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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
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29.特別な夕食

 その日の夕飯は豪華だった。

 わたくしはそのメニューを知っていた。クリスタちゃんもすぐに気付いたようだ。


「これは、ハインリヒ殿下のお誕生日の式典の晩餐会のお料理ですね?」

「父上も母上も、私もノルベルト兄上もノエル殿下もクリスタ嬢も式典では忙しくて食べられなかったので、私がお願いしてこの料理にしてもらったのです。ユリアーナは式典に出ていないしね」

「とてもおいしそうです! ハインリヒおにいさま、ありがとうございます」

「わたくしもハインリヒ殿下のお誕生日の式典の晩餐会のお料理が食べられて嬉しいです」


 ハインリヒ殿下の心遣いにユリアーナ殿下もクリスタちゃんも喜んでいる。

 同じ料理を食べるのも豪華なのでわたくしたちも文句はなかった。

 海老入りのクリームスープに、お口直しの冷やしメロン、魚のポワレ、アヒルの串焼きに、デザートのさくらんぼのパイと焼き菓子までしっかりと揃っている。

 ハインリヒ殿下のお誕生日の晩餐会で食べたのだが、今食べても美味しくて、ゆっくりとだがわたくしは全部完食してしまった。クリスタちゃんも、ノエル殿下も、ハインリヒ殿下も、ノルベルト殿下も、好き嫌いなく食べていた。


「私たちは自分たちが主催の昼食会や晩餐会では碌に食べられないのが普通だが、このようにして同じ料理を別の日に食べるのは悪くないな」

「ハインリヒのアイデアでハインリヒの誕生日の晩餐会と同じ料理を出してもらいましたが、こんな味だったのですね。自分たちが主催する晩餐会の料理の味もわたくしは知りませんでしたわ」


 国王陛下と王妃殿下は特に出るパーティーでほとんど料理を口にすることはできないのだろう。安全面のこともあるし、他の貴族がこぞって挨拶に来るということもある。寛いで食事ができるのは公の場面ではほぼないのではないだろうか。


 料理を食べながら喜んでいるのはノエル殿下も同じだった。


「わたくし、自国でも式典のときには何も食べられないことがよくあります。代わりに違うものを食べてお腹を空かないようにはしているのですが、それでも、料理が食べずに持っていかれる悲しみは変わりません」

「僕もノエル殿下のために昼食会や晩餐会の料理を出してもらえばよかったですね」

「ノルベルト殿下がお優しくて嬉しいですわ。今度から一緒に食べましょうね」

「そうしましょう、ノエル殿下」


 ノルベルト殿下とノエル殿下も昼食会や晩餐会で出された料理を別の場面で再現してもらう約束をしていた。

 それだけ昼食会や晩餐会の料理は豪華で美味しいし、食べられなかったときの無念は大きいのだろう。


「エリザベート嬢、ミルクティーにしますか?」

「ありがとうございます、エクムント様」


 デザートのときにエクムント様がわたくしのためにミルクポッドを取って下さる。

 ミルクポッドからたっぷりと牛乳を紅茶に入れると、まーちゃんとユリアーナ殿下が手を上げている。


「わたくしもミルクがほしいです」

「わたくしも!」

「ユリアーナでんか、おさきにどうぞ」

「ありがとうございます、マリアじょう」


 年下で身分も上のユリアーナ殿下に譲るまーちゃんは年上として誇らしげな顔をしている。ユリアーナ殿下がひそひそとまーちゃんに聞いている。


「マリアじょうはオリヴァーどのがおすきなのですか?」

「それは……。ユリアーナでんかはオリヴァーどのにかんめいをうけていたようですね」

「わたくしはしのせんせいとしてはすばらしいかただとおもいますが、けっこんするなら、ノルベルトおにいさまのようなかたがいいとおもっています」


 ユリアーナ殿下に聞かれたことを濁したまーちゃんが聞き返すと、ユリアーナ殿下はオリヴァー殿は好みではないとバッサリと言い切っている。

 言われてみればオリヴァー殿は背が高くて細身だがしっかりと筋肉がついていて、褐色の肌に黒い目、黒い髪で、顔立ちも辺境伯領の特有の彫りの深さがある。対するノルベルト殿下は銀髪に菫色の瞳で、細身で中性的な美しさがあって、オリヴァー殿とは全く違う。


