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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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30.辺境伯領の日傘

 国王陛下の別荘に滞在する最終日も、早朝にふーちゃんとまーちゃんが起こしに来た。起こされるのは慣れているのでわたくしもクリスタちゃんもすっきりと起きたし、ノエル殿下もレーニちゃんも慣れたようで起きて身支度を始めていた。

 早朝の庭は庭師たちが花に水を撒いている。

 低木のアベリアやノバラには、根元に水を撒いているが、それでも葉っぱや花にかかってしまっていることがある。水滴の粒が乗った花はいかにも涼しそうで夏の暑さを和らげる。

 わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんが日傘を差していることにノエル殿下は昨日から気付いていたが、今日になってその話題を出して来た。


「その傘は流行っているのですか? わたくしだけ流行遅れになってしまったのかもしれないと思って、昨日は聞けませんでした」


 ノエル殿下もそんなことを気にするのだ。

 流行の最先端である王都に住んでいながらも、ノエル殿下はわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんの日傘を気にしていた。


「これはカサンドラ様からいただいたのです」

「辺境伯領は日差しが強いので、日差しを避けるために傘を使うのだそうです」

「レース柄でとても可愛いのですよ」


 わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんで説明すると、ノエル殿下はじっと日傘を見詰めていた。


「晴れている日に差す傘があるのですね。レース柄で可愛いです。わたくしも欲しいですわ」

「エクムント様に相談してみましょう。辺境伯領から取り寄せてくれるかもしれません」

「ありがとうございます、エリザベート嬢」


 昨日から気になっていたのに言えなかったとなれば相当日傘が欲しかったのだろう。ノエル殿下にエクムント様にお願いしてみると伝えると感謝された。


 朝食を食べてから全員でサンルームに移動してサンルームのソファで寛ぐ。

 わたくしの隣りのエクムント様は、長すぎる脚を持て余すように座っていた。


「エクムント様、ノエル殿下が日傘に興味をお持ちなのです」

「暑い日には辺境伯領の女性はよく日傘を差しています。ノエル殿下もとても色白なので、日傘が必要かもしれませんね。どのような日傘がいいかを聞いてみましょう」


 エクムント様の視線がわたくしからノエル殿下に移る。エクムント様の視線に気付いたノエル殿下が微笑んで自分から日傘のことを話しだした。


「エリザベート嬢とクリスタ嬢とレーニ嬢の持っている日傘がとても可愛かったので、わたくしも日傘を持ちたいと思ったのです。どんな日傘があるのですか?」

「様々な色や柄があります」

「柄はエリザベート嬢やクリスタ嬢やレーニ嬢とお揃いで、色は、わたくし、紺がいいですわ」

「紺色は日差しの熱を吸い込む濃い色なのでお勧めしません」

「そうなのですね。それなら、薄い菫色がいいですわ」

「分かりました。薄い菫色の日傘を辺境伯領に戻ったら、ノエル殿下にお送りいたしましょう」

「ありがとうございます」


 濃い色は日差しの熱を吸い込むのでよくないというのは、わたくしは前世の記憶から何となく分かっていた。カサンドラ様が薄いピンクと薄い黄色と薄い空色の日傘を用意してくださったのもそういうことだったのだろう。


