしたのはわたくしです。わたくしはオリヴァー殿がユリアーナ殿下を暗殺するような方ではないと確信して、辺境伯家に招いていただいて、両親に紹介したのです」

「それは分かりますが、何か理由となるものがあったのですか?」

「オリヴァー殿は辺境伯領でも珍しい、王都の学園に通って勉強されている貴族です。オリヴァー殿は辺境伯領に一時期はびこっていた独立派とは全く違う、オルヒデー帝国との融和派に入ると思われます。オルヒデー帝国と辺境伯領の融和を願っているのならば、辺境伯領と王家の関係が壊れるようなことは絶対に致しません」


 言葉を尽くしてオリヴァー殿を庇うわたくしの前に、ラウラ嬢が現れる。ドアをノックして入ってきたラウラ嬢は二枚の紙を持っていた。

 一枚は辺境伯領の独立派の貴族の名前が書かれた紙だ。それともう一枚を並べてみせる。


「こちらはわたくしが手に入れた辺境伯領の独立派の名簿です。もう一枚は、近頃出回っている独立派と言われている貴族の名簿です」

「この名簿にはシュタール家の名前がある」

「わたくしもおかしいと思ったのです。それで、この紙を水に浸けてみようと思います」


 ラウラ嬢に促されて辺境伯家の召使いが水の入った洗面器を持ってくる。新しい名簿をラウラ嬢が水に浸けると、インクが溶けだすのが分かる。

 インクが溶けた後、残っているインクの色が、シュタール家と他の家では全く違う。シュタール家の溶けだした後のインクの色は茶色っぽいのだが、他の家は紺色っぽい色になっている。


「誰かが、独立派の名簿に新しくシュタール家を書き加え、シュタール家がユリアーナ殿下の暗殺を企んでいるように見せかけているのは確かです」

「この名簿はどこから?」

「ある貴族がわたくしに持ってきました。その貴族こそが黒幕ではないかとわたくしは思っております」


 ラウラ嬢まで味方に付いているとなると心強い。

 安堵している間に、エクムント様とカサンドラ様はラウラ嬢に名簿を渡した貴族を捕らえるように手配していた。


「恐らく、オリヴァー様がユリアーナ殿下の特別講師となることを妬んで蹴落とそうとしたのでしょう」

「シュタール家に反乱の意思はないと国王陛下にお伝えしよう」

「ありがとうございます、エクムント様」

「しかし、話が大きくなってしまった。シュタール家は今後とも辺境伯家を支えてもらわねばならない大事な家なのに」


 苦い表情になっているエクムント様に、わたくしはまだそのときではないとぐっと我慢する。

 シュタール家の当主のオリヴァー殿のお父様は悔しそうにしている。


「オリヴァーの母が娘を産んでから亡くなって、オリヴァーは喪に服して婚約も控えていたのに……。オリヴァーが士官学校に行かないと言って学園に入学したときには親子で揉めましたが、学園に行った甲斐もありユリアーナ殿下に特別講師として登用されたときには、本当に嬉しかったのに……これではユリアーナ殿下の特別講師の話も白紙に戻ってしまうかもしれない」


 苦悩するオリヴァー殿のお父様に、まーちゃんが前に出た。


「こくおうへいかは、こんなうそをしんじるようなかたではありません! エクムントさまがせつめいをしてくださるのですから、おきをつよくもってください」

「あなたは……? お小さいのにしっかりしていらっしゃる」

「わたくしはディッペルけのすえむすめ、マリアです」

「マリア様、ありがとうございます」


 オリヴァー殿のお父様を慰めるまーちゃんだが、わたくしはまだこの騒動が終わった気はしていなかった。


読んでいただきありがとうございました。

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