 ノルベルト殿下が理想ならば、隣国の出身のノエル殿下はプラチナブロンドに青い目だし、王妃殿下も同じ色彩で隣国の出身なので、ユリアーナ殿下は隣国の男性の方が好みなのかもしれない。

 ユリアーナ殿下自身も、王妃殿下に似てプラチナブロンドに青い目だ。


「夕食はとても美味しかったですね。夕食の後にフランツ殿とマリア嬢にプレゼントがあります」

「ノエル殿下、もう届いたのですか!?」

「わたくし、なにかわかります。ぬいぐるみですね!」

「そうです」


 夕食を食べ終わったふーちゃんとまーちゃんの前に箱が置かれる。

 箱を開けたふーちゃんとまーちゃんは両手で抱えるくらいの大きさのある犬のぬいぐるみを手に入れて喜んでいた。

 ふーちゃんが白い犬で、まーちゃんが茶色の犬だ。犬種はよく分からないが、三角の耳にくるりと巻いた尻尾が可愛らしい。


「とても可愛いです、ありがとうございます」

「だいじにします! ありがとうございます!」


 犬のぬいぐるみを抱いてふーちゃんもまーちゃんも大喜びだった。


「エリザベートお姉様、犬にはどんな名前を付ければいいのですか?」

「フランツの好きな名前でいいと思いますよ」

「クリスタおねえさま、いぬにおなまえをつけたいのですがいいなまえがきまりません」

「マリアの好きな名前でいいのですよ」

「ノエルでんかからいただいたのです、とくべつななまえにしたいのです」


 犬の名前はどんなものがいいのか分からない。

 犬の名前として使ってはいけない名前もあるだろう。歴代の国王陛下のお名前や、王妃殿下のお名前など。それを考えると、わたくしはすぐにはふーちゃんとまーちゃんにアドバイスができなかった。


「犬の名前は何がいいのかわたくしには分かりませんね」

「わたくしにも分かりません」


 クリスタちゃんと一緒に困っていると、ハインリヒ殿下とエクムント様が口を開く。


「犬の名前で多いのは雄ならミロや、マイロ、チャーリー、サミーやレオですかね」

「雌なら、ルナ、ナラ、ベラ、エマやマヤも多いですね」

「どういう意味なのですか?」

「おすとめすでちがうのですね。それはそうだわ。おとこのひとのなまえと、おんなのひとのなまえはちがいますね」


 エクムント様とハインリヒ殿下にふーちゃんが問いかけている。


「ミロやマイロは『最愛の』とか『素敵なひと』という意味ですね。チャーリーは『自由』という意味があります。サミーは『神に求められたもの』、レオは『ライオン』という意味ですね」

「ルナは『月』、ナラは『贈り物』、ベラは『美しい』、エマは『神々しい』とか『偉大な』、マヤは『成長』とか『奇跡の力』という意味があります」

「色んな国の言語が元になっていると言われていますが、そこまでは詳しく知りませんね。軍で軍用犬も扱うので名前だけは少し分かる程度です」

「私も、父上の別荘で護衛犬を飼っているのでその子たちにつけられた名前が分かるくらいです」


 ふーちゃんにもまーちゃんにも分かるように丁寧に説明してくれたエクムント様とハインリヒ殿下に、ふーちゃんとまーちゃんは頭を下げてお礼を言っている。


「ありがとうございます。私はレオにしようと思います」

「わたくしは、ベラにしようとおもいます。おしえてくださって、ありがとうございました」


 エクムント様とハインリヒ殿下のおかげでふーちゃんとまーちゃんの犬のぬいぐるみの名前も無事に決まった。


「レオ、今日は一緒に寝ようね」

「ベラ、いいこでわたくしとねるのですよ」


 ふかふかの可愛い犬のぬいぐるみを抱き締めてふーちゃんとまーちゃんは部屋に戻っていく。列車のおもちゃばかりで遊んでいて、ぬいぐるみというものをこれまで持っていなかったふーちゃんとまーちゃんだが、これからはぬいぐるみも欲しがるようになるかもしれないとわたくしは思っていた。

読んでいただきありがとうございました。

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