 わたくしには知識があったが、クリスタちゃんとレーニちゃんは知らなかったようで驚いている。


「そういえば、夏に濃い色はあまり着ませんね」

「濃い色は日差しの熱を吸収するのですね」

「そうなのです。日傘には薄い色がよいと言われています」


 話を聞いて気付きを得たクリスタちゃんとレーニちゃんに、エクムント様が言葉を添えていた。


「エクムントさま、わたくしもおおきくなったら、ひがさをくださいますか?」

「わたくしも、いまはおぼうしですが、おおきくなったらひがさがほしいです」


 ユリアーナ殿下とまーちゃんが身を乗り出してお願いしている。それにエクムント様は笑顔で答える。


「ユリアーナ殿下とマリア嬢がもう少し大きくなられましたら、喜んで贈らせていただきますよ」

「たのしみにしています」

「うれしいです」


 小さなユリアーナ殿下とまーちゃんの願いも無碍にしないエクムント様にわたくしは惚れ直す勢いだった。

 エクムント様は格好いい。

 今二十五歳なのだが、十七歳のときもものすごく格好いいと思っていたが、年齢が上がるにつれてますます格好よくなっている気がしてならない。十七歳のときにはひょろりと背が高いイメージだったが、今はそれなりに体付きも厳つくないくらいにがっしりとしてきて、大人の男性だと感じさせる。


 エクムント様が格好よすぎて、わたくしは落ち着かない気分になっていた。


「エクムント殿、その日傘、僕から注文させてもらえませんか?」


 話に入ってきたのはノルベルト殿下だった。

 ノエル殿下が日傘が欲しいという話を聞いて、自分からのプレゼントにしたいと思われたのだろう。


「もちろん構いませんよ。ノルベルト殿下を差し置いてノエル殿下に贈り物をするのは失礼でしたね。すみませんでした」

「いえ、僕がどうしてもノエル殿下の欲しいものは揃えて差し上げたいと思っているので」

「嬉しいですわ、ノルベルト殿下。ノルベルト殿下からの贈り物だと思うと、ますます大事にしなければいけませんね」


 独占欲を見せて来るノルベルト殿下も微笑ましくエクムント様は見ている。ノルベルト殿下に独占欲を見せられて、ノエル殿下も嬉しそうだった。


「日傘とはどのようなものなのですか?」


 少し遠い位置に座っていた王妃殿下もわたくしたちが日傘の話題で盛り上がっているので、日傘に興味を持っている。


「辺境伯領でよく使われている、強い日差しを避けるための晴れている日に使う特別な傘です。夏場には中央の方でも役に立つと思います」

「国王陛下、わたくしも日傘が欲しいですわ」

「エクムント、王妃にも日傘を用意してくれるか?」

「はい。様々な柄や色がありますが、どういたしましょう?」

「濃い色は駄目なのでしょう? わたくしはシンプルな白で、柄もシンプルなものがいいですわ」

「そのようにしてくれるか、エクムント?」

「心得ました、国王陛下、王妃殿下」


 王妃殿下の願いで国王陛下からも注文が入ったとなると、これからは中央で日傘が流行るかもしれない。日傘の文化は辺境伯領のものだが、辺境伯領の文化が中央でも流行るようになるのは悪いことではない。


「お姉様、わたくしたち、流行の最先端かもしれませんよ」


 クリスタちゃんに言われてわたくしは流行の最先端というよりも、わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんが日傘の文化をノエル殿下に紹介して、ユリアーナ殿下にも王妃殿下にも興味を持たせたようなものだと思っていた。

 これを見越してカサンドラ様はわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんに日傘をくださったのだろうか。そうだとすればものすごい商才をお持ちだと思う。

 辺境伯領の葡萄酒が中央でも普通に食卓に上がって、辺境伯領の紫の布のドレスは中央の貴族ならば一着は持っているようなことになって、辺境伯領のガラスのコスチュームジュエリーも貴族の女性ならばほとんどが持っているようになって、次は辺境伯領の日傘が流行ろうとしている。

 次々と辺境伯領のものが中央で流行っていくのをわたくしは感心して見ていた。


 逆に辺境伯領には中央の文化が入り込んでいるのかもしれない。


 わたくしが辺境伯領に嫁ぐころには、辺境伯領の文化と中央の文化は完全に融和している可能性がある。

 そんな未来をわたくしも夢見ていた。


「わたくしも日傘を注文したいですね」

「エクムント殿、テレーゼにも日傘をお願いできますか?」


 両親もエクムント様に日傘を注文している。


「もちろんです。どんなものにいたしますか?」


 注文を取るエクムント様は、商売人の顔をしていた。

読んでいただきありがとうございました。